学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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前回より少しだけ早く完成しました。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。



第五話 崩壊する日常

「…………またか」

 

 辺りを見渡せば一面闇の世界。その中に比企谷八幡はいた。

 まるで宇宙を漂流するかのように、ゆっくりと、ゆらゆらと、流されながら。

 

 雪ノ下陽乃にアスタリスクへ誘われてから数日が経っていた。

 最後に会ったその日、眠りにつくとそれは始まった。

 

 ―――――――あの日と同じ現象が

 

 少し離れた先に見える大きな扉。そして扉に絡まる大量の鎖。ここまでは幼少時と一緒だ。

 だが、よく見ると異なる所が幾つもある。

 

 まず、扉が大きさがかなり変わっている所だ。幼少の頃より大きさが大きくなっており、見た感じ3倍ほどの大きさに変化している。それに対して、鎖の太さは細くなり量も少し減っているように感じた。

 

 そして一番の違いは両者の色だ。扉の色は完全に黒に染まり、鎖も半分以上が同じく黒に染まっている。

 あの日の記憶が正しければ両者の色に黒は交じっていなかったはずだ。

 

「………また増えてるな」

 

 この現象が起こって数日。その様子を見ていた八幡はある変化に気付いていた。

 それは、鎖の色に黒の比率が増している事だ。毎日徐々に、だが確実に黒の比率が多くなっている。

 

 このまま浸食が進めばどうなるかは分からない。もし扉が開けば星辰力が戻るかもしれない。

 だけどあの黒に染まった扉と鎖を見ると、とても嫌な予感がする。

 

「……俺は望んでいるのか?星辰力が戻るのを」

 

 あの日、妹の為に星辰力を捨てた。だが、雪ノ下陽乃の誘いを受けその思いは揺らいでいる。

 

 妹の事は考えず、自らの為に生きてみてもいいのではないか?

 ろくでなしばかりの今の学校を捨て、アスタリスクに行ってもいいのではないか?

 

 あの日からずっと考え、悩みに悩み、だが結論が出せない。

 その悩みの深さに比例するかのように、黒の浸食は進んでいった。

 

 そして八幡は黒に染まる扉を見つめながら感じていた。

 

 

 残された時間は、恐らくあと僅かだ。

 

 

 

 

 

 

 目を開け顔を上げれば見慣れた教室があった。どうやら机で眠っていたようだ。

 窓の外に見える太陽の位置からすると、授業が終わってそれほど経っていないようだ。

 

「………起きた?」

 

 隣から声が聞こえそちらに視線を向ける。するとクラスメイトである川崎沙希の姿があった。

 隣の席に座りこちらを見つめている。どうやら教室内に残っている生徒は彼女だけのようだ。

 

「……川崎?何でここにいるんだ」

「何でって、いきなり失礼だね。自分のクラスに居ちゃ悪い?」

 

 八幡の質問にぶっきらぼうに答える沙希。返ってきた答えを八幡は否定する。

 

「そうじゃない。お前、帰宅部だから授業終わったらすぐ帰るじゃねぇか。何でこんな時間に残っているんだ」

「……あんたに聞きたいことがあったからね。後、なぜか伝言も頼まれたし」

 

 そう言うと彼女は八幡に問いかける。

 

「………あんた、大丈夫?大分疲れているみたいだけど」

 

 川崎沙希は比企谷八幡を心配していた。彼が文化祭と修学旅行でやらかした事は噂で知っているが、彼女はそれを気にしてない。彼の捻くれた性格を知っているので、もし彼が何かしたのなら理由があるはずだと思っているからだ。だが、ここ数日の様子が先週と比べてあまりにも違うため、それが気になりわざわざ待っていたのだ。

 

「……問題ねぇよ。特に変わらない毎日だ」

「…………そう」

 

 その答えは嘘だと感じた。

 先週と比べ、顔色が悪く口調も弱々しいその姿に説得力がなかったからだ。

 だが、本人が大丈夫と言っている以上、追及するのは憚れる。

 

「それで伝言ってなんだよ。一体誰からだ?」

「……由比ヶ浜だよ」

「由比ヶ浜?あいつが何で?」

「さぁ?私は頼まれただけだから」

 

 わざわざ他の人に伝言を残してまで、伝えたい事があるというのもおかしな話だ。

 同じクラスなのだから直接話せばいいだけなのだから。とりあえず聞いてみる事にする。

 

「……それで、あいつは何て?」

「奉仕部に今日は来るのかってさ。あんた、部活行ってないの?」

「……色々あってな」

 

