ー鎮守府の正面海域ー
「提督さ〜ん!♡」
複縦陣の左先頭を駆け、大声で提督のことを呼ぶのは阿賀野型軽巡洋艦一番艦『阿賀野』。
提督の嫁であり、艦隊では軽巡洋艦ながらトップの戦果と練度を誇る猛者。
ただ戦闘以外ではそんなことを全く感じさせない。
「また始まったね」
「寧ろ今回は遅かったくらいなのでは?」
「阿賀野さんは司令官をとても愛してますからね」
そんな阿賀野を見ながら談笑するのは、複縦陣右側の先頭を駆ける暁型駆逐艦二番艦『響』とその後ろを駆ける陽炎型駆逐艦二番艦『不知火』……そして阿賀野の後ろを駆ける朝潮型駆逐艦一番艦『朝潮』の三人。
響は物静かで姉妹の中では一番大人っぽく、頼れる存在だ。
改二で名を『
不知火も響と同じで姉妹の中で一番落ち着いている。
駆逐艦とは思えない眼光を持つが、時折見せる突拍子もない行動や言動は駆逐艦らしさを物語る。
そして朝潮……この艦娘は戦闘中は勿論だが任務中や訓練中、如何なる時であれ決して油断はしない。
改二丁になったことでそこに余裕が生まれ、談笑している今も電探やソナーの反応には目を離していない優等生。
しかし提督のお陰(?)でノリも良い。
「阿賀野ちゃん、朝はちゅうしかしてないから司令成分がちょっと足りないんだね♪」
「ちゅうしかって……いつもはもっとなのか?」
そんな中、艦隊の最後尾を駆けるのは阿賀野型軽巡洋艦四番艦『酒匂』と言わずと知れた大和型戦艦二番艦『武蔵』。
因みに武蔵が不知火の後ろで、酒匂が朝潮の後ろ。
酒匂は誰とでもフレンドリーに話が出来る上、その場に居ればみんなから何かしら構ってもらえる天性の妹ちゃん気質の持ち主。提督や阿賀野からは良く甘やかされている。
一方の武蔵は我が道を行く誇り高い艦娘で提督とケッコンカッコカリ勢の一人である。
提督が子どもの頃に飼っていた犬の名前が『ムサシ』だったことに加え、武蔵本人の髪型も相まって提督からはかなり可愛がられているのだ。
武蔵は戦争が終わるまでに提督を手中に収めようとしていて、隙あらば提督を食べようとしている(性的に)ガチ勢の一人でもある。
「二人って、いつもはもっと長い時間ちゅうしてるよ〜?」
「それは羨ま……けしからんな」
本音が出かけた武蔵は咄嗟に違う言葉を返した。そんな武蔵に酒匂は敢えて気付かないふりをしていると、
「お〜い!」
いつの間にか埠頭にまで来ていたらしく、提督と矢矧、そして妖精たちが艦隊を出迎えていた。
ーーーーーー
「提督さ〜ん!♡ 会いたかった〜!♡」
「俺もだぞ、阿賀野〜!」
陸に上がるなり艤装を置き、提督の胸に飛び込む阿賀野。
提督はそんな阿賀野を抱きとめるとその勢いのままグルグルとラブラブメリーゴーラウンド。
二人共同じくらいの身長なので回っていてもバランスは取りやすいらしい。
そんないつも通りの二人を放置し、妖精たちは艦隊のみんなに飲み物やタオルを渡し、みんなの艤装は専用コンテナに積んでいく。
「…………被害報告お願い」
提督たちをひと睨みした後、代わりに矢矧がそう言うと酒匂、武蔵が旗艦である阿賀野の代わりに報告する。
ーーーーーー
「ーーといった具合だ。これといって問題はない」
「みんな無傷だもんね〜♪」
「了解、みんなお疲れ様。補給と精密検査したら休んで頂戴」
矢矧の言葉にみんなが『了解!』と敬礼する中、
「提督さん……阿賀野のお腹に硬いの当たってる〜♡」
「ははは、人聞きの悪いこと言うもんじゃねぇぞ〜? これはベルトの金具だからな!」
「え〜、阿賀野残念〜♡」
相変わらず人目をはばかることもせず、今度は普通に抱き合ってイチャラブしている。
「やはり司令と阿賀野さんは強過ぎる。カッコ性欲が……ふふっ」
そんな夫婦を見て、不知火は不敵な笑みを浮かべてそう言い放つ。
「だらしねぇな」
更には真面目な朝潮からそんなセリフを吐かせ、
「Xорошо」
響はどこからその声を出しているのか不明だが、バリトンボイスでそう言った。
三人は趣向が似ており、三人が言ったセリフは一緒に観ていたお気に入りの動画でそれぞれ気に入ったセリフらしい。
矢矧がワナワナと肩を震わせ、それがいつ爆発してもおかしくない。
