遊戯王5D's KIZUNA   作:多田 竜一

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 決闘者(デュエリスト)が、走る。
 遊星粒子をエネルギー源にモーメントエンジンが唸りをあげて、D・ホイールが2台、豪雨の夜を滑走する。海岸沿いを、荒れ狂う波をBGMに走り抜く。
 嵐の中を、2人の男は止まることなく走り続ける。止まることはありえない。
 いかなる障害も、彼らを止めることは叶わない。
 それ程度のことで、ライディングデュエルは止まらない。
 ───爆発。
 雨粒を払う爆風を抜けて現れたのは、赤のD・ホイールと星屑の竜。
「っ! スターダスト!」
 ネオ童実野シティの英雄「不動 遊星」の言葉に、彼の象徴「スターダスト・ドラゴン」が吠え、未だ爆風の中に潜む敵に向かう。
 続けて、もう1台も現れる。黒いD・ホイールだ。馬を連想させるようなそのD・ホイールに乗るその男は、爆風から抜けてスターダストを見据えると───不適に笑った。
「集いし怨念が、世界の闇を暴き出す」
 同調した魂が、1つとなって進化する。
「深淵なる未来へ誘え!」
 一瞬の閃光が夜道を照らす。光を払い、現れたのは黒いモンスターだった。
 黒い。ひたすらに黒い。夜の闇の中現れたそのシルエットは、しかしはっきりと竜の姿を示している。
 それが、スターダストと対峙する。
 現れたモンスターを一瞥して、遊星は海岸に隣接したそのカーブを曲がった。もちろん、男もそれを追いかける。
「お前は何者だ! 俺に何のようがある!?」
 遊星の問いに、その男は。
「消えなさい、この街の英雄よ。貴方の光は、我々には邪魔すぎる」
「何!? ……っ!」
 ふいに、遊星のD・ホイール「遊星号」のバランスが崩れる。風が、遊星を襲ったのだ。
 嵐の風ではない。男のモンスターから突風が吹き荒れている。
 ―――故に、防げなかった。
 男が腕を振るって指示を出すと、モンスターが咆哮とともに、その頭部から黒い衝撃を吐き出した。その衝撃は寸分違わずスターダストへと向かっていき。
 スターダストはその衝撃になす統べなく破壊された。
「スターダスト!」
 破壊による衝撃を、バランスが崩れた遊星はかわせなかった。遊星号が、地から離れる。
 もはや、彼には何もできなかった。
「アアアアアア!!!!!!」
 衝撃に吹き飛ばされ、完全にコントロールを失い、慣性に逆らうこともできずに、スピンし、横転する。それでも勢いは止まらない。
 道の壁に何度もぶつかっては跳ね返り、遊星号のパーツを壊しえぐりながら、そして最後にガードレールにぶつかった。
 男のD・ホイールが黒いモンスターとともにそんな遊星号の近くで止まり、男はD・ホイールから下りて、遊星のもとへと歩く。
 ヘルメットにはヒビが走り、そこから血を流して倒れている。
「まあ、悪く思わないでください」
 遊星は薄らいでゆく意識の中で、その言葉に反応を示す。光を失いつつある目が、男とその後ろにいるモンスターを捉えた。
 忙しなく回る灯台が一瞬、黒いモンスターを照らした時、遊星はその瞳をゆっくりと閉じた。
 黒く、暗い、スターダストをその目に映して。


第1話 「不動 キズナ アクセラレーション!」

 不動 遊星、死亡。

 そんなニュースでシティ中が震撼したのも、もう半年も前のことなのだなぁと、その事件の資料をその手に持った牛尾はため息をついた。

 今日も今日とて進展なし。自分の無能さに呆れながら持った資料をデスクに投げて、椅子に深く腰を下ろした。また1つ、ため息が出る。

 ダイダロスブリッジ近くの海岸、それに沿って敷かれたデュエルレーンで、それは発見された。

 破損した遊星号と、血に濡れたスターダスト・ドラゴン。

 外装はもちろん、中のパーツや、内蔵したコンピューターすらも損傷が激しく、もはや使い物にはならないだろうほどだった。

 遺体は発見されていない。しかし、遊星号がぶつかったことによるであろうデュエルレーンの破損具合や、遊星号とともにあった大量の出血痕から、生存していると言うにはあまりにも無理があったのだ。

 直前に決闘(デュエル)していた記録が遊星号から発見されたことから、最初はセキュリティー総出で決闘の相手を探していたが、それもみつからず終い。結局半年経った今では、調査の規模は1部署にまで下がっている。

「牛尾さん、ちょっと良いですか?」

 ふと、聞きなれた青年の声に姿勢を正して振り向いた。

 部下のビショップという青年だ。この事件を切欠に関わるようになった部下で、今では数少ないともに遊星を探す仲間の1人。

「どうした?」

「整備班から連絡がありました。遊星号、直ったそうです」

 そうか、やっとか。そう言って、また1つため息をつく。

「とは言っても、外見を見よう見まねで直しただけで、中身に関してはセキュリティー制で原型なんて留めていませんが」

「良いんだよそんくらい。中身に関しちゃあ、モーメントさえあれば大した問題じゃないさ」

 原型も何も、当の遊星が改造に改造を重ねるのだ。組まれているプログラムなど一か月も経てば一新されていることは良くあることだと、本人から聞いたこともある。

「あいつが返ってきた時に、あいつが弄ればそれでいい」

 そう。とりあえず使える状態にしておけば、あとは遊星が勝手にやってくれる。

 それで、問題はない。

「遊星さん、ですか」

 ビショップの口からその名が出る。公には死亡扱いされている英雄。しかし、遺体は発見されていないがために、遊星は生きていると信じるシティの人間は少なくない。

 彼も、そして牛尾も、その1人である。

「さて、んじゃ行くか」

「へ? どこにですか? 今日の調査はもう終わりでは?」

 オフィスに飾られた20:00を回ろうとしている時計を気にしながらビショップにそう言われ、牛尾は上着を着ながら答える。

「英雄様の相棒のとこにだよ。どうせ倉庫に放り込まれるんだ。その前に見ておきてぇだろ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 夜でもなお、デュエルレーンを中心に明かりが絶える様子のないネオ童美野シティ。

