10月某日、昼前。
泊地の寒さもそこそこ深まる中、艦隊は任務や訓練と変わらずの様子。
そんな中、執務室では新たに着任した艦娘が三名、提督と挨拶を交わしていた。因みに提督は先に挨拶を済ませたので、今は丁度新着任艦の一人が挨拶をするところである。
「Ciao! あたしは、そう、Luigi Torelliよ。そね、トレッリ……ん〜、ルイでいいや♪」
元気に挨拶をするのはイタリア潜水艦『ルイージ・トレッリ』。彼女の艦時代はかなり複雑な歴史があるが、本人はそんなことも何のそのといったところ。
今のところは『ルイ』で艦隊に馴染めるよう、提督もフォローしようと考えている。
「司令、神風型駆逐艦、旗風、参りました。お供させて頂きます。よろしくお願い致します」
一方で丁寧に頭を下げて挨拶するのは神風型駆逐艦五番艦『旗風』。春風と同じく物腰の柔らかい大和撫子な艦娘。
「海防艦、松輪です。あの……択捉ちゃんと一緒に……私も頑張ります……」
最後に弱々しくもしっかりと挨拶をしたのが択捉型海防艦二番艦『松輪』。
引っ込み思案なのか姉の択捉の手をギュッと握りっぱなし……しかし瞳は力強く提督の方を向いている。
「ルイに旗風、松輪な……よし、これからよろしくな!」
提督はニカッと笑って三人へ声をかけると三人共笑顔で返事をする。中でも松輪はホッとしたのか、やっと択捉の手を放すことが出来た。
するともうこれは恒例行事的な感じになっているが、提督は三人へ五百円玉を手渡した。勿論、この場へ三人を案内してきた神風と朝風、リベ、択捉にも。
神風たちは提督のこれにもう慣れたのでお礼を言って受け取るが、旗風や松輪はオロオロしていて戸惑いを隠せない。一方のルイだけは「おこづかいってやつだね!」と嬉しそうに受け取っている。
「あ、あの……これはどうすれば……?」
旗風の言葉に松輪も小首を傾げて神風たちを見つめる。
「お礼を言って受け取ればいいのよ♪」
「神風姉の言う通りよ♪ これは司令官の厚意なんだから♪」
「遠慮したら司令が悲しみますよ♪」
それぞれの姉たちからそう言われると、旗風は「大切に使わせていただきたく存じます」と深々と頭を下げ、松輪は「あ、ありがとうございます……」と戸惑いながらもお礼を述べた。
「おいおい、そう堅く受け止めんなよ。駄賃なんだからよ」
「は、はい……」
「お前は今日からここの仲間で家族だ。んで駆逐艦や潜水艦や海防艦なら俺と阿賀野の娘みたいなもんだからな……だからただ受け取りゃそれでいいのさ」
「はい、お心遣いありがとうございます」
「ありがとうございます、お父さん♪」
言ってから松輪はハッとして口を両手で押さえたが、周りにはバッチリと聞こえてしまったため、みんなから温かい眼差しを送られたのは言うまでもない。
提督も機嫌よく「そうだ、父ちゃんだぞ〜♪」と言って松輪の頭をポンポンっと叩くように優しく撫でると、松輪は「ぁぅぁぅぁぅ〜」と恥ずかしそうにしながらもナデナデを拒もうとはしなかった。
「あ〜! なんかズルい〜! あたしもナデナデして〜!」
松輪と提督のやり取りを見てルイがそう要求すると、提督は快く頷いてルイの頭も優しく撫でる。
こうなると勿論、
「提督〜! リベも〜! リベだって護衛頑張ったんだよ〜!」
「私と神風姉と旗風にもお願いね♪」
「旗風もですか!?」
「わ、私は別にナデナデされたくて頑張った訳じゃ……ナデナデされるのは嬉しいけど」
他の駆逐艦たちも自分にもしてほしいと願い出た。
