――1974年9月某日。アジア大陸、某国森林部ツジム村。
某国の国境線付近に広がる森林地帯。その最奥に位置するこの小さな集落には当時、「反政府ゲリラの潜伏地ではないか」という疑惑が掛けられていた。
武装蜂起による政権交代を企てている反政府組織のゲリラ活動は、年を追うごとに苛烈さを増している。国防軍としては当然、その組織との関連を疑われている村を放置するわけには行かない。
しかし、年々狡猾さを増して行く反政府ゲリラの奇襲攻撃には多くの兵士達が恐怖を覚えており、ここ数年は特に士気の低下が問題視されるようになっていた。ゲリラの奇襲など受けても死ぬことがない不死身の兵士でもなければ、その恐怖に打ち勝つことなど不可能なのだろう。
そこで。対ゲリラ戦の実働部隊を統率しているコン・ザン大佐は、日本からこの某国に訪れていたとある傭兵会社に「協力」を要請していた。国防軍内部と密かに繋がっていたこの会社に籍を置く社員達は、ただの傭兵ではない。非合法な実験により人体を兵器に改造した、「改造人間」の傭兵達なのである。
その技術の提供と引き換えに莫大な資金を傭兵会社に投資していた国防軍の上層部は、さらなる実戦データ収集の機会を与えるという名目で、
不死身の怪人ならば、ゲリラの恐怖などものともしない。その戦略的優位性に縋る国防軍からの要請に応えた社長の
しかし。それから3日が過ぎた今も、ツジム村に反政府ゲリラが現れたという報告は上がっていない。それが意味するものにいち早く勘付いた清山は、この国から去る準備を始めていた。
◆
緑豊かな大自然に囲まれた、人口55人ほどの小さな農村。そこに丸腰のまま身を寄せた
国防軍のものとは違う野戦服を着ている上、銃器も持っていない傭兵達を見た村人達は、何処かの国から流れ着いた敗残兵の類だと思ったのだろう。大らかな笑顔で彼らを迎え入れた村人達は、仕事を手伝って貰う代わりとして寝床や食料を喜んで傭兵達に提供している。
それは傭兵達が事前の情報から想像していた「反政府ゲリラの巣窟」という印象からは程遠い、のどかな光景であった。しかし彼らはその戸惑いを表情に出すことはなく、村での暮らしに馴染んだ振りをしながら、村人達の一挙手一投足をつぶさに観察している。
しかし3日が過ぎてもなお、彼らは反政府ゲリラとしての尻尾を全く見せない。提供された寝床に丸腰で横になり、生身の人間相手なら確実に仕留められる機会を与えてもなお、彼らは殺気すら見せず毛布まで与えて来た。
まるで、そんな「尻尾」など初めから存在してなかったかのようだ。それは柳司郎以外の傭兵達も感じているらしく、彼らは度々互いに目を見合わせながら、表面上は気さくに村人達と交流していた。
「……反政府ゲリラなど、本当にこの村に居るのか?」
晴れやかな青空の下。村の外れで独り斧を振るい、薪を割り続けている黒髪の青年――羽柴柳司郎はそう呟いていた。野戦服に袖を通した屈強な身体は、常にゲリラを迎え撃てる臨戦体勢を維持している。
しかし彼の第6感はすでに、この村の「無実」を感じ取っているようだった。そんな彼の傍に、ハンカチを持つ着物姿の女性が寄り添って来る。
「柳司郎様、あまりそのようなことを口に出されてはいけませんよ。どこに誰が潜み、聞いていらっしゃるか分からないのがゲリラの恐ろしいところなのですから」
「それは分かっている。……だから敢えて口にすれば、ゲリラ共が『尻尾』を出してくれるのではないかと期待しているのだがな」
柳司郎の頬を伝う汗を拭き取り、嫋やかな佇まいで彼を嗜めている黒髪の美女――
「……ん?」
「あら、あの子は村の……」
――するとそこへ、この村で暮らしている1人の少女が駆け寄って来る。年齢は恐らく10歳前後と言ったところだろうか。褐色の肌と艶やかな茶髪が特徴の明るい美少女であり、最初に柳司郎達を快く迎え入れたのも彼女だった。
そんな彼女が、今にも泣きそうな表情でこちらに駆け寄って来ている。自分達に助けを求めているかのようなその面持ちに、柳司郎と都子は何事かと顔を見合わせていた。
「……猫が居なくなった?」
ツジム村では、鼠狩りに役立つ益獣として何匹もの猫が飼われている。そのうちの1匹が、いつの間にか居なくなっていたらしい。柳司郎の問い掛けに涙ぐみながら頷く少女は、「一緒に探して欲しい」と上目遣いで訴え掛けながら野戦服の裾を摘んでいる。
「そうですか……困りましたね。この村に猫は何匹も居るし、皆あちこち好きに歩き回っているから一体どれがどの子なのか……」
「焦茶色の毛並みが特徴の猫だろう。いつもこの娘の側を歩いていたはずだ」
「焦茶色……なるほど、その子を探せば良いのですね。さすが柳司郎様ですわ」
