学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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久方ぶりの更新です。遅れてごめんなさい。


第三十二話 勝ち抜く者たち

 星武祭。

 それは統合企業財体が主催し、アスタリスクで行われている力を持つ学生同士の大規模な武闘大会のことである。

 3年を一区切りとし、毎年異なる大会が行われている。

 初年の夏に行われるタッグ戦―――鳳凰星武祭。2年目の秋に行われる五名でのチーム戦―――獅鷲星武祭。

 

 そして3年目の冬。現在開催中である個人戦―――王竜星武祭。

 最も多くの強者がエントリーし、己の武を、力を、覇を競いあう。この大会の優勝者はこう呼ばれることが多い―――学戦都市アスタリスクで最も強き者、と。

 

 王竜星武祭について詳しい人に尋ねてみよう。歴代の優勝者の中で一番強い人物は誰か、と。

 

 そして大半の人はこう答える―――前回大会の優勝者、オーフェリア・ランドルーフェンだと。

 

 彼女は前回の王竜星武祭を制したレヴォルフ所属の魔女である。そして彼女は前回の大会の全ての試合を三十秒以内、尚且つ無傷で勝利している。正に絶対王者と呼ぶに相応しい存在だ。

 

 勿論、今回の大会にも出場しており―――その猛威を振るっている。

 しかし強者は彼女だけではない。様々な選手が大会に出場しており、頂点を目指し戦いを続けている。

 

 そして大会は進み―――本戦への出場者が決まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!?」

 

 黒褐色の腕が幾重にも迫る。悲鳴を上げながら手持ちの銃を向け、何度も連射する。

 しかしなんの意味もない。足止めどころか、その腕の歩みを鈍らせることすら出来ない。

 

 そして―――

 

『決まったぁぁっ!! 前回大会優勝者、ランドルーフェン選手。本戦出場一番乗りです!』

『前回の大会に引き続き、全ての試合を三十秒以内で勝利を収めております。その能力は正に無敵! 今回の大会もぶっちぎりの優勝候補です!』

 

 ―――それと相対した者は何もすることが出来ない。

 ―――どんな武器も通じず、どんな能力も意味をなさない。

 ―――ただ訪れるのは、彼女の毒にのまれることだけ。

 

 レヴォルフ黒学院 序列一位―――孤毒の魔女 オーフェリア・ランドルーフェン。

 

 

 

 会場に歌が響く。そしてその歌声は聞くものを魅了する。

 その歌声を聞き相手は焦る。彼女の歌声はそれ自体が能力なのだ。

 勝負を掛けようと動き―――

 

「―――隙ありだよ」

 

『流れるような一閃が校章を真っ二つにしました! やはりこの人は強い! リューネハイム選手、本戦出場決定です!』

『三年前と比べ、かなり強くなっていますね。孤毒の魔女へのリベンジを果たせるか! 本戦での活躍に期待です!』

 

 ―――人々は彼女をこう呼ぶ。世紀の歌姫と。

 ―――人々は彼女に魅了される。彼女の容姿に、歌に、そして強さに。

 ―――そして彼女の歌声は、万能の能力へと変化する。

 

 クインヴェール女学園 序列一位―――戦律の魔女 シルヴィア・リューネハイム。

 

 

 

「このぉぉっ!」

 

 流星闘技の一撃が目前に迫る。しかし彼女に焦りはない。その一撃を半歩身体をずらして躱す。

 そして相手の制服の袖下部分を軽く掴み―――

 

「―――ほいっと!」

 

 彼女が軽く腕を振るい、相手の身体を宙へと回す。高速で何回転もした相手は、受け身も取れずに倒れ―――そのまま気絶した。

 

『決まりました! 得意の合気で相手を一蹴! 雪ノ下選手、本戦出場決定です!』

『大会前の評判通り、圧倒的強さで勝利を収めました。しかし噂の黒炎は未だ見せていません。本戦でのお披露目に期待しましょう!』

 

 ―――その黒炎はそのすべてを焼き尽くす。

 ―――彼女の挑戦は止まらない。例え、幾度となく負けを重ねても。

 ―――その力。今だ発展途上。

 