こうなると提督は娘におねだりされてデレデレになった父親のように締まりのない顔で頷き、よ〜しよしよしと可愛がるのであった。因みに初ナデナデの旗風は「癖になりそうです……」とえらく気に入るのだった。
いつもならばここで矢矧のハリセン制裁なり鉄拳制裁が執行されるのだが、都合よく矢矧は別件でこの場にはいないので、代わりに残っていた酒匂が三人に鎮守府でのルールを説明し、その上で神風たちに三人をそれぞれの寮へ案内を頼んだ。
「……さて、ん〜じゃ、俺は歓迎会の準備に戻るな。さかわん、あとはよろしく♪」
みんなを見送り、足音が遠のいたのを確認して提督はそう言って立ち上がる。酒匂は「あたしにおまかせっぴゃ♪」と元気よく返すと、提督は酒匂にも優しく頭を撫でてあげた。
ー食堂ー
「阿賀野姉ぇ、鶏の唐揚げ出来たからこのお皿持っていって」
「は〜い♪ あ、矢矧〜、そのフライドポテトはもう油からあげていいよ♪」
「分かったわ」
その頃、食堂では間宮や伊良湖、を中心に多くの艦娘たちが厨房で料理をし、また多くの艦娘たちが妖精たちとテーブルへ料理を並べていた。
新しく着任したリシュリュー、アーク・ロイヤル、旗風、天霧、狭霧、ルイ、松輪への着任パーティの準備中なのだ。
今回は急ぎの任務もないため、午後からの任務や訓練を中止しての盛大なものとなる。これには着任パーティも勿論だが、秋刀魚祭りのお疲れ様会も兼ねているのだ。
秋刀魚祭りは祭りといってもその任務内容は全く祭りとは言い難い……なのでここでやっと艦娘たちに祭り気分を味わってもらおうと提督が阿賀野と決めた。
なので、
「鉄板の準備も万全やで♪」
「こっちの鉄板もいつでもいけるけぇ♪」
黒潮と浦風は一つのテーブルを陣取って『お好み焼き屋』を開き、
「鮎の塩焼きならぬ、秋刀魚の塩焼きクマ〜♪」
「イカ焼きもあるにゃ〜♪」
その隣では球磨と多摩が炭火で串に通した秋刀魚とイカを焼いている。
他にも各テーブルでは龍驤と大鳳の『たこ焼き屋』、雷と電の『イカズチ饅頭屋(小籠包)』、第六戦隊の『伊太利コロッケ屋』が並ぶ。
食べ物以外にも、第二駆逐隊の『クジっぽい(くじ引き)』、第四駆逐隊の『輪投げ屋本舗』、二航戦の『的あて(ダーツ)』と食堂内の一角で思考を凝らした娯楽屋を開いている。
お店という形式を取ってはいるが、どれも無料で食材や景品の予算は提督のポケットマネー。
「お〜、かなりゴールが見えてきたな〜♪」
食堂に戻った提督が入るなりそう言って周りを見回すと、阿賀野が即座にやってきて「おかえりなさ〜い♡」と抱きつく。それを見て、みんなも微笑まし気に夫婦を眺める。
それからは提督も厨房に入って料理を手伝い、昼から始まるパーティに備えるのだった。
ーーーーーー
「え〜、では、新しく着任した仲間、そして家族が増えたことを祝し、これより鎮守府の秋祭りを開催すっぞ!」
提督による開幕の挨拶に集まった艦娘と妖精たちは大きな拍手を送る。中でも祭り好きやお酒好きの艦娘たちは狂喜乱舞のような騒ぎようだ。
「よ〜し、みんなグラス持て〜!」
「乾杯!」
『カンパ〜〜イ♪』
こうして鎮守府の秋祭りが膜を開けた。
ー新着任組ー
「アミラル、私のグラスにワインを注ぐ役目をあげるわ♡」
「いや、ここはワインじゃなくて俺のオススメ『加賀美人』を飲んでみねぇか? 女性でも飲みやすい甘口の清酒なんだ」
提督の言葉にリシュリューは上機嫌で「ではそれを♡」と新しいグラスに持ち替える。
「提督が私を……私を美人と……これは今夜のお誘いに違いないわ♡」
