提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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夏の昼下がり

 

 一四〇〇を過ぎた8月某日の鎮守府。猛暑日ではあるが、艦隊は任務に訓練と今日もいつもの風景を見せる。

 

「イクちゃ〜ん、もう一回やって〜♪」

「はいなの〜♪」

 

 そして埠頭の端っこでは駆逐艦と潜水艦の者たちが海水浴をしている。

 今遊んでいるのは睦月型駆逐艦一番艦『睦月』、二番艦『如月』、三番艦『弥生』、四番艦『卯月』と潜水艦『伊一九』ことイクに『伊二六』ことニムだ。

 

 睦月はいつも明るい元気っ子。提督夫婦を実の親のように慕う。

 

 如月は姉妹のおまとめ役のちょっぴりおませさん。提督のことはライクの意味で好きで、阿賀野から惚気話を聞くのが楽しみの一つ。

 

 弥生は無口だがとても素直な子。甘い物が大好きで誰かに注意されないとフードファイター並に食べてしまう。

 

 卯月は艦隊一のいたずらっ子だが、それは元気のない子を励ますための裏返しだったりする。相手が本当に嫌がることはしない優しい子。

 

 イクは自他共に認める提督LOVEで提督が使う風呂の湯船で待ち伏せすることもある……がその都度阿賀野からキツイお叱りを受けている。

 

 ニムはお料理が好きな家庭的な子。いつも姉であるイクに振り回されているが、どんな時でも笑顔を絶やさない。

 

「ちゃんと捕まっててね〜」

 

 ビニールボートの綱を引くニムがボートに乗る睦月たちへそう声をかけると、みんな『はーい♪』と元気に返す。

 

 本日は任務も訓練もない睦月たちは、暑さ対策も兼ねて提督指定(本当は大本営指定)のスクール水着に着替えてイクやニムと遊んでいるのだ。

 埠頭の端っこならばみんなの邪魔にならないので、夏になると埠頭の端っこでは海水浴を楽しむ。

 

 その証拠に、

 

「みんな〜、い〜い〜? 一斉に行くよ〜?」

『せ〜っの!』

 

 とまた一団体が桟橋から海へドボンと飛び込んでいる。

 

「ぷは〜……気っ持ち〜♪」

「やっぱり夏はこうだよね! えへへ♪」

「あぁ、とても気分がいい」

「たまにはこういうのもいいものだ」

 

 海にプカプカ浮いて笑顔を見せるのは睦月型駆逐艦五番艦『皐月』、六番艦『水無月』、八番艦『長月』、九番艦『菊月』だ。

 

 皐月は姉妹のムードメーカー。提督を間違えて『お父さん』と呼んだこともある可愛い子。

 

 水無月はいつもニコニコしている優しい子。ただし怒った時の笑顔は姉妹で一番恐れられている。

 

 長月は姉妹の引き締め役。提督のお陰で融通も覚え、オンオフを弁えて行動する。

 

 菊月はお堅い真面目な子。しかしおだてられたり、あおられたりには弱いチョロイ一面も。私的の時は姉たちを『〜お姉ちゃん』と呼んでいる。

 

 この四人もスクール水着に着替えて夏の海を満喫中。

 

 するとそこへニムが「通るよ〜♪」と睦月たちを乗せたボートを引いて側を通る。そしてその後ろを押しているイクが皐月たちの横を通り過ぎる際に、

 

「食らうの〜☆」

 

 と言って皐月たち一人一人の顔へ手を器用に使った水鉄砲を見舞った。

 

「やったな〜!」

「我々駆逐艦に潜水艦が……」

「味な真似をしてくれる……」

「ボクとやりあう気なの? 可愛いね!」

 

 皐月たちは急いでイクのあとを追った。

 

「およよ? 皐月ちゃんたちが猛スピードで泳いでくるよ〜?」

「さっき、イクさんがちょっかい掛けたから……」

「うーちゃんも思わず感服するほどの手際だったぴょん」

「皐月ちゃんたちって結構早く泳げるのね〜♪」

 

 睦月たちの言葉にニムは「お姉ちゃんったら……」と苦笑いを浮かべるが、いつもの通りにスイスイと引っ張る。

 一方のイクは潜水して皐月たちから逃げた。

 

「むぅ……演習用の爆雷があれば」

皐月(さっちん)、流石にそれはやり過ぎなんじゃないかな、えへへ……」

「しかしやられっ放しは性に合わんぞ」

「確かに。この菊月たちへ宣戦布告したのだ。何かしら報復せねば、気が済まん」

 

 すると皐月が「例の作戦でいこう」と提案。その声にみんなは頷き、それぞれ行動を開始する。

 

「オペレーションTが始まるみたいね♪」

 

 ボートの上で皐月たちを眺める如月がそう言って笑うと、他の面々は思わず笑い声をもらし、ニムに止まってとお願いしてその作戦を見届けることにした。

 

(あれぇ? みんな海から上がっちゃったのね……諦めたのかな〜?)