 界龍第七学園 序列三位―――黒炎の魔王 雪ノ下陽乃。

 

 

 力あるものは順当に勝ちを収めていく。特に冒頭の十二人に入る者たちの実力は凄まじく、対戦相手を圧倒していった。

 

 ―――しかし例外は存在する。

 

 

 少女から放たれる連撃を、左手の盾を使って防御する。小剣による一撃の威力は高くない。その為、防ぐのは容易だ。じっと耐えながら、男は少女の隙を伺う。

 

「……そこだぁっ!!」

 

 相手の攻撃の途切れた瞬間を狙い、右手の剣を真横に振るう。その攻撃に対し少女はしゃがんで回避―――と同時に両手を地面に付き、地を這うように回転する。

 

 男の視界から少女が消えた。否、少女の動きが早いために誤認しただけ。思考が一瞬遅れ、視線を下にずらし―――水面蹴りが飛んできた。

 

 その攻撃に反応し即座に回避―――しきれない。少女のスピードが男の想定を上回った。鋭い蹴りが右足を掠める。

 

「しまっ!?」

 

 蹴りの影響でバランスを崩す。咄嗟に両足で踏ん張り転倒を防ぐ。追撃に備え盾を少女の方に向け―――その盾が蹴られ弾き飛ばされた。

 

 崩れる体勢の中、何とか少女へ視線を向ける。少女は既に既に次の攻撃態勢に入っている。男の思考が絶望へと染まる。

 

 こんなはずではなかった。相手は弱小で知られるクインヴェール。戦律の魔女や舞姫ならいざしれず、少女の序列は五十位。男の序列なら勝って当然の相手―――のはずだった。

 

「この俺がっ! クインヴェール如きにぃ!!」

「……その驕りがあなたの敗因です」

 

 男の叫び声に応える形で少女―――グリューエルは最後の攻撃を繰り出した。

 

『ここで決着ぅ! 星導館序列十六位 黒上選手。まさかの敗北ぅ!! 勝ったのはクインヴェール女学園 リースフェルト選手だぁぁっ!!』

『……序列五十位とは思えない動きです。これは完全に実力を隠していましたね』

『今大会のダークホースとなるか! 本戦での活躍も大いに期待しましょう!』

 

 ―――新星は突如として現れた。

 ―――序列など関係ない。彼女の実力に疑う余地なし。

 ―――そのお姫様は北欧からやって来た。

 

 クインヴェール女学園 序列五十位―――グリューエル・ノワール・フォン・リースフェルト。

 

 

 優勝候補を筆頭に、実力者たちが本戦出場を決めていく。

 

 そしてこれから―――范八幡の戦いが行われようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん。もうすぐ試合始まるよ」

「分かってるよ。ちょっと待ちな」

 

 川崎大志の呼び声に作業しながら返事をする。慣れた手つきで作業を進め―――一夕飯の仕込みが終了した。

 

「よし、終わった」

「早く早く」

「今行くって」

 

 急かす大志に連れられ、川崎沙希は居間へと向かった。目的はもちろん星武祭の試合である。

 比企谷八幡と思わしき人物を見てから数日が経った。その間にも王竜星武祭は二回戦までが行われた。その時も姉弟で観戦しようとしたのだが、ここで思わぬアクシデントに遭遇した。

 それは―――

 

「あ、さーちゃん。おそいよ!」

「ごめんね、けーちゃん」

 

 妹の川崎京華である。二回戦が始まる直前、お昼寝から起床した京華が突如居間に現れた。そしてそのまま三人で試合を観戦し、件の人物 范八幡は勝利を収めた。

 その結果―――

 

「はーちゃん、まだかなぁ? まだかなぁ?」

「もうすぐ来ると思うよ」

「……なんで気に入っちゃったのかねぇ」

 

 范八幡は川崎京華のお気に入りに認定された。何故気に入ったのかは本人曰く『はーちゃんはすごい!!』とのこと。何が凄いのかを聞いてもよく分からなかった。

 

