提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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今の世界

 

 

 ー鎮守府の執務室ー

 

「新たなる人類『艦娘』の登場……そして彼女たちの活躍により、近年で世界は制海権を少しずつですが確実に回復しています」

 

 テレビに映る男のニュースキャスターはそう言ったあとで、隣に座る大柄なコメンテーターの男に「この状況をどう見ますか?」と訊ねる。

 

「艦娘が海を守り、そして国と国民を守っています。だからこそ、今の我々の生活も前のように戻りつつあります。しかし相手が深海棲艦と言えど、我が国が戦争をしていることには反対です。我が国はもう二度とあのような過ちをーー」

 

 ーー繰り返してはいけない……的なことを言うのかと思われた矢先、テレビの画面は消えた。

 

「反対ならてめぇでこの戦争を終わらせる妙案でも出してくれよ。戦場もろくに見たこともないくせして、えっらそうに語りやがって……」

 

 テレビを消したのは、不機嫌そうに愚痴をこぼしながらソファーの背もたれによりかかる男。

 体型は小太りで身長はやや小柄。それでいて切れ長で細い一重の目。そして額や耳に少しだけ黒い髪がかかり、その髪もストレートではなく癖がある……この男こそ、この鎮守府の提督である。因みに年齢は三十歳で階級は大佐。

 名を興野慎太郎(きょうの しんたろう)。この鎮守府に着任して二年半となる提督だ。

 

 今、世界中の海は突如として現れた深海棲艦によって、平和な海ではない。

 現代兵器も深海棲艦には通用せず、人類はなす術がなかった。

 

 しかし、これまた突如として深海棲艦に対抗出来る存在……先の大戦で国と国民を守って散っていった軍艦の魂を宿した艦娘という新たな人類が現れた。

 世界は艦娘と手を取り合い、制海権奪取に乗り出し、数年の月日が経った。

 そうした中で日本も憲法を改正、自衛隊ではなく国防のためにと軍を持ち、その艦娘を指揮する海軍を中心に日夜、深海棲艦と戦っている。

 

 この鎮守府も発足してから二年半ということで、それなりの戦力を持ち、それなりの戦果を上げている。

 因みにこの泊地にも鎮守府は多数あり、艦娘もその分だけ在席している。

 しかし同じ名前の艦娘で姿形が全く同じでも、その鎮守府によってそれぞれ性格に違いがある。これは彼女達が兵器ではなく人であるということを表しており、世界各国の科学者が論文を出している。

 

「提督……口じゃなくて手を動かして。まだ午前中に見るべき書類が残ってるわ。それに午後は択捉が着任する予定なのよ?」

 

 そんな提督を注意するのは阿賀野型軽巡洋艦の三番艦『矢矧』という艦娘。

 提督の第一補佐艦であるが、鎮守府のみんなからは提督のお母さんみたいと言われており、本人はそのことを少しだけ気にしている。

 

 矢矧が言ったように、午後には新しく択捉型海防艦、一番艦『択捉』という艦娘が着任する予定だ。

 

 艦娘が装備する兵器……艤装という物の開発は各鎮守府の妖精たちが担うが、建造は大本営が一手に引き受けており、新しく艦娘を着任させたい場合は大本営に申請してその許可を貰わなければならない。

 

 前までは建造も各鎮守府が独自で行っていたが、無計画に大型建造を続けて艦隊運用への支障をきたしたり、駆逐艦を大量生産した後にその者たちを敵に特攻させる……等といったことが横行したので、それを無くすために今のような形となった。

 因みに近代化改修はその艦娘の練度に応じ、大本営から近代化改修チップという物が送られ、鎮守府の工廠で近代化改修を行うことになっている。これも近代化改修の失敗を無くすための措置だ。

 

「択捉か〜、やっと着任させられるな〜。これで占守や国後から『早く早く』って言われずに済む……」

「ふふふ、二人共楽しみにしていたからね」

 

 提督の言葉に矢矧は小さく笑って返す。

 そんな矢矧に提督も笑顔で「そうだな」と返しつつ、机に戻り、仕事に戻った。

 

 ーーーーーー

 

 時は過ぎて、午後の仕事開始時刻。

 執務室には変わらず、提督と矢矧が揃って択捉を待っていた。

 

「いい、提督? 第一印象が大切よ、しっかりね?」

 

 矢矧がそう言うと提督は「わぁってるよ」と苦笑いを浮かべて返事をする。

 そんな提督の態度に矢矧は思わずため息を吐いた。

 

 すると執務室のドアがトントントンとノックされる。

 そのノックに矢矧が「どうぞ」と返事をすると、開いたドアから占守、国後が笑顔で入り、その後ろから択捉が入ってきた。

 

「失礼するっす〜、司令〜♪ 択捉さんを無事に連れてきたっす〜♪」

 

 大本営まで択捉を迎えに行っていた占守が手を振って言うと、その隣にいる国後も「ただいま〜♪」と笑顔で提督と矢矧に声をかける。

 

 二人は占守型海防艦の一番艦『占守』と二番艦『国後』という少し前に新しく着任してきた艦娘で、二人は大本営まで択捉を迎えに行っていたのだ。

 占守は見たまんまの元気っ子。国後の方が落ち着いて姉と思われがち。

 

 大本営から艦娘の着任許可をもらうと、基本的にその鎮守府の者たちがその艦娘を大本営まで迎えに行く。

 勿論、安全を確保した航路ではあるが昔のことを教訓に護衛艦隊を編成して、最大限の安全を保って自分たちの鎮守府へ着任させるのだ。

 

「ほい、お疲れさん。他のみんなはちゃんと補給室に行ったか?」

「勿論っす! 赤城さんなんて帰りはお腹グゥグゥ言ってたっす!」

 

