提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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イベント委員会

 

 10月某日、昼下がり。

 大型台風により提督から全艦待機命令(お休み)が言い渡された本日。多くの者は部屋でまったりと過ごしているが、鎮守府本館の会議室では『イベント委員会』が打ち上げをしている真っ最中であった。

 

「では〜、この前の鎮守府秋祭り成功を祝して〜……カンパ〜イ!」

 

 イベント委員会会長の夕張がグラスを高らかに掲げ、音頭を取る。

 すると会員たちは『カンパ〜イ!』と声を揃え、グラスの中身を空にしていく。

 

 この前に行われた『着任パーティ&鎮守府秋祭り』は提督と阿賀野の発案ではあるが、このイベント委員会の者たちが協力したからこそ、あそこまで大きなイベントになった。

 

「外はあいにくの台風だけど、打ち上げをやらせてくれた提督に感謝しなきゃね♪」

「あぁ、本当にいい上官に恵まれたな、私たちは」

 

 副委員長の明石の言葉に隣でダルマを嗜む那智は微笑んでグラスを傾ける。

 

「本当は提督も招待したかったわ〜。イベント出来たのはほぼ提督のお陰なのに……」

「みんながお休みでも、提督と阿賀野さんは執務室で書類仕事だもんね〜……」

 

 一方、足柄と谷風は残念そうにつぶやいていた。足柄に至ってはLOVE勢故に提督と一緒に打ち上げをしたかったといったところだろう。

 

「提督はああ見えて真面目だからね。今回は私たちで楽しみましょう♪」

「そそ♪ その方が提督だって喜ぶよきっと♪」

「提督はどこまでもお優しい方ですから」

 

 千歳、千代田、鳳翔の委員会空母勢が笑ってみんなへ声をかけると、みんなも笑顔で頷き、改めてグラスを空にするのだった。

 

 ーーーーーー

 

「このポテチうっまっ! 何これ、すっごいよ!」

「これ商品化した方がいいレベルだよ!」

「ふふふ、褒めても何も出ないわよ♪」

 

 打ち上げも楽しく続き、今は鳳翔お手製のポテトチップスを堪能中。ポテトチップスにしては少々分厚いが、それがカリッと揚がり、シンプルな塩のみの味付けなのがかえってみんなの舌を満足させたのだろう。

 中でもイヨと白露はかなり気に入った様子で、まさにやめられないとまらない状態である。

 

「やっぱりポテトチップスって塩が一番よね」

「そうだな……コンソメやのり塩なんかにも惹かれるが、結局は塩に戻るからな」

「色々味はあってもシンプルなものが一番ってことだよね♪」

 

 足柄、那智、千代田の言葉に他の面々も『確かに』と頷きながらポテトチップスを頬張った。

 それを見た鳳翔は「塩味しか知らなかったなんて言えない……」と心の中でつぶやき、今度他の味をそれとなく買ってみようと決意したそうな。

 

「ザラ姉様のカプレーゼも美味しいよ〜♪」

「皆さんもどうぞ〜♪」

 

 ポーラとザラの声に那智や足柄が一口つまむと、完熟トマトの甘みがモッツァレラとバジルによく合い、多めにかけられたブラックペッパーもアクセントになって味が引き立って那智も足柄も『美味しい♪』と太鼓判を押す。

 

「じゃあポーラ、そろそろお水にしてね♪」

「なじぇ!? まだ5本()()ボトル空けてないのに!?」

 

 突如の勧告にポーラは猛抗議をするが、「5本()空けてるのよ?」とザラのニッコニコな笑みの前では、ポーラも大人しく水をグラスに注ぐしか選択肢はなかった。

 前にも似た状況になった時、ポーラはワガママをこじらせた末に意識を失った。目を覚ました時、何故か何をされたのかという記憶はポッカリと空いていた。それ以来、こういう時になったら身体は絶対に酒瓶を取ろうとはしないし、ポーラ自身もここで酒瓶を取ったら何かが終わると悟っての行動である。

