提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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誘惑の多い季節

 

 10月某日、昼前。秋刀魚漁支援、護衛がそこそこ落ち着いてきた鎮守府は徐々にいつもの艦隊運用へ戻りつつある。

 そんな今日この頃、提督は書類仕事もそこそこ落ち着いてきたので、普段の運動不足を解消するために鎮守府の敷地内を散歩中。これには矢矧も「提督の体のことだから」と二つ返事で許してくれた。

 

 提督は左側の足は膝から下が義足であるが、軍人であるため散歩程度のことならば長時間行っても平気。加えて軍隊式の腕立て伏せや背筋、腹筋という基礎トレーニングもやっているので、見た目に反してスポーツマンである。

 

 そして提督が散歩していれば、ここの艦娘たちがそんな提督を放っておくはずもなく、提督の周りには既に複数の艦娘たちが集まって提督と同じ速度で散歩を楽しんでいた。

 

「いやぁ、絶好の散歩日和だな〜」

「せやな〜♡ そんな日を君と散歩出来るなんて、うちめっちゃ幸せや♡」

「私も提督とお散歩出来て幸せよ♡」

 

 提督の両サイドをガッチリ死守しているのは龍驤と雲龍。

 龍驤は提督の左側を陣取って優しく提督の手を取って歩いており、雲龍は右側から提督をいつでも支えられるように右腕を抱きしめている。

 そんな提督たちより前を歩くのは島風と時津風、そして秋月型姉妹である。更に駆逐艦たちの前には連装砲ちゃんや長10cm砲ちゃんといった自立型艤装がテコテコと歩いていた。

 

「え、島風は麦派なのか!?」

「ほら〜、やっぱりみんな麦派なのよ〜♪」

 

 駆逐艦ズは酒保で新しく出た『麦の畑』と『稲の田んぼ』というチョコレート菓子の話題で盛り上がっている。

 麦は麦チョコ、稲は米で作ったポン菓子をチョコでコーティングした通称『米チョコ』で、どちらも見た目は似ているが、大きさや味に若干の違いがあるのだ。

 

 因みに初月は米派で照月は麦派。そして島風が麦派ということで、初月はショックを隠しきれない様子。

 

「どっちかと言えばだよ? だって麦チョコの方が一粒一粒が大きいもん」

「でも米チョコの方がその分麦チョコより多く入ってるんだぞ!?」

「私はちまちま食べるより、ガッと食べる方が好きなの!」

 

 島風の言い分に初月は「くぅ」と悔しそうにしながらも、無理やり米派にしようとはしなかった。何故なら秋月が米派だから。

 よって最後は時津風がどちらかによってこの場の優劣が決まる。因みに照月は勝ち負けは気にしてないが、初月がコロコロと表情を変えるのが面白いので話題に乗っているのだ。

 そして初月は時津風に「どちら派だ?」と訊ねると、

 

「えぇ〜、あたし〜? あたしはね〜……」

 

 などと妙に勿体振る。しかし初月は真剣な面持ちで時津風の言葉を待った。

 

「あたし、チョコなら軍艦マーチがいい〜」

 

 まさかのチョイス。チョコ菓子という同じカテゴリではあるものの、初月が聞きたかったのはそういうことじゃなかった。

 しかしこれでキリよく引き分けということで、派閥抗争は幕を閉じることになる。

 

「ははは、駆逐艦らは楽しそうで何よりだな」

「せやな♪」

(まるで夫婦になったみたいでテンション上がるわ〜♡)

 

 提督の言葉に龍驤はちょっとした妄想をしつつ、デレッデレ。

 

「お菓子の話を聞くとお腹減って来ちゃうわ」

 

 しかし一方の雲龍は自身の腹を擦り、相変わらずの大食いキャラである。

 

「なんなら散歩ついでに酒保寄るか? 付き合ってもらってるし奢るぞ?」

 