 言葉を濁して話す。修学旅行以来部活に行ってないのは事実だ。

 由比ヶ浜もそれを気にしており、八幡に問いかけようとしていた。だが結局出来なかったため、伝言という手段を取ることにしたようだ。

 

「……まあ、アタシには関係ないけどさ……無理しない方がいいよ」

 

 川崎沙希はその見た目と言動から誤解されやすいが、心優しい少女だ。

 ぶっきらぼうに聞こえるその言葉からでも、相手を気遣う心は感じ取れた。

 

「じゃあ、アタシ帰るから」

 

 用は済んだとばかりに沙希は席を立ち、廊下に向かって足を進める。

 

「……川崎」

 

 立ち去ろうとしている沙希に八幡は声を掛ける。振り向く沙希に八幡は告げた。

 

「……………ありがとな」

「……別にいいよ」

 

 

 

 

 

 

 奉仕部に行くために慣れた廊下を歩いていく。修学旅行の後に訪れるのは初めてである。

 期間としてはそれほど経っていないが、随分と久しぶりに感じる。

 

 入口の扉前までやってきた。深呼吸をして呼吸を整え、部屋に入る準備をする。

 ノックをしようと手を構えた所で――――

 

「ヒッキー今日もこないね」

「……ええ、そうね」

 

 聞こえてきた声にその動きを止めた。

 

 部屋の中から聞こえてきたのは、奉仕部の部員である由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃の声だ。

 八幡が動きを止めている間にも二人の話は続く。

 

「……最近、ヒッキーの悪い噂いっぱい聞こえるね」

「しょうがないわ。彼はそれだけの事をしたのだから」

「そうだよね。何であんな事したんだろう、ヒッキー」

「……知らないわ。あんな最低の告白谷君の事なんて」

「……ヒッキーこのままずっとこないのかな?」

「……その方がいいわ。彼はもうここに来ない方がいいわ。あなたもそう思わないかしら、由比ヶ浜さん」

「……………そうだね。その方がいいかもね」

「それに………」

 

 二人のやり取りに耐え切れず逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか自室に戻っていた。学校から自室に戻るまでの記憶はまったくない。

 制服姿のままベッドの上で仰向けになり、天井を見上げる。

 

「…………………」

 

 あれは本当に現実だったのか?あれは夢ではなかったのか?

 そんな思いが胸中をかすめるが、理性はそれを否定する。

 

 あれはまぎれもなく現実に起こった事だと、嫌でも理解せざるをえなかった。

 

 ふと部屋の中を見渡すと机の横にある木刀が目に入る。すると無性に体を動かしたくなった。

 ここでじっとしていると、頭がおかしくなりそうだ。

 

 

 気が付けば木刀を手に取り、外を歩いていた。

 特に考えず、気の向くまま歩いていると近くの公園が見えてくる。

 

「……久しぶりにあそこに行くか」

 

 いつもは小さい子供やその母親達がたくさんいる公園だが、今日は人が見当たらない。

 好都合だと思いさらに奥に足を進め、ほどなくして目的の場所に到着した。

 

 公園の奥の木々が生い茂った中にあるちょっとした広場。

 殆ど人が訪れないこの場所へは、幼い頃から頻繁に訪れている。

 

 一日中この場所で鍛錬をしたことがあった。嫌な事があった時に逃げ込んだこともあった。

 そして、何もない日に訪れのんびりと昼寝をしたこともあった。

 

 八幡にとっては色んな意味で思い出の場所だ。

 

 呼吸を整え木刀を構える。

 

「ふっ!!」

 

 そして何かを振り払うかのように素振りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 一方奉仕部では。

 雪ノ下雪乃が本を読み、由比ヶ浜結衣は携帯端末をいじり、時折お互いに話をしながら時間を過ごしていた。

 

 そんな中、突如校内放送が聞こえてきた。

 

『全校生徒にお知らせします。本日のクラブ活動は中止とします。校内に残っている生徒は速やかに帰宅してください。繰り返します……』

 

「何だろう、ゆきのん?」

「……何かあったのかもしれないわね」

 

 二人が放送に疑問を感じていると、教室に近づいてくる足音が聞こえてきた。

 かなりの急ぎ足で近づいてきたそれは、入口の扉の前まで近づきノックをせずに扉を開けた。

 

「ああ、まだいたか」

「平塚先生。ノックを……」

「悪いな、それどころじゃないんだ」

 

 入ってきたのは、奉仕部の顧問の平塚静香だった。

 普段の様子とは異なりかなり慌ただしい様子だ。

 