 そこに立ち並ぶビルなどの屋上を飛び越える、小柄な人影が1つ。

「よっと!」

 隣のビルに飛び移り、そのまま隣のマンションへ。時には、道路の真上を飛び越えるように建物を渡る。

 そうやって見渡しのいいビルを見つけると、その人影はそこに降り立って立ち止まった。

「ここが、ネオ童美野シティか」

 人影は、少女だった。

 14~16歳程度だろうか。随分とボーイッシュな少女だ。ジーンズの短パン、青いTシャツに赤のジャケットは、少年らしさすらも感じられる。髪は長く後ろで1つにまとめられているが、髪の質が少しガサツだ。

 緑のスニーカーを履いた右足を屋上の隅の段差に乗せて、辺りを見渡す。

「さーて。どこだどこだぁ~?」

 夜の街で、何かを探す。

 右手を額に当てて、顔を左から右へゆっくり動かす。その顔は、まるで悪戯をしている時の子供のように、満面の笑みを浮かべている。

「お。……見つけた見つけた」

 いったい彼女はら何を見つけたのだろうか。少なくとも、少女の見据える先に目立つものはない。

「分かってるよ。すぐ行くって」

 いったい彼女は、何と話しているのだろうか。少なくともその手には何も持っていないし、頭の付近に通信器具の類いも見受けられない。

「ふぅ。……せーのっ!」

 そして少女は、また隣のビルに移った。

 

「待ってろよ! スターダスト(・・・・・・)!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「牛尾さん! スピード出しすぎじゃないですか!?」

「交通法は守ってんだ! こんくらい良いだろ!!」

 街に連なるハイウェイを、牛尾とビショップがD・ホールで駆け抜ける。

 交通法は確かに守っているが、それでもそれが示す速度制限のギリギリの速度だ。早く目的地に着きたいのもそうだが、事件の調査が進展しないというストレスの発散もかねている。

 デュエルモードにしてしまえば合法的にもっとスピード上げられることが頭をよぎったが、さすがにそこまでして速く走りたいとは思わなかった。

(まったく。最近はいろんなことが前に進まねぇな)

 遊星の一件。彼の生死の確認も、彼が直前にしていた決闘デュエルの相手の情報も、何も掴めないまま半年が過ぎた。

 死んでいるのなら、ただの事故というならそれでも良かった。ただ、そういった情報すら全く掴めてない。諦めて悲しむことも諦めずに探し続けることも、どちらにも踏ん切りがつかない。優柔不断なのではない。選ぶための情報がないのだ。ストレス発散にこれくらいはいいだろう、と思ってしまう。

 ふと、D・ホイールに通信が入った。

 ビショップからだった。追いかけるのが半ば面倒になって、話を通信で済ませたくなったのだろう。

 まあいいか、とその通信を開いた。

『はぁ、まったく。捜査が進展しないことがそんなにストレスですか?』

「……当たり前だろ。生きてるか死んでるかも分からないやつに、いったいどれだけの時間を費やしたと思ってんだ。ストレス溜まるに決まってるだろうが!」

 アクセルを踏んで、また加速する。なんとなく交通法の速度制限を越えた気がするが気にしない。

『ああ、ちょっとまってくださ……』

 ピピピ。と、音が鳴った。

 ビショップが受けた通信だ。『整備班? さっき連絡取ったばかりなのに……』と言って彼が通信に出る。

 5秒後。

『はあ!? 遊星号が盗まれたあ!?』

「っ!?」

 反射的に速度を上げた。

 もはや交通法もクソもない。一瞬遅れてサイレンを鳴らして、一気に速度を倍近くまで上げた。

『ちょ! 牛尾さん!』

「遊星号に発信機は付いてるんだろ!? 犯人はどこだ!?」

 何か言おうとしたであろうビショップを制して言葉を投げる。通信の向こうからまた呆れのため息が聞こえてきたが、今はそんなことを気にしている時ではない。

(ふざけるなよ! 死んでるかもわかってない上にD・ホイールまで奪われたら、いったいどんな顔して遊星に会えば良いってんだよ!!)

 さらにアクセルを踏んで加速する。この速度ならもう5分も経てば整備班のところに着くはずだ。つまり、遊星号を奪った盗人も、近くにいるはずである。

『ちょっと待ってください! 今確認して……な!?』

「おい! どうした!?」

『これは、まさか……上!?』

「なに!?」

 その瞬間だった。

 牛尾の真上を影が覆う。大きくはない。そう、例えば「D・ホイール1台分」程度の大きさだ。

 それを見上げた牛尾の目には、赤いものが映った。

 見慣れた赤色だ。いや、ここ半年は見てなかったから、久しぶりに見たと言ったほうが正しいのだろうか。とりあえず、その色は酷く見覚えがある。

 それが、牛尾の真上を、横切るように飛んでいた。

「なん、だとぉ!?」

 見間違えるわけがない。まさしく、たった今盗まれたと報告があった「遊星号」がそこにはあった。

 牛尾の真上を通り抜けた遊星号は、そのまま牛尾の走っているのと同じレーンに着地すると、迷いなく牛尾と逆方向へ走っていった。すぐさまビショップともすれ違う。

「はっ!? まさかあれが」

「待ちやがれぇぇぇえええ!!!!!!」

「うわ……! ちょ、牛尾さんそれ逆走ですよ!」

「レーンに警報と交通課に連絡を回しておけ!」

 俺がやるんですか!? というビショップを無視して通信を切る。

 今は一刻を争う。多少の連帯の乱れを無視してでも、遊星号だけは奪われてはいけない。

 この街の英雄の形見を奪われては、セキュリティの面目は丸潰れもいいところであるし、そしてなにより。

(俺のダチの形見を奪われてたまるかぁ!)