普段から村人達の動向を観察していたおかげなのだろう。少女が探している猫の特徴を言い当てた柳司郎は、早速辺りを隈無く探し始めている。そんな彼の真剣な横顔をうっとりとした表情で一瞥した都子は、身を屈めて少女と視線を合わせると、聖母のような慈愛に満ちた微笑みを見せていた。
「……大丈夫、きっと見つかりますわ。私達を信じてください」
◆
薪割りを中断して猫探しを始めることになった柳司郎と都子は、少女を連れてツジム村の中心部へと足を運ぶ。村中を気ままに歩き回る猫達は、訝しげな雰囲気で柳司郎達を見つめていた。
「うーん、本当に猫ちゃんでいっぱいですね……。これは少し苦戦するかも知れません」
「ゲリラ探しよりは楽だ。すでに尻尾が出ているからな」
木造の簡素な家が並ぶツジム村を闊歩する柳司郎達は、村人達とすれ違いながら目的の猫を探している。無愛想な柳司郎は村の人々から手を振られても視線を合わせず片手を僅かに上げるだけだが、都子はそんな「夫」の傍に寄り添いながら、恭しく一人一人に会釈している。そんな彼らの間を歩いている少女は、さながら2人の娘のようであった。
「……焦茶色の猫だと? いや、ここでは見なかったな」
「そうか。……『奴』の車も一応調べておくか」
果物や野菜が並ぶ村の店で「店番」を任されている
戦闘用スーパーコンピューター「
「やめておけ、下手に中を調べて『奴』を刺激したらお前でもタダでは済まんぞ。それにあんな危険な車内に猫が入れるはずもなかろう」
「……そうかもな」
兵員輸送車の車内に「格納」されている、最恐の人型兵器。その脅威を知るが故の忠告であった。山城の言葉に不審なものを感じつつも、一理あると頷いた柳司郎は踵を返して行く。次に3人が向かったのは、村の中でも一際広大な畑だった。
「焦茶色の猫だぁ? そんなん見てたってわかんねぇよ、俺達は猫探しにここまで来たわけじゃねぇんだからよ!」
「うーん……ごめんなさい。猫ちゃんならたくさん見かけましたけど、その子かどうかはちょっと……」
「……そうか」
畑の中心で村の若者達と共に土を耕し、汗に塗れている
「猫ぉ? ぶっははは! ちょっと羽柴〜、あんたいつからそんな可愛い仕事引き受けるようになっちゃったわけぇ?」
「えっ何!? もしかしてその子のために猫ちゃん探してあげてるの!? あの超絶堅物朴念仁の羽柴がぁ!? キャッハハハ、カーワ〜イ〜イ〜!」
「……お2人共。少々、口が過ぎますよ」
だが、ここも「ハズレ」だったようだ。村外れの森で木に登り、食用となる木の実を採集していた
「……焦茶色の猫、か。確かにこの森にもよく村の猫が訪れるが、今日はその特徴に合致するものは見掛けておらんな」
「ここも外れか。……分かった、邪魔したな」
絶大な膂力に物を言わせる前蹴りで大木を揺らし、目的の木の実を大量に落としていた
「猫かぁ……確かに俺達もここで猫はよく見掛けるけど、そんな特徴の猫は居なかったと思うぜ?」
「……済まない。俺達も……見ていない」
「そうか、ならいい。引き続き、警戒と調査を怠るなよ」
間霧達が居た森に面した川で、村の少年達と共に魚獲りに没頭していたブリード・フラナガンとジョン・ドゥ。彼らも目的の猫は見ていないという。2人に手を振って村に戻った柳司郎達は、再び村の中心部に足を運ぶ。ある木造家屋の屋上では、同僚の傭兵達が工具を手に屋根を修理する作業に取り掛かっていた。その様子を見守る村人達は、甲斐甲斐しく干し肉や水を差し入れている。
「焦茶色の猫ぉ? おいおい羽柴、猫なんざこの村に何匹居ると思ってんだよ! 見つかりっこねーだろ流石によぉ!」
「猫探しねぇ。ははっ、だったら村中にドブネズミでもバラ撒いてみるかぁ? お目当ての猫ちゃんが狩りに来てくれるかも知れねぇぜ?」
「だっははは、そりゃあいいぜ
「
木造家屋の屋根に登って修理作業に励んでいた
「ふふ、お気持ちだけで十分ですよ。家主様のためにも……悪趣味な戯言はその辺にして、早く屋根を直してあげてくださいね」
「そ、そんな睨まなくたっていいじゃんよ……」
「じょ、冗談ですやん……」
都子は園子の言葉に穏やかな微笑を浮かべつつ、明らかに笑っていない冷酷な眼差しで戦馬を睨み上げていた。その眼光に悪寒を覚えた戦馬と間柴は頬を引き攣らせ、いそいそと屋根の修理作業に戻って行く。そんな彼らを見送った後、柳司郎達は村の調理場へと向かった。
「猫だと? 猫などここに来るはずがなかろう。奴らが魚を食いに調理場に入ろうものなら、この俺の手で食材にしているところだ」
ブリード達が獲って来た大量の魚を勢いよく捌いている
「私もその猫は見ておらんな……。まぁ、見ていたところで今宵の飯にしてやるだけだが」
「……」
