提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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仲間入り

 

 11月某日、夕方。

 大本営から発表された『捷号決戦! 邀撃、レイテ沖海戦』を遂行中の当鎮守府。

 今日も誰も欠けることなく出撃任務が終わった艦娘たちは、それぞれが明日に備えて英気を養っていた。

 

 ー空母寮4号室ー

 

 丁度ここでは瑞鶴が鼻歌を上機嫌に歌いながら何やら準備をしている。

 瑞鶴はこれから翔鶴と秋月型姉妹で鍋パーティをするのだ。

 このパーティは普段から妹分として仲良くしている秋月型姉妹へ翔鶴と瑞鶴がご馳走を食べさせてあげようと定期的に企画しているもので、最近は肌寒くなってきているのでお鍋にするそうな。

 因みにこの4号室には瑞鶴の他に瑞鳳、グラーフ、瑞穂が暮らしているが、瑞鶴が三人へ事情を話して三人は他所の部屋で過ごしている。

 

「えっと……白菜、大根、人参、長ネギ、豚肉。そして各種のきのこ♪ 完璧な布陣ね!」

 

 材料を確認し、ニッコリと笑みを浮かべる瑞鶴。

 そんなことをしているとドアがノックされ、瑞鶴は「はいは〜い♪」と返事をしてドアを開けるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、空母寮の前では、

 

「みんな〜♪」

 

 翔鶴が秋月型姉妹を出迎えていた。

 

「こんばんは、翔鶴さん! 今夜はお招きしてくれてありがとうございます!」

 

 姉妹を代表して秋月が挨拶して丁寧に頭を下げると、それに倣うように照月と初月も揃って頭を下げる。

 翔鶴は気にしないでというようにそれぞれの肩をポンッと叩き、改めてみんなを部屋まで案内した。

 

「お鍋パーティとかすっごく楽しみ〜♪」

「あぁ、瑞鶴も料理が上手いから期待してしまうな」

「ふふ、材料はたくさん買い揃えたから、お腹いっぱい食べてね」

 

 照月と初月の声に翔鶴は柔らかい笑みを浮かべてそう伝えると、二人共『は〜い♪』と元気にお返事する。一方で秋月はもう食べたくて堪らないのか、グッと口を閉じて目をギラギラさせている。

 

 4号室の前に着いた一行。

 

「瑞鶴、秋月ちゃんたちを連れてきたわよ」

 

 ノックをしてから翔鶴が声をかけると、中から瑞鶴が「入って〜」と返してきた。

 翔鶴はドアを開け、秋月たちを先に入室させてから自分が最後に入る。

 

「いらっしゃ〜い♪ あと少しでご飯が炊けるから適当に待ってて♪」

 

 瑞鶴の指示に従って秋月たちはニコニコしながら鍋がセッティングされているこたつテーブルへと向かう。

 

「おこたおこた〜♪」

「瑞鶴たちの部屋はもう出してるんだな」

「秋月たちの部屋はまだ出してないの?」

「僕や照月姉さんは出してもいいって思うんだけど……」

 

 瑞鶴の質問にそう答えた初月は、チラリと秋月の方を見る。

 

「まだ出すには早いと判断し、12月までは封印してます!」

 

 姉の言うことは絶対であるため、秋月がゴーサインを出さない限りは自分たちの部屋ではこたつを出さないのだ。

 そんな姉妹事情に翔鶴たちは『色々あるのね〜』とだけ返して苦笑いをしていると、

 

「…………提督?」

 

 こたつの中に身を隠す提督を初月が発見。これには秋月たちも驚いたが、それよりどうしてここに提督がいるのだろうという疑問点が浮かんだ。

 

「えへへ、イタズラ大成功♪」

 

 しかし瑞鶴だけはそう言ってピースサインを出していたが……

 

「提督、また矢矧から逃げてるのか? ダメじゃないか……」

 

 初月は優しく注意しつつ、提督の頭を優しく撫で、

 

「謝るなら早い方がいいよ〜? ほ〜ら♪」

 

 照月からは早く出ておいでと言わんばかりに両手を広げられ、

 

「話せばきっとハリセン1発で済みますよ」

 

 秋月には慈悲深い笑みで諭される始末。

 そんな秋月たちに提督は「違ぇし!」と返して、のっそりとこたつの中から出てきた。

 

「俺は瑞鶴に用があって来たんだ。んで、イタズラ心から隠れてただけなんだよ。阿賀野や矢矧にちゃんと断ってから来たんだからね!」

 

 妙な口調ではあるが提督の弁解を聞いて秋月たちが謝ると、提督は「分かればいい」と胸を張る。

 

「それで提督、瑞鶴にご用事とは?」

 

 話がまとまったところを見計らって翔鶴が訊ねた。翔鶴としては秋月たちを待っている時に挨拶はしたが、まさか瑞鶴に用事があるとは思ってもいなかったのだ。

 それに瑞鶴も「あ、聞きそびれてた……」と思い出したとばかりにつぶやいた。

 

「あぁ、用ってのは明日の演習での編成変更の話だ。当初の予定は瑞鶴と葛城の二人を基幹に駆逐艦による編成でと思ってたんだが、お相手さんからのご指定でな……うちの水雷戦隊との演習を頼まれたんだ。あ、他のみんなにはもう連絡済だから言わなくていいぞ」

 

