提督が海上訓練を見ている頃、中庭では静養組の艦娘たちがベンチに腰掛けて空を見上げていた。
「あ〜……日差しが寝ぼけ眼にしみる〜」
「ゲームしてたら朝だった……」
体を背もたれにだらんと預け、脱力感に満ち満ちているのは夕張型軽巡洋艦一番艦『夕張』と吹雪型駆逐艦三番艦『初雪』。
夕張はオタク気質で凝り性なちょっと変わった子。手先が器用でプラモデルを作らせると明石よりも完成度が高い。自分の話をいつも笑顔で聞いてくれる提督のことが大好きなLOVE勢の見守り勢で、阿賀野から惚気を聞かされてもニコニコしている。
初雪は暇な時は大抵望月などとゲームしているダウナー。出不精であるが任務は一生懸命取り組み、やれば出来る子。提督ともゲームをしたりするので、提督によく懐いている。
「珍しく外にいると思えばこれだよ……」
「あはは、まぁそれが夕張さんと初雪姉さんだから」
そんな夕張たちが座るベンチの隣のベンチに座って、話をしているのは夕雲型駆逐艦四番艦『長波』と吹雪型駆逐艦十番艦『浦波』だ。
長波はいつも自信満々で周りを引っ張るムードメーカー。提督の生き様に惚れているLOVE勢であり、提督を前にすると急にしおらしくなる一面も。
浦波は元気でハキハキしている艦娘。姉妹の中では一番家事が得意で家庭的な子でもある。提督に頼られるといつも以上に張り切る忠犬勢。
「あ〜、このまま溶けたら気持ちいいだろうな〜」
「分かる……全てに解放される感じは最高」
ただ単に夕張たちは寝不足なので眠いだけである。
「任務なら二人共しっかりしてるのに、それ以外はダメダメだな〜」
「まぁまぁ、長波……」
「だって二人共徹夜でゲームしててこうなってんだろ? しかもオンラインゲーム……」
夕張と初雪は寮は違えど会えない距離じゃない……なのにわざわざオンラインゲームを長時間に渡ってするというのが長波にとっては不思議でならないようだ。
そんな長波に夕張も初雪も掠れたような声で『だって協力した方がイベは有効なんだもん……』と返す。
「まぁ個人の趣味だからあたしだって強くは言わねぇけどさ〜、生活リズム崩すなよな? 後々任務に響いたりしたら、提督に一番迷惑かけちまうんだからさ」
「そうやって長波様はまた提督のことを引き合いに出して、私と初雪を批難するのね……」
「司令官が大好きだからこその言葉ですよね分かります」
「適当なこと言ってっとぶん殴んぞ? お?」
笑顔で拳を握り、こめかみをピクピクさせる長波を浦波が「まぁまぁまぁ!」と慌ててなだめる。しかし眠気でテンションがおかしい夕張と初雪は全く悪びれる素振りがなく、二人はのうのうとシロップサイダーを飲んで喉をクピクピと鳴らすのだった。
「ったく……そんなに眠いなら昼過ぎまで寝てりゃ良かったじゃねぇか」
「私の部屋は深雪がうるさくて眠れる雰囲気じゃなった……」
「私は矢矧に叩き起こされて二度寝なんて許されなったわ……」
二人の言い分に長波は「自業自得だろ……」と呆れつつ返すと、二人して『ごもっともでさ』と反論出来ない。
夕張も初雪も長波が言ったように生活リズムを崩すさないように敢えて起きているので、二人共それなりに反省はしているのだ。
「あ〜、もう無理。何かしてないと眠っちゃう〜」
「睡魔が私を誘う〜……何か気を紛らわせるようなことしないと……」
すると二人は何か期待するような目をして長波たちを見ている。
「…………浦波、頼む。今のあたしだとこいつらをサンドバッグにしてフルボッコにすることしか思いつかねぇから」
「えぇ〜……」
夕張と初雪は何か期待するような目をして浦波を見ている。
「ん〜……しりとり、とか?」
なんとか適当な遊びを絞り出すことに成功した浦波。それに対して長波は「頭使うしいいんじゃね?」ということで、取り敢えずしりとりをすることに……。
「んじゃ、浦波からであたし、初雪、夕張って順にすっか。浦波好きなの言えよ」
「うん、分かった……え〜っと、じゃあ『神の見えざる手』」
