提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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エピローグ的な回です。


提督夫婦と愉快な鎮守府の新たな日常

 

 人類と深海棲艦の戦争にまだまだ終わりが見えない昨今。

 しかしながら世界のシーレーンの多くは安全が確保され、危険海域に入らなければ被害と呼べる被害は無くなっている。

 

 興野提督が倒れ、大手術してから約3年程が経過した頃。

 鎮守府では今日も相変わらず艦娘たちが各々の役割に準じ、それでいて穏やかな時間を過ごしていた。

 あれから鎮守府ではこれまで通り誰も欠けることも無く幾度も大規模作戦を完遂し、その都度新しい仲間を迎え、規模も更に大きくなった。

 そして一番の変化はーー

 

おとーたん(お父さん)おかーたん(お母さん)おそいねー」

「お母さんはみんなのために悪い奴らと戦ってるからな。でも必ず帰ってくるから、お利口にして待ってような?」

「あいっ!」

 

 ーー提督と阿賀野の間に希少な人間と艦娘との遺伝子が合わさった子どもが産まれ、すくすくと成長しているということ。

 

 子どもの名前は『あがの』で、表記は違えど母親と同じ名前であるため呼ぶ時に不便ではないかと言われたが、それは杞憂に終わる。

 何故なら呼ばれる本人たちが相手が自分のことを呼んでいるか感覚的に識別出来るからだ。

 例えば提督や矢矧やらが阿賀野に対して名前を呼べば阿賀野が反応し、あがのは無反応。その逆も然り。

 学者たちの研究結果によると、これは艦娘ならではの遺伝子によるものらしく、まさに艦娘が同じ名前であっても"自分がどこの誰なのか"をハッキリと認識出来ているという証拠。

 なので何人同じ名前の艦娘がいても個々で識別しており、そこに個性が生まれるという訳だ。

 

 あがのもまた月に一度健康診断という名目で泊地の軍病院で検査をし、その結果は大本営の研究室へ提出しているが、特段悪いことでは無いので提督も阿賀野も同意している。

 それ以外は本当に一般の家族や親子同様、子育てに励み、夫婦で我が子へ最大の愛情を注いでいるのだ。

 

「おとーたん、あしいたいいたい?」

「んなことねぇぞ。心配しないでお父さんに素直に甘えろ」

 

 よって提督は仕事中でもあがのを自身の膝の上に乗せ、もりもりと仕事をこなしていた。

 あがのももうすぐ3歳になるため、自我が芽生えて時折わがままも言うようになってきたが、夫婦や周りの影響からとても素直で優しい子に成長。

 中でも高雄や矢矧・天龍・龍田といった面々が夫婦不在時は勿論(夫婦共に不在となることは滅多に無いが)、どちらかが不在の場合は子育ての補佐として侍っているので、あがのはそういった者たちの性格等も今のあがのという個人の性格を構築するのに影響している。

 

 容姿は母親である阿賀野にそっくりでそのまま阿賀野を小さくした感じで、肩下まで伸びた黒髪を毎日阿賀野が結ったり編んだりしている(因みに今日は赤いリボンでツインテール)。

 一方で父親のように要領が良く、「えぇ〜」とわざとぶーたれつつ言われたことはちゃんとやるちょっと天邪鬼な性格だ。

 そしてやはり阿賀野の子どもであるためか、超が付くほどのお父さん子であり、常日頃から今のように提督にべったりとくっついている状態である。

 

「えへへ、おとーたんだーいしゅき!」

「お父さんもあがのが大好きだぞ〜♪」

 

 なので提督はもう娘にメロメロのデレデレでベタ甘。

 

「おひげちくちくすゆ〜♪ しゅりしゅり〜♪」

「あがのは髭が好きだなぁ」

「だってなんかきもちいいんだもん♪」

「そうかそうか、好きなだけスリスリするといい」

「うん!」

 

 娘から頬擦りされる提督は顔はとてもだらしなくデレデレしてるが、手はちゃんとペンを動かし、目もちゃんと内容確認しているため仕事の方は順調だ。

 しかし、

 

