提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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責任

 

 9月某日。

 9月に来ても夏らしい暑さは健在。そしてそれに呼応するかのように昼夜問わず虫の音が大合唱の鎮守府。

 

「9月になったってぇのに、暑過ぎだろ……アイス美味ぇ」

「お盆の頃の方が涼しかったよね〜……アイス美味しい」

「文句言うかアイス食べるかどっちかにしてよ……確かにアイスは美味しいけど」

 

 そんな昼下がり、提督、阿賀野、矢矧の三人は食堂でおやつ休憩をしていた。今日は執務室の扉に『食堂に行ってます』という掛け札を掛けてここにいる次第。

 

 8月の中旬から始まった『西方再打通! 欧州救援作戦』も当鎮守府は無事に完遂。更にはその後の執務地獄も終えたので、今はやっと本格的な休み週間となっている。

 休み週間といっても期間は一週間程度で、その間は各訓練と出撃任務が無いだけで、演習と遠征は通常通り。しかし日頃の激務に比べればこれだけでも十分羽を伸ばせる上、自主的に訓練をする者たちもいる。

 

「あ、提督はっけ〜ん!」

「本当だ。提督だ」

 

 すると提督を探していたのか、数名の艦娘たちが提督たちの座るテーブルに近寄ってきた。

 

「お〜、初春型四姉妹揃ってどうした〜?」

 

 近寄ってきたのは提督が言うように初春型駆逐艦の四姉妹だった。

 

「お父さ〜ん、探したんだよ〜?」

 

 提督の元へいの一番に駆け寄って、その背中に飛びつくのは初春型駆逐艦二番艦『子日』。提督を父のように慕い、いつも元気な艦娘。

 

「ちょっと提督に相談があるんだ」

 

 そして控えめにそう言って提督の袖を掴んだのが、同型駆逐艦三番艦『若葉』。いつもクールで働き者。提督に褒められると夜通しで働いてしまう、ちょっと天然が入った艦娘。

 

「お主らは……(わらわ)は知らぬぞ?」

「提督を困らせちゃダメですよ?」

 

 そんな二人に遅れてやってきたのが同型駆逐艦一番艦『初春』と初霜。

 初春は雅な艦娘で改二まで自分を育ててくれた提督にとても従順。提督へお茶を点ててあげたり、舞を披露したりと……何かと提督に尽くしている艦娘だが、LOVE勢ではなく忠犬勢。

 

「まぁ、話くらいは聞くさ。言ってみ?」

「あのね〜、子日たちね〜」

「犬を飼いたいんだ……」

 

 子日と若葉の言葉に提督は勿論だが阿賀野と矢矧も揃って『犬?』と聞き返して、小首を傾げてしまう。

 すると初春がやれやれといった表情を浮かべて、経緯を説明することに。

 

「妾たちは先程まで部屋で映画のデーブイデー(DVD)を観ておってのぅ。タイトルは確か……」

「『狂犬ポイ公』ですよ、初春」

「そうじゃったそうじゃった。それを観ていて、こやつらが犬が欲しいと言い出しのじゃ」

 

「理由は分かったが、何だその映画?」

 

「あのねあのね! 闘犬の噛ませ犬役の『ポイ』って名前の可哀想な犬がね、大好きな飼い主さんのためにそのチャンピオンの闘犬に勝つサクセスストーリーなんだよ!」

「飼い主はストーリーの途中で痛風になって入院してしまうんだが、ポイは毎日トレーニングを欠かさず続けるんだ。そのひたむきさに心を打たれない奴はいない」

 

 子日と若葉が目をキラキラさせながら説明するが、阿賀野と矢矧は思わず苦笑いを浮かべてしまう。提督に至っては犬が好きなこともあり、とても興味深く聞き、そしてうんうんと頷いている。

 

 鎮守府で犬や猫といった動物を飼うにはかなりの制約があり、その条件をクリアしないと飼えない。提督自身も最初は飼おうとしたが、その条件をクリア出来ないと見て断念したほど。

 

「悪ぃが犬は飼えねぇんだ。理由は規則や制約があり過ぎるのと、日々忙しい俺らじゃ命を飼うのには荷が重過ぎるんだ」

 

 提督が申し訳なさそうに説明し、子日と若葉の頭をポンポンっと撫でる。説明を受けた子日と若葉も『そっか〜』と残念そうな顔をする。

 

「メダカとかカメなんかなら飼ってもいいんだけどね〜」

「犬や猫だと色々と難しくなるのよね……」

 

 阿賀野と矢矧も申し訳なさそうにそう言う。

 散歩やら餌やらの世話は手の空いている者たちに任せることは可能だ。しかし倉庫や資材庫内へ侵入してしまったり、ふとしたことで防衛システムが誤作動してしまったりといったことも無いとは言い切れない。例え鎖で繋いでいても。