「…………比企谷」

 

 沙希はふと放課後の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いね、戸塚。忙しいのにさ」

「ううん。大丈夫だよ、川崎さん。それで用ってなにかな?」

 

 授業終了後、川崎沙希は戸塚 彩加を屋上へと呼び出した。それは、ある事を確かめるためだ。

 

「……これなんだけどさ。どう思う?」

「え~と、王竜星武祭の試合だよね。これがどうかした―――これって!?」

 

 彩加は驚愕の表情と共に沙希を見る。

 見せられたのは彼女の端末。そして映し出されていた映像には―――

 

「―――八幡、だよね?」

「……やっぱりアンタもそう思うよね」

 

 少し前まで一緒にいたクラスメイト。比企谷八幡の姿が映っていた。彩加は食い入るように映像を凝視している。

 

「……でも、これって? 范……八幡? ど、どういうこと! 川崎さん!?」

「私にも分かんないよ。これを見せたのは、アイツかどうか確信が持てなかったからだし」

「え? それはどういうっ―――!?」

 

 彩加の言葉は自身の再びの驚愕と共に中断された。映像に映る彼が対戦相手の武器を避ける―――と同時にその武器があらぬ方向へと飛んでいった。そして対戦相手が一瞬硬直し、そのまま崩れ落ちた。

 

「す、凄い。八幡、こんなに強かったんだ……」

「その様子だとアンタも知らなかったようだね?」

「……うん。知らなかった」

 

 沙希の問いに彩加は頷く。そう、知らなかった。彼が転校した理由も、戦えることも、名字が変わっているのも、そしてアスタリスクにいることさえもだ。

 

「でもさ、戸塚。こいつが比企谷だと仮定してさ……どうしてアイツは星武祭に出場してるんだろうね?」

「それは……そうかも。確かに八幡なら出ないかな……めんどくさいって言って」

 

 二人の中で疑問が生まれる。比企谷八幡の性格はよく知っている。だからこそ、彼が望んで出場したとは思えないのだ。

 

「……何か願いがあったとか、かな? 星武祭で優勝すると何でも願いを叶えてくれるって聞いたことあるよ」

「それは私も聞いたことがあるけど……こうも目立つような大会に出てるってのが気になってさ」

「うーん、確かに……」

 

 二人は沈黙して考える。

 

 ―――その時だった。

 

 

「ふははははっ!! 話は聞かせてもらった!!」

 

 

 突如、一人の乱入者が現れた。

 

「………………」

「……あの、そんなに冷たい目で見ないでいただけますか?」

 

 しかしそんな乱入者に冷たい目を向ける沙希。余計な輩に関わってる暇はないのだ。

 

「それで戸塚。話の続きだけど―――」

「えーと、川崎さん。少しぐらい話を聞いてあげてもいいと思うんだけど」

 

 彩加のお願いに溜息を付く。

 

「……はぁ、分かったよ。それで話ってのはなんなのさ? えーと、材、材……材なんとか」

「材木座くんだよ、川崎さん」

 

 渋々話を聞こうとする沙希。

 だが―――

 

「ちが~~う!! 材木座とは仮の名である。吾輩の真の名は足利義輝! 剣豪将軍とは吾輩のことである!!」

 

 材木座 義輝は自身の名を強く訂正する。男には引いてはならぬ時があるのだ。

 

「―――そういうの、いいから」

「はい! ごめんなさい!」

 

 しかしその決意は一瞬で覆された。先程よりも更に冷たい視線に晒された結果、材木座は直ぐに謝った。

 そして恐る恐る話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その後も色々話したけど、結局大した話は出来なかったね」

 

 ぽつりと沙希は呟く。あの後、材木座を交えての三人での話し合いを続けたが、大した話は出来なかった。決めたのは、八幡の王竜星武祭の試合を三人とも必ず視聴する。それぐらいだった。

 

「どうしたの、さーちゃん?」

「なんでもないよ、けーちゃん」

 