「相変わらず表情がだらしないわね……」

 

 義妹矢矧からは少々不評である。

 それでも、

 

「でもあれだけ娘から慕われてると、ああもなっちゃうわよ」

「見てるこっちも微笑ましいもんね」

 

 他の義妹能代と酒匂は父娘の触れ合いを微笑ましく思っているので、矢矧も「まあ嫌われてるよりはね」と態度を軟化させた。

 そもそも艦娘たちも元々世話焼き体質だったり世話好き体質だったりするため、あがのという自分たちが守ってあげなくてはならない存在が出来たことでみんな基本的にあがのには態度が甘い。

 駆逐艦や海防艦の面々に至っても新しい妹が出来たみたいな心境で、あがのは沢山の優しい姉に囲まれた生活を送っているのだ。

 その証拠に、

 

「やはぎおねーたん、やはぎおねーたん!」

「ん、はいはい、どうしたの?」

「こんどはやはぎおねーたんにだっこされたい……んっ」

「っ……は〜い、今抱っこしま〜す♡ ムギューッ♡」

 

 あの矢矧ですら、あがのの前では猫なで声になってあがのを甘やかす。

 更に、

 

「矢矧ばっかりズルいわ。あがの〜、能代お姉ちゃんにも抱っこさせて〜?」

「あたしもあたしも〜」

 

 能代も酒匂もあがのを抱っこしたがる始末。

 あがのが産まれてからというもの、艦娘たちはあがのを抱っこするととても幸せな気持ちになるんだとか。

 なので今年に入ってからはMVP報酬に"あがの1時間抱っこ券"を希望する者もいる。そして中には《あがのを抱っこし隊》や《あがのを守り隊》なんていうグループまで出来ているのだ。

 あがのの意思はあるのか……と、思われるかもしれないが、抱っこ券はあがのが提督に提案したこと。その裏には『みんなわたしのやさしいおねーたん』という気持ちがあり、みんなが自身を抱っこした時に嬉しそうに笑ってくれるのが嬉しいからだそうな。

 

「ちょっとまってね? いまはやはぎおねーたんのばんだから」

 

 そしてあがのが子ども特有の愛らしさで「じゅんばんこね」と言えば、能代も酒匂も『はーい♪』と猫なで声で順番を待つ。

 そんな義妹たちを見、

 

(やっぱみんな子どもが好きなんだぁ……というか俺と阿賀野の娘が大天使過ぎるんだよな)

 

 提督は鼻高々に娘を誇らしく思うのだった。

 

 ーーーーーー

 

 そんな日のお昼過ぎ、阿賀野も無事に帰ってきて家族揃って食堂で昼食を済ませたあと、一家は中庭へとやってきた。

 これまでなら昼休憩後は速やかに午後の任務に就く必要があったが、子持ちとなると"育児"として一三〇〇〜一五〇〇まで必ず子どもと過ごすという規則が政府と大本営によって義務付けられ、定期的に家庭査察官が家族の元へ訪問して育児状況を確認しにくる。

 勿論任務をこなせる量が減っても鎮守府や艦隊への報酬が減るということは無い。

 でもここではこの時間が一番賑やかな時間になっている。

 何故ならーー

 

「はぁ、あがのちゃんを抱っこすると幸せだわ……」

「山城、次は私だからね?」

 

 ーーあがのの握手会ならぬ抱っこ会みたいな状況になるからだ。

 今は丁度扶桑姉妹が来ていて、公正なジャンケンの結果で山城が先にあがのを母性あふれる表情で優しく抱っこしている。

 

「やまちろおねーたん、いいにおい……わたしこのにおいしゅきぃ〜♪」

「ふふふ、嬉しいわぁ。でも扶桑姉様の方がもっと素敵なんだからね?」

「やまちろおねーたんはふそーおねーたんだいしゅきだもんね」

「そうよ。扶桑姉様は最高の存在だもの」

「もう、山城ったら……」

 

