提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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試練発生

 

 9月某日、昼過ぎ。9月も終盤となり、泊地も気温や空気が秋らしくなってきた。

 鎮守府の活気は相変わらずだが過ごしやすくなった分、訓練や任務などでの掛け声もどこか張りがある。

 

 ー海上訓練用海域方面の埠頭ー

 

 そして食堂で昼食を済ませたあとで、提督はそのまま阿賀野、矢矧と共に埠頭へやってきた。今日の書類仕事はいつもよりか少ないので阿賀野たちと相談してから見にやってきた次第。

 午後の訓練では対潜訓練が行われる予定である。

 

 提督たちが埠頭に着くと既に標的役である潜水艦『伊五十八』ことゴーヤと『呂五〇〇』であるろーちゃんがウォーミングアップをしていた。標的といっても全く危険はなく、二人は攻撃を避けながら航行すればいいのだ。

 ゴーヤは元気でいつもニコニコしている艦娘で面倒見も良い。提督を敬愛する忠犬勢であり、提督も妹のように思っている。

 ろーちゃんは元ドイツ潜水艦『U-511』で着任当初はユーちゃんの名で親しまれていたが、改造した際に名を今の名に変えた。

最初は引っ込み思案で馴染むのに苦労したが、提督のお陰で艦隊に馴染むことが出来た上、改造して明るい性格になった艦娘。

そのためかろーちゃんは提督大好きっ子なLOVE勢でガチ勢。将来は提督のお嫁さんになるのが夢。しかしいつもそう言っているので提督からは『娘が父親に言うそれ』みたいに捉えられているとか。

 

 提督たちが桟橋に着いた頃、丁度浮上したろーちゃんは提督とガッチリ目が合う。するとろーちゃんはパァッと「。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。(こんな)」表情を浮かべ、いそいそとやってきて桟橋に上がった。

 

「提督、こんにちは〜ですって♡」

 

 ろーちゃんはそう言ったあとで阿賀野と矢矧にも挨拶をすると、提督のすぐ右側を陣取る。

 そのさり気ない行動に阿賀野は思わず笑顔が固くなるが、

 

「お〜、ろーたん♪ 今日も元気いっぱいだな♪」

 

 提督は娘を溺愛する父親のようにデレデレしながらろーちゃんの両頬をムニムニと撫でる。髪が濡れている時は頭を撫でるより、頬を撫でる方がろーちゃんは喜ぶからだ。

 

「えへへ、提督にほっぺなでなでされるの好き〜♡」

「そうかそうか♪ ならもっとやってるぞ〜♪」

 

 そう言うと提督は「それ〜!」と先程より激しくろーちゃんの頬を撫でる。そうされてろーちゃんは「あわわわ♪」と嬉しそうにしているが、それを隣で見ている阿賀野のドス黒い笑みに矢矧は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「もう、ろーちゃん! ウォーミングアップまだ終わってないよ〜!」

 

 そんなろーちゃんの元へゴーヤがやってきた。

 

「ご、ごめんね、でっち……大好きな提督がいたから来ちゃった」

「だからってサボっちゃダメ。サボっちゃう子はてーとくに嫌われちゃうからね?」

 

 ゴーヤに注意されたろーちゃんは顔を真っ青にし、ウォーミングアップを再開するために急いで海に戻った。

 

「ごめんなさいでち、てーとく」

「いいっていいって。それより今日は標的役頼むな」

 

 提督はそう言ってゴーヤの頭をポンッと撫でると、ゴーヤは「はいでち♪」と返して自分もまた海へ戻る。それを三人が見送ると桟橋がキシッと小さく音を立てた。

 

「アドミラル、ここにいたのね。探したわ」

 

 提督の元へやってきたのは艦隊唯一のイギリス戦艦『ウォースパイト』。

 英国淑女たる振る舞いをし、自信にあふれる艦娘で提督を尊敬する忠犬勢。提督の手料理が好きで日本に来て太ったのが最近の悩みなんだとか。提督からは『ウォスパちゃん』と呼ばれいる。

 

「お〜、ウォスパちゃん。まだ雷撃回避訓練の時間じゃねぇぞ?」

「そんなこと知ってるわよ。そうじゃなくて、休暇申請書を持ってきたの」

 

 ウォースパイトは提督へ書類を渡すと、提督はすかさずそれを確認。それから通信機で執務室にいる能代へ確認を入れ、それが終わるとボールペンで書類へサインしていく。

 

「ん、問題なく受理する。外出許可書はいいのか?」

「外へ行く予定はないわ。明日、明後日と私は部屋で映画を観てゆっくりしたいの」

 

