提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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強過ぎる乙女たち

 

 10月某日、深夜。

 今日も今日とて任務に励む艦娘たちは、今宵も秋刀魚漁の護衛任務である。

 

『提督、敵艦隊を発見しました。敵はまだこちらに気付いていません。如何が致しますか?』

 

 通信機より今回旗艦を務める神通の問いに、提督はモニターで状況を確認。

 旗艦は羅針盤妖精を必ず身に着けるが、羅針盤妖精の他に執務室のモニターに映像を送る小型カメラも艤装に取り付ける。

 

「敵は見る限り水雷戦隊だ。重巡の姿も見当たらない。こちらは初春と初霜の二名を漁船護衛に残し、神通と川内、長良と名取の二手に分かれ、射程に入ったら挟撃だ。もうすぐ夜も明ける頃合いだから、弾を惜しむな。それと潜水艦にも注意しろ」

 

 そのお陰で提督は戦場に赴かなくても、的確な指示を出すことが出来るのだ。

 

 神通は『了解、直ちに行動開始します』と返すと艦隊へ合図を出す。提督との通信は各々で装着しているイヤホンを通じて聞こえているので、艦隊はスムーズに陣形を変える。

 

 ーーーーーー

 

 漁船はすぐさま灯りを消し、初春たちの指示に従う。

 一方で迎撃組は静かに敵との距離を縮めていた。

 

「まだ距離がありますけど、姉さんならいけますか?」

「ちょっとまだ厳しいね。一発で確実に仕留められる自信はないな〜」

 

 いつもならば砲撃している距離だが、此度の任務は護衛。砲撃すれば敵はこちらに気付き反撃するのは当然。すると流れ弾が漁船の方へ行く可能性もある……だからこそ川内は確実に仕留められる距離まで待ってほしいと神通へアイコンタクトする。

 

『ねぇねぇ、神通ちょっといい〜?』

 

 すると長良の声がイヤホンから聞こえた。

 

「どうしました?」

『敵は軽巡と駆逐艦で計十隻はいるよね?』

「いますね……長良さんに限って不安でも?」

『んなわけ無いじゃん♪ たださ〜』

「ただ?」

『どっちが多く倒せるか、勝負しない?』

 

 長良の提案に神通は眉をピクッと動かす。戦闘中に不謹慎ではあるが、これは長良と神通のよくあるやり取り。

 二人共に鬼教官として鎮守府で名を馳す猛者。勿論、二人でタイマンの砲雷撃演習はするが、本気でのぶつかり合いは禁止されている。

 なのでこういうスコアを争うことで本気のぶつかり合いをするのだ。提督もこういう切磋琢磨なら何ら問題無いと言っているので、神通も長良との勝負を断る理由が無い。

 

「長良さんは護衛任務という言葉をご存知ですか?」

『知ってるよ〜。敵を漁船に近づけさせなきゃいいんでしょ?』

 

 長良の答えに神通はクスリと小さく笑い、「仕方ないですね」と返した。それは即ち勝負を受けると言う意味だ。

 当然、この会話も執務室にだだ漏れだが提督からは何の言葉もないので黙認してくれるのだろう。

 

「あとで後悔しても知りませんからね!」

『そっくりそのままお返しするよ!』

 

 すると二人は同時に速度を上げ、一気に接敵していく。しかも丁度よく月が雲に隠れたのを確認してから。

 川内と名取も二人のタイミングに少々戸惑ったが、そこは姉妹。難なくそれぞれに合わせていく。

 

 ーーーーーー

 

「これで三つ!」

 

 既に三隻目を沈める神通。川内も砲撃はするがそれは神通へのアシストで、敵としては掠めるか回避するかの絶妙な狙撃。

 掠めても神通の主砲が頭を貫き、回避しても回避した先に神通が放った魚雷が炸裂するのだから、敵はなす術なく海へと沈んでいく。

 

「神通!」

「はい!」

 

 正にツーと言えばカー。絶妙なコンビネーションで神通はスコアを4に伸ばしていった。

 

 ーーーーーー

 

「遅い遅い! 全然遅い!」

 

 一方の長良は主砲の連撃で三隻目の敵を屠った。

 名取が探照灯で敵を照らし、敢えて砲撃を自身へ集め、長良はその間に闇夜に紛れて接敵。ゼロ距離からの砲撃に敵は何も出来ず、ただ海へその身を預けていく。

 集中砲火を受ける名取だが、まるで海上でダンスを披露しているかの如く回避し、掠りもしない。

 

「姉さん!」

「任せといて!」

 

 こちらも実に息の合った連携。敵は名取の探照灯照射で視界をやられ、視界が回復した頃には長良がいる……。

 月が雲から再び顔を出して戦場を照らした時、海に浮かぶのは艦娘のみだったーー

 

「こちらは5です」

「私も5〜」

 

 二人共同じスコアで引き分け。

 

 神通も長良も互いの健闘を称え合う。

 