「フィールド魔法『スピード・ワールド・NEXT』発動!」

 そうして、牛尾はメニュー画面を叩きつける。

『強制デュエルモード・ON』

 D・ホイールのアナウンスとともに、内蔵された立体映像ソリッド・ヴィジョンシステムが起動した。それを皮切りに、遊星号が減速を始める。

 強制デュエルモード。これで遊星号はデュエルモードを起動した。デュエルモードである限り、D・ホイールはそのD・ホイーラーの持つスピードカウンターに応じた速度しか出すことができない。

 牛尾のD・ホイールが遊星号に追い付く。

「へえ。これが噂に聞く強制デュエルモードか」

 その声を聞いて、牛尾は度肝を抜かれた。

 女だったのだ。しかも少女。その顔はヘルメットで良く見えないが、この声色からして遊星号を盗むのに大して苦労していなさそうにも思える。

 セキュリティが、こんな小娘にあっさりD・ホイールを盗まれたのだ。

「テメェ。いったい何者だ」

「ライディングデュエルは経験がないんだけどな」

「話を聞きやがれ!」

 しかも、かなり生意気だこのガキ。

 顔をしかめた牛尾のその叫びに、少女が反応を示した。

「決闘するんだろ? いいぜ。喧嘩は上等だ! アタシの初めて、あんたにくれてやる!」

「っ! いい気になるんじゃねぇぞこのクソガキ!」

 画面にフィールドが表示される。手札となる5枚をドローして、そしてお互いに、アクセルを回した。

 D・ホイールのデュエルモードが、LPライフポイント4000とスピードカウンター0を表示する。

「「ライディングデュエル! アクセラレーション!!」」

 先攻は、牛尾からだった。

 先攻のプレイヤーにはドローフェイズがない。牛尾は自分のターンを宣言すると、最初の5枚の中から1枚カードを掴んだ。

「俺は『切り込み隊長』を召喚するぜ!」

 牛尾がカードをフィールドに置き、そして立体映像が起動する。虹色に光る丸いゲートが出現し、そこから走り抜けるようにモンスターが現れる。

 切り込み隊長は攻撃力1200のレベル3モンスター。このモンスター単体では弱小モンスターだ。

 しかし切り込み隊長には、その弱さを補う特殊能力がある。

「切り込み隊長の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを新たに特殊召喚できる!」

 牛尾はこれにより、手札のカードをさらに1枚掴んだ。

「チューナーモンスター『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 新たに現れたジュッテ・ナイトもまた、攻撃力700のレベル2弱小モンスターだが、このモンスターはチューナーモンスターだ。

 フィールドにチューナーモンスターが現れた時、決闘は、新たな未来へ加速する。

「レベル3『切り込み隊長』に、レベル2『ジュッテ・ナイト』をチューニング!」

 牛尾の2体のモンスターが、その姿を魂の光に変える。

 切り込み隊長は3つの光の塊に、そしてチューナーモンスターであるジュッテ・ナイトは2つのリングに。

 小さな光が、一筋の大きな光となって、1つの大きな魂となる。

「シンクロ召喚!」

 光の中から、新たなモンスターが現れる。

「現れろレベル5『ゴヨウ・チェイサー』!」

 現れたゴヨウ・チェイサーは、宙に浮きながら牛尾の横に並び並走する。

 これが、シンクロ召喚。

 フィールドにいるチューナーモンスターと、チューナーでないモンスターを墓地に送ることで、そのレベルの合計と同じレベルのシンクロモンスターと呼ばれるモンスターを新たにフィールドに呼び出す召喚。

 そうやって呼び出されたゴヨウ・チェイサーの攻撃力は1900であり、素材となったモンスターからはかなり高い数値となっている。

「へぇ。先攻からシンクロ召喚なんて、飛ばすなぁおっさん!」

「はぁ!? おっさんだ!?」

 ピキ、と牛尾の額に血管が浮かぶ。

 いや、確かに牛尾はもうおっさんと呼ばれるような年齢に見た目をしているし、牛尾はそれを自覚している。しかし、それをクソガキに言われるのは癪でしかなかった。

 怒りのまま、さらに手札からカードを2枚掴む。

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 魔法&罠ゾーンにカードが2枚裏向きで現れる。

「伏せカードねぇ。セキュリティってのはみんなおっさんみたいに臆病なのか?」

「さあな! さっさとお前のターンを始めやがれ!」

「言われなくても始めるさ。……私のターン!」

 そして、少女のドローフェイズが始まる。

 少女は自分のターンを宣言して、デッキの1番上のカードを引いた。

 この瞬間、スタンバイフェイズに移行する。したがって、フィールド魔法「スピード・ワールド・NEXT」の効果が発動し、牛尾と少女に1つずつスピードカウンターが渡される。

 スピードカウンターの増加により、両者のD・ホイールの速度が上昇する。うなりを上げてカーブへと差し掛かり、そのカーブを曲がり切った時、少女が手札からカードを1枚手に取る。

「『スピード・ウォリアー』を召喚!」

 ゲートから現れたのは、足にホイールのついたレベル2の戦士族モンスターだった。

 攻撃力は900ポイント。召喚されたスピード・ウォリアーは、その足のホイールを使い少女のD・ホイールと並走する。

(スピード・ウォリアー、だと!?)

