【改稿】この素晴らしい世界に沖田総司を!   作:とりるんぱ

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基本的に前半が沖田さん視点で後半がカズマ達視点です。


受肉

沖田の視界に色彩が甦った。真っ白だった床は生命力溢れる土に、歯みがき粉よりも白かった天井は暑い日にアイスキャンディを舐めたときのような爽快な青空になった。

風が頬を撫で、空気は澄んでいて、雰囲気は幕末の日本とは比べ物にもならないほどのどか。聖杯戦争をするにしては余りにも牧歌的だなあと沖田が苦笑しそうになったとき。

 

「……!?」

 

沖田は違和感を感じた。

違和感というのは他でもない、マスターとの接続が確認できないのだ。

 

当然だが、沖田総司は死者である。だから、例え魔術の力をもって顕界を果たせたところで、その肉体は魔力で構成されている。体は魔力で出来ているのだ。

だから、マスターとの接続は必須である。パスを通して魔力を供給、体内魔力生成スイッチをオンにしてもらわなければいずれ体を構成する魔力が尽き、消滅してしまうからだ。

 

しかし、そもそも召喚に成功した時点でマスターとの接続は完了しているはずである。なのに接続が感じられないとはどういうことか。……というか、それ以前に、接続がないのに消滅しないのはどういうことなのか。

 

疑問に思っていた沖田だったが、不意に何かを思い付いたかのような表情で、自分の体のあちこちを触りだした。

手のひら、肘、二の腕、肩、太股、腹、胸、膝、爪先。

 

「……間違いないです。受肉してます、これ」

 

一通り触り終えた沖田は、戦慄したような表情でそう言った。

 

受肉している。

成る程、それならば消滅していないのにも納得がいく。魔力で構成された体ではなく、血肉で構成された体であるならば、消滅なんてするはずもない。

しかし、どうして受肉したのか。

死者は普通、肉体なんて持てない。人間の範疇を大きく越えた英霊であってもそれは変わらない。顕界を果たすには魔力で構成されたサーヴァントに成り下がらなければいけない。

これは世界の法則である。聖杯のような超常の魔力炉や起動式、あるいは抑止力といった世界、人類や()()()防衛意識でも働かない限りは逸脱することなんてない。

にも関わらずこうして受肉している。

 

一体どういうことなのだろうか。沖田が首を捻っていると。

 

「危なああああああああいッッッ!!!!!」

 

誰かの声が聞こえてきた。咄嗟に声のした方を向いてみると、そこには。

 

「キシャアアアアアア!」

 

沖田に向かって飛んでくる、敵意と害意を放つ黒い獣の姿が見えた。

沖田は目付きを刃物のように怜悧なものへと変える。

 

「……なんだか、よく分かりませんが。あれは、襲いかかろうとしていると見ていいんですね」

 

誰に言うわけでもなく呟く。穏和さなんて微塵も感じられない、冷たく尖った声だった。

 

沖田は抜刀した。名刀『菊一文字正宗』の雪のような銀色の刀身が鋭く光り、辺りに冷涼で濃密な殺気を撒き散らした。

それを視認したのか、黒い獣の走る速度が急激に下がっていく。構わず、沖田は刀の切っ先を向けた。

 

獣は一目散に逃げ出した。恐らく、沖田を自分よりも遥かに強い相手であると認識したのだろう。

それは間違っていない。いないのだが、沖田は溜め息を吐いた。

 

「一度襲いかかろうとした癖に。逃がしてもらえると思っているんですかね?」

 

沖田は腰を落とした。刀を両手で握ったまま、下半身だけクラウチングスタートの構え。

一目散に沖田と距離を離し続けていく獣の後ろ姿を見ながら、一度深呼吸。

そして、左足を一歩、前に踏み出した。

 

「ハアッ!」

 

掛け声と共に、踏み出した左足で地面を思いっきり蹴った。

凄まじい加速感に包まれながら、沖田は刀を前方に突き出す。

 

「――グェッ」

 

確かな手応えを感じた。悲鳴とも断末魔ともとれる声が沖田の耳に届き、直後、爆散。肉は引き裂かれ、返り血が沖田の顔に付着する。

沖田はぺろりとそれを舐める。

生前散々慣れ親しんできた、いつもの鉄の味がした。

 

