9月某日、昼過ぎの鎮守府。休み週間の後半であるが、今日の鎮守府はどこか静かで中庭にも艦娘の姿はちらほらとしかいない。
代わりに鎮守府の正門前にはプラカードやら拡声器やらを持った団体と警察隊が睨み合い、双方を睨む形で憲兵隊が脇に控えている。
今日は当鎮守府へ戦争反対派の団体がデモを行う日であり、こうした日は艦娘たちは極力寮から出ないようにしているのだ。しかしそれを気にしない者は普通にしている。
『戦争反対! 戦争をするな!』
『平和な日本に軍なんていらない!』
『軍隊や艦娘は平和を壊す存在だ!』
『平和を壊すことは大罪だ!』
代表者の言うことをデモに参加する全員が声を張り上げて復唱する。
確かに戦争を反対するのは理解出来る。ここに集まっている者の中には深海棲艦の攻撃を受けて愛する家族や愛する人を失ってしまった人々もいるし、心から戦争をしないでほしいと願う人々もいる。
しかし何もせずにただ深海棲艦の攻撃を受けて多くの国民が犠牲になるのと、戦って軍人や艦娘だけが犠牲になるのと……どちらがマシだろうか?
軍人や艦娘ほど戦争の恐ろしさ、残酷さを知っている者はいるだろうか?
多くの軍人、艦娘は戦争なんてしたくないし、しないことに越したことはない。しかし国民やその一人ひとりの家族……そして日本国を深海棲艦の恐怖から守ろうと、自らの命を危険に晒して日夜戦っているのだ。
こうしたことを何故理解しようとしないのか……何故左派お得意の『話し合い』をこの場ではしないのか……本当に日本の左側の人々というのは不思議な思想の持ち主である。
しかしその中でもちゃんと道理が通っている左派の著名人もいるが、日本の左派は支離滅裂なことを主張する者が多いという印象が強いのだ。
かと言って右派のように『もっと軍人や艦娘を増やしてお国のため、天皇のために戦え!』というのも極端な話だろう。
『戦争なんてするな〜!』
『平和な日本を壊すな〜!』
『軍があるから攻撃されるんだ〜!』
こうした主張を散々し、デモは二時間ほどで終了。
鎮守府はやっといつもの光景に戻る。
ーーーーーー
ー執務室ー
「やっと終わったか……戦争が嫌いなのはこっちも同じだってのに、相変わらず好き勝手言ってくれるなぁ」
デモ隊、警察隊、憲兵隊が帰るところを窓から確認しつつ、提督はそう言って苦笑いを浮かべた。
「平和な日本を壊すな〜って言われても、深海棲艦からその平和を脅かされないためにあたしたちは戦ってるんだけどな〜」
酒匂が少しだけ悲しそうにつぶやくと、阿賀野や能代、矢矧が酒匂の頭を優しく撫でる。
「デモ隊の大多数は現実逃避中の活動家だが、その中には何かを悪者にしないと生きていけないって人もいるからな……俺ら軍はそういう自由な思想を謳歌出来る日本を守るためにいるのさ。俺たちに出来ることをしてりゃぁ、それでいい」
「日本は民主主義国家……だからこそああいう人たちもいる。でも、だからってその人たちを守らなくていいなんて思わないでね、酒匂」
提督と阿賀野の言葉に酒匂はコクリと頷き、「どんな人でもあたしは全員を守るよ!」と力強い眼差しで答えた。それを見た提督たちは思わず優しく微笑んだ。
すると執務室のドアがトントントンとノックされる。
「開いてるぞ〜」
提督がそう声を返すと、開かれたドアからワラワラと多くの駆逐艦の艦娘たちが入ってきた。その多くは複雑そうな表情で、中には涙ぐみ今にも泣き出しそうな者もいる。
「湿気た面してんじゃねぇよ……ったく、こっち来い」
提督がそう言って両手を広げると、泣きそうな駆逐艦たちはワァッと提督の元へ駆け寄った。
これはデモが行われた直後に良くあることで、デモ隊の言葉で艦娘たち(主に駆逐艦)が心を病んでしまうのだ。
それを提督は受け止め、励まし、彼女たちを鼓舞する。
「あんな奴らに何言われても、お前たちは俺ら日本人の誇りだ。胸を張ってこれからも頑張ろう。お前たちの頑張りは俺が一番近くで見てるし、多くの人たちもそれを見てる」