「てめぇまさか! D・ホイールだけでなく遊星のデッキまで盗みやがったのか!?」

「さあな。たかがノーマルカード1枚で言うことでもないんじゃないのか?」

 返ってきた正論に、思わず舌打ちが出る。

(落ち着け。とにもかくにもコイツを捕まえれば全部わかることだ。それに、スピード・ウォリアーじゃこの状況じゃ何もならねぇ)

 スピード・ウォリアーには、召喚されたターンのみ、その攻撃力を2倍にする効果がある。しかし、それでも1800ポイント。ゴヨウ・チェイサーの1900ポイントには届かない。

 このまま攻撃しても、返り討ちに会うだけだ。

 しかし。

「行け! スピード・ウォリアー! ゴヨウ・チェイサーを攻撃!」

「何!? 血迷ったか!?」

「この瞬間、スピード・ウォリアーの効果を発動! このカードは、召喚されたターンのみ、その攻撃力が倍になる!」

 スピード・ウォリアーの攻撃力が、900ポイントから1800ポイントに上昇する。そして、それだけでは止まらなかった。

 スピード・ウォリアーの攻撃力が、さらに1000ポイント上昇したのだ。

「このタイミングでさらに攻撃力が上がるだと!? いったい何が!?」

「私は手札から『チャージ・ヴァルキリー』のモンスター効果を発動したのさ」

 そう言って、少女は牛尾に『チャージ・ヴァルキリー』のカードを見せびらかす。

「手札からのモンスター効果か!」

「コイツは手札から墓地に捨てることで、モンスター1体の攻撃力を1000ポイント上げられる」

 してやったり。といった少女の声色に、また舌打ちが漏れた。

「行け! スピード・ウォリアー! ソニックエッジ!」

 少女が技名を叫ぶと、スピード・ウォリアーはその場に手をつき逆立ちする。そのまま回転を始めて、その足がゴヨウ・チェイサーを襲う。そして、ゴヨウ・チェイサーは抵抗する暇もなく破壊されてしまう。

 モンスターの破壊は爆風を伴い、持ち主のD・ホイーラーを襲う。

 スピード・ウォリアーの攻撃力は2800でゴヨウ・チェイサーは1900――――その差900ポイントのダメージが牛尾に与えられる。

「ぐあ!」

 襲い掛かる爆風に牛尾はバランスを崩し、ライフポイントが3100ポイントに減少する。

 なんとか体勢を取りなおした牛尾を横目に、少女は手札からカードを1枚取り出す。

「カードを1枚伏せてターンエンド。……どうだ? 折角出したシンクロモンスターをレベル2の弱小モンスターに倒された気分は?」

「……スピード・ウォリアーの攻撃力は、もう元に戻ってるみたいだな」

 D・ホイールの画面、スピード・ウォリアーに添付されている攻撃力の表示が900となっているのを見ながら、少女の言葉を無視する。

「おっと。これは嫌われちまったか?」

「貴様のエンドフェイズに罠トラップ発動! 『リビングデットの呼び声』!」

 死せる魂を呪いによって現世にとどめる罠「リビングデットの呼び声」は、墓地のモンスター1体を場に呼び戻す効果がある。牛尾はその能力で、先ほど破壊されたゴヨウ・チェイサーをすぐさま蘇生させた。

 そしてターンは牛尾に移る。

「俺のターン!」

 カードを引いて、スタンバイフェイズにスピードカウンターが「2」に増える。

「そのままバトルだ! ゴヨウ・チェイサー! スピード・ウォリアーに攻撃しろ!」

 ゴヨウ・チェイサーが、紐につながれた警棒を振り回し、そしてスピード・ウォリアーにそれを投げる。警棒はスピード・ウォリアーに周りを囲うように3週し、そこでゴヨウ・チェイサーがつながる紐を引っ張ってスピード・ウォリアーを縛り上げた。