「何かあったのですか?」

「市内の銀行で強盗が発生し立てこもっているらしい。

 犯人は、最近ニュースで話題になっていた強盗団の可能性が高いそうだ。

 先程、警察から連絡があったよ。

 緊急の職員会議の結果、校内にいる生徒は速やかに帰宅する事に決まった。

 ああ、周辺は警察によって封鎖されているが、危険な為絶対に近づかないようにとの事だ」

 

 かなりの大事であった。心当たりのある雪乃は平塚に問いかける。

 

「強盗団……星脈世代のですか?」

「ああ、そうだ。最近は関東を中心に活動していたようだが、千葉にまで来るとはな。

 まったくいい迷惑だよ」

「そうなんですか……私怖くなってきちゃったよ、ゆきのん」

「大丈夫よ、由比ヶ浜さん。例え強盗が現れたとしても私が守ってあげるわ」

 

 そう言うと、雪乃はポケットの上から煌式武装の発動体を触る。

 護身用として煌式武装を持ち歩いているので、いざとなれば惜しみもなく使用するつもりだ。

 

「……それはお勧めしないな」

「……どういう事ですか?その辺の強盗なら私一人でも十分だと思われますが」

「その辺の強盗とは訳が違うからだ。並みの相手なら君でも問題ないだろうがな。

 ……連中の中には、元冒頭の十二人(ページワン)が交じっている可能性があるそうだ」

「!!」

 

 平塚の言葉に驚の表情を見せる雪乃。そんな雪乃に結衣は質問をする。

 

「……ゆきのん、ページワンって何?」

「アスタリスクには、それぞれの学園が有する実力者を明確にするためにランキングリストが存在するわ。それが在名祭祀書(ネームド・カルツ)と呼ばれる72名の実力者よ。 

 中でも、在名祭祀書のリストの1枚目に名前が連ねられている上位12名は冒頭の十二人(ページワン)と呼ばれているの」

「詳しいな。なら分かっていると思うが、冒頭の十二人の連中は基本的に化物揃いだ。

 雪ノ下、いくら君が腕に自信を持っていたとしても、連中を相手に喧嘩は売らない方がいい」

「……分かりました。確かに冒頭の十二人相手では分が悪そうです」

 

 平塚の忠告に頷く雪乃。

 雪乃は自身が優れた星脈世代と思っているが、冒頭の十二人相手に勝てるとは言えなかった。

 理由は、彼女自身の姉が冒頭の十二人の一人の為、その強さを知っていたからだ。

 

「とりあえず要件は伝えた。私はまだ校内に残っている生徒を探さなければいかん。

 君たちはすぐに帰るんだぞ」

 

 そう二人に告げると平塚は教室を出て行った。

 

「帰りましょうか、由比ヶ浜さん」

「……うん、そうだね」

 

 

 

 部活を中断して帰宅することになった。教室を出て外へ向かう。

 下駄箱で靴を履き替え外へ出ると、校内放送を聞いてであろう生徒達が続々と帰宅しようとしていた。

 

「銀行強盗ってマジ?場所どこよ?」

「ほら、街外れの銀行だってよ」

「あそこか。って俺の家の近くじゃねぇか!家帰れるか?」

「そりゃご愁傷様。とりあえず俺んち来いよ」

「そうさせてもらうわ。お、ちょい待ち」

「どした?」

「……ダチが銀行の近くにいるってさ。強盗が入る直前に銀行から出て助かったって言ってる。」

「そりゃ運がいいな。で、今銀行前どんな感じよ」

「……周囲を警察が完全に取り囲んでるみたいだぜ。警察だらけで近づけないって言ってる」

「そりゃそうだろ」

「お、警察が来る前の銀行の様子を動画で上げたってさ。アドレス載ってる」

「見てみようぜ」

 

 周りの生徒は銀行強盗の話でもちきりだった。

 そんな周囲の喧騒に耳を傾けながら、二人は校門へ向かって歩みを進めていた。

 

 やがて校門を通り過ぎると周辺に多くの車が止まっていた。校門を出た生徒が車に向かって行き、乗り込んでいく姿が見える。どうやら生徒の保護者達が迎えに来ているようだ。

 

 そんな様子を見ていた雪乃だが、その中で一際大きい車の姿が視界の端に写った気がした。

 確かめようとそちらに視線を向ける前に

 

「お嬢様……」

 

 雪ノ下家の執事 都築に声を掛けられた。

 

「都築?どうしてここに?」

「奥様がお呼びです。本日はご実家にお戻りなられるようにとの事です」

「……何故?特に帰る用事はないのだけれど」

「……件の強盗騒ぎで奥様もお嬢様を心配しております。なにとぞ、お戻りになられるようお願いします」

 