一方、一航戦のダメな方が恍惚な表情を浮かべているのは見て見ぬフリをする他ない様子。因みにその後、瑞鶴から否定されてやけ食いに走るとは本人もまだ知らない。
「アドミラルのオススメとあれば、私も頂きたい♡」
提督がリシュリューに注いでいるところへアークもグラスを持ってやってくると、提督は「お〜、飲め飲め♪」と笑顔で頷き、アークのグラスにも注いでいく。勿論、その他にも提督からお酌を受けたいLOVE勢が殺到したのは言うまでもなく、思いの外大行列になってしまった。
「いやぁ、提督は話に聞いた以上にモテるんだな〜♪」
「それだけ皆さんと同じ時間を過ごして来たんでしょうね♪」
そんな大行列を見ながら料理を口に運ぶのは天霧と狭霧。二人共に自分たちもこの艦隊の仲間になれることに喜び、つい笑みがあふれている様子。
「提督の奥さんもニコニコしてるね♪」
「ちょっと怖いですけどね……」
「でも司令は全く気にしてないね……」
その天霧たちの横では同じく大行列を見ながら、ルイ、旗風、松輪が阿賀野の様子を三者三様で話していた。
しかしこの三人も心から楽しんでいる様子が見て取れるので、旗風たちも天霧たちと同じくこの鎮守府へ着任出来たことが嬉しいのだろう。
ー食べ物屋組ー
「イカズチ饅頭如何ですか〜?」
「ビールやお酒のおつまみにピッタリよ〜♪」
呼び込みをする雷と電。するとその前にビスマルクとグラーフがやってきた。
「その饅頭を6個頂けるかしら?」
「いいわよ♪ ちょっと待っててね♪」
ビスマルクの声に雷はせっせと紙皿へイカズチ饅頭を乗せていく。
「この中味はなんだろうか? ビールにも合うようだが……」
「今回は餃子の餡に似た味付けにしたのです♪ でもニンニクは使ってないので、安心して食べられますよ♪」
電の説明にグラーフは「なるほど」と頷き、ビスマルクが品物を受け取るとレーベたちが待つテーブルへ戻った。
そこでみんなして一口食べると、中からは鶏の出汁が効いたスープがジュワ〜ッとあふれ、そこにニラと白菜、鶏肉のまろやかなハーモニーが食べた者を虜にしてしまう。その証拠にビスマルクとグラーフはおかわりをしに行ったほど……。
ーーーーーー
「伊太利コロッケですよ〜♪」
「揚げたてだから食べてって〜♪」
青葉たちのお店も大分賑わっており、青葉と衣笠はどんどん伊太利コロッケを揚げていく。
「ねぇ、青葉〜、衣笠〜……」
一方、お手伝いに来ている古鷹は少々複雑な様子。
何故なら、
「どうして私と加古だけこの衣装なの〜?」
呼び込み担当の二人はイタリアの民族衣装を青葉に言われて身につけているから。
二人が身につけているのはサルディーニャ民族衣装で花柄の刺繍が施されたショールが特徴的。
「だって呼び込みするならインパクトがないと!」
「二人共可愛いよ♪」
青葉と衣笠の言葉になんとも複雑そうな古鷹だが、加古に至っては気にすることなく呼び込みをしている。
しかし、
「お〜、二人共、その衣装似合ってんじゃねぇか♪」
提督が登場すると、加古は顔を赤くし、しおらしくモジモジしてしまう。褒められて嬉しい半分普段の自分とは違う服装の恥ずかしさ半分といったところなのだろう。
「司令官、来てくれたんですね!♡ 青葉の服装のコンセプトは新妻ですよ!♡」
ハート型のトップのエプロン姿を見せて提督にアピールする青葉。提督は「ほ〜、可愛いじゃねぇか♪」と褒めると青葉はヘブン状態になり、結局暫くは古鷹が伊太利コロッケを衣笠と揚げることになったのは言うまでもない。