 しかし、縛り上げるだけで、スピード・ウォリアーは破壊されない。

「っ? な、なんだ?」

 少女に1000ポイントの戦闘ダメージは入るがやはりスピード・ウォリアーは破壊されない。

「……なるほど、そっちのシンクロモンスターの効果か」

「ゴヨウ・チェイサーの効果発動! こいつが破壊したモンスターは、墓地から俺の場に特殊召喚される! スピード・ウォリアーは貰ったぁ!」

 どうやら、厳密には破壊されているようだ。スピード・ウォリアーは、縛り上げられたままゴヨウ・チェイサーに引っ張られ、牛尾の場に引きずられた。

 少女がD・ホイールの画面を見ると、敵に奪われたスピード・ウォリアーの攻撃力の表記が「450」となっていた。

「攻撃力が半分になるデメリットはあるみたいだな」

「こんな攻撃力なら誤差の範疇だ! 罠トラップ発動! 『お縄頂戴』!」

 牛尾のもう1つの伏せカード、永続罠「お縄頂戴」が発動する。このカードは、牛尾の場に相手のモンスターが現れるたびに、牛尾はカードを1ドローを与えるカードだ。

 牛尾は「お縄頂戴」でカードを引きそれを手札に収める。

「やれ! スピード・ウォリアー! クソガキにダイレクトアタック!」

 縛られたスピード・ウォリアーが、そのままゴヨウ・チェイサーに投げられて少女に向かう。

 少女は、放られたスピード・ウォリアーをD・ホイールを傾けてかわす。それで攻撃は終わり、少女のライフが450減らされる。

「んなケチな攻撃、あたんねぇよ!」

 牛尾はそのまますでに手札にあった1枚のカードを取り出した。リバースカードとしてそれをフィールドに伏せる。

「俺はこれでターンエンドだ!」

「ってまた無視かよ! ……まいっか。私のターン!」

 スピードカウンターの増加を確認もせず、少女はドローカードを手札に収めてハンドルを握ってそのままカーブを曲がるった。牛尾も後を追ってカーブを曲がる。

 曲がるとき、一瞬だけ牛尾が少女に近づいたとき。

「……ああ。……おう? ……そうか」

 なんだ? と思わずにはいられない、少女のつぶやき。まるで誰かと会話しているような、それにしては小さすぎる声が、一瞬だけ牛尾の耳に入る。

(このガキ。本当に何者だ?)

 そんな考えは、しかしすぐに吹き飛んだ。今は決闘中。そんな疑問は捕まえればわかることなのだから。

「『SP(スピード・スペル)-エンジェル・バトン』を発動!」

(エンジェル・バトン……また遊星のカードか)

 SP-エンジェル・バトン――――――スピードカウンターが2つあるだけで発動でき、小型モンスターで多彩なコンボを繰り出していた遊星が愛用していたカードの1枚だ。

「エンジェル・バトンの効果で、カードを2枚引き、その後手札1枚を墓地に送る」

 遊星号に乗って使われる遊星のカード。カードそのものは別に珍しいものでもなく、ともすればその辺に落ちてても不思議ではないノーマルカードだが、しかし牛尾には確信があった。

「そして――――――『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

「ジャンク・シンクロン、だとぉ!?」

 否――――――確信ではない。確定事項だ。

 この少女は、遊星のデッキも盗み、そして使っている。

「ジャンク・シンクロン――――――こいつが召喚されたとき、墓地からレベル2以下のモンスターを蘇らせることができる。私は、エンジェル・バトンの効果で墓地に送った『ヴァルキリー・シンクロン』を特殊召喚する!」

(ヴァルキリー・シンクロン……?)

 見慣れないカードだった。遊星は「シンクロン」の名を持つチューナーをよく使っていたが、その中でもあのカードは見たことはない。他のシンクロンと同様、デフォルメされたマスコットにような外見をしているが、他のシンクロンに比べて、幾分か女性的なフォルムをしている。どうやらあのヴァルキリー・シンクロンはチューナーでないようだが。

「さらに、墓地のチャージ・ヴァルキリーは墓地のモンスターが特殊召喚されたとき、墓地から特殊召喚できる!」

 チャージ・ヴァルキリー。先ほどスピード・ウォリアーの攻撃力を上げるために手札から捨てられたモンスターだ。そういえば、このモンスターも見慣れない。

(なんだ……この感じは?)

「レベル2の『ヴァルキリー・シンクロン』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」

 ジャンク・シンクロンがその身を3つのリングに変身する。それがヴァルキリー・シンクロンを囲うと、瞬く間にその身が2つの星へと変わる。

「集いし願いが、光となりて闇を撃つ! 光 射 す 道 と な れ !」

 フィールドに一筋の光が走る。魂の同調、そして未来への進化を示すその光が晴れるとき、「シンクロ召喚」は完遂する。

「シンクロ召喚! 来い! 『ジャンク・ヴァルキリー』!」

 現れたのは、まさしく女騎士ヴァルキリーだった。

 その身にまとう装甲は分厚いが所々装備されておらず、ともすれば露出した肌のほうが割合が多いかもしれない。武器は持っていないが、その腕のには肘まで覆う紫のガントレットがつけられ、なびくマフラーに口元が覆われたその顔の上に、被ることなく乗せられた仮面がある。

「ジャンク……ヴァルキリー!? なんだあのモンスターは!?」

 全く見たことがないモンスターの出現に、牛尾が困惑する。

 否、見たことがないというと語弊がある。ジャンク・ヴァルキリーがまとう装甲には、ところどころジャンク・ウォリアーを彷彿とさせるデザインをしており、なんなら被らずに頭上に乗せてある仮面はジャンク・ウォリアーの頭部のデザインそのものだ。まるでジャンク・ウォリアーが素顔をさらしたような姿。それにこのモンスターは「ジャンク」と名乗った。遊星の扱うシンクロモンスターにも、ジャンクの冠したシンクロモンスターは多数存在する。

 だからこそ困惑する。似ているが違う、遊星のモンスターではないモンスター――――――にではない。

(なんで、なんで遊星の面影がチラつきやがるんだよ!)