泣きそうな者たちはとうとう涙を零した。しかし提督の言葉にうんうんと頷き、提督にしがみつく。
提督にしがみついているのは吹雪型駆逐艦九番艦『磯波』、綾波型駆逐艦十番艦『潮』、夕雲型駆逐艦十四番艦『沖波』。
三人共、素直で純粋。普段は笑顔が絶えず、提督や人々のために尽力する心優しい子たちだが、だからこそデモ隊の言葉が胸に刺さったのだ。
その一方で、
「あんな奴らも守らなければならないとは……正直なところ、解せんな」
「全くだ……でも僕らが守らなきゃ、誰も彼らを守れない。何とも言えないよな」
「私たちにあんな主張するより、深海棲艦に主張してきなさいって感じよね……基本的にあっちが先に攻撃してくるのに」
デモ隊に対する不満をぶつける者もいる。それは陽炎型駆逐艦十二番艦『磯風』と秋月型駆逐艦四番艦『初月』、そして吹雪型駆逐艦五番艦『叢雲』だ。
磯風は少し天然混じりなところがあるものの、いつも堂々としていて裏表の無い艦娘。料理が趣味で提督から料理のいろはを叩き込まれ、最近やっと普通の厚焼き玉子を作れるようになった。
初月は凛々しく、提督に従順な忠犬勢。提督から頭を撫でてもらうといつもの凛々しさは消えてしまう。
因みに着任当初から食料事情が乏しいことで有名な秋月型姉妹だが、今では改善している。ただし回転寿司に連れて行くとみんな感動の涙を流す。
叢雲は電の次に着任した駆逐艦で提督のことを信頼し、高く評価している。着任当初はつっけんどんな態度をとっていたが、今ではいい上官と部下の距離。
そんな磯風たちには阿賀野たちが『まあまあ』と本人たちの気持ちを汲みながら提督の代わりにフォローする。
「その気持ち、阿賀野も十分分かるよ。でも命は平等で思想が違うというだけで見殺しにしていいなんて考えちゃダメだからね? 国民の自由を守るために阿賀野たちがいるのよ」
阿賀野がそう言葉をかけると、磯風たちは自分たちの気持ちを落ち着かせるように頷いて見せる。
すると提督がふと口を開いた。
「日本の今の左派ってのは世界の左派とは違うからな。世界の左派はどれだけ左派でも、その根底では国のことを考えてるもんだ。当然右派もな」
「だが日本の左派の活動家は国や国民なんてどうなってもいいみたいな主張をしやがる。奴らの主張を例えるなら、防犯のために警備会社と契約したらその家は強盗団に目をつけられるって言ってるようなもんだからな」
「あんな風になっちまったら左派ってのは政治思想でもねぇし、まして哲学でもイデオロギーでもなんでもねぇ……ありゃただの病気だ」
「だから患者を守るって思ってた方が変に無駄なエネルギーを使わなくて済むぜ?」
真面目に話していた提督が最後はケラケラと笑って言い放つと、磯風たちは勿論だが、提督にしがみつく磯波たちもみんなして笑みを浮かべた。
「そんなこと司令官が言ってもいいの?」
「提督が言うから説得力があるんじゃないか?」
そんなことを言いながらも叢雲と初月の顔は笑っている。
「磯風たちが言えないことを司令は率先して言ってくれているんだ。こんなにも心強いことはないじゃないか」
そして磯風も笑って言う。
「言っとくけどな、俺がさっき言った言葉は俺の中学ん時のガッチガチの左巻きの社会科の先生が言ってたんだからな? 日本の左派は左派じゃねぇって」
「それはそれで凄い先生ですね……」
「でもそういう左派の人の方がいいかも……」
「本当、人それぞれですね……」
提督の言葉に磯波、潮、沖波は涙を拭きながらも、小さく笑って返した。
そしていつの間にか、執務室は笑い声が溢れていた。
すると、
「さぁさ、みんな、おやつ時だしお菓子でも食べてリラックスしましょ♪」
「お茶もジュースもあるから、好きなだけ堪能してね♪」
「甘い物を食べてリフレッシュよ♪」
「いっぱいあるからね〜♪」