 そう言うと頭を下げ雪乃に実家に戻るよう頼みこむ。

 そんな都築の様子に雪乃は軽く溜息をこぼす。

 

「……分かったわ。ただし、由比ヶ浜さんを先に送ってちょうだい。いいわね」

「かしこまりました。では、雪乃お嬢様、由比ヶ浜様。お車へどうぞ」

 

 雪乃から了承の返事をもらい、都築は車の後部座席の扉を開ける。

 中に入るよう促され結衣が先に車に入り、後を追うように雪乃も乗り込んで行く。

 二人が車に入り扉が閉まる瞬間……

 

 

「……これ、小さい女の子が人質になってないか?」

 

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「ごめんね、ゆきのん。わざわざ送ってもらっちゃって」

「いいのよ由比ヶ浜さん。どうせついでなのだから」

 

 二人を乗せ車は走り出した。普段なら車が多く走る時間帯だが、周囲の車は普段より少ない。

 総武中付近は迎えの車で溢れていたが、しばらくすると車はほとんど走っておらず、周りを歩いている人も少なくなっていった。銀行強盗の影響で出歩く人が減っているためと思われる。

 

「……銀行強盗が星脈世代なのはホントなのかな?」

「恐らく本当でしょうね。先生も言っていたし、嘘をつく理由はないわ」

「……そっか。最近、星脈世代のそういう事件がよく報道されているからさ……やだな、そういうの」

 

 由比ヶ浜結衣も星脈世代だ。自分と同じ存在が凶悪な事件を起こしたとなると、どうしても気になってしまう。

 

「気にする事ないわ。星脈世代自体が起こしている事件の件数は、非星脈世代に比べれば圧倒的に少ないわ。マスコミが過剰に星脈世代を叩いているだけよ」

 

 だが、雪ノ下雪乃は揺るがない。

 

「由比ヶ浜さん。私たちは選ばれた存在よ。星脈世代が一つ事件を起こす度に、マスコミは過剰に報道して徹底的に叩くわ。それはなぜだと思う?非星脈世代が星脈世代に嫉妬しているのよ。人を超えた力を持っている私たちにね。だから、それらを一々気にしてもしょうがないわ」

「そう……なのかな?」

「そうよ」

「……うん、そうだね。気にしすぎてもしょうないよね」

 

 断言する雪乃。その堂々とした姿を見て励まされた結衣も元気を取り戻す。

 

 その後も雑談を続け、車が結衣の家の付近に近付いて来た辺りで

 

「……都築、止めて!」

 

 突如、雪乃が車を止めるように指示を出す。突然の指示に慌てる事はなく都築は車を止める。

 そして、車が止まると雪乃は外へ出て呼びかけた。

 

「小町さん!」

「……雪乃さん?」

 

 声を掛けた先には、比企谷八幡の妹 比企谷小町が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 流れるように放たれた一撃が、闇夜の虚空に放たれ半円の軌跡を描く。そして振り放たれた木刀は止まることなく、次の連撃へと続いていく。

 

 最初は素振りだけであったが、500を超えた段階で素振りだけでは収まらなくなった。気付けば幼い頃に習った剣術の型へと自然と体が動いていく。鍛錬をするのは久しぶりだ。体が悲鳴を挙げているのは感じ取れたが、それでも止まる様子はない。

 

 ――――やはり俺は剣が好きなんだな。

 

 刀藤流の剣は宗家と分家では異なる点が存在する。

 基本の鍛錬は一緒だが到達する奥義が異なる為、使い手もまたそれらに特化した動きになる傾向が強い。

 

 鋭い太刀筋からの連続攻撃を主とする宗家の剣は、奥義もまたそれを極めた先にある。

 対して八幡が習得した分家の剣は……

 

 八幡の動きが止まる。腰を落とし上半身はやや前傾に、だが視線は真っすぐに向けたまま。左手に木刀を持ち、刀を鞘に納めたかのように腰の辺りに持っていく。右手は力を抜き木刀の前方少し下に置かれた。

 

 居合の構えだ。

 

「ふぅぅぅ~~」

 

 息を吐き集中力を上げる。目の前に架空の標的をイメージし視線を鋭くする。

 

 そして――――――

 

 

 放たれた一閃がイメージの相手を両断した。

 

 

 

 

 

 

「……体が鈍ってるな。それに反応が遅い……これじゃあ先生に叱られるな」

 