 膝の上に座る京華が沙希を見上げる。姉の様子がおかしいのに気付いたのだろう。

 そんな京華に沙希は誤魔化すように頭を撫でる。すると京華は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 妹の可愛らしい様子に自然と笑みがこぼれる。

 

「あ、対戦相手が出てきたよ」

 

 大志の声に反応しテレビに視線を映す。すると一人の選手が入場してきた。范八幡の対戦相手だ。

 

 そして同時に司会の解説が始まった。

 学園の序列。戦闘スタイル。今大会の奮闘などが司会によって紹介されていく。

 

 だが、そんな解説は沙希にとっては興味がない。それに対戦相手のことなどどうでもいいのだ。

 彼女が気になるのは―――

 

「…………比企谷」

 

 反対側のコーナーから入場してきた、もう一人の少年の方だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ! 界龍第七学園、范八幡選手の入場です!』

『さて范選手ですが、一回戦、二回戦共に相手の攻撃を躱し続けカウンターによる反撃で勝利を収めております』

『范選手の勝利を予想した人は殆どいなかったでしょう。范選手は序列外であることもそうですが、決闘や公式試合などの記録に残るものは何一つ存在していません。全く無名の選手です!』

『ここまで徹底していると、意図的の可能性が非常に高いですね』

 

 解説の声を聞きながらステージへと降り立つ。観客の歓声が巻き起こり、ステージの選手二人に会場中の人が注目している。

 

 一人は范八幡。そしてもう一人は―――

 

 ―――ソフィア・フェアクロフ。アーネスト・フェアクロフの妹、か。

 

 八幡は自らの対戦相手。クインヴェール女学園 元序列八位 ソフィア・フェアクロフと対峙していた。美しい金髪の少女は展開したサーベル型煌式武装を片手に持ち、こちらを見据えている。

 

 こちらはそれに対し【鶴姫】の鞘を左手に持ち―――しかし刀身は抜かない。

 

『おおっと! 一回戦二回戦同様、范選手は刀を抜きません!』

『ですが油断してはいけませんよ。范選手の体術のレベルはかなりのものです。それは前の二試合の結果が証明しています』

『しかし今回の相手は剣の達人であるフェアクロフ選手です。范選手も流石に剣を抜かざるを得ないのではないでしょうか?』

『そこら辺も注目したいですね~』

 

 ―――ま、素手のままじゃ無理だろうな。

 

 解説を聞きながら心の内で断言する。

 

 ソフィア・フェアクロフ。彼女のデータは閲覧済みだ。それこそ、入学してから現在に至るまでのすべての決闘や前回の王竜星武祭の試合もだ。それを踏まえてこの後の展開を予想する。

 

 ―――マトモにやり合えば厳しい……さて、どうするか? 

 

 真正面からやり合えば普通に押し切られる。勝つなら別の手段が必要だ。

 

 ―――剣の腕は綺凛とほぼ同レベル。今の俺じゃ……まだ無理か―――なら普通に相手の裏をかくか。

 

 そもそも過去二試合で素手だったのは剣のデータを取られないこと、相手の意表を付くことを目的としていた。別に素手に拘っているわけではない。

 

『さぁ! それではまもなく試合開始です!!』

 

 解説の声に合わせ両者が構える。腰を落とし、戦闘態勢に入る。此処で勝った方が本戦出場決定。否が応でも気合が入る。

 

『Gブロック3回戦、試合開始!』

 

 そして試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いきますわよっ!!」

 

 開口一番、ソフィアから星辰力が吹き荒ると同時に、八幡に向かって飛び出す。真っすぐな性格なのだろう。シンプルイズベストと言わんばかりに正面から突っ込んで来た。

 

 やる事は前の試合と変わらない。というか、予選なので星露からの縛りがまだ生きている。

 なんとしても二分間耐え抜いて―――

 

「―――っ!?」

 

 神速の一撃が宙を薙いで迫る。咄嗟に反応出来たのは僥倖だった。予想を遥かに上回る一撃を辛うじて避ける。そして次いで第二撃が飛んでくる。

 

「―――くっ!!」

 