 

 皐月たちが海から上がるのを海中から確認したイク。それを見たイクはにひひと笑いながらゆっくりと浮上する。万が一、皐月たちが頭上へ飛び込んで来た時に逃げやすくするためだ。

 

 しかしチャプっと頭半分を海面から出したが、皐月たちの姿はどこにも見当たない。四方をぐるりと確認すると、水無月が桟橋のところからイクへ向かって手を振って何やら呼びかけている。

 

 耳を澄ましてみると、

 

「イクさ〜ん、司令官が阿賀野さんがこれから出撃するから、その間にデートしようだって〜!」

 

 とんでもないことを言っていた。

 イクは目をハートにして急いで桟橋へ向かう。

 

 そんなイクを見て、弥生は思わず「あんな嘘にあっさりと……」とつぶやいた。

 

「お姉ちゃん……」

「司令官が浮気するはずないのにね〜」

「LOVE勢にしか通用しないぴょん」

 

 卯月がそう言ってイクを嘲笑うと、

 

「うーちゃん、司令官があとで一緒にお昼寝しようって言ってよ?」

 

 睦月がそんな嘘をついた。

 その嘘に卯月は「ホント!?」と食いついたが、睦月からは「うっそぴょ〜ん♪」と自分の決め台詞を言われてしまう。

 

「うーちゃんもイクちゃんのことは言えないわねぇ♪」

「ぐぬぬ……何も言えねぇぴょん」

「卯月は司令官とお昼寝するの好きだもんね」

「弥生だって好きなくせに……」

「確かに好きだけど、司令官はわざわざそんなこと言わない。そもそもお昼寝も滅多にしないでしょ?」

 

 弥生にとどめを刺された卯月は海に顔を入れ、息を吐いてブクブクしてやりきれない思いを吐き出した。

 

 そして、

 

「早速提督とデート行ってくるの〜!♡」

 

 とイクが桟橋に上がった瞬間。

 

「それ〜!」

「くらえ!」

「あたれ!」

 

 皐月、長月、菊月から水鉄砲の掃射を受ける。それも1発に約1リットルの水を発射する明石印の四連装砲なので、それをもろに受けたイクは綺麗な弧を描いてザパ〜ンと海へ落ちた。

 それを見た皐月たちは四人してハイタッチをして『やった〜♪』と大喜び。

 

「むぇ〜……また同じ手に引っかかっちゃったのね〜」

 

 イクはプカァっと仰向けに浮かび上がると、皐月たちの雄叫びを聞きながら反省するのだった。

 

 ーーーーーー

 

 時計の針が一五〇〇を回り、訓練や遠征任務に赴いていた者たちが続々と埠頭へ集まってきた。遠征隊に至っては長期遠征任務以外ならば、提督の計らいで毎回一五〇〇頃には戻れるようになっているのだ。

 

「みんなお疲れ様〜♪」

「冷たいシロップジュースとレモン水、麦茶があるよ〜♪」

 

 戻ってきた者たちに阿賀野と酒匂が声をかけると、みんな揃って阿賀野たちの元へ集まる。

 これも提督の計らいで炎天下の元で頑張るみんなへの配慮。

 中でもシロップジュースは多くの者たちに人気の飲み物だ。基本的にレモン水と麦茶は大きなヤカンに入れてあるのに対し、シロップジュースは20リットルのポリバケツへ氷を一貫入れて大量に作ってある。

 シロップジュースはかき氷のシロップを水で割った物で、どこか懐かしい味。味が毎回違っていてそうした楽しみもみんなに親しまれている理由だろう。因みに提督直々に作っている。

 酒保に行けば、かき氷のシロップを炭酸水で割ったシロップサイダーという物も売ってあり、炭酸好きの艦娘にはコーラ等よりも人気商品だ。

 

「コップはこっちです」

「駆逐艦の子を優先してね」

 