 艦娘が寝泊まりする寮の中で世話などが比較的簡単な物でないと飼うことは難しいのだ。

 

「すまねぇな。分かってくれ」

 

 提督はちゃんと二人と同じ目線になって改めて謝ると、子日も若葉もコクリと頷いた。

 

 すると二人はそれぞれ提督の手を握る。その行動に提督が首を傾げると、子日から先に口を開く。

 

「ねぇねぇ、お父さん。ブリーダーって響きカッコよくない?」

「? まぁ、いいんじゃねぇか?」

「トップブリーダーって憧れないか?」

「まぁ、夢としてはいい夢だろうな」

「そうだよね! すっごくカッコいいよね!」

「すっごく憧れるよな!」

「いやだから、飼えねぇからな!? 回りくどいアピールしても飼えねぇからな!?」

 

 提督が念を押すと子日と若葉は揃って『ちっ』と声をあげた。二人共舌打ちのつもりだが、二人して舌打ちが出来るほど舌を起用に使えないのだ。

 

「これこれ、もうその辺にせい」

「そうですよ……提督も困ってますし」

 

 見かねた初春と初霜がそうたしなめると、二人はようやく諦めたのか口をつぐんだ。

 

「まぁ犬とかは無理だが、阿賀野がさっき言ったみたいにメダカとかカメなら飼ってもいいからよ。そこら辺で我慢してくれ」

「…………じゃあウミガメ捕まえてくる」

「おいおいおいおい、子日ちゃ〜ん? クオリティが高過ぎるんじゃないか〜?」

「ならジンベイザメはいいか?」

「若葉ちゃ〜ん? それもめっちゃハイクオリティだからな〜?」

 

「そもそもウミガメもジンベイザメも普通の水槽で飼えないよね〜」

「飼うとしても水族館並の水槽が必要よね……それも凄い大きなやつ」

「全くあやつらは……」

「二人共〜、いい加減にして」

 

 痺れを切らした初霜はとうとう二人の首根っこを掴み、提督に「二人がすみませんでした」と告げてズルズルと引きずっていった。そのあとに初春も「邪魔したのぅ」と苦笑いを浮かべ、妹たちのあとを追うのだった。

 

「なんか子日と若葉に悪いことしちまったなぁ」

「そんなことないよ、提督さん」

「そうよ。我慢というのも覚えなきゃいけないもの……それが命なら尚更」

 

 阿賀野と矢矧の気遣いに提督は「サンキューな」と笑顔を返すと、二人もまたニッコリと頷いた。

 それからは三人で『ごちそうさま』をし、食器やテーブルを片付けたあとで、また執務室へ戻るのだった。

 

 ーーーーーー

 

 ー執務室ー

 

 執務室へ戻ってきた三人だったが、既に今日の執務は完了していてやることがない。

 矢矧はとりあえず自分の机の整理整頓を始め、提督と阿賀野はソファーで肩寄せ合って座り夫婦タイム。

 

 そして暫くすると執務室のドアがノックされ、扉が開くと能代と酒匂がやってきた。二人共今日は揃ってお休みをもらったので、街へ繰り出していたのだ。

その証拠に二人の手には紙袋がいくつかぶら下がっており、更には二人のあとから一緒に街へ行った長良型姉妹の面々も笑顔で入室してくる。

 

「お〜、みんなおかえり。楽しかったか?」

「はい、久しぶりに羽を伸ばせました。それでみんなで提督と阿賀野姉ぇと矢矧にお土産買ってきたの」

「美味しいって評判のチーズケーキ買ってきたっぴゃ〜♪」

「わぁ、いいじゃないの♪」

「気を遣わせて悪ぃな」

「ありがとう、能代姉ぇ、酒匂」

 

 提督たちがお礼を言うと、能代も酒匂も笑顔で返す。

 

「長良たちもありがとうな」

「いえいえ、日頃から私たちを大切にしてくれる司令官へ、私たちからのささやかなお返しですから」

 

 提督のお礼に笑顔で返すのは長良型軽巡洋艦一番艦『長良』。提督を敬愛し、いつも元気で面倒見も良く、遠征や出撃と艦隊を引っ張る頼もしい存在。鬼教官としても神通と肩を並べており、もし二人が本気で喧嘩をしたら一つの海域は消えるとまで囁かれている。

 

「そのチョイスは名取だから、名取にしっかりお礼を言いなさいな」

「そうなのか。ありがとうな名取」

「い、いえ……喜んでもらえて嬉しいです」

 