 第二撃を避けきれずに抜刀。寸での所でサーベル型煌式武装の一撃を受け止めた。

 

『おおっと! 范選手! この大会で初めて刀を抜きました。それを成したのはやはりこの人! ソフィア・フェアクロフ選手だぁ!!」

『純粋な剣技は兄であるアーネスト・フェアクロフをも凌駕するという噂もあります。流石の一言ですね』

 

 確かに噂通りの剣技。否、映像を見るより直に体感した方が遥かに凄まじい。

 その剣技に驚嘆していると、彼女が声を上げる。

 

「あら、ようやくお抜きになりましたわね」

「…………」

 

 剣を受け止めたままの状態で会話を試みてくる。だが、口調こそ平坦ではあるが、別の感情が感じ取れた。

 

 ―――苛立ち、もしくは怒りか? 

 

 初対面である彼女にそんな感情を向けられる謂れはない。何故かと悩む前に、彼女がさらに言葉を続ける。

 

「あなたの先の二試合、拝見させていただきましたわ。どんな理由であの様な行動を取っているか存じませんが―――」

 

 言葉を一度切る。そして彼女は強く宣言する。

 

「手加減して勝てるほど、わたくしは弱くありませんわ。覚悟してくださいまし!」

「…………なるほど」

 

 苦笑しながら理解した。どうやら前の二試合の行動が癇に障ったようだ。

 試合開始二分間は全く攻撃せず回避のみ。そして二分経過後にカウンターで撃破。それも二試合連続だ。

 

 ―――なるほど。舐めプしたと言われても否定できんわ。

 

 その可能性をまったく考えていなかった。人によっては怒っても仕方がない。

 

 八幡の苦笑にソフィアは苛立ちを見せる。そしてソフィアが動く。鍔迫り合いの状態から脱しようとするが―――しかし八幡はその剣を技術で抑え込む。

 

「―――っ!」

「誤解されるような行動を取ったのは謝罪します」

 

 取り合えず謝っておく。だがそれとは別にこちらも言っておきたいことがある。

 

「ですが、こちらも大真面目なんですよ。決して手加減はしていません」

「そうですか。でしたら―――」

 

 八幡の答えを聞きソフィアが再び動く。彼女は全身から星辰力が吹き荒らせ、鍔迫り合いの状態を更に押し込みー――力づくで剣を振りぬいて八幡を吹き飛ばした。

 

 後方に飛ばされながら着地する八幡。

 そしてソフィアの方に振り向くと彼女は再度宣言する。

 

「―――それが口先だけではないと、その実力で証明なさい!!」

「……はぁ、なんでこうなるのやら」

 

 二人の戦いは激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおっと! 范選手とフェアクロフ選手! 二人の戦いは激しい打ち合いへと移行しました!!』

『リング中央で激しく両者の攻防が続きます! しかし押しているのはフェアクロフ選手! 范選手! 徐々に押され始めたか!?』

 

 解説の声を己の耳に届く中、ソフィアは剣を振るう。その数が増えるたびに相手を追い詰めている―――はずである。

 

 ―――妙ですわね。何か変ですわ。

 

 范八幡。界龍第七学園 中等部三年。序列はなし。戦闘データはこの大会の二試合のみ。使用武器は煌式武装ではなく日本刀。煌式武装を使用しないのはこの都市ではかなり珍しい。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 ソフィアは連続で刺突を繰り出す。並みの相手なら数撃で倒せる攻撃だ。しかしそう易々とはいかない。左右に最小限動いて微妙に狙いを外される。さらに直撃する攻撃は刀で上手く捌かれた。

 

 ―――仕留めきれない。界龍に此処までの剣の使い手がいるなんて。

 

 押しているのはこちらだ。だが油断はできない。そう感じさせるほどに相手の防御に隙が無い。このまま攻撃を続けても無駄に終わりそうだ。

 

 一旦仕切り直しすべく剣を引く―――だが相手は仕掛けてこない。

 

 ―――やはり仕掛けてきませんか。

 

 積極的に攻撃してこないのは此処までの試合と一緒。戦法も同じならカウンター狙いが濃厚だが―――それがブラフの可能性も否定できない。

 

「守ってばかりは勝てませんわよ?」

「……余裕がないので無理ですね。まあ、気が向いたら攻撃しますよ」

 

 こちらの挑発も軽く流される。どうやら完全に防御に徹するようだ。それならそれで構わない。相手が攻撃してこないなら好都合だ。

 

 ―――どちらにせよ、こちらのする事に代わりはありませんわ! 