 我が子と仲間たちが見せる美しい光景に、提督と阿賀野は肩寄せ合いながら目を細めた。

 

「いいな、こういうの……みんなが笑顔でよ」

「うん……みんなが私たちの子どもに愛情を注いでくれて、あがのは幸せだよね」

「全くだな。満潮や霞、曙でさえあがのの前じゃメロメロ状態だしな」

「二人目も早く作ろうね♡」

「そ、そうだな……」

 

 妻からの不意なお願いに提督は照れ隠ししながら言葉を返す。

 それから扶桑の抱っこタイムも終わり、扶桑姉妹たちがあがのに後ろ髪を引かれながら訓練に向かうと、

 

「今度は私が抱っこさせてもらいますね♡」

 

 次は羽黒の番。しかもその後ろには榛名と筑摩もニッコニコで順番を待っている。

 

「はぐろおねーたん! ぎゅ〜っ♪」

「あがのちゃん、ギューッ♡」

 

 まさに優しいお姉ちゃんとそれに甘える歳の離れた妹。

 ただ、

 

(司令官さんの子どもは私の子ども同然……必ず守ってあげるからね♡)

 

 羽黒の思いはとても重かった。

 

「次は榛名お姉ちゃんだよ〜♡」

「はるにゃおねーたん!」

 

 ムギューッと触れ合う榛名とあがの。やはりこれも美しい光景だが、

 

(提督の子ども……即ち榛名の子どもであります♡ これからも提督共々優しく見守ってますからね♡)

 

 榛名の護衛魂は更に増していた。

 

「あがのちゃん、おいで〜♡」

「ちくまおねーた〜ん♪」

 

 ムギューッ&そのままクルクル。あがのはこれが大のお気に入りでその証拠にキャッキャと弾んだ声で笑う。

 とても和気あいあいな光景だが、

 

(提督に姉さんにあがのちゃんとお世話する人がまた増えちゃいました……幸せって怖いですね♡)

 

 筑摩の思いはとても怖いすごかった。

 

 ーー

 

 それから羽黒たちがホクホクして帰ると、

 

「こんにちは、皆さん」

 

 次にやってきたのは高雄だった。

 

「おぉ、高雄」

「あがの〜、高雄ママが来たよ〜?」

「まま〜!」

 

 高雄が来ると、あがのは高雄にまっしぐら。

 どうして高雄が"ママ"と呼ばれているのか……それは阿賀野が娘へ『この人もあなたのママなんだよ』と教えて育てたから。

 これは阿賀野からのお情けと言う訳ではなく、阿賀野が高雄もまた提督へ特別な愛情を持っていることから『この子のママになってほしい』とお願いしたのだ。

 高雄も最初はその提案に戸惑ったが、形はどうあれ夫婦の力になれるならとあがののもう一人の母になろうと決めたという。

 

「ままはおあーたんとはちがうぷにぷにできもちいい〜♪」

「あ、あらあら……そんなにぷにぷにかしら?」

「うん♪ でもおなかはおとーたんのほうがぷにぷにでいちばんきもちいい!」

「娘から褒められたぜ!」

「喜ばないでくださいっ」

「あはは、でもこればっかりは仕方ないよ〜♪」

 

 四人で団欒を楽しみ、穏やかな空気がそれを見る艦娘たちに癒やしを与える。

 しかし、

 

「あがの〜、武蔵母ちゃんだぞ〜?♡」

「陸奥お母さんもいるわよ〜?♡」

「金剛ママ見参ネー!♡」

「加賀お母さんですよ、甘えなさい♡」

「由良ママだっているのよ〜?♡」

「青葉母さんもですよ〜♡」

「鹿島お母さんもいま〜す♡」

「時雨お母さんだよ?♡」

「夕立ママっぽい!♡」

 