紅衛校が捌いた魚や間霧達が採って来た木の実を大釜に入れ、柳司郎が割った薪を火にくべて調理している
◆
その後も柳司郎達は村中を探し回ったが、心当たりがある場所全てを調べても目的の猫は見つからなかった。まるで、彼らが本来探している反政府ゲリラのように。
そして、夕暮れが近付く頃。可愛がっていた猫が居なくなってしまった上に酷く歩き疲れたせいか、少女はその場でわんわんと泣き出してしまう。再び山城が店番をしている場所まで戻って来た柳司郎達は、万策尽きて途方に暮れていた。
「あぁ、泣かないでください……! もう少し探せばきっと、きっと見つかりますから……!」
「……あの1匹だけ居なくなるというのは、どうにも不自然だ。俺達は何を見落としている……?」
都子が身を屈めて少女を懸命に慰める一方、柳司郎は顎に手を当てて独り思案する。まるで誰かに隠されているかのようなこの状況に眉を顰める彼は、まだ店番を続けていた山城をちらりと一瞥する。
「おい……山城」
「……そうだな。もうそろそろ、起こしても良かろう」
訝しげに睨む柳司郎と視線を交わした山城は、飄々とした佇まいで腰を上げて踵を返す。店の裏手に停められている兵員輸送車は、今もハッチが開けられたままになっていた。
「……!」
そこに足を運んでハッチの中を覗き込んだ一行はようやく、目的の猫を発見する。破顔した少女の視線の先には――胡座をかいて静止している鈍色の鉄人。その懐で、穏やかに眠っている焦茶色の猫の姿があった。
この兵員輸送車に積まれた「LEP」と無数のコードで繋がっている、有線操作式
やがて人の気配を察知したのか、焦茶色の猫はゆっくりと目を覚まして行く。そして視線の先にいる少女に気付いた途端、ぴょんとその場から飛び出して彼女の足元に着地していた。
親友との再会に喜ぶ少女は、満面の笑顔で柳司郎と都子の裾を引っ張っている。そんな彼女の姿に、柳司郎と都子は優しげな笑みを溢して顔を見合わせていた。
「LEP」が操る仮面ライダーRCは、冷酷で無慈悲な殺戮マシーンだ。しかしそうであるからこそ、脅威に当たらない生物にまで悪戯に拳を向けるような非効率な真似はしない。「LEP」は輸送車に猫が侵入して来たことを承知の上で、RCの懐に受け入れていたのである。
つまり、山城が柳司郎に語った懸念は杞憂に過ぎなかったのだ。しかし、その場合を目の当たりにした山城本人は眉一つ動かしていない。まるで、目的の猫がここに居たことを最初から知っていたかのように。
「……山城。この猫、最初からここに居たのではないか?」
「さぁな。昼寝の邪魔は私の趣味ではない、というだけだ」
目を細めた柳司郎からの追及に応えることなく、山城は踵を返して店番に戻って行く。そんな彼の背中を見送った後、柳司郎は一つの「結論」に至っていた。今日の出来事を通じてツジム村の風景を改めて観察していた彼は、その「結論」を胸に抱き天を仰ぐ。
(……やはり、この村には反政府ゲリラなど1人もいない。ならば明日にもここを発って国防軍に無実を報告しなければ、この村に危険が及びかねん。名残惜しい気もするが……俺達は所詮、人ならざる
都子の細い肩に手を回し、少女と猫の微笑ましい姿を見下ろす柳司郎は、この村の安全のためにも安らぎを捨てる決意を固める。そんな彼の意思を凛々しい横顔から察した都子も、神妙な表情を浮かべて細い指をきゅっと握り締めていた。
(……それで良い。それで良いんだ)
――そして、彼らがこの村を発つことになった翌日。約半世紀に渡る改造人間の「業」へと繋がる、運命の日が幕を開けた。
今回は特別編の前日談となる、ほんわか平和な猫探し回となりました。物語はここから特別編の第1話(https://syosetu.org/novel/128200/71.html)へと繋がって行くことになります。このままツジム村では平和で穏やかな日々が過ぎて行くんでしょうね〜……(゚ω゚)
今話に登場していた戦馬聖は特別編だけでなく、X2愛好家先生が執筆されている本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」や、本作のR-18スピンオフ作品「特務捜査隊エージェントライダーズ!(https://syosetu.org/novel/344846/)でも手強い
本作における今後の更新予定は今のところ未定。しかし何かきっかけがあれば、今回のようにちょっとした小話を書いたりすることもあるかもです。その時はまた、お気軽に遊びに来てくださいませ! ではではっ!٩( 'ω' )و
Ps
今年は仮面ライダー生誕55周年! おめでとうございます〜! シリーズ最新作「仮面ライダーマイス」がどのような物語になって行くのか、今から楽しみであります(*≧∀≦*)