 能代がみんなへプラスチックのコップを渡し、矢矧がシロップジュースを順番に注いでいく。駆逐艦同士でも譲り合い、特に混乱しないところを見ると阿賀野たちは自然と笑みを浮かべる。

 

「来たぞ〜」

 

 するとそこへ提督が軽トラの荷台に荷物を乗せてゆっくりとやってきた。荷台にはお手伝いで文月、三日月、望月も乗っている。

 それを見ると艦隊のみんな(特に駆逐艦)は停車した軽トラにワッと集まっていく。

 

 因みに『望月』は睦月型駆逐艦十一番艦。インドア派だが、みんなとワイワイするのは好き。提督とは一緒にゲームをするのでよく懐いている。

 

 集まってきた駆逐艦の子たちを見た提督は締りのない顔で軽トラのエンジンを止め、荷物に掛かった布を取る。

 その途端、みんなから『わぁ〜!』と黄色い声が上がった。

 

「よぉ〜し、並べ並べ〜! 『興野屋』のかき氷だぞ〜!」

「氷いっぱい持ってきたよ〜♪」

「順番に並んでくださ〜い♪」

「シロップも練乳も沢山あるよ〜」

 

 そう、提督は手動式かき氷機と氷、シロップ等を運んでやってきたのだ。

 鎮守府の夏の風物詩で、提督自らがみんなへかき氷をご馳走する。ただし毎日ではなく、6月〜9月までの毎週月・金。

 全部提督の自腹であり、これも艦隊のみんなのためにと提督が始めたこと。その腕も板につき、艦娘たちにとってかき氷と言えば提督なのだ。

 

 ーーーーーー

 

 ある程度みんなにかき氷が行き渡ると、海水浴をしていた睦月たちもタオルで髪を拭きながらやってきた。

 

「提督〜、イクもかき氷欲しいの〜♡」

「お姉ちゃん、睦月ちゃんたちが先だよ〜」

「まだまだあっから、ちゃんと並べよ?」

 

 提督が優しい笑顔でイクに声をかけると、イクは目をハートにして「は〜い♡」と返す。それからイクは睦月たちを順番に並ばせた。

 

「お一つく〜ださい♪ えへへ♪」

 

 最初に水無月がかき氷を頼むと、提督は笑顔で頷いて慣れた手つきで氷をゴリゴリしていく。

 

「シロップは何がいい?」

「ブルーハワイ♪」

 

 文月に水無月がそう答えると、文月は「ふみぃ♪」と頷きブルーハワイのシロップをかける。

 

「皐月は何にする? またレモン?」

「今日のボクはイチゴミルク!」

 

 皐月が三日月にそう言うと、三日月はイチゴシロップをかけ、望月がそこへ練乳をかけていく。

 

「長月ちゃんと菊月ちゃんは何シロップ?」

「私はメロン一択だ」

「私は練乳だけでいい」

 

 その後もスムーズにかき氷を配り、睦月たちは仲良く笑顔でかき氷を食べる。因みに睦月がイチゴ、如月がピーチ、弥生はブルーハワイ、卯月はブドウ、イクとニムはオレンジだ。

 

「文月たちも食うだろ? 好きなシロップ言え♪」

「あたしイチゴ〜♪」

「私は……今回はレモンがいいです♪」

「あたしはコーラ一択〜」

 

 三人のリクエストに提督は「はいよ♪」と返事をして、それぞれのシロップをかけて三人へ渡す。

 

「阿賀野〜、のしろんたちもこっちきてかき氷食え〜」

 

 提督が阿賀野姉妹にもちゃんと声をかけると四人は笑顔で軽トラの側へやってくる。

 

「提督さん、おてて大丈夫?」

 

 ずっと氷を削っていた提督を心配する阿賀野。そんな阿賀野に提督は「大丈夫大丈夫」と手を開いて見せる。

 

「でも、提督さんの手冷たい……阿賀野が温めてあげるね♡」

 

 阿賀野はそう言って提督の手を優しく両手で包み込み、指先にそっと口づける。

 

「ありがとな、阿賀野♪」

「えへへ、だって提督さんのお嫁さんだも〜ん♡」

 

 ラブラブの夫婦をよそに能代たちは気にせず自分たちのかき氷を作る。

 夫婦は休憩時間が終わるまで互いを見つめ合い、愛の言葉を囁き合った。

 

 鎮守府の夏の昼下がりは時にこうして過ぎていくのだーー。




かき氷や海水浴をメインに書きました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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