 使うモンスターは遊星とは微妙に違うし、そもそも相手は遊星ではない。遊星とは年齢が違えば、性別からして違う。

 なのに、その決闘からは遊星の存在を強く感じる。スタイルが似ているとか、そんな次元ではない。たった数ターンの攻防のはずなのに、牛尾は彼女に、遊星の魂を感じているような気さえしている。

「ジャンク・ヴァルキリーの効果発動! こいつがシンクロ召喚されたとき、相手モンスター全ての攻撃力を、私の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力分ダウンさせる!」

「な、俺のモンスター全てを弱体化だと!?」

「私の場には、レベル2で攻撃力1000のチャージ・ヴァルキリーがいる。つまりおっさんのシンクロモンスターとついでにパクられたスピード・ウォリアーの攻撃力は1000ポイントダウンだ!」

 ジャンク・ヴァルキリーがその拳を構える。そしてその場で飛び上がり、牛尾のモンスターたちに向かって一気に降下し殴りかかった。

「パワー・スティール!」

 衝撃と煙が、牛尾のフィールドを包む。走り続けるD・ホイールがすぐさま煙から抜け出し、それに続いてモンスターたちも出てくるが、その攻撃力はすでに下がっていた。ゴヨウ・チェイサーは900、スピード・ウォリアーにいたっては0である。

 少女の場には、攻撃力1000のチャージ・ヴァルキリーと、攻撃力2300のジャンク・ヴァルキリーがいる。総攻撃を受ければ、大ダメージは避けられない。

「ち、クソ!」

「ジャンク・ヴァルキリーで、スピード・ウォリアーを攻撃!」

 牛尾の背後、先ほどの衝撃で生まれた煙がいっきに吹き飛ぶ。煙を払ったジャンク・ヴァルキリーは、しかし走るわけでもなく両の拳を構える。すると、その腕に装着されたガントレットが重々しい機械音を立てて変形を始めた。それは不可思議な機動を経て、ついにメカメカしい槍へと姿を変える。

 そして、その槍をつかむと、ジャンク・ヴァルキリーは一気に駆け出した。

「スクラップ・コミット!」

 刹那にその槍は、スピード・ウォリアーを貫き、破壊した。

 その破壊の衝撃が牛尾を襲う。

「グアアアアアア!」

 バランスを崩しながら、牛尾のライフが800になるまで削られる。なんとか体勢を立て直す牛尾だが、しかしまだ少女の攻撃は残っている。

「チャージ・ヴァルキリーでゴヨウ・チェイサーを攻撃だ!」

 チャージ・ヴァルキリーが、ゴヨウ・チェイサーに向かって走り出す。このままでは、モンスターが全滅してライフまで追い詰められてしまう。しかし。

「いい気になるなっつったろうがクソガキ!」

 牛尾は、勢いに任せて伏せカードを発動するボタンを押した。それにより伏せられた罠トラップカード「武装部隊」が発動した。

「げ。このタイミングで!?」

「武装部隊は、シンクロモンスターへの攻撃を無効にする!」

 ゴヨウ・チェイサーが、その警棒でチャージ・ヴァルキリーを弾き返す。それでチャージ・ヴァルキリーは少女の場に戻るが、そこで武装部隊の効果は終わらない。

「さらに! 手札のチューナーと攻撃を受けたシンクロモンスターとで、新たなシンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

「っ!?」

「俺はレベル5のゴヨウ・チェイサーに、手札のレベル1『ポリティクス・ポリス』をチューニング!」

 手札から現れた「ポリティクス・ポリス」が1つの輪っかとなって、ゴヨウ・チェイサーを包み、それが5つの星となった直後に一筋の光がそれらを包む。

「シンクロ召喚! 現れろ『ゴヨウ・ガーディアン』!」

 その光が晴れて、新たにシンクロモンスターが現れる。その攻撃力は2800。少女のフィールドのどのモンスターよりも攻撃力が高い。

「私の攻撃を利用して、新たなシンクロモンスターを呼び出しただって!?」

「それだけじゃねぇぜ!」

 牛尾のその言葉の後に、素材となったポリティクス・ポリスが半透明となってフィールドに現れた。それがゴヨウ・ガーディアンと重なると、すぐに消える。ポリティクス・ポリスの効果演出だ。

「ポリティクス・ポリスの効果発動! こういつがシンクロ素材になったとき、召喚したシンクロモンスターと相手モンスター1体とを戦闘(バトル)させる!」

「はぁ!? 嘘だろ!?」

「俺はジャンク・ヴァルキリーを指定する! 失せろ! ジャンク・ウォリアーもどきがぁ!」

 ポリティクス・ポリスの効果を受けて、ゴヨウ・ガーディアンが動く。ゴヨウ・チェイサーと同じく紐につないだ警棒を振り回してから投げ、ジャンク・ヴァルキリーを瞬く間に捕らえた。

「『ゴヨウ』ってことはそのシンクロモンスターも」

「お察しの通り! ゴヨウ・ガーディアンには、破壊したモンスターを俺のフィールドに守備表示で特殊召喚する効果がある! ジャンク・ヴァルキリーはもらったぁ!」

 捕らわれたジャンク・ヴァルキリーはなすすべもなく、悲鳴を上げながらゴヨウ・ガーディアンによって牛尾の場に引きずられていった。

「チクショウ。 趣味ワリィぞおっさん!」

「お縄頂戴の効果で1枚ドロー! さっさとエンド宣言しやがれクソガキ!」

「クソ! カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 また1つ、カーブを曲がる。

(遊星のカードと、そうではないカードで出てきた、ジャンク・ウォリアーに似たモンスター。遊星のカードでないカードもあるのに、チラつく遊星の影。なんだ。いったいなんなんだこいつは!)