 提督の問いに占守がしむしゅしゅと独特な笑い声をもらしながら答えると、提督も矢矧も赤城らしいと思って笑みをこぼした。

 

「神威の様子はどうだ? あいつにとっては初の護衛任務だったろう?」

「何も問題なかったわよ♪ 最初は緊張してて連携に戸惑いがあったけど、能代さんとガングートさんが声かけたら、あとはリラックスしてたから♪」

 

 更なる提督の問いに国後が笑顔で答えると、提督と矢矧は安堵の息を吐く。

 初の任務に就かせた時はちゃんと帰ってきた……と報告を聞くまでは安心出来ないのだ。

 

 因みにガングートとはロシア(当時はソ連)の戦艦の魂を宿す艦娘。

 ガングートの他にもドイツ、イタリア、アメリカ、イギリス、フランスといった海外艦もこの鎮守府には数多く在席している。勿論、他の鎮守府にも。

 

 艦娘の艤装技術は日本が世界一を誇るため、安全保障や同盟の証として日本の国防軍に在席させているのだ。そうした一方で日本は同盟国に対して技術等の方面で支援協力している。

 

「あの……そろそろ、ご挨拶をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 そんな占守たちの後ろで択捉が手を挙げた。

 占守と国後は『あ、忘れてた』と言うような表情をして、透かさず択捉に道を譲る。

 

 すると択捉は前に出て、提督に敬礼してから口を開く。

 

「私が択捉型海防艦一番艦、択捉です。今日からこの鎮守府でみなさんのために頑張ります!」

 

 眩しい笑顔と共に自己紹介する択捉。

 そんな択捉に矢矧も笑顔を送る。

 そして、

 

「俺がここの提督、興野慎太郎だ。これからよろしく頼むよ」

 

 と提督もしっかりと自己紹介する。

 そうしたあとで提督は「ちょっと来い」と択捉に手招きして、自分の側へ来るよう呼ぶ。

 

 択捉は小首を傾げながら提督の側へ行くと、

 

「ちゃんと自然な笑顔で自己紹介出来て偉いぞ。偉かったから、おじさんお小遣いあげちゃう」

 

 そう言ってまるで娘に溺愛の父親みたいに、提督は黒い巾着から五百円玉を取り出して、択捉の手に握らせる。

 まさかの提督の行動に択捉は頭の上にはてなマークを浮かべたが、それでも「ありがとう、ございます?」と戸惑いつつもお礼を言った。

 

「あ〜、司令! 択捉さんだけ贔屓するのはずるいっす〜!」

「クナたちも頑張ったもん! クナたちにも!」

 

 すると占守と国後もそう言って提督に手を出して催促。

 そんな二人に提督は「他のみんなには内緒だぞ〜?」と締りのない顔をしながら五百円玉を握らせる。

 

「えへへっ、司令は太っ腹っす〜♪」

「補給終わったら酒保でお菓子買お〜♪ ありがとね、司令♪」

 

 占守たちが上機嫌で両サイドから提督に抱きつくと、提督はデレデレした顔で二人の頭を撫でた。

 そんな三人の隣で矢矧は盛大なため息を吐いて頭を抱えていたが、

 

「……提督……」

 

 ドス黒く低い声で提督を睨むと、提督はキリッとした顔で択捉に説明を始める。

 

「こほん……先ず択捉には、この鎮守府での生活に慣れてもらうことを最優先してもらいたい。それから訓練、遠征等をこなし、初めて仲間たちと共に戦ってもらう」

 

「早く仲間と肩を並べたいと思うかもしれないが、焦らずにやれることを確実にこなしていってくれ……寧ろ艦隊で活躍したいなら訓練や遠征をこなしていくことが一番の近道だ」

 

「君も大本営で聞かされたと思うが、世界は深海棲艦に制海権を奪われたことで崩壊寸前となった。陸続きの国は海面のある国と違って比較的落ち着きはしていたものの、海を抑えられたという事実は世界に大きな混乱を生んだ」

 

「中でも浅はかだったのは核保有国のごく少数の国々のトップたちだ。そいつらは海から無尽蔵に産まれる深海棲艦へ核を使った……そうした結果、海は汚れ、自国や近隣諸国の大地を作物や生物の育たない地へ変えた」

 

「そんなことをしたから飲水は勿論、海産物や農産物といった食料、食品もその国々で生産することは困難になって、人が生きていくための生活環境を大いに狂わせた」

 

「無事な他国から輸入したくてもあの時の状況下では比較的安全な空路や陸路での輸入しか術は無く、更には運べる数も限られていて、前のように各国が自由に貿易することも出来ない……そんな世の中に変わった」

 

「そうした中で一部の人々の間では『世界の終わり』とまで言い始めた」

 

「そこへ君たち艦娘が現れた。君たちのお陰で海の安全は格段に上がり、輸入や輸出の際もその国の艦娘が船団護衛に着けば危険はかなり軽減される上、国と国との国交回復の緒にも大きく貢献した」

 

「そして人類は新たな人類、艦娘と手を取る道を選び、今の世界秩序が成り立ってる」

 

「君にもその大きな責任をその背中に背負わせることになるが、君一人には背負わせない。提督である俺や艦隊の仲間が同じ責任をみんなで背負ってる。だから今の笑顔を絶やさないでくれ。どんな時でも……どんな状況下でも」

 

 提督の言葉を一つひとつ聞き漏らすことなく聞いていた択捉は、またも笑顔を浮かべて「よろしくお願いします!」と提督に元気な返答をするのだったーー。




阿賀野がメインヒロインなのに出てきてない……ごめんよ、阿賀野。

暫くは世界観や鎮守府の説明回が続きますので、ご了承を。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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