11月某日、昼下がり。
大規模作戦への準備も順調に進み、ようやくいつものような艦隊運用に戻ってきたこの頃。
提督は阿賀野型姉妹と仕事の息抜きがてら鎮守府の敷地内を適当に散歩していた。
「風も冷たくなってきたわね」
「秋も深まって焼き芋とかする人も多いよね」
能代と酒匂の言葉に提督たちも同意するように頷き、
「私は早朝に走りやすくなったから嬉しいわ」
スポーツの秋だと言わんばかりに矢矧が笑うと、みんなして矢矧らしいと笑った。
「矢矧はコスプレの秋じゃないの?」
しかし能代の言葉に矢矧はカァーっと顔を赤くさせる。
先日の一件以来、矢矧はそのことで多くの仲間たちからイジられているのだ。
「能代姉ぇまで……罰ゲームだったって説明したじゃない」
「だって矢矧があんなことやるなんて想像つかなかったもの♪」
その言葉に矢矧は「うぅ〜」と赤い顔で恨めしそうに能代を睨むが、能代はそんな妹の可愛い反応を楽しんでいる様子。
「でもあの矢矧ちゃんとっても可愛かったよ〜?」
「そうそう。ちょっと悔しいけど、提督さんが固まるくらいだったんだから!」
阿賀野はそう言って提督へチラリと冷たい視線を飛ばすと、提督は「可愛かったのは事実なので……」と素直な感想をつぶやく。
矢矧は提督のつぶやきで更に赤くなり、八つ当たりするように提督の腹を軽く叩いた。どうやら提督から可愛いと言われると反応に困るようだ。
「で、でも、その日は1日中大変だったのよ? 青葉さんからはポーズまで指定されて写真撮られたし……」
矢矧の愚痴にその場にいる全員は『(買いました……!)』と心の中でガッツポーズする。
「秋雲には次の漫画の題材にってモデルさせられたし……」
次の愚痴には提督ただ一人が「確認して、そして予約しました……」と心の中でつぶやいた(阿賀野に許可を得て)。
「大和や雪風たちからも可愛い可愛いって散々からかわれたんだから……」
「最初の二つはともかく、大和さんや雪風ちゃんたちは本心から褒めてくれてたんだと思うけど?」
能代のツッコミに矢矧は「そうだとしても恥ずかったの!」と叫び、能代から隠れるように珍しく提督と阿賀野の間に割って入った。
「能代〜、妹をイジメちゃメッだよ?」
「そうだぞ、のしろん。やはぎんはシャイなんだからな」
二人がそう注意すると能代は「は〜い♪」と舌をペロッと出してお茶目に反省。
そんなかばってくれた提督と阿賀野に矢矧は感謝はしたが、まるで珍しく両親に甘える娘をうんと愛でるような……そんな対応だったので、酒匂の方へ逃げれば良かったと思う矢矧であった。
ーーーーーー
それからも変わらずほのぼのと散歩をしていると、一行は駆逐艦寮のところまで来ていた。
「あら、司令官じゃない」
「お仕事の合間にお散歩かしら?」
玄関のところで丁度出くわしたのは、満潮と霞の朝潮型姉妹。更にその後ろには叢雲や曙といった面々もいて、みんなしてテコテコと提督たちのところへ近寄ってくる。
「お〜、みんなは休みか?」
「そうよ。んで、さっきみんなしてお風呂入ってきたとこなの」
「あぁ、だからお肌がツヤツヤしてるんだ♪」
叢雲の言葉に阿賀野が手をポンッと叩いてつぶやくと、叢雲たちは揃ってニッコリと笑みを返した。その証拠に叢雲たちはみんな髪を結わずに下ろしたままだった。
寮のお風呂は空いていれば好きな時に入っていいため、このようにお風呂好きな者たちはよく入っているのだ。更に夜は夜でまた入っているとか。
「あれれ? みんなシャンプーかコンディショナー変えた?」
ふとみんなの髪から漂う香りに酒匂がそう訊くと、
「えぇ、変えたわ。満潮姉がこの前の作戦でMVP取ったお祝いに金剛さんから紅茶の香りがするシャンプーとコンディショナー貰ったみたいで、みんな使わせてもらったのよ」
霞が答えると、叢雲も曙も揃って『ね〜?♪』と満潮へ笑顔を送る。
「満潮って金剛さんとそんなに仲良かったのね」
「ま〜、なんというか、成り行きって感じ……フレンチクルーラー髪仲間とかで……」
苦笑いに近い笑みで頬を掻きながら能代に返す満潮に、能代も「なるほど」と苦笑いで返した。
因みに「フレンチクルーラー髪仲間」は「特徴的な髪型仲間」ということであり、メンバーは金剛や浦風、阿武隈を始め、シニヨンヘアの那珂や妙高、トリプルテールのイク、三つ編みのウォースパイト、ロング三つ編みの夕雲や雲龍、縦ロールヘアの春風と様々。
定期的にお茶会を開いては交流していて、こうした交流があったので満潮は金剛からシャンプーやコンディショナーをお祝いとして貰ったのだ。
「でもみんなしてフレンチクルーラーくれたのよね……唯一他のお祝い貰ったのって金剛さんくらいで……」
お祝いしてくれるだけで嬉しかったけど……と、付け加える満潮だが、その時のことを思い出すとつい苦笑いしてしまうといった感じ。
何しろ満潮がMVPを取った時には、普段から仲の良い艦娘たちや姉妹と多くの者たちからお祝いと称したフレンチクルーラーがドッと寄せられたから。因みにその日は鎮守府近辺のドーナツ屋さんでフレンチクルーラーが大量に売れたという……。
「もうここんとこおやつは毎日フレンチクルーラーだもんね、満潮姉は……」
「みんな加減を知らないからね〜」