 牛尾のターン。カードを引いてそのまま手札に叩き納める。奪ったジャンク・ヴァルキリーをすぐに攻撃表示に変更し、総攻撃の準備を整えた。

「バトルだ! ジャンク・ヴァルキリーでチャージ・ヴァルキリーを攻撃!」

 ゴヨウ・ガーディアンがジャンク・ヴァルキリーを投げる。縛られていて無抵抗に投げられたジャンク・ヴァルキリーはそのままチャージ・ヴァルキリーと激突し、チャージ・ヴァルキリーを破壊する。

 衝撃が少女を襲うがバランス崩すことはなく、ライフポイントが1350まで減らされる。

 そう。少女の残りライフは1350。ゴヨウ・ガーディアンの直接攻撃を食らえば、2800の戦闘ダメージを受けて、ライフが0になり敗北する。

「ゴヨウ・ガーディアン! あのクソガキにダイレクトアタックだぁ!」

「っ……」

 ジャンク・ヴァルキリーが牛尾のフィールドに引き戻され、入れ替わるよつにゴヨウ・ガーディアンが前に出る。その手に持つ警棒を振り回し、今度は捕まえるためではなく敵を倒すために投げる。

「これで終わりだクソガキ!」

 その警棒は、D・ホイールで走る少女を寸分違わずとらえ――――――そして直撃する。

 ソリッドビジョンが爆発の演出を施して、その爆心地を牛尾が追い抜く。

 ――――――だが。

「っ!? デュエルが、終わってねぇだと!?」

 その背後、爆発の中心地から、少女と遊星号は悠々と出てくる。ライフは1350。変化していない。してやったりといった表情の少女フィールドでは、1枚の伏せカードがオープンされていた。

「くず鉄の……かかし……!?」

 それは「くず鉄のかかし」だ。遊星もよく使っていた、相手の攻撃を1度無効にする罠カード。すなわち、その効果でゴヨウ・ガーディアンの攻撃が止められたということだ。

「てめぇ、また遊星のカードを……!」

「感謝するぜおっさん!」

 瞬間、少女の横にゲートが現れる。モンスターが登場する際のゲートだが、少し黒ずんだこのゲートは墓地から現れるとき特有のエフェクトだ。

「やっと、あいつに会えそうだ!」

 そのゲートをくぐってやってきたのは――――――ヴァルキリー・シンクロンだった。

「墓地で発動するモンスター効果か……!」

「そうさ! ヴァルキリー・シンクロンはモンスターの攻撃が無効になったとき、レベルを1つプラスして墓地から特殊召喚されるのさ!」

 ヴァルキリー・シンクロンは、少女のフィールドにレベル3モンスターとして特殊召喚された。しかし、その攻撃力はわずか500であり、しかも攻撃表示だ。

「何かと思えば……。そんな雑魚モンスターに会いたかったのか?」

「本命はこれからさ!」

 少女は、D・ホイールの画面に映った残り2枚の伏せカードをスライドしながらタップする。

 そうやってフィールドに露わになった伏せカードは――――――「シンクロ・マテリアル」と「緊急同調」だった。

「なに!? ここでその2枚だと!?」

「シンクロ・マテリアルの効果で、このターン私はおっさんのモンスター1体をシンクロ素材として使用することができる」

 そして緊急同調はこのバトルフェイズ中――――――すなわち牛尾のターンであるにも関わらず、少女のシンクロ召喚を可能にするカード。

 シンクロ・マテリアルと緊急同調。この道では有名な「強奪シンクロコンボ」であり、また、遊星が使ったことのあるカードでもある。

「だが俺の場にもテメェの場にもチューナーモンスターが存在しない! チューナーがなければシンクロ召喚はできねぇはずだ。なのに何故!?」

 何故、そんなカードが発動できたのか。それは。

「ヴァルキリー・シンクロンはな、特殊召喚されるとチューナーになる効果があるんだよ!」

「チューナーになる、だと!?」

 すなわち、これで条件は整った。

 現れるであろうシンクロモンスターのレベルは、ゴヨウ・ガーディアンにヴァルキリー・シンクロンをチューニングした場合のレベル9のシンクロモンスター。そして、ジャンク・ヴァルキリーにヴァルキリー・シンクロンをチューニングした場合の。

「レベル8の、シンクロ召喚……まさか、テメェ!?」

「戻ってこい! ジャンク・ヴァルキリー!」

 少女は、シンクロ・マテリアルの対象にジャンク・ヴァルキリーを選択し、それを受けたジャンク・ヴァルキリーが力ずくでゴヨウ・ガーディアンの束縛を解き放つ。

「レベル5のジャンク・ヴァルキリーに、レベル3のヴァルキリー・シンクロンをチューニング!」

 ジャンク・ヴァルキリーがその場から一っ跳びで少女のフィールドに戻ってから、ヴァルキリー・シンクロンが3つのリングとなってジャンク・ヴァルキリーを包む。

「集いし願いが、新たに輝く星となる。 光 射 す 道 と な れ ! 」

 同調音とともに、ジャンク・ヴァルキリーが5つの星へと姿を変えた直後、少女のフィールドが一筋の光で包まれる。

「シンクロ召喚!」

 その光が晴れたとき、そこには――――――光があった。

 砕け散った星のかけらに宿ったその魂は、幾度となく大切なものを守ると決め、竜の姿をなす。

 風の中で進化を続ける、その原点たる輝き。

「飛翔せよ! 『スターダスト・ドラゴン』!」

 英雄「不動 遊星」のエース。その咆哮がフィールドに、デュエルレーンに、そしてシティすべてに、響き渡る。

「このクソガキ、ついにスターダスト・ドラゴンまで……!」

「やっと会えたな! スターダスト!」

 スターダストがまた吠える。

 まるで、少女と会話でもしているかのように。

(んなバカなことがあるかよ。あれはソリッドビジョン……ただの立体映像だ。それに、あんなクソガキにスターダストが応えるはずがない!)