 提督は雲龍にそう提案したが、雲龍は首を横に振って申し出を断った。

 いつもの雲龍ならば目を輝かせて頷くはずが、今日は違う。提督は驚き過ぎて雲龍が不治の病にでも患ってしまったのかと、急いでドックへ連れて行こうとした。何故ならここの雲龍はどんなに体調不良でもカツ丼大盛りを三杯は食べるからだ。

 しかし雲龍は違う違うと連れて行こうとする提督の手を引っ張る。

 

「体調が悪い訳じゃないの」

「じゃあどうしたってんだ?」

「君〜、この雲龍が昼寝もせずに散歩しとるんやで? ちょっとは察してやらなあかんで?」

 

 龍驤の言葉に提督は首を傾げるばかりで全く察することが出来ない。すると雲龍が少しだけ頬を赤くしながら「心配させちゃったから、ちゃんと言うわ」と観念するように伝えると、

 

「実はね……最近食っちゃ寝していたせいで、ちょっとお腹ら辺がポヨポヨになってきちゃったの……」

 

 提督に真相を話した。

 

「ん〜? そんな気にする程付いてるか? 変わらずくびれてるように見えっけどなぁ……」

「恥ずかしいからあんまり見ないで……」

 

 上官とはいえ、流石に女性のくびれを見つめるのはセクハラになるので提督は「おぉ、悪ぃ悪ぃ」と謝るが、

 

「いくら提督でも、太ってる私をじっくり見せるのは嫌なの」

 

 LOVE勢の雲龍としては違うベクトルの話だった。

 そんな雲龍に提督は「気にし過ぎだと思うけどな〜」と言うが、気にしてしまうのが乙女である。

 二人の話を黙って聞いていた龍驤は、雲龍の代わりに提督の胸ら辺を小突いた。

 

「気にし過ぎなくらいでええねん。乙女っちゃそういうもんや」

 

 龍驤にたしなめられると、提督は「そういうもんなのか〜」と苦笑いを浮かべて頭を掻くのだった。

 

「元の体型に戻った私ならいくらでも見せてあげるから、暫くは待ってね?」

「お? おう、でも無理はすんなよ?」

「えぇ、ちゃんと昼寝を控えて間食を抜いて、1日()()までにするわ」

「うんうん……へ?」

 

 聞き間違えかと提督は思ったが、雲龍はやはり4食と言った。ダイエットをしていない時は1日何食なのだろう……と提督は思ったが、知らぬがなんとやらということで深くは訊かないことにした。

 

「まぁ、秋の味覚は美味しい物が揃ってるからな。つい食い過ぎちまうのは仕方ねぇわな〜」

 

 提督がそうつぶやくと、

 

「確かに秋の味覚は危険だ。気がつくと思いの外食べてしまっているからな」

「そうね。食べ過ぎないようにしなきゃね」

「食べたら食べた分、運動もしなきゃ!」

 

 初月、秋月、照月がそう反応する。

 しかし三人は提督たちから『寧ろ三人は太るくらい食べろ』とツッコミをされるのだった。何故なら三人は未だに缶詰やレーションといった物で1食を済ませる時があるからだ。

 

「私たちみたいにいっぱい食べていっぱいお外でかけっこすれば大丈夫だよ♪」

「だね〜♪ そうすればあたしたちとも遊べるし〜♪」

 

 そんな三人に島風と時津風はそんなことを言って、揃って提督に『ね〜?♪』と同意を求めるように笑顔で提督の腹に抱きついた。

 

「あぁ、二人の言う通りだ」

「えへへ、だよねだよね♪」

「流石司令は話が分かる〜♪」

 

 提督に同意してもらえた二人は嬉しそうに提督の腹に頬擦りすると、提督はいつものように二人の頭をそれぞれポンポンっと優しく撫でるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 敷地をグルリと一周し、提督がスタートした本館の玄関に戻ってきた。

 あれから更に皐月や深雪、朝潮、松風といった面々も合流して賑やかな帰還となった提督。

 