 五十鈴の説明で提督が改めてちゃんとお礼を述べたのが同型軽巡洋艦三番艦『名取』。普段は姉妹、仲間思いで物腰の柔らかい物静かな艦娘だが、夜戦になると川内を凌駕する戦果をあげる実力者。

 

「ケーキだから早めに食べてね♪」

「それとも今食べちゃいますか? だったらナイフ持ってきますよ?」

 

 そして提督にそう言うのが同型軽巡洋艦五番艦『鬼怒』と六番艦『阿武隈』。

 鬼怒は長良と同じく元気な艦娘。それでいて提督LOVE……というより提督夫婦を見守るのが好きな子。

 阿武隈は長良型姉妹の末っ子で阿賀野からも妹っぽい扱いをされるが、海に上がれば頼りになる水雷戦隊のリーダー格。提督のことはLIKEの意味で大好きで、阿賀野から惚気話を聞くのが好き。

 

「じゃあ、せっかくだし今のうちにみんなで食うか。阿武隈、悪ぃけど給湯室から果物ナイフ持ってきてくれ」

「分かりました♪」

「なら鬼怒も一緒に行くね♪」

「じゃあ、私はお茶でも汲んできてあげるわ♪」

 

「悪ぃな五十鈴」

 

 執務室を最後に出て行く五十鈴に提督がそう言うと、五十鈴はドアを閉める間際に提督へ『どういたしまして』の意味を込めたウィンクを返した。

 

 するとそのあとで由良がスルスルっと阿賀野とは反対側の提督の隣に座る。しかもちゃっかり提督の腕に抱きついて……。

 

「提督さん♡ ケーキはみんなからのお土産だけど、由良だけからのお土産もあるの♡ 受け取ってくれるわよね?♡ ね?♡」

「お、おう……どんな土産だ?」

 

 提督はそう訊くが阿賀野は眼光鋭く由良を睨んでいる。前に由良はお土産だと言って盗撮機と盗聴機が搭載されたぬいぐるみを渡したことがあるので、阿賀野としては油断出来ないのだ。

 

「由良からのお土産は〜……じゃ〜ん♡」

『っ!?』

 

 由良が取り出した物にその場にいる全員が目を丸くした。何故ならそれはピンク色のベビードールだったから。

 

「お、俺がそれを着るのか?」

「んもぅ、そんなはずないでしょう? これは由良が着て、提督さんと夜を過ごすためのお・み・や・げ♡」

「いやぁ……でもそんなの着ちまうと、おっぱい丸見えじゃねぇか……」

「そのための物だもの♡ これを着た由良と朝までベッドの上で踊りましょう?♡」

「踊りましょうって言われてもなぁ」

 

 そもそも浮気なんて出来ねぇし……と思いながら提督は由良から逃げるように阿賀野の背中へ隠れる。

 そんな提督を見て、由良は恍惚な表情を浮かべながら「提督さんは相変わらず照れ屋さんね〜♡」と明後日の思考を展開していた。

 

「由良〜、頼むから司令官を困らせないで」

「由良ちゃん、提督が好きなのは分かるけど、提督は阿賀野ちゃんの旦那さんだよ?」

 

 長女と三女に諭されるが、当の由良は「だから由良の旦那様にするのよ?」とケロッとしている。

 

「相変わらず提督も難儀ねぇ」

「阿賀野ちゃんもね〜」

「日頃からイチャイチャし過ぎてるんだから、こういうこともあった方がいいわよ」

 

 そんなやり取りを能代、酒匂、矢矧は苦笑いを浮かべて眺める他なかった。それから五十鈴たちが戻ってくるとまた和やかムードに変わり、とりあえずみんなでケーキを食べて過ごすのだった……。

 

 ーーーーーー

 

 ー提督夫婦の部屋ー

 

 その日の夜、

 

「あ、阿賀野……その格好……」

「えへへ……長良ちゃんから由良ちゃんから没収したベビードール貰っちゃった♡ どうかな……似合う?♡」

 

 寝室に入ってきた阿賀野のベビードール姿に提督は昂ぶった。愛する女性がそんな格好をして、燃えないのは男ではない。

 

「ある意味で由良に感謝だな……すっげぇ似合ってて、エロい」

「やんもぉ、慎太郎さんったらぁ♡ じゃあ、今夜は阿賀野と朝まで踊ってくれる?♡」

 

 阿賀野の問いに提督は「勿論だ!」と即答して、阿賀野を布団へ引き込み、夫婦は朝まで二人だけのダンスパーティーをするのだったーー。




久々の更新! お待たせしました!
そして久々の更新は相変わらずのほのぼの+ちょっとのお砂糖回です!

読んで頂き本当にありがとうございました☆
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