阿賀野たちが執務室の戸棚や冷蔵庫からお菓子やジュースを取り出して、みんなへジャーンと見せる。
「そういうこった……好きなだけ食えよ!」
『は〜い♪』
こうして執務室はそのままおやつタイムへと移行するのだった。
ーーーーーー
みんなしてソファーに座り、ワイワイサクサクモキュモキュとおやつタイムを過ごす。
「やっぱりキャベツ〇郎は飽きのこない至高の一品だな」
「秋月姉さんもそれを良く食べるよ。照月姉さんと僕はこっちのポテトフ〇イだけど……」
「それってポテトフ〇イなのに原材料には小麦粉とコーンスターチも使われてる不思議なお菓子よね。美味しいけど」
叢雲がそう言うと初月はまるで稲妻に打たれたかのように「えぇっ!?」と声をあげる。
「まぁ、駄菓子なんてそんなもんだろ。ビッ〇カツだってスケトウダラ使ってるしな」
「あれはスケトウダラだったのか……あれをおかずにするとご飯が進むんだが」
「で、でもでも! 確かにご飯に合うお菓子って凄いですよね!」
立て続けにショックを受ける初月に沖波がフォローを入れると、初月は「そうだよな!」とキラキラした笑顔を見せた。
「そういや、俺がガキだった頃。犬かなんかの糞を見たあとにチョコバ〇ト食いたくなって駄菓子屋へ行ったなぁ」
「ちょっと、食べてる時にそんな話しないでよ!」
「矢矧ちゃんが食べてるのは丁度チョコバ〇トだもんね〜……」
「それもホームランでもう一本って喜んでたのにね〜」
矢矧からテシテシッと二の腕ら辺を叩かれた提督は「すまぬすまぬ……」と反省。
「……あ、やはぎん、お前の好きなふ菓子とかりんとうもあるぞ? 食べrーー」
「このタイミングで似たような物を勧めないでくれない!?」
「ひぃぃぃっ!」
「は〜い、提督さん、怖くな〜い怖くない♡」
善意が空振る提督を阿賀野が優しく慰める。一方の矢矧はそれでもふ菓子とかりんとうは好きなのでキープしている。
「というか、よくそういうのを見たあとにチョコバ〇トとか食べたくなったわね……」
「そういうところが提督だよね♪」
叢雲のツッコミに磯波がクスクスと笑いながら返すと、他の面々も『だね〜♪』と口を揃える。
そんな中、ふと「ピュ〜♪」という可愛らしい音色が聞こえた。みんなが音のした方向を見ると、潮がフ〇ラムネをニコニコしながら吹いている。
しかし、みんなの視線に気が付いた潮は顔を真っ赤にしてラムネをカリカリと噛んでしまった。
「恥ずかしがることぁねぇだろ?」
「あたしもフ〇ラムネ好きだよ♪ 楽しいよね♪」
提督と酒匂のフォローに潮は顔を赤くしながらも、コクコクとはにかみつつ頷く。
「提督、フ〇ラムネで何か一曲吹けますか?」
「なんて無茶振りをするの磯ナミン」
「ちょっと、私の妹をアリ〇ミンみたいな名前で呼ばないでくれない?」
「わ、私は結構そのあだ名気に入ってるよ?」
「嘘でしょ……」
「変かな……?」
「で、司令。何か吹けないのか?」
「吹けるなら僕も聞いてみたいな」
「…………じゃあ、適当に一曲」
そう言って提督はフ〇ラムネを咥え、それが飛ばないように指で押さえて胸いっぱいに空気を吸う。
そして、
「ピーピー♪ ピッピピピッピ♪ ピッピピピピッピー♪」
見事に曲を奏でた。
しかし、
「なるほど分からん」
「提督……その、良かったと思う。うん」
「何を演奏したかは謎だけど、よく吹けてたわよ♪」
なんの曲かは全く伝わらなかった様子。
「頑張って無茶振りに答えたのに〜!」
そんなみんなの反応に提督はオヨヨヨと阿賀野の胸に顔を埋める。
「阿賀野は分かったよ〜。軍艦行進曲だよね?」
「そうだ! 流石俺の嫁さん阿賀野だ〜!」
「えへへ〜、阿賀野は何でも分かっちゃうんだからぁ♡」
という茶番をみんなに見せつつ、デモの日も鎮守府の一日は明るく過ぎていくのだったーー。
今日は前半真面目、後半はいつも通りにしました!
前半部分は私の個人的な意見なのでご了承を。
読んで頂き本当にありがとうございました!