さっきまで獣だった肉塊を見やり、愛刀をばっと払って付着した血を落とす。

斬り損ねないように縮地で空間跳躍のごとく一気に間合いを詰めたのだが、この分だと別に使わないでも普通に走って追い付けたかもしれない。

つまらぬものを斬ってしまった。沖田は鞘に刀をしまいつつ溜め息を吐いた。

 

……それはともかく。

 

「ところで、あの声は誰のものだったのでしょうか」

 

沖田は周りを見回した。さっき、誰かが声をかけてくれなければ、思考の海に沈んでいた沖田は直前まで獣の接近に気付くことは出来なかっただろう。ともすれば突進を喰らっていたかもしれない。

あの呼び掛けがあったからこそ、沖田は獣をいともたやすくミンチに加工することが出来たのだ。これは感謝しなければならない。

人斬りだって、感謝くらいはするのだ。それが新撰組の中でも比較的善良と言われた沖田であればなおさら。

 

「……おや、彼らでしょうか?」

 

沖田は視界に武装した少年少女を捉えた。

緑色の外套を羽織った黒髪の少年、その少年におぶわれたとんがり帽子の黒髪の少女、青髪が目立つ羽衣を纏った女性に鎧姿の金髪の女性。

そんな彼らは、集まって話し込んでいるようだ。

 

「周りに彼ら以外の人の気配はありませんし、十中八九彼らで間違いありませんね」

 

沖田はゆったりとした足取りで、少年達のもとへ向かい始めた。

 

 

 

 

カズマの今の心境を端的に表すとするなら、次のようになる。

あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ! 初心者殺しが女の子に襲いかかろうとしていると思ったら初心者殺しが逃げ出した……。そしたら、初心者殺しがいきなり爆散したんだ。いつの間にか追い付いていた女の子の手によって……。

超スピードとか瞬間移動とか、そんなチャチなものでは断じてない。もっとこう、得体のしれないものを味わったぜ……。

「……何なのだ、今のは」

 

カズマの隣で、ダクネスが戦慄した表情を浮かべた。カズマは心底同意する。

自分達が逃げるしかなかった初心者殺しを一瞬で倒し、どころか爆散させた少女。

なぜそんなものが駆け出し冒険者の町の近郊にいるのかとか、そもそもあれは人間なのか、新手のモンスターの一種ではないのかとか、色々言いたいことはあったが、その中でも一番言うべきであろうことをカズマは口に出す。

 

「っていうか、あの女の子、初心者殺しよりもヤバくね?」

 

『…………』

 

「襲われたら、初心者殺し以上にワンチャンスもなく全滅されない?」

 

『…………』

 

反応はない。反応はないが、ダクネスですら深刻そうな表情をしている辺り、同意しているのがありありと分かる。

カズマは万が一声が少女に聞こえないように、小声で、

 

「……皆俺に触れてくれ。潜伏スキルを発動しながら帰ろう。あの女の子に見付からないよう、こっそりと」

 

「あの、すみません」

 

話していたところで、誰かに話し掛けられた。

聞き慣れない声だが、はてさて一体誰だとカズマが後ろを振り向くと。

 

「ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」

 

先程の少女が、刀と思わしき剣を携えて立っていた。

 

「な――」

 

カズマは目を見開く。

いつからそこに。さっきはまあ千里眼スキルを使用せずとも見えていたとはいえ、それでもある程度距離が離れていた筈だ。具体的には500メートルくらい。

それをこんな一瞬で移動するなんて、ちょっと人間業とは思えない。

カズマが目を瞬かせていると。

 

「……あれ? あなた、何かちょっと変ね?」

 

アクアが首を傾げてずんずんと少女に近付く。

 

「え? 私の顔になんかついていましたか?」

 

きょとんとする少女に、アクアは、

 

「いや、何かついているかと訊かれたら血飛沫がべっとりとついているんだけど、そういうことじゃなくてね?」

 

と返すと、あろうことか少女の体をぺたぺたと触り始めた。

突然のアクアの行為に狐につままれたような表情をしていたカズマだったが、アクアがどういう相手にどういう行為をしているかということにはっと気が付き、顔を真っ青にする。

 

「お、おいアクア、何してんだよ。やめろって」

 

アクアは、しかし、カズマの震え声での忠告に耳を傾ける気配はない。ただ少女の体をぺたぺたと触り続けるのみである。

 

「……あの?」

 

そうして、少女がアクアに怪訝な目線を向けるようになった頃。

アクアは少女の目をしっかりと捉えながら断言した。

 

「……間違いないわね。あなた、人間じゃないでしょう」

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