 

「皆さんもそろそろお水にした方がいいわよ?」

 

 ザラとポーラのやり取りを見て、鳳翔も飲兵衛艦たちへそう告げた。鳳翔はみんなのストッパーなのに加え、みんな鳳翔が怒るととんでもないことになると分かっているので、素直に水を選択する。

 

「んじゃ、みんなお水を飲み始めたから次のイベントの話を詰めちゃおっか」

 

 切りが良いと読んだ夕張がそう提案すると、みんなも「いいよ〜」、「そうしよっか」などと同意の声をあげた。ほろ酔いではあるが、酒に強い面々なのでこれくらいで議論が出来なくなることはないのだ。

 

 明石はすかさずホワイトボードを持ってきて、そこには既に夕張と明石が「これまで決まったこと」、「これから話を詰めること」という項目を記入しておいたので、みんなはスムーズに話を始めることが出来た。

 

「先ず、月末の鎮守府ハロウィンイベントだけど、鳥海さんや阿賀野さんたちの裁縫得意組の協力で貸出衣装は完璧に揃ったわ」

 

「そして提督からの許可もおりて、任務と訓練外なら仮装してもオッケーになったわ」

 

 夕張が淡々と今日までに決まったことを報告し、みんなはそれを静かに聞いている。

 

「……あとはパーティをするかしないかが決まってないのよね」

 

 明石がそうつぶやくとみんなは苦笑いに近い笑みを浮かべた。

 パーティ自体の演目や料理のことは既に提督や間宮たちから許可を得ているし、有志で発表したい者たちも嘆願書を提出している。

 では、どうしてパーティの決行が決まってないのかというと、ハロウィンというイベント自体が日本で馴染みがないからだ。

 

 ハロウィンとは元々古代ケルト人が起源と考えられている祭のことで、秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事である。

 現代では特にアメリカ合衆国で民間行事として定着し、祝祭本来の宗教的な意味合いはほとんどなくなっているので、宗教にあまり縛られない日本でも近年ではよく見かけるイベントになりつつあるのは事実だ。

 しかし日本ではただのコスプレパーティっぽくなってしまっているのがゴーサインを出せない理由になっている。

 

「ん〜……駆逐艦の子たちが仮装して、お菓子をあげるってだけの方がいいと思うのよね。パーティ自体はやればみんな楽しんでくれるでしょうけど……」

「そうよね〜……でも本来のハロウィンとは違うものになっちゃうのは、なんか素直に実行し難いわよね」

 

 足柄と千歳の言葉に他の面々も「そうだよね」と言うような表情。

 

「イタリアでもハロウィンはほぼ無視されている行事ですからね……」

「その次の日の『諸聖人の日』の方が重要視されてますね〜」

 

 ザラとポーラがそう言うと、夕張は「クリスマスみたいに家族で過ごす日みたいな感覚ならやりやすいんだけどね〜」と苦笑いを浮かべた。

 

 現代で大々的にハロウィンを行っているのはアイルランドやイギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語圏。

 中でも元々がケルト人であるアイルランドには色濃く残っている風習で、『ハロウィン休み』なんて言葉もあるくらいだ。

 

 一方でカトリック教徒が多いイタリア、スペイン、ポルトガル、フランスの諸ヨーロッパの国々やブラジル、アルゼンチン、ペルーなどの南米諸国ではザラとポーラが言った通りで、ほぼ無視されている行事である。

 

 ロシアにおいてはロシア教育省が「ハロウィンは子どもたちの壊れやすい心には有害である」との見解を出したほどで、ロシアではハロウィンの時期になると多くの団体が反ハロウィンキャンペーンを行っているところもあるそうだ。

 