しかし矢矧よりも先に行動を起こした艦娘がいた。
「提督よ、この武蔵が無事に帰投したぞ♡」
それは武蔵だった。武蔵は阿賀野から提督を引き離し、自分の胸の谷間へ提督の顔を収める。二人の身長差故に丁度そうなるのだ。
「お〜、武蔵〜♪ よく帰ってきたな〜♪」
「ふふん、私がそう簡単に沈むはずないだろう?♡」
武蔵の好意を知ってか否か、提督は武蔵の両頬を犬でも撫でるかのようにムニムニと撫で、武蔵はそれにご満悦。
ただ阿賀野と武蔵の間には物凄い火花が見えており、傍から見れば修羅場にしか見えない。
するとそこへ、
「提督さ〜ん、みんな〜!」
市街地へ買い出しに行っていた艦娘たちが帰ってきたのだ。
「おぉ、帰ってきたのか。何か変なこと言われたりしなかったか?」
提督がそう声をかけると、みんな笑顔を見せる。それを見ると、提督は少しホッとした顔を見せた。
前とは違い、各メディアやマスコミの偏向報道やフェイクニュースは影を潜めたが、未だに日本国内の戦争アレルギーは根強いため、たまに艦娘に対して怒鳴りつける人間もいるのだ。
大本営は毎日のように記者会見を開き、国民に誤解無きよう、ホームページは勿論、テレビ、ネット、ラジオと幅広いメディアを通して、国民や記者の疑問へ真摯に答えている。
鎮守府へやってくるデモ隊はそれでも戦争をするなと訴えており、その中の多くが活動家だ。
しかしそんな中でも海で漁をしている途中に被害に遭った人々や貨物船沈没によって亡くなった乗組員の遺族などなど……やり場のない怒りをぶつけている者たちもいる。
しかし艦娘が身を呈して深海棲艦と戦っているのを知っている大衆の多くが艦娘を応援し、温かい言葉をかけているというのが今の世論だ。
こうした個人的感情はもうその人その人の分別に委ねるしかないのだ。
「あ、提督、帰りにゴミを拾ってきたわよ」
笑顔でそう言って提督に新聞紙を数部渡したのは白露型駆逐艦三番艦『村雨』。
大人っぽくて心優しく、面倒見の良い艦娘だ。
「毎回新聞と〜、朝見新聞が落ちてたっぽい〜♪」
続いて口を開いたのは白露型駆逐艦四番艦『夕立』という艦娘で、無邪気で何事にも真っ直ぐな子。
駆逐艦の中でも一、二を争う提督大好きっ子で提督を悪く言う人間は問答無用で沈める、ちょっとヤンチャ(?)な一面も。
その戦果はとても輝かしく、改二となってからは更にパワーアップし、駆逐艦の中では第三位。
「お〜、よく拾って来たな〜♪ 偉いぞ〜♪」
提督はそんな二人の頭をワシャワシャっと撫でると、二人共嬉しそうに顔をほころばせる。
「提督……それ、僕が見つけんだよ?」
提督の上着の裾を引っ張り、控えめに物言うのは白露型駆逐艦二番艦の『時雨』だ。
この子もまた提督大好きっ子で提督にだけは妙に従順であり、改二になってからはちょっと甘えん坊になったとか。
因みに駆逐艦の中で戦果は第二位の猛者。
そんな時雨に提督は「偉い偉い♪」と村雨たちと同じように頭を撫でると、時雨のケモ耳みたいな髪がピコピコと弾んで見え、嬉しさ爆発といった感じ。
「じゃあ早速やっちゃう?」
「一斗缶の準備はバッチリよ♪」
そう言うのは白露型駆逐艦一番艦『白露』と、みんなの保護者役を買って出てくれた長良型軽巡洋艦四番艦『由良』。
白露はネームシップとしてのプライドが高く、何事においても一番を常に志す向上心の高い艦娘。
一方の由良は提督とケッコンカッコカリ勢であり、提督をこよなく愛する艦娘の一人。
改二になってからその愛も増す一方で、油断していると提督の入浴中にそこへ突撃していくアグレッシブな艦娘だ。
さて、どうして一斗缶の準備が必要なのかと言うと、
「勿論だ! 早速『マスゴミ大炎上フェスティバル』を開催すっぞ!」
このためである。
提督はろくに取材もせず、真実を国民に知らせるという信念を無視。更には『報道しない自由』を行使した挙句、自国を悪と報道し続けた一部のマスコミが嫌いなのだ。
前より反日的なコラムや報道は減ったものの、少なからず未だにそうしたことをしているのが許せないと提督は公言している。