「初っ端からコア過ぎんだろ……別にいいけど。"て"だから……提督! 初雪、"く"だぞ"く"」
「デビルメイクラ〇」
「あれは神ゲーだったマル」
『………………』
しりとりをしているのにしりとりにすらなっていない初雪と夕張。そんな二人の発言に浦波も長波も思わず呆気に取られる。
「え、え〜と、ルクセンブルク」
それでも浦波は戸惑いながらもちゃんとしりとりを再開。長波としてはもうやらなくてもいいんじゃね……と思ったが、浦波が続けたので自分も乗ることにした。
「く……く……農具のクワ。初雪"わ"だかんな"わ"」
「鬼〇者」
「あれは名作だったマル」
『………………』
「だ〜っ、もう! やる気ねぇなら最初からやらすな! そもそもなんで二つともカプ〇ンなんだよ!」
一巡目と何も変わらない二人に対し、長波は立ち上がった。堪忍袋の緒がとうとうブチ切れてしまったのだ。
「まぁまぁまぁまぁ、長波! 抑えて抑えて!」
「これが抑えてられっかよ! つか、浦波はなんでなんも文句言わねぇんだ!?」
「いやぁ、よくあることだから慣れちゃってて……」
「ならもっとこいつらの目を覚ますようなこと提案しろよ!!」
「にゃう〜……急には思いつかないよぉ」
「長波〜、私の妹をいじめるな〜」
「八つ当たりはダメよ〜?」
「そもそも二人のせいだろうがぁぁぁ!」
長波の叫びはこだまする程であったが、対する夕張と初雪は呆然とするだけ。
これに長波はもうやだ……とベンチに座り込むと、今までの疲れがドッと押し寄せてくるかのような脱力感に苛まれた。
「すげぇ声がしたが、なんかあったか〜?」
そこへ提督がひょっこりと現れる。
海上訓練が休憩時間になったので提督はトイレに用足しへ行く途中で、その時に長波の叫び声が聞こえたので様子を見に来たのだ。
突然の提督の登場に長波はすぐさま前髪やスカートの裾を整え、乙女オーラ全開。提督が自分たちの側へ到着する前には身支度を済ませるのだった。
「あ〜、提督だ〜。どうしました〜? 新しい艤装のテストでもするの〜?」
「いや、そういうんじゃねぇ……てかかなり眠そうだな」
提督の言葉に浦波が夕張たちの状況を説明すると、どうして長波が叫んだのかまでの過程も容易に想像がつき、長波の頭を優しくポンポンと軽く撫でる。
「んぁ……な、なんだよぅ、提督〜?」
「二人に振り回されたんだろ? ご苦労さん」
「べ、別にそんなんじゃ、ねぇよ……♡」
そう言って長波は提督からプイッと顔を逸した。しかし口では否定した長波だが、その逸した顔は妙に頬が緩んでいて嬉しそう。
長波のそんな表情を浦波は位置的にバッチリと見てしまったが、敢えて触れずに黙秘するのだった。
「それより、眠いなら寝た方がいいんじゃねぇか?」
長波の頭をポンポンしつつ提督は二人に声をかけるが、二人は『寝ぬ』とだけ返して寝る気はないということを主張。
「ったく、変な意地張りやがって……」
それから提督は「しゃぁねぇ」とつぶやいたあとで、通信機でとある者たちへメールを送る。
「来たわ、提督♡」
「お〜っす、提督〜♡」
「来たにゃ〜♡」
連絡してから数秒でやってきたのは雲龍と古鷹型重巡洋艦二番艦『加古』と多摩という昼寝大好きっ子たち。
加古は寝ることが好きな艦娘だが海に上がれば勇ましく戦う加っ古良くて頼もしい子。自分を改二まで育て上げてくれた提督のことが大好きなLOVE勢で、提督と昼寝するのが好き。阿賀野との仲も本当の姉妹みたいだが、その一方で古鷹は妹が二人に増えた感じになっているそうな……。
どうして提督がこの三人を呼んだかというと、三人は艦隊の中でも寝ることに関しては3トップを誇るので、夕張と初雪も一緒に昼寝させるよう頼んだから。
雲龍たちは艦隊のみんなから『昼寝三銃士』と呼ばれており、最近ではそんな彼女たちを昼寝大好きっ子として『ヒルネンティーノ』と呼ぶようになっている。因みに提督が命名。
「おう、相変わらず早かったな」
「提督のためなら……」
「例えこたつの中、布団の中……」
「多摩たちは何処でも参上するにゃ!」