 悩めば悩むほど泥沼化していくこの協議……みんなどうしたものかと首を傾げる中、会議室のドアがトントントンとノックされる。

 夕張が「は〜い」と返事をすると、

 

「お〜、やってるか〜?」

 

 提督がひょっこりと入ってきた。その後ろには阿賀野と矢矧の姿もあり、イベント委員会のみんなは提督たちへ笑顔で挨拶をするも内心では『どうしたのだろう?』と思っていた。

 

 そんな中、提督はのそのそと夕張のところにやってくる。LOVE勢の夕張はドキドキしながらいると、提督がホワイトボードをチラリと見てから口を開いた。

 

「悩んでるなら、やった方がいいんじゃねぇか? 去年と違って今年はイギリス艦やアメリカ艦が増えたんだし、盛大とはいかなくてもパーティくらいはやってもいいだろ。みんなだって楽しみが増えるのは嬉しいと思うしな」

 

 突如のゴーサインに明石は敢えて「ただのコスプレパーティになっても?」と疑問を投げると、提督は「日本ってのは自由な国だからな♪」などと豪快に返すのだった。

 こうなると委員会は満場一致でパーティ開催を決定。早速明日からパーティに向けての準備に取り掛かる段取りを決めようとしたが、それを提督が止めた。

 すると阿賀野と矢矧がずっと持っていたバスケットをテーブルに置き、二人して『じゃ〜ん♪』と布を取ると、

 

「仕事が早く終わったから、私たちでみんなに少し早いハロウィンのお菓子を作ってきたよ〜♪」

 

 ハロウィンにピッタリな菓子がぎっしり詰まっていた。

 これには一同『ふぉぉぉ〜!』と声をあげ、みんなして『(。✧Д✧)(こんな)』感じに目をしいたけにしている。

 

「今は色んな形抜きがあるから、結構楽しんで作れたわ♪ 提督が買い揃えてたのには驚いたけど……」

 

 矢矧の言葉に提督は「悪かったな」と返すが、矢矧は「拗ねることないでしょ?」と柔らかい笑顔で返す。

 矢矧が言ったように、クッキーだけでも定番のジャック・オ・ランタンやコウモリ、オバケの形からクモやクモの巣、魔女の帽子を模した形のクッキーと様々。

その他にもジャック・オ・ランタンに似せたシュー皮を半分に割ったところへ、かぼちゃを練り混ぜたカスタードクリームをふんだんに使ったシュークリーム。

かぼちゃプリンの上に生クリームで可愛らしいオバケをデコレーションした物。

ジャック・オ・ランタンの形をしたスイートパンプキン……などなど見た目も可愛らしいハロウィンスイーツが沢山入っていた。

 

「どれも美味しそうで迷っちゃう〜」

「このシュークリームとか可愛いから食べにくい〜」

 

 白露と千代田がニコニコしながらも悩まし気な声をあげる中、

 

「やめて……助けて……いやぁぁぁ!」

 

 ポーラは裏声まで出してジャック・オ・ランタンのシュークリームをナイフで縦に真っ二つにすると、

 

I'll never forgive you(絶対に許さないぞ)!」

「恨めしや〜〜!」

 

 今度は足柄とイヨが図太い声でそう言い放つ。しかも二つに割かれたジャック・オ・ランタンからはトロッとクリームがあふれているので、それがもし赤かったらただの地獄絵図だろう……。

 それを見て駆逐艦の白露と谷風は勿論、ホラーが苦手な千代田は『ひぃぃぃ!』と怯えるが、

 

「止めなさいっ!」

「食べ物で遊ぶな」

 

 ザラと那智の保護者組から足柄たちはお叱りを受けるのだった。それを見て鳳翔と千歳は可笑しそうにクスクスと口を手で押さえて笑う。

 その後は提督たちも含めた全員でお茶会になり、打ち上げの二次会になるのだったーー。




ハロウィンが近い+イベント委員会をまだ書いてなかったので、今回はこのようにしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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