 ウォースパイトの言葉に阿賀野が「何を観るの?」と訊く。

 

「まだ決めてないわ。訓練が終わったら酒保へ寄って、面白そうな物を借りようと思ってるの」

 

 その質問に柔らかい笑みで答えるウォースパイト。その答えに矢矧が「いいのがあるといいわね」と言うと、ウォースパイトはそうねと言うように笑みを返した。

 するとウォースパイトは目的も果たしたので、自分が参加する訓練の時間になるまで部屋で休むとその場を去った。

 

 そのウォースパイトと入れ替わる形で二名の艦娘が桟橋へ足を踏み入れた。

 それは利根型航空巡洋艦一番艦『利根』とその二番艦『筑摩』だ。

 利根はいつも自信満々で頼り甲斐のある艦娘だが、少し抜けている部分もあるため、『情け姉』と呼ばれたりする。提督には高い忠誠心を持っていて、いい上官と部下の関係。

 一方の筑摩はいつも涼しい顔をして利根を支える出来る女。そしてその涼しい顔で敵を殲滅する徹底さも持つ。提督のことは好意的に思っており、『阿賀野さんに捨てられたら、私が姉さんとまとめてお世話してあげますね♪』と言っている影のガチ勢。

 

「どうした提督、お主が見に来るとは?」

「時間があるからこの目で確認しに来たんだ。いつも通りに頼むぜ?」

「ふふ、提督がいらっしゃるなら私たちより提督が指揮してくださいませんか? その方が此度の訓練のより良いものになりますし♪」

「応用訓練ならそうするが今回は基礎だろ。もう俺がとやかく言う必要はねぇさ」

 

 笑顔で提督がそう返すと、筑摩は「あらあら♪」と可笑しそうに笑った。そんな風に談笑する提督と利根型姉妹を横で見つめる阿賀野が、

 

「あ、あ〜、そうだ。提督さん、みんなが休憩する時に飲む物を用意した方がいいんじゃない? ね? ね!?」

 

 少々強引に提案してきた。

 阿賀野としては筑摩の本性までは分かっていない……しかし筑摩は提督好みの艦娘なのでちょっと不安なのだ。

 阿賀野はそのまま提督の手を取ると、有無を言わさず酒保へと向かうのだった。

 

「相変わらず忙しない夫婦じゃな♪」

 

 利根の言葉に筑摩は「うふふ、本当ですね♪」と笑って返すがその目はすごく濁っている。しかし筑摩はそれを矢矧に悟られないよう上手く誤魔化していた。

 

 ー明石酒保ー

 

 その頃、酒保は本日休みの艦娘たちがいつもより多くやってきていて結構な賑わいを見せていた。秋ということでみんな色々とあるのだろう。

 

「今日はシロップサイダーでも飲むか♪」

 

 飲み物を選んでいるのは高雄型重巡洋艦三番艦『摩耶』。男勝りで言葉は荒いが提督から貰ったトラのぬいぐるみを毎晩抱っこして寝ている可愛い子。因みにそのトラの名前は『がおくん』。提督のことは兄のように慕っている。

 

「摩耶、毛糸の色は何がいい?」

 

 摩耶の隣にやってきてそう訊ねるのは、同型重巡洋艦四番艦『鳥海』。いつも冷静沈着で頼もしい艦娘だが、怒ると姉妹一怖いらしい。提督のことを尊敬してる忠犬勢で夫婦がイチャイチャしているのを見るのが好き。

 

 鳥海は今年の冬に備えて姉妹で使えるお揃いの物を編む予定で酒保へ毛糸を買いに来ていて、摩耶はその付き添い。そのついでにおやつに食べる菓子を買いに来たのだ。

 

「何を編む予定なんだ?」

「マフラーにする予定。去年はイヤーマフだったから」

「ん〜……ならアタシはオレンジ」

 

 摩耶の回答を聞くと鳥海は「了解♪」と返して、また手芸用品の棚へ戻っていった。

 

 それを見送る摩耶は一足先に会計を済ませようとレジへ行くと、丁度会計している者がいた。

 

「あれ、がっちゃんも来てたのか」

「あ、摩耶ちん、ヤホー♪ 酒保に行くなら一緒したのに〜」

 

 摩耶が言う"がっちゃん"とは青葉型重巡洋艦二番艦『衣笠』のあだ名。決して「クピポー」と鳴くなんでも食べてしまう子ではない。

 衣笠はいつもノリ良いムードメーカー。提督とは互いにくすぐり合ったりするというふざけ合うほどの仲で、それはまるで兄妹みたい。なので阿賀野も嫉妬したりしない。

 