キリッとしたいい顔で言う三人だが、その言葉は何とも言えない。
「んじゃ、メールしたように夕張と初雪の二人も一緒に昼寝させてやってくれ」
提督が改めて雲龍たちに頼むと、雲龍たちはまたもキリッとしたいい顔で提督へ敬礼した。
それを確認した提督は三人の頭をそれぞれポンポンと優しく撫でたあとで、またトイレへ向かっていった。
「さぁ、二人共。私たちと夢の世界へ行くわよ」
「提督にあそこまで心配させたんだから、大人しくあたしらと昼寝すんぞ〜」
「ちゃんと多摩たちが起こしてあげるにゃ」
三人はそう言うと雲龍が初雪を担ぎ、加古と多摩が夕張の肩と足をそれぞれ持ち上げ、有無を言わさずお昼寝スポットへ連行していった。
「はぁ〜、なんかドッと疲れた……」
「あはは、お疲れ……」
「つぅか、シロップサイダーの瓶そのまんまじゃねぇか……」
「あぁ、それなら私が片付けるよ。これから酒保に行くし」
「ならあたしも付いてくわ」
「ホント? じゃあそのまま私たちの部屋でお茶しない? 昨日綾波たちからクッキー貰ったからさ♪」
「お〜、そんじゃご馳走になるわ〜」
こうして長波と浦波も中庭をあとにした。
ーーーーーー
中庭の脇にあるトイレから出た提督はしっかりと手を洗ったあとで、ハンカチで手を拭きながら出てきた。
すると何者かとぶつかってしまい、提督は大きくバランスを崩す。
「すみません、提督殿」
そんな提督を咄嗟に抱き寄せ、謝罪を述べたのは特殊船丙型『あきつ丸』。
あきつ丸は陸軍出身の揚陸艦であるため、いつも礼儀正しく実直な子。陸軍は「艦」という漢字を使わないため、正確には船娘であるが海軍が直接指揮しているので艦娘と一括にされている。提督のお陰で艦娘たちとの仲も良好で、提督にはとても感謝していて尊敬している。
「お〜、あっちゃんか。ありがとう、転けずに済んだぜ」
「いえ、元はといえば自分の不得の致すところ。もし転んで怪我でもさせてしまったら切腹物であります」
「大袈裟だっての……」
「やはりあなたはお心優しい御仁であります。自分はまた提督殿の良いところを見つけたのであります!」
まっすぐで綺麗な目をして提督へ尊敬の眼差しを送るあきつ丸。少々大袈裟なところはあるがこれもあきつ丸の長所で短所なのだ。因みにあきつ丸はトイレ掃除をしに来ていた。
すると、
「トイレの前でどうして抱き合ってるの?」
提督にとっては凄く聞き慣れた声といくつかの鋭い視線が突き刺さった。
恐る恐る声のした方へ提督が視線を移すと、
「提督さん、浮気? ねぇねぇ、浮気? ねぇねぇねぇ?」
愛する妻である阿賀野が絶対零度の微笑みで佇んでいる。更にその後ろには矢矧、加賀、瑞鶴も一緒だ。
「も、ももも、戻って来てたのか、マイハニー」
「うん。阿賀野がMVPだったの」
「そ、そうかかかか……おかおかおかえりりり」
「奥方のお戻りですね。提督殿、自分はこれよりトイレ掃除を開始致します故、失礼するのであります」
そう言うとあきつ丸は提督から離れて行ってしまった。
「あ、阿賀野……さっきのはぶつかった拍子にああなってだな……」
提督はちゃんと阿賀野の目を見て訳を話す。対する阿賀野は暫く何も言わず、ただただジーッと提督の目を見つめていた。
「むぅ……それにしたってずっとぎゅ〜ってしてるなんてぇ……」
「す、すまねぇ……」
「じゃあ、阿賀野のこともぎゅ〜ってして?」
阿賀野がそう言って両手を広げたので、提督は「勿論さ」と阿賀野を強く抱きしめる。すると阿賀野はあきつ丸の残り香を掻き消すように、提督の胸板に顔をグリグリと押し付けたり、提督の頬へ頬擦りしたり……まるでマーキングするかのように提督へ甘えた。
「どっちにしても頭に来ました……」
「あんの馬鹿夫婦〜……」
(いいなぁ、阿賀野)
そんな夫婦を義妹や加賀は睨み、瑞鶴は思わず指を咥えて眺める。
その後、みんなの前でキスまでし始めた提督は、当然の如く矢矧からハリセンを喰らったーー。
前回の続きって感じに書きました♪
読んで頂きありがとうございました!