 

 ソフィア・フェアクロフは范八幡に向かって剣を振るい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、范八幡には余裕がなかった。

 

 ―――右、左、左下、右上、真下、ちぃっ、速い! 速すぎだろっ!! 

 

 こちらに襲い掛かる怒涛の攻撃を辛うじて捌く。剣筋は何とか追えている。しかし剣の速度が尋常ではない。そのスピードは正に神速。

 

 ―――やっぱり綺凛と同レベルか。きっちぃなぁっと! アブねアブねっ。でも何とか対応できる、戦える。余計なことは考えるな、集中しろ! 神経を研ぎ澄ませっ! 

 

 相手の動きにだけ集中する。放たれる剣に対しこちらも刀を合わせる。無理に攻めることはしない。とにかく相手の剣を裁くことだけに没頭する。

 

 刺突が連続で繰り出される。刀を左右上下に細かく動かし捌く。更にスピードが上がり、こちらの防御を抜こうとする。しかしそれは許さない。繰り出される剣に刀を合わせ軌道をずらし―――ソフィアの身体が僅かに傾く。

 

 その隙を狙いカウンター一閃。しかしこちらの狙いも読まれる。払った一撃は容易に避けられ、ソフィアはそのままこちらから距離を取った。

 

「ふぅっ」

 

 軽く息を吸う。ソフィアの攻撃は明らかにカウンター対策だ。決して大振りの攻撃をせず、こちらに攻撃の隙を与えない戦法。

 

 ―――さて、どうするかね? 

 

 試合が開始して既に数分が経過している。縛りは既にクリアした。そして戦いの際中に見えてくるものがあった。

 

 ―――確かに剣の腕なら綺凛と同レベルだ。だけど二人が戦えば間違いなく綺凛が勝つ……やっぱり彼女は人に攻撃が出来ないんだな。

 

 ソフィア・フェアクロフの弱点。それは彼女が人を傷つけることが出来ないことだ。それ故に彼女の攻撃は読みやすい。攻撃する場所が限定されるからだ。

 

「何を考え込んでいますの!」

 

 考え込む隙を付かれ、ソフィアが前傾姿勢で突っ込んでくる。先程と同様に連続で刺突―――から変化で横薙ぎ! 虚を突かれ、刀で防御するもそのまま後退させられる。

 

「っと!」

 

 倒れないように踏ん張り体勢を維持する。が、ソフィアは既に次の行動に移していた。八幡を吹き飛ばした後直ぐにジャンプ! 両手でサーベル型煌式武装を持ち、思いっきり振り下ろしてきた。

 

「はぁぁっ!」

「っぶね!」

 

 こちらも両手で刀を持ち、なんとか受け止めた。そのまま鍔迫り合いに移行し両者の顔が接近する。ソフィアの表情は真剣そのものだ。彼女の大会に掛ける思いが伝わって来るかのようだ。そして何故か―――目の前でソフィアがふっと笑った。

 

「ここまで見事に凌がれましたわね。お見事ですわ」

「そちらこそ大した剣の腕です。今でも結構ギリギリですよ」

「あら、それは嬉しいですわね」

 

 褒められるとは思わなかったのか、クスリとソフィアが笑う。近距離での美人の笑顔は止めてほしい。戦闘中とはいえ、思わず見惚れてしまいそうになる。

 

「でも、あなたは本気を出していませんわ」

「…………」

「答えずとも分かりますわよ。あなたは何か力を隠していますわね?」

「……さぁ? どうでしょうかね?」

 

 咄嗟に誤魔化すも、ソフィアは何故か確信を持っているようだった。

 