霞と曙はフレンチクルーラーをあげた者たちを思い浮かべて肩をすくませるが、叢雲に「あんたたちもそうした仲間の内でしょ」とツッコミを入られてそっぽを向いた。
「? 満潮、あんたそういえば司令官からお祝いに櫛を貰ったんじゃなかった? この前の作戦は重要な作戦だったからって」
叢雲が思い出したことをそのまま訊くと、満潮はピクッと眉を動かす。
「は? 櫛は貰ったけど、それは別に今本人がいる前で言わなくてもいい、じゃない?」
どこかバツが悪そうにたどたどしく返す満潮。その頬はほんのり紅潮し、目は落ち着きなく泳いでいる。
「あ〜、さっきお風呂から上がった時に上機嫌で髪を梳いてたのはそういうことだったのね〜」
「てっきりシャンプーの香りに上機嫌なのかと騙されたわ〜」
曙と霞の追撃に満潮はカァーっと耳まで真っ赤にし、小声で「うるさいわね」とだけ反撃。
しかしそれは逆効果でみんなからは温かい眼差しを送られてしまう。満潮からすれば生温かい眼差しだろうが……。
「ま、まぁ、なんだ……気に入ってくれてるなら良かった」
提督が話を逸らそうとそんな言葉をかけると、満潮はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
しかし、
「すごく使いやすいわよ……ありがと」
とちゃんとお礼を伝える。
それが提督は嬉しくて、つい満潮の頭に手を置き、髪型が崩れないように優しく満潮の髪を手で梳いてやった。
「な、何よ……いきなり撫でたりなんかして……」
「贈り物を気に入ってくれたからよ……贈った方としては嬉しいじゃねぇか」
「だからってどうして撫でるのよ……」
「撫でるのに理由がいるのか?」
「司令官がいらないならいらないんじゃないの?」
「ならもう少しこうしててもいいよな?」
「どうせ止めてって言っても聞かないじゃない……バカ司令官」
「はは、どうせ俺はバカだよ♪」
提督にそう笑い飛ばされると、満潮もそれにつられるようにクスッと笑みをこぼす。何だかんだ言いつつ、満潮も提督からこうして優しさをもらえるのは嬉しいようだ。
そんな二人を阿賀野たちも微笑ましく眺めていたが、
「おやおや〜、満潮にしては妙にしおらしいんじゃな〜い?」
「まるで父娘ね♪」
曙と霞の言葉で満潮はまたいつもの満潮へ戻り、提督の手を払い除けてしまう。しかし乱暴にではなく、もう恥ずかしいからと控えめに。
そんな満潮を見て、止めればいいのに曙も霞も『もういいの〜?』などとからかうと、
「うるさいわね! あんたたちだって司令官からプレゼントされた物を大切にしてるくせにっ!!」
渾身の一撃を喰らってしまう。
こうなると形勢逆転。すぐさま二人はたじろぎ、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「曙は改になったお祝いとして貰った花の髪留めを外出の時は必ずつけてるし、霞だって改二のお祝いに貰った櫛を大切そうに使ってるじゃない!」
更なる追撃に曙も霞も顔を真っ赤にしてそれぞれそっぽを向く。
曙は改のお祝いとして提督から初夏の花であるナナカマドという小さな白い花を数多く模した髪留めを貰った。その花言葉は「慎重」・「賢明」・「私はあなたを見守る」で提督の思いやりが伝わり、曙は一番の宝物にしている。
一方の霞の櫛は満潮と同じでお祝いに貰った物。お六櫛という長野県木曽郡木祖村薮原で生産される長野県知事指定の伝統工芸品で、つげで作られた櫛を提督が取り寄せた贈り物。
因みに霞の櫛にはヒメジョオンという花の絵が描かれ、満潮の櫛はワスレナグサの花が描かれている。これはどちらも二人の進水日(満潮:3月15日 霞:11月18日)……つまりは誕生花を職人さんに描いてもらった特注品。
こうした提督の気遣いを理解しているからこそ、曙も霞も大切にしているのだ。
「私は改二のお祝いにコスモスの絵が描いてある櫛貰ったわね〜。今も大切に使ってるわ♪ それと改の時に貰った髪紐もね♪」
叢雲がそう言って笑うと、
「私も改の時に頂いた髪留めを今も気に入って、出掛ける際にはつけて行きます」
「私も改になった時に提督から髪留め貰ったっけ……気に入ってるわ」
「あたしはイヤリング貰った〜!」
能代、矢矧、酒匂も笑って提督からの贈り物の話をした。
流石の提督もこれには少々気恥ずかしくなり、みんなから顔を背けて頭を掻く。
「阿賀野は提督さんからファーストキス奪ってもらっちゃったな〜♡」
しかし嫁が容赦ない暴露話をする。
「司令官って顔に似合わず、やることがロマンチックよね……」
「物じゃなくて思い出とか、気障だわ……」
満潮や霞の言葉に他のみんなも『確かに』と頷く中、提督は「ほっとけ」と小さく投げ捨てた。
「えへへ、阿賀野はとっても嬉しかったよ〜♡」
「そうかよ……」
こうなると結局いつもの甘々モードになる夫婦。これを能代たちは苦笑いで流すが、耐性のない叢雲たちはまた始まったとばかりに、提督たちへ一言言ってからそそくさと酒保の方へと退散していく。
それからもまたのんびりと執務室まで戻った提督一行だったが、帰りは阿賀野が提督にべったり引っ付いていたので辺りは甘ったるい空気が漂っていたーー。
秋は散歩日和ということで散歩しつつ、ツンデレ艦たちとのほのぼのとした一幕を書きました!
読んで頂き本当にありがとうございました!