「スターダストの攻撃力は2500! ゴヨウ・ガーディアンには届いていない! テメェにそのドラゴンは使いこなせはしない!」

 そう。この状況ではスターダストは何の意味もない。ただの2500のモンスター。次のターンには破壊して、今度こそこのデュエルを終わらせられる。

 だが。

「んなこたあねぇさ。なあ! スターダスト!」

 また、スターダストが吠える。

 少女の余裕は、崩れない。

「私のターン!」

 スピードカウンターが、5を示す。

 少女は引いたカードを“見ることなく”、そのまま手札1枚を手に取った。

「私は『スピード・ワールド・NEXT』の効果発動!」

「なに!?」

 ライディング・デュエルは、日々進化を続けている。ライディング・デュエルをよりスピーディに、よりエキサイティングにするために、従来のスピード・ワールド2から効果を一新したスピード・ワールド。それが「スピード・ワールド・NEXT」だ。まだ実装されて間もない、ともすればまだシティでしか出回っていこのフィールドの効果を、少女は使った。

 その効果は「手札の『SP』を捨てることで、スピードカウンターを3つ増やすことができる」というもの。それ以外の効果は存在しない。デュエルを加速させるのに、その効果以外は必要ない。

「私はその効果で、手札から『SP-キャップ・スト-ム』を捨てて、スピードカウンターを増加させる!」

 少女のD・ホイールが加速する。牛尾を追い抜き、そして最後に、ドローカードを確認しないままフィールドに叩き付けた。

「『SP-ファイナル・アタック』!」

 そうしてフィールドに表示されたのは、紛うことなき「SP-ファイナル・アタック」だった。

「バカな! お前、なぜ!?」

「スピードカウンターが8個以上あるとき、モンスター1体の攻撃力を倍にする! スターダスト!」

 スターダストが振り返る。後方にいた牛尾のゴヨウ・ガーディアンと向き直り、その攻撃力は5000まで跳ね上がる。

 なぜ――――――お前がスピード・ワールド・NEXTを知っている!?

 なぜ――――――お前にスターダストが応えている!?

 なぜ――――――引いたカードを見ずに分かった!?

 牛尾のそんな考えは言葉にならず、そして、スターダストのその口に、エネルギーが収束する。

「スターダスト・ドラゴンで、ゴヨウ・ガーディアンに攻撃!」

 収束するエネルギーは、まるで流れる星の輝きのようで。口元を覆うその輝きは、まるで星の命のようで。

「響け! シューティング・ソニック!」

 その衝撃は、まるで一陣の風のよう。

 牛尾はその攻撃を、なすすべなく直撃するしかなかった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 敗北した者のD・ホイールは、その機能を一時的に停止させる。モーメントが止まり、走れなくなるのだ。

 セキュリティはこれを利用し、強制デュエルの上で勝利することで逃走犯を確保する。

 しかし今回、牛尾が負けてしまった。

 こうなってしまえば、もう逃走犯を追いかけることはできない。最悪の失敗だ。

 だが、今の牛尾にとっては、そんなことはどうでもいいことだった。

(遊星のカードに、スターダスト……)

 デュエルスタイル、使うカード、そしてスターダストとの絆を思わせる言動。

 なぜ、彼女にここまで遊星が重なってしまうのか。

 デュエルも終わり、牛尾の考えは、そんな思考で埋まっていた。

 停止した牛尾のD・ホイールの横に、少女のD・ホイールが止まる。

「よ、おっさん。いいデュエルだったぜ!」

「テメェ……」

 随分と余裕らしい。負かしたとはいえセキュリティーの真横に堂々と止まるとは。

「――――――お前は、何者だ?」

 遊星号が治った瞬間に現れた、遊星を匂わせる少女。問わずには、いられなかった。

 問われた少女は、面倒そうなため息を1つつくと、気だるそうにそのヘルメットを外した。

 月明かりが、彼女を照らす。その顔は、周りにある街の光もあってよく見えた。

 そこにあった少女の顔に牛尾は、開いた口がふさがらなかった。

 緑のスニーカーにジーンズの短パン、青いシャツに前を止めていないジャンパー。ガサツな質の髪は、後ろで一つに束ねられている。

 そして――――――左目の上から、瞼を通して顎まで伸びる黄色いラインの刺青。それは、ひと昔前までセキュリティーが実用していた犯罪者用マーカーであり、そして。

 不動 遊星に施されたものと、同じものだった。

「な、おま、え!?」

「不動 遊星は、生きている」

「っ!?」

 戯言には、聞こえなかった。

 遊星号が直ったと同時に盗み出し、遊星のカードを使う、遊星と同じマーカーが刻まれた少女。

 遊星と無関係なわけがない。そして、その言葉が、うそ偽りだとは思えない。

「見つけられるのは、私しかいない」

 少女は不敵に笑うと、ヘルメットを被りなおしてハンドルを握った。

「だから邪魔すんなよ! おっさん!」

「ま、待ってくれ!」

「あん?」

 最後に、一つだけ。

 そう思って慌てて引き留めた。聞きたいことは山ほどあったが、何よりも、彼女の名前は聞きださなければ、と。

「お前の、名前は?」

 その問いに、少女は即答して見せた。

「私はキズナ――――――不動 キズナだ。不動遊星は、必ず私が見つけ出す!」

 彼女はその言葉を残して、走り出してしまった。




今日のカード

チャージ・ヴァルキリー
☆2 地 戦士 ATK1000 / DEF500
効果
「チャージ・ヴァルキリー」の②の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①自分フィールド上のレベル2以下の戦士族モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時、このカードを手札から墓地に送って発動できる。その戦闘を行う戦士族モンスターの攻撃力をエンドフェイズまで1000ポイントアップさせる。
②このカードが墓地に存在し、「チャージ・ヴァルキリー」以外のモンスターが墓地から特殊召喚された場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールドを離れる場合にゲームから除外される。
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