「……まあ、いいですわ。それを引き出せない私に問題があるのですから」

 

 そう言うと、ソフィアが後方へ大きくジャンプ。くるりと回転しそのまま着地する。剣を一振りし、彼女の全身から星辰力が吹き荒れる。

 

「―――さぁ! いきますわよ!!」

 

 吹き荒れる星辰力の量が彼女の本気を表していた。次の激突で完全に決着を付ける気だ。しかし正面からぶつかるのは危険だ。彼女の剣技では万が一が十分に起こりうる。

 

 故に―――

 

「…………手札を一枚切るか」

 

 正々堂々―――相手の裏をかく。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ! 両者から星辰力が溢れています!』

『次で決める気ですね。さてどうなるか―――おおっと! フェアクロフ選手が動いたぁ!!』

 

 解説の途中でソフィアが同時に動く。前傾姿勢で八幡に向かって突っ込んでいく。

 それに対して待ち受ける八幡。懐から一枚の符を取り出し―――前方に投げつけた。

 

 ―――星仙術? 構いませんわ! 何が来ても対応してみせますわ! 

 

 その符を一目見て、界龍特有の星仙術と判断したソフィア。どの術が発動するか警戒し、投げつけられた符に注視した。

 

 ―――その行動で罠にかかった。

 

「―――急急如律令、勅!」

 

 符が発動し―――閃光が走る。

 

「くっ!? 目がっ!?」

 

 視界を奪われ、ソフィアは咄嗟に右腕で顔を覆った。視界を潰された。ならば次は向こうの攻撃が来る! 

 

「それならっ!」

 

 突撃を中断。瞬時の判断で進路変更し、真横へと跳んだ。着地と同時に右腕を退ける。そして薄目を開けて先程まで八幡がいた位置を確認し―――八幡の姿を見失う! 

 

「―――っ! どこへっ!!」

 

 自身の右手から踏み込みの音! 咄嗟に右を向き―――刀を振りぬく八幡の姿を捉えた! 

 

「―――甘いですわっ!」

 

 無理やり左方向に身体を倒し回避行動―――した直後に胸元があった位置に刀の軌跡が通り過ぎる。

 そして―――相手の校章を捉えた。

 

「そこですわっ!!」

 

 左足を力強く踏みつけ倒れるのを阻止。そしてそのまま上体を起こし、右方向に回転しながらサーベル型煌式武装を上方向から必殺の一撃を繰り出した。

 

 神速の一撃は彼女の狙い通りの軌跡を描く。攻撃直後の八幡にそれを防ぐ術はなく、胸にある校章を断ち切られた。

 

 そして同時に―――斬られた八幡の姿が霞の如く消え去る。

 

「―――なっ!?」

「―――俺の勝ちです」

 

 騙されたことに気付いたソフィアだが、その直後に決着は付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『決着! 決着! 試合終了!! 勝ったのは界龍第七学園、范八幡選手です!!』

『いや~見応えのある試合でした。試合は終始フェアクロフ選手が得意の剣技で優勢に進めていましたが、最後の攻防で范選手が逆転勝利を収めました!』

 

 試合が終わり歓声が鳴り響く。解説の声を聞きながら、八幡は刀を鞘に納めた。

 

「ふぅっ、何とかなったか」

 

 何とか勝利を収めた。これで後は帰るだけ―――ではない。試合よりよっぽど憂鬱な記者会見が待っていることを思い出した。

 

 名字から星露との関係性を怪しむ記者もいるかもしれない。とりあえず、どうやって誤魔化そうか考えていると―――

 

「―――少々よろしくて?」

 

 対戦相手のソフィア・フェアクロフが話しかけてきた。

 

「……なんでしょうか?」

 

 少しだけ警戒する八幡。すると八幡の前にソフィアの右手が差し出された。

 

「…………なんですか、これ?」

「? 見ての通り。単なる握手ですわよ」

「そう、ですか……」

 

 意外な行動を取られ困惑する八幡。とりあえず差し出された手を握り返した。

 