 鍛錬を終え一息つく八幡。久方ぶりの鍛錬は体に堪えたのか体中が悲鳴を挙げている。

 だが、その痛みも悪いものではなく心地よい気分にさせてくれる。

 

 呼吸を整え、タオルで汗をぬぐう。夜の風に身を任せていると遠くからパトカーの音が聞こえてきた。それもかなりの数だ。ここまで大量の数は聞き覚えがない。

 

「……何かあったのか?」

 

 疑問に思いながら公園の出口に向かう。

 月明りと公園の外灯が照らす園内を歩き、出口が見えてくると同時に人の姿が見えてくる。

 

「……小町か?」

 

 見えたのは妹の比企谷小町だった。公園の出口に一人立っているのが見える。

 何事かと思い小走りに駆け寄り声を掛ける。

 

「小町?」

「……………」

 

 問い掛けるも返事がない。

 

「……小町……どうした?」

「………………」

 

 再度呼びかけるも何も反応しない。下を向き俯いたまま動きみせる様子すら見せない。

 様子がおかしい事に気付いた八幡は、小町に触れようと手を伸ばし……

 

 

 無情にもその手を振り払われた。

 

 

「……こま……ち?」

 

 振り払われた手を呆然と見つめる八幡。

 その言葉に反応し、比企谷小町はゆっくりと顔を上げ……

 

「……いいご身分だよね。ごみいちゃん」

 

 憎悪の瞳で八幡を見つめてきた。

 

 

「雪乃さんと結衣さんに聞いたよ。ごみいちゃんがやってきた事。ごみいちゃんみたいな人と仲良くしくれた二人を裏切るようなまねをするなんて最低だよ!!」

 

 比企谷小町は怒っていた。捻くれて腐った目をしていた兄。そのせいか、友達の一人もいなかった兄に初めて仲間が出来た。複雑な気持ちであったがそれは嬉しい事だったのだ。

 

 ―――――だが、この兄はそんな二人の気持ちを裏切った。

 

 

 兄の手に持っている木刀が目に入る。

 その瞬間、憎悪の彩られた瞳がさらに禍々しくなった。

 

「……その木刀……やっぱりそうなんだね?」

 

 比企谷小町は自らの懐に手をやり何かを取り出そうとした。

 そして目的の物を手にとり……

 

「これは何さ!!!」

 

 地面に叩きつけた。

 

「それは……」

 

 雪ノ下陽乃から預かった推薦状が目の前にあった。

 

「……何でお兄ちゃんに推薦状が来るの?」

「小町……」

「私は頑張ってきたよ。お父さんとお母さんの言う事を聞いて、一生懸命……頑張ってきたんだよ?」

「小町、話を聞いてくれ!」

「小さい頃から自由がなかった。学校で友達が出来ても、放課後一緒に遊べなくて結局離れていっちゃった。学校が終わったら勉強と鍛錬でずっとずっと一人だった!」

 

 不満に思う事はあっても我慢はできた。両親の嬉しい顔が見たかったから、子供なりに一生懸命頑張ってこれたのだ。

 

 先日まで行われた合宿ではいい成績を上げる事ができず、両親の期待に応える事が出来なかった。

 

 失意の中、彼女の前に雪乃と結衣の二人が現れた。兄の近況を聞き怒った彼女は、兄を問い詰めるために部屋に向かい、そして推薦状見つけて彼女の心は絶望に叩き落された。

 

「私のやってきた事って無意味だったの!?」

 

 泣き叫ぶ彼女の体から星辰力が出始める。感情の制御が出来ていないのだろう。

 勢いよく溢れ出た星辰力が衝撃の風を生み、周囲の砂をまき散らす。

 

 銃の煌式武装を手に持ち照準を兄に向ける。

 

「だから……」

 

 

 許せない。

 

 妹である自分だけに自由がない事が

 

 

 許せない。

 

 一人自由な兄の身勝手な行動が

 

 

 そして何より

 

 

 こんな八つ当たりしかできない自分が、一番許せない!

 

 

「……お兄ちゃんが推薦されるのに相応しいか、私が確かめてあげる!!」

 

 そう言い放つと、比企谷小町は比企谷八幡に襲い掛かった。

 

 




速筆スキルが欲しい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

早く書くと宣言して結局この有様。

もうちょっと早く仕上げたいですが、仕事が忙しいので難しいかもしれません。
更新速度に関しては、諦めてもらった方がいいかもしれません。

アスタリスクまで後何話掛かることやら。

気付けば UA20000 お気に入り400を突破していました!

ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります。

では、次回もよろしくお願いします。
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