「ですが……」

「最後は……」

 

「私が勝ちます!」

「私が勝つ!」

 

 その瞬間、二人して海面へ爆雷を投下。すると敵潜水艦が次々とそのまま海へ沈んでいく。

 川内と名取は敵の殲滅を確認すると、厳戒態勢を維持しつつ初春たちへ合図を送った。

 

 ーーーーーー

 

「灯りをつけても大丈夫ですよ」

「漁の再開じゃ」

 

 川内と名取の合図を確認したことで戦闘の終わりだと確信した初春たち。

 二人の言葉に漁師たちは「え、もういいのかい?」、「早いもんだなぁ」などと声をもらしつつ、再び灯りをつけて秋刀魚漁を再開するのだった。

 

「やはり神通と長良が揃っておれば、妾たちは楽じゃのぉ」

 

 再開した漁の風景を見守りながら、初春は扇子を開いて愉快そうに自身を扇ぐ。

 

「戦闘開始から5分以内で終わりましたからね〜」

「あの二人が海にいたことがあ奴らの運の尽きじゃて」

 

 初春の言葉に初霜は「ですね〜」と苦笑いを浮かべて返し、そうしている間に漁も無事に終えるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 無事に任務を終えて鎮守府へ戻ってきた艦隊。東の空は白んでおり、もう朝が訪れようとしていた。

 

「まさかまた引き分けだなんて〜……」

「これで五戦連続ですね。今回こそはと思っていたのですが……」

 

 桟橋に上がり、結果を悔やむ二人。勝ったら負けた方が甘味を奢るというスコア勝負なので、引き分けになるとご褒美がないのだ。因みに最後に勝ったのは長良で、神通はリベンジしたくてたまらないんだとか。

 

「二人がほぼほぼやっちゃったから、また不完全燃焼気味だよ〜、私は」

 

 そんな神通たちの背中を見ながら川内は愚痴をこぼすが、表情は明るいのでそれなりに発散は出来た様子。

 

「まあまあ、漁船の皆さんや私たちも怪我が無くて良かったって思えば……」

「妾は心地よい疲労感で眠れそうじゃ♪」

 

 名取が川内をフォローするも初春が満足そうにそんなことを言うので、川内は「私は心地よくない〜」と返す。

 

「それでまた提督におねだりするんですか?」

「ん〜……戦果はなくても交戦は出来たし、おねだりはしないかな〜、多分」

 

 初霜の質問に川内はすっとぼけたような答えをすると、

 

「姉さん、提督にご迷惑をかけないでください」

 

 神通が川内のすぐ真横にやってきて釘を刺した。

 こういう時の神通はおっかないので川内はこれ以上ご機嫌を損なわないよう、笑って誤魔化しながら補給室へ走っていく。

 それを神通は追い掛けたが、その表情はとても柔らかく、正に姉妹の戯れだった。

 

 ー執務室ー

 

「みんなお疲れさん。ささやかだが、みんなに朝飯を用意したから食ってくれ」

 

 執務室では変わらず提督が自慢の手料理をテーブルへ並べて待っていた。

 今回はシンプルに秋刀魚の煮付けと青菜のお浸し、そして豆腐とワカメの味噌汁だ。そして提督の手伝いをしたのは雷と夕雲で、二人は提督の役に立てた満足感で既にニッコニコ。その隣にいる矢矧もみんなのためにお冷を準備し、阿賀野はお茶碗にご飯をよそっている。

 

 みんなは嬉しそうにソファーへ腰を掛ける。

 

「こっちの器に入ってるのが敢えて内臓を取らなかった方で、こっちが内臓を取った方な。好きな方を食ってくれ」

「おかわりもたくさんあるから、いっぱい食べてね♪」

 

 夫婦の言葉にみんなは返事をしつつ、揃って『いただきます』をして、提督のおもてなしを身と心で堪能するのだった。

 

「骨まで柔らかくて美味しい……」

「今回は圧力鍋じゃなくて普通に煮込んで作ったんだ」

「流石提督ですね! とっても美味しいです!」

 

 初霜が満面の笑みで言うと、提督は「たくさん食えよ?」と返して初霜の頭をポンポンと撫でる。その隣に座る初春はその美味しさに恍惚な表情を浮かべていて、うっとり状態だ。

 

「苦味が食欲をそそるね〜♪」

「私は苦手だから、こっちのがいいな〜」

 

 内臓入りの煮付けでご飯を掻き込む長良に対し、川内は内臓無しのでご飯を掻き込む。そんな姉をそれぞれの妹たちはクスクスと笑いながら、自分たちも秋刀魚を口へ運んでいた。

 

「そういや、長良、神通。また引き分けだったな」

 

 提督が思い出したかのように例の勝負の話題を持ち出すと、二人は揃って苦笑いを見せる。

 

「長良さんは手強いですから」

「神通は強いからね〜」

 