ー娯楽屋組ー
「くじ引きっぽ〜い♪」
「ハズレでも景品があるよ♪」
くじ引き屋の第二駆逐隊はハズレ景品に提督のブロマイドがあるため、LOVE勢を誘い込む作戦。
「ダーツは当たれば必ず景品あげるよ〜♪」
「全弾ハズレても残念賞があるからね〜♪」
一方、隣で的あてをしている二航戦は対象を全員にした大盤振る舞い。因みに残念賞は「残♡念」とチョコで書かれたクッキーであるためか、妖精たちがこぞって群がっている。
「ただいま、山城……」
「え……は、ハズレが無いのにハズレが……!?」
くじ引きをしてきた扶桑が泣きながら戻って来たのを見て山城は駆け寄るが、
「4等の『ぽ〜いお茶1ケース』が当たったの!」
まさかの嬉し過ぎての涙だった。
これには流石の山城もその場にズッコケてしまう。
「よ、良かったですね、姉様……ですが、大袈裟過ぎますよぅ」
「だって嬉しかったんだもん……」
扶桑の珍しい可愛い仕草に山城はキュンと来た。そして第二駆逐隊へ今度お手製のチョコケーキを焼こうと決めるのだった。
一方、
「ダメ! 私には撃てない!」
大鳳は的あてで荒れに荒れていた。
大鳳が今やっている的あては提督のブロマイドだけがもらえるLOVE勢向けの物(景品に限りがあるため一人一回)なのだが、その的は提督の等身大を模した的なのでLOVE勢からは少々不評なのだ。
飛龍は反対したのだが、提督が「遊びなんだしいいじゃねぇか♪」と許可した結果である。
「テートクのハートを射抜くのはワタシデ〜ス!♡」
「榛名、頑張ります!」
しかし一部のLOVE勢は燃え上がるLOVEをダーツに乗せて飛ばしている。何故なら、提督のハート(心臓部分)へダーツをあてれば青葉秘蔵の提督これくしょんの1枚が貰えるからだ。
由良、武蔵、陸奥のガチ勢も競ってハートを射抜こうとしたが、LOVEが先行して的を大きく外してしまうという結果にガックリと膝を突くのだった。
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その後も『鎮守府へ行こう! 新人の主張』や『食堂の中心で提督に愛を叫ぶ』といった恒例行事は勿論、那珂や加賀、金剛型姉妹の有志発表(リサイタル)もあり、間宮と伊良湖のマグロ解体ショー、ショートケーキ大食い大会、3キロカツ丼早食い勝負……などなど大盛況。
これに新着任艦の者たちは勿論のこと、艦隊全員が楽しめる行事になったーー。
ーちょっとしたおまけー
ショートケーキ大食い大会の結果
1位:海風 ・量:カットケーキ101個
2位:弥生 ・量: 〃 100個
3位:大和 ・量: 〃 57個
4位:アイオワ・量: 〃 55個
5位:加賀 ・量: 〃 23個
優勝賞品
スイーツバイキング二名様ご招待券
健闘賞品(弥生へ)
間宮&伊良湖の新作パフェ試食券(1年間有効)
3キロカツ丼早食い勝負の結果
1位:雲龍・タイム:0.3秒
同位:山風・タイム:0.3秒
3位:武蔵・タイム:12分53秒
4位:赤城・タイム:15分22秒
5位:足柄・タイム:23分05秒
優勝賞品
三ツ星ホテルバイキング二名様ご招待券
優勝者二名のため後日二名へ贈呈
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ということで、今回はこのような回になりました!
結果発表のところは私の脳内鎮守府のことなので、どうかご了承を。
読んで頂き本当にありがとうございました!