幼稚で安易なことかもしれないが、ゴミ処理という名目で提督がストレスや鬱憤をぶちまける絶好の機会なのである。
そんな提督に矢矧はすかさず「またそんな子どもみたいな真似をしないの!」と突っ込むが、既に提督はやる気満々のみんなと盛り上がっている。
「阿賀野姉ぇも微笑んでないで止めてよ!」
「えぇ〜、でも色んな意見があるのが民主主義だし〜、色んな批判が出るのも民主主義だよ〜? 全部が全部肯定されるのは民主主義じゃないよ〜?」
「そういう理屈じゃないの!」
うがーっと吠える矢矧。
すると武蔵が矢矧の肩をポンッと叩いた。
「マスコミには我々も大層好き勝手書かれている。合法殺人犯とか人の心を持った危険な兵器とかな……提督は我々の鬱憤を嗚呼やって馬鹿を演じ、発散させてくれてるのさ」
「分かってる……そんなの分かってるけど……でも!」
「嗚呼やってそんなことはあたしたちには関係ないって、あたしたちに教えてくれてんだよ司令は♪ 優しい人だもん♪」
酒匂の最後の言葉に矢矧は何も言い返せなかった。
提督は幼稚なことを良くやるし、嫌いな物事にはその場でハッキリとノーと言う。
それは艦娘がどういう気持ちで戦い、どういう気持ちで心無い言葉を受け止めているのかを深く理解しているから。
提督が破天荒なことをするから艦隊のみんなは腐らずにいられると言っても過言ではない。
現に他所の鎮守府ではマスコミやメディアからの心無い言葉に、心を病んでしまった者もいる……そうした中でここの提督は敢えてそうすることで、周りの余計な雑音を打ち消しているのだ。
他のみんなもそんな提督だから、自分たちを大切に想ってくれる人だから付き従っている。
矢矧は仕方のない人……と微笑みを提督に向けた。
「モンスターカード『サベツダー』を召喚されたら〜?」
『トラップカード『問題のすり替え』で消滅させる〜!♪』
「違う! 『滅びのバースト〇トリーム』で木っ端微塵にして、塵も残さないが正解だ!」
『サーイエッサー!♪』
「では最初にこの新聞をゴッドハン〇クラッシャーでグシャグシャにするぞ〜!」
『お〜!♪』
提督の号令で駆逐艦たちは楽しそうに新聞紙をグシャグシャのベシャベシャにしていく。
「提督さん、やめて! 新聞紙のライフはもう0よ!」
迫真の演技を見せる由良に提督もまた、迫真の「HA☆NA☆SE!」を見せる。
すると、
「っ!? マッチが……遠ざかっていく!?」
などと提督が言い出した。
「いや、俺が怯えているんだ! この新聞に火を灯すことに!」
そんな提督の手に由良や白露たちがそっと重ねる。
「由良達がいるわ、提督さん♪」
「提督さんは一人じゃないっぽい♪」
「僕達はいつでも提督と繋がってるよ♪」
由良、夕立、時雨の言葉に他のみんなも力強く頷く。
「みんな……ありがとう! 俺は絶対にマスゴミを許さない!」
そう言った提督はマッチを握りしめ、そのマッチで火を灯す。
「光の業火! エクゾード・フレ〇ム!」
最後とばかりにそう叫びながら新聞紙の入った一斗缶にマッチを放り込むと、その新聞紙を炎が包み込む。
みんなはその炎を囲んで、高らかに『炎上、炎上、大炎上〜♪ マスゴミ滅せよ〜♪』と大合唱。
そんなことをしていると提督は後頭部を何者かにスパーンッと叩かれた。
提督が「何奴!?」と振り返ると、
「茶番は終わったかしら〜?」
どこから持ち出したのか分からないが、ハリセンを持った矢矧がこめかみをピクピクさせながらニッコニコの笑顔を向けている。
それを見た提督は「助けて阿賀野〜!」と阿賀野の背中に逃げ込んだ。
「阿賀野姉ぇ、退いて! これ以上変なことをみんなに吹き込ませないために、私がここで提督を更正させる!」
「提督さんに手を出すのはだ〜めっ☆」
「大体阿賀野姉ぇがちゃんと注意しないからこうなってるのよ!?」
「提督さんは表現が過激なだ〜けっ☆」
矢矧が何を言っても阿賀野はキラリーンと提督を擁護し、優しく抱きしめる。
そのうち、他のみんなからもなだめられた矢矧は、
「今夜はやけ食いしてやる〜!」
と叫んで、執務室へ走っていってしまうのだったーー。
ネタをふんだんに入れた回にしました!
読んで頂き本当にありがとうございました!