 しかし仲良く互いを褒め合う二人。一方で矢矧と初霜は『強いで済む戦闘じゃなかった……』と思い返していた。その二人を凌駕するのが阿賀野というのだから、これもこれで驚きである。

 加えて五十鈴や由良、天龍、龍田、球磨、多摩といった面々もかなりの猛者であるため、提督が率いる艦隊の軽巡洋艦は全国にある鎮守府の中でもトップクラスだろう。

 

「まぁ引き分けはお互い悔しいだろうが、二人共凄ぇことには変わりなねぇ。本当、俺は部下に恵まれたぜ」

 

 提督はそう二人を褒めて、二人の頭を優しく丁寧に撫でる。すると二人は微かに頬を桜色に染め、揃って『えへへ……』と嬉しそうにはにかんだ。

 共に敬愛する提督から褒めてもらえるのはこの上ない喜びであり、これ以上ないご褒美。なので二人は先程までの悔しさは何処かへいってしまった。

 

 そんな光景を見て、初霜はつい「いいなぁ」と声をもらしてしまう。

 慌てて口を手で押さえたが後の祭りで、

 

「初霜エルも俺にとってちょ〜頼れる部下だぞ〜!」

 

 提督に激しく可愛がられてしまった。

 初霜はとても恥ずかしそうにしていたが、提督に褒められ、ナデナデされるのは大好きなので拒むことはなく、寧ろもっともっと……と自然に提督へ頭を擦り寄せているのだった。

 すると初春や雷、夕雲も自分たちにもとせがみ、提督は娘溺愛の父親のように締まりない笑顔でそれに応えていく。

 

「はぁ……本当、ロリコンなんだから。それもあんなにデレデレして……」

「矢矧も提督さんから甘やかされたいの?」

 

 苦言をもらす矢矧に阿賀野がそんなことを訊くと、矢矧は思わず「はぁっ!?」と声を荒らげる。こうした妹の機微な心境を察するところが姉の阿賀野だ。

 

「お〜、やはぎんもか! お〜よしよし♪ いつもいつもありがとな〜!」

「やっ……ちょっと! みんなの前でなんて……あんっ」

 

 抱きしめられ、ふんわりと体をホールドされたまま撫でられる矢矧は顔を真っ赤にして拒んでいるものの、いつもの威勢が全くない。やはり矢矧も褒めてもらうのは嫌ではないようだ。

 

「提督さ〜ん♡ 最後は阿賀野を褒めて〜♡」

「阿賀野は最高の嫁さんだぞ〜!」

「きゃ〜♪♡」

 

 そして最後はいつもの夫婦のイチャコライベントが発生。いつもは矢矧のハリセンイベントも発生するが、今回ばかりは矢矧も自分を褒めてくれたので見逃すのだった。

 

 ーーーーーー

 

 朝食を終えた艦隊は提督の前で横一列に整列。その列より一歩前に出た旗艦神通は直立不動で、ハキハキと此度の任務報告をする。

 最後まで口を挟まず報告を聞いていた提督は、神通が「ーー以上です」と報告を終えたあとで、神通と長良の二名に手招きして側へ来るよう指示した。

 神通と長良はキョトンとしながらも、ちゃんと提督の側へ歩み寄る。

 すると提督は、

 

「二人の働きで艦隊、そして漁船は何事もなく帰還出来た。本当によくやってくれた」

 

 椅子の上で姿勢を正し、二人の働きを大いに褒めた。

 勿論、川内と名取の協力や護衛に徹した初春と初霜も褒めたが、輝かしい戦果をあげた二人をうんと褒めたのだ。

 

「これからも精進して参ります。私のこの力は提督と艦隊のために」

「私ももっともっと頑張るよ! 私が頑張れば、司令官やみんなを守れるからね!」

 

 二人は提督の言葉に柔らかい笑みを見せて返した。

 そんな二人に提督は「期待してるが、ちゃんと俺や仲間を頼れよ?」と気遣う言葉をかける。神通も長良も抱え込むきらいがあるので、提督としては自分や仲間がいつでも二人の側にいると伝えたかったのだ。

 すると神通と長良は『提督には敵わないなぁ』と感じると共に、提督の優しさで胸がいっぱいになるのだった。

 

 それから艦隊が執務室をあとにしようとする際、提督は艦隊に内緒で神通と長良へ手作りの「芋羊羹」を手渡した。

 提督は「みんなに言うなよ?」といたずらっぽい笑みを見せると、二人は『言いません♪』と返して、羊羹の包を大切そうに抱えて戻るのだった。

 

 その後、提督は雷たちと一緒に食器を洗ったあとで、仮眠を取るために仮眠室へと向かい、後に備えるのであった。

 そして提督と一緒に夜通しで補佐を務めた矢矧も最後はあくびをしつつ、自身の寮室へと戻っていく。

 

 阿賀野はそんな二人の背中を見送り、秘書艦としての勤めを張り切るのであったーー。




前回の次の日ってことで書きました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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