「やはり貴方は強かった。特に最後の星仙術は見抜けませんでした。お見事ですわ」

「…………ありがとうございます」

 

 返事を返すと、握られた手の力が少しだけ強くなった。思わずソフィアの顔を見る。すると彼女は、悔しさを堪えながら力のない笑顔で八幡に告げる。

 

「……私の分も頑張ってくださいまし」

 

 それだけ言うと、返事を待たずソフィアは立ち去って行った。その間、八幡は立ち尽くし彼女の後姿を見送った。

 

「…………重いなぁ」

 

 星武祭には多くの選手が出場している。そして多くの選手が出場するという事は、その人数だけ叶えたい願いがあるということだ。

 

 勝てば勝者となり、負ければ敗者となる。勝者に出来ることは、敗者の想いを背負って戦い続ける。ただそれだけだ。

 

 少なくとも八幡はそう解釈し―――ソフィア・フェアクロフの想いを背負った。

 

「はぁぁぁ、やっぱり出るんじゃなかったかねぇ。王竜星武祭」

 

 自分の背負った想いを自覚し、范八幡は溜息を洩らした。

 

 

 界龍第七学園 序列外―――范八幡。本選出場決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、勝ったか。まあまあじゃな」

 

 生徒会長室で一人、范星露は范八幡の試合を見ていた。結果は八幡の勝利だ。勝利自体は予想していたので別に驚かない。

 

すると部屋の外から声が聞こえてきた。

 

「失礼します、師父」

「おお、虎峰か。どうした?」

 

趙虎峰が部屋に入ってきた。

 

「書類が終わったか確認しに来たのですが……もう終わってるようですね、珍しい」

「うむ、儂が本気を出せばこんなものじゃよ」

「はぁ、その本気をいつも出してくれれば助かるんですけどね」

 

虎峰が星露の傍に置かれた、処理済みの書類の山を見て溜息を付く。

 

「ところで、何の映像を見ていたのですか?」

「八幡の試合じゃよ、ほれ」

 

星露は虎峰へ映像データを送った。

 

「ああ、そういえば今日試合でしたね。結果は……よかった。勝ったんですね」

「予選で負けるほど軟な鍛え方はしておらんよ。勝って当然じゃ」

「まあ、確かに」

 

 普段の八幡の様子を思い出して虎峰は苦笑する。彼の鍛錬相手を思い出したからだ。

 范星露、武暁彗、雪ノ下陽乃、趙虎峰、アレマ・セイヤーン、刀藤綺凛。近接戦闘でも界龍のトップ集団が、彼を徹底的に鍛え上げてきたのだ。

 

 そんな彼が予選で負けるわけがない。

 

「では師父。この書類は貰っていきますね」

「うむ、頼んだぞ」

「はい」

 

 虎峰は書類を抱えて部屋を退出した。残された星露は、再び八幡の予選の試合を見返していた。

 

「……予選は相手に恵まれたか。この程度の相手では八幡も本気にはなれんな。まあ、本戦に期待するとするかのう―――その為に苦労して王竜星武祭に送り込んだのじゃ」

 

 星露が八幡を王竜星武祭に送り込んだ理由は幾つかある。

 

 一つ目は彼の自己評価の低さを直すため。これは王竜星武祭を勝ち抜いて、本人に自信を付けさせるためである。

 

 二つ目は実戦の場こそ良き稽古になるから。普段は界龍のメンバーしか相手にしていないので、他学園の生徒との戦闘も行わせたかった。

 

 そして三つめ。最後の目的は―――

 

「ふむ、場を整えるのも運次第。しかもそれで上手くいくかは……微妙じゃのう」

 

 三つ目の目的が非常に難しい。これを達成するには、幾つかの条件をクリアするのが前提にあり―――条件をクリアしても成功するかは不明だ。

 

「まあよい。すべては抽選の組合せしだいじゃな。そこからまた考えればよい」

 

 星露は映像に映る八幡の姿を見つつ、ニヤリと笑った。

 




前回の更新からまた大分開きました。お久しぶりです。次回はもうちょい早くしたいですね。頑張ります。

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