「歩こ〜う♪ 歩こ〜う♪」

「私は速い〜♪」

「提督大好き〜♪」

「どんどん襲え〜♪」

「物陰〜♪ お風呂場〜♪ 布団の中〜♪」

「修羅場に発展〜♪」

「包丁が飛ぶよ〜♪」

「たくさん刺さって〜♪」

「あの世行き〜♪」

「おい、歌詞がえげつなくなってんぞ!」

 

 ほのぼのな歌のはずが雲龍と龍驤の介入により、みんなして何やらおかしな方向へ。寧ろ即興でここまで息が合うのは凄いことではある。

 すると、

 

「おかえりなさい、みんな。随分と大所帯になったわね」

「おっかえり〜♪」

 

 本館から矢矧と酒匂が出てきて、提督御一行を出迎えた。

 

「お〜、ただいま」

 

 提督が二人に対してそう返すと、他の面々もただいま〜とそれぞれ返す。

 

「もうお昼よ」

「マジか……となるとハリセン!?」

「しないわよ……というか、ハリセン喰らわすなら戻ってくる前に喰らわせに行くわ」

「ですよね〜……」

 

「阿賀野ちゃんと能代ちゃんがカレー作ったからみんなでお昼ごはんにするっぴゃ〜♪」

「うちらもゴチになってええんか?」

「ぴゃん♪ 司令は人気だからみんなと帰ってくると思って、ちゃんと大きなお鍋二つ分作ってあるよ♪」

「その一つは雲龍の分にしても大丈夫よ」

 

 矢矧が当然のように付け加えるが、雲龍は「でも今の私は……」とバツが悪そう。

 

「大丈夫大丈夫。雲龍は美人だから少しくらい太ったとしても可愛くなるだけだ」

 

 雲龍に提督はそう言って気遣うと、雲龍は「もう、調子いいんだから……♡」と珍しく照れている様子。やはり好きな提督からそんな言葉をかけてもらうと、雲龍でもくすぐったくなるようだ。

 

「……太ったら責任取ってね?♡」

「おう、いくらでも散歩に付き合うぜ♪」

「阿賀野さんからよく聞く、お布団の上で出来る有酸素運動がいいわ♡ 初めては痛いけど、あとは気持ちいいんでしょう?♡」

「マッサージの話な!? んな含んだような言い方やめれ!」

 

 雲龍の爆弾発言に提督がちゃんと返すと、矢矧も「まだ日が高いわよ」と注意する。対して雲龍は「ざ〜んねん♪」といたずらっぽく返した。

 

「ねぇねぇ、お布団の上で気持ちいい有酸素運動ってなぁに〜?」

「ボクも気になる〜!」

「あたしも〜!」

「私も気になるぞ!」

 

 駆逐艦の無邪気勢たちが雲龍の言葉の意味を知りたがったものの、提督は「だからマッサージの話だ!」と強く言い聞かせる。

 

「僕らにはまだ早いことだよ」

「後々知ることになるさ」

「深くは聞かない方がいいよ」

 

 一方で松風、初月、照月の知っちゃってる勢は頬をほんのりと赤く染めてやんわりと注意するのだった。

 

 ただ秋月と朝潮の真面目勢は『布団の上でも訓練とは、流石司令です!』と尊敬の眼差しを提督に送っていた。そんな二人の綺麗な目を提督は苦笑いしながら逸らすことしか出来なかった。

 

「はいはい、立ち話もこれくらいにして手洗いうがいをしに行くわよ」

「今日はカレーでも古鷹さんから教わった車海老が入ったシーフードカレーなんだって♪」

 

 車海老のシーフードカレーというフレーズに提督を含め、全員が目を輝かせる。するとみんなして足早に手洗いうがいをしに向かい、執務室で賑やかに食卓を囲むのだった。

 

 そして、

 

「提督さん、阿賀野が作ったカレー、美味しい?♡」

「めっちゃまいうー!」

「えへへ〜♡ いっぱい食べて、午後からも頑張ってね♡」

「おう! 阿賀野も午後からもよろしくな!」

「は〜い♡」

 

 夫婦もいつも通り辺りに砂糖を撒き散らしていたーー。




今回も色々とネタを打ち込みましたが、ご了承を!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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