 ガチ勢の強制乱入によってその和み空間は修羅空間へと突入。

 そもそもあのガチ勢が夫婦の間に子どもが産まれたからと身を引くはずもなく、自称母親と装って提督と更に懇意になろうとしている魂胆だ。

 あがのの方はお母さんがいっぱいで嬉しいこと尽くめだが、阿賀野の気持ちは穏やかではない……が、正妻の余裕ということで最近では鉄拳制裁も発動しない。

 それに、

 

「待つのです!」

 

『っ!?』

 

 こういう時は必ず助けに来てくれる正義の味方がいる。

 

「一つ、非道な妄想を憎み」

「二つ、不思議な虚言を聞いて」

「三つ、真実を見つめさせる」

「四つ、よからぬ邪な愛を」

「五つ、一気にスピード退治」

「六つ、無敵で怖イイ」

『一家の安全、我らが守ります!』

 

「マモルンレッド! 電!」

「マモルンブルー! 浦風!」

「マモルングリーン! 夕雲!」

「マモルンイエロー! 雷!」

「マモルンパープル! 龍田だよ〜♪」

「マモルンブラック! 天龍!」

『お守り戦隊、マモルンジャーッ!!!!!!』

 

 これが今の一家を守る正義の味方マモルンジャー。

 それぞれ左腕に役割の色である手作りの腕章を巻き、ガチ勢から一家(主に提督とあがの)を守る正義の味方……正義の味方なのだ!(大切なことなので)

 

「いなじゅまおねーたん!」

 

 その中でも実の姉だと教わってきた電の姿を見ると、あがのは目を輝かせて電の元へと駆けていく。

 すると電は可愛い可愛い妹を抱き上げて「お姉ちゃんが守ってあげるのです!」と胸を張る。

 

 このようにガチ勢がいくら母親だと言い張っても、それを認めぬマモルンジャーの登場によってガチ勢は『覚えてろ〜!』と逃げるのだ。

 と言ってもあがのとしてはみんなのことが好きなので全く気にしておらず、楽しい催し物みたいになっている。

 こうして今日もマモルンジャーによって一家の幸せは破滅を免れたのだ!

 

 ーーーーーー

 

 そして時は過ぎて、夜。

 あがのはもうスヤスヤと布団で眠る中、夫婦はやっと二人きりの時間を過ごす。

 

「今日もお疲れ様、慎太郎さん……ちゅっ♡」

「阿賀野もお疲れ様、ちゅっ」

 

 互いの頬へ軽く口づけし、細やかな触れ合いを楽しむ夫婦。

 そこには一家の幸せとはまた違った、夫婦だけの幸せがあふれていた。

 

「昼間はずっとあがのに譲ってたけど〜、今は私が慎太郎さんを独り占め♡」

「おう、独占してくれ」

「するぅ♡ ん〜っ、慎太郎さん慎太郎さん♡」

「阿賀野阿賀野〜♡」

 

 ただお互いの名前を呼び合い、熱い抱擁を交わす。それだけなのに夫婦はとても幸せで笑顔があふれた。

 

「あがのももうすぐ3歳になるしぃ、そろそろどう?♡」

「どうって?」

「ふ・た・り・め♡ 私はいつでもオッケーだよ?♡」

「相変わらず大胆な……」

「だって好きな人の子どもだもん。だからほしいの〜♡」

「くぅ……可愛い奴め」

「えへへ、だから早く作ろ?♡ ね、ね?♡」

「ま、待て……ここじゃあがのに近過ぎる」

「じゃあ、お風呂でしよっか♡ この前マットとマッサージオイル買ったし♡」

「いつの間に……」

「これも全部慎太郎さんのためだもーん♡」

「お、おう、ありがとう……」

 

 こうして夫婦は今晩も幸せに、そしてめちゃくちゃ愛し合うのだった。

 そしてこれからも鎮守府は忙しくも笑顔があふれる穏やかな時間を過ごしていくのだーー。

 

 《お終い》




てことで、これで正真正銘の終幕です!

最後まで読んで頂きまして、本当に本当にありがとうございました!

また別の作品でお会いしましょう!

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