 摩耶は衣笠と同じ寮室であるため、互いのことをあだ名で呼び合う仲なのだ。因みに他の同室者は最上と加古。

 

「いや〜、がっちゃんが酒保に行く予定あるとは思ってなくてさ〜」

「それもそっか♪ というか、摩耶ちんは元々鳥海ちゃんと約束してたもんね♪」

 

 二人してワイワイキャッキャと話していると、明石が袋詰を終えた。衣笠は会計を済ませると「それじゃ、お先♪」とウィンクして酒保をあとにした。摩耶はそんな衣笠に手を振って見送ったあとで明石に会計を頼んだ。

 

「いらっしゃいませ♪ シロップサイダーのお供にこちらのお菓子もどうです〜? 新発売なんですよ♪」

「また新しいの出したのか……」

 

 明石に勧められた新商品を手に取り、パッケージを見る摩耶。酒保の菓子は信頼しているが摩耶はチョコのような甘い菓子の方が好きなので、それがどういう物なのか確認しているのだ。

 

 パッケージには『美味しさ電級! ブラック雷!』の文字と第六駆逐隊の電と雷の絵、そしてその商品を美味しそうに食べている暁と響の写真が載っている。

 

「また似非っぽいの作ったんだな〜……でもチョコバーなら買ってくか♪ 一箱くれ♪」

「は〜い、毎度あり〜♪」

 

 明石は上機嫌で商品を袋に詰める作業へ取り掛かった。因みに一箱に30個入っているので、なんだかんだ言いつつ摩耶は食べる気満々の様子。

 

 すると出入り口から提督夫婦が姿を見せる。

 

「いらっしゃいませ〜!」

「提督に阿賀野じゃねぇか、よ〜っす!」

 

「よう、明石、摩耶」

「二人共こんにちは〜♪」

 

 挨拶を交わし、早速提督は明石へ「みんなへ配る飲み物をくれ」と注文する。

 すると明石は「少々お待ちくださいね♪」と返して、摩耶の会計を済ませてから準備しに向かった。

 

「んだよ〜、提督が飲み物準備してくれるんだったら、アタシもそれにあやかれば良かったぜ〜」

「シロップサイダーじゃねぇぞ?」

「でもタダじゃんか〜」

「あはは、なら摩耶ちゃんもおやつの時間になったら飲みに来なよ♪」

「そこまでしねぇよ〜。ただちょっと意地悪言っただけだって♪」

 

 和気あいあいと談笑する中、鳥海が「こんにちは〜」と夫婦へ笑顔で挨拶しつつやってきた。

 

「あ、鳥海ちゃん……毛糸買って編物するの?」

「えぇ、姉妹でお揃いのマフラー編むの」

「へぇ〜、阿賀野も夫婦でお揃いのマフラー編もうかな〜」

「それはいい考えね♪ 編むなら一緒に編まない?」

「どうしようかな〜?」

 

 ガールズトークに花を咲かせる鳥海と阿賀野。その隣で、

 

「良かったな、提督♪ 嫁さんから愛のこもった手編みマフラーを今年の冬は巻けるみたいだぜ?」

 

 摩耶がニヤニヤした顔で、提督の脇腹を肘でウリウリと小突きながら言ってきた。それに対して提督は「お揃いか〜」と、はにかみつつも声は嫌がっていない。

 すると阿賀野が「そうだ♪」と言って手を叩く。

 

「なっが〜いマフラー編んで、それを二人で巻けばいいんだ!」

「それは……流石阿賀野さんね!」

 

 阿賀野の言葉に鳥海は興奮気味でメガネをクイクイ上げる。

 

「ま、待ってくれ阿賀野! それは流石に俺が恥ずい!」

 

 そんな阿賀野の提案に提督はすかさず待ったをかけるが、

 

「え〜?♡ 聞こえな〜い♡」

 

 と阿賀野は全く聞く耳を持たなかった。

 

「今年の冬は期待してるぜ!」

「より仲睦まじいお二人を楽しみにしてます!」

 

 こうして提督はひょんなことから冬の試練が発生するのだった。

 

 その後、明石が台車に提督が頼んだ飲み物を持って帰って来るまで阿賀野は鳥海と毛糸を選び、それを摩耶が提督の横で冷やかし、提督は真っ赤な顔を更に赤く染めた。

 

 そしてこの日の夜から、阿賀野は赤い毛糸で長いマフラーを編み始めたのは言うまでもないーー。




やっと夏イベで出た艦娘意外の全員を登場させることが出来ました……長かった(白目)
因みに夏イベで実装された艦娘の着任回はまだ先の予定なのでご了承ください!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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