 提督の説明に一同はなるほどというような表情を見せる。

 

 この泊地の興野といえば「軍神の宿る水雷屋」としてそこそこ名を馳せており、それに憧れる者たちもいるくらいだ。

 戦艦や正規空母につい頼りがちになる者が多い中、水雷戦隊で大きな戦果をあげている提督は一目置かれる存在であり、軽巡洋艦や駆逐艦を軽視する者を減らす人材でもあるのだ。

 その証拠に泊地だけでなく水雷屋を語るなら大本営の中でも名前が挙がるほどで、その提督が率いる最高練度を誇る水雷戦隊との演習は得るものばかり……よって戦艦や正規空母に頼りがちになってしまう提督たちへのいい手本なのである。

 なのでこのようにわざわざ水雷戦隊との演習を望む者も出るのだ。

 

「やっぱり提督さんってすごいわね〜♪ 鼻が高いわ♪」

「流石は私たちの司令です!」

「一目置かれるってすごいね〜、提督♪」

「そのような提督の下へ着任出来て、恐悦至極に存じます」

 

 みんなして提督をもてはやす中、提督は「そんな偉いもんじゃねぇ」と謙遜する。

 しかしその横でずっと黙って話を聞いていた初月が、ふと口を開いた。

 

「それで、編成はどうする気なんだ?」

 

 その言葉に秋月と照月は口をつぐんで提督へ力強い眼差しを送る。勿論そう言った本人である初月も。

 そんな秋月たちを見て提督は苦笑いを浮かべ、翔鶴と瑞鶴は『さぁ、大変』というようなイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 

 相手が提督へ水雷戦隊を指定したということ……それは即ち泊地最強とまで謳われている水雷戦隊と演習したいということ。そしてその艦隊に編成されることは軽巡洋艦と駆逐艦の者たちにとって、演習艦隊であっても名誉なことなのだ。

 よって秋月たちは自分を編成に入れてほしい……と切なる眼差しを提督へ送っているのである。

 

「順当に行けば旗艦は阿賀野ちゃんで決まりだけど〜、他の五隻はまだ決まってないんでしょ〜?」

「い、いや、明日の演習での旗艦は五十鈴に任せるつもりなんだ。なんでも向こうは空母機動部隊の練度を上げたいらしいからよ……」

 

 演習に水雷戦隊指定で更に対空戦必須となれば、これはもう秋月たちからすれば姉妹の誰かが入るのは固いと確信した。

 その証拠に秋月はその場で何故か腕や肩のストレッチを始め、照月は「にひひひ……」と喜びの声をもらし、初月は胸の前で手を組んでキラッキラした眼差しを提督へ浴びせている。しかも初月に至っては犬耳っぽい髪がピコピコと震えているようにも見えていた。

 

「…………」

 

 提督は悲痛にも近い表情で悩んだ……何故なら秋月たちの期待にかなりの重圧を感じるから。

 秋月たちを編成に入れるのは申し分ない……が、三人共に提督の中ではまだ練度が低いのだ。三人の中で一番早くに着任した秋月でもその練度は提督の選ぶ水雷戦隊の最低ラインも満たしていない。

 

 因みに提督が重要作戦遂行時に編成する水雷戦隊とはーー

 

 旗艦 :阿賀野

 随伴艦:五十鈴

  〃 :電

  〃 :時雨

  〃 :夕立

  〃 :綾波

 

 ーーとなる。

 

 みんながみんな一騎当千の猛者揃い。由良や長良、神通に島風や響、叢雲も名を連ねることも勿論あるが、精鋭部隊となると以上の編成となる。

 

 提督は演習での勝負に何ら拘りはしないが、水雷屋として手は抜かない所存だ。

 

「………………」

 

 まぶたを閉じてうんと悩んだまま微動だにしない提督。

 そんな真剣な提督を見て、瑞鶴は心をぴょんぴょんさせるが秋月たちは緊張の面持ちで言葉を待っている。そうしている内に翔鶴はお鍋パーティの準備を進めた。

 

「……おし、決めた」

 

 目を見開き、そうつぶやいた提督はとある艦娘へ視線を移す。

 

「? 司令、どうされました?」

 

 提督の視線に秋月はキョトンと小首を傾げていた。しかし照月と初月は『やったね!』と両サイドから秋月へ抱きつく。

 妹たちの行動に困惑気味の秋月に瑞鶴がクスクスと笑って口を開いた。

 

「提督さんの目を見ても、ま〜だ分かんない?」

 

 瑞鶴の言葉に秋月は「え?」と声を出して、再び提督の目を見る秋月。するとそこには力強い眼差しで且つ優しさにあれる瞳が自分を見ていた。

 

「え……司令……本当に、いいんですか?」

「あぁ、お前にもいい経験になると判断した。対空戦では五十鈴の補佐、任せたぞ」

「っ…………はいっ!!」

 

 提督の期待に秋月は満面の笑みで返事をする。その目からは一筋の涙をこぼして。

 

「やったね、秋月姉!」

「姉さんは僕らの代表だ。頼んだぞ!」

「それじゃあ、秋月の水雷戦隊入りを祝して鍋パーティも盛大にやっちゃおうか!」

「はい……はいぃ……!」

 

 するとタイミングよく翔鶴が炊きたてのご飯をおひつに入れ替えてやってきた。

 

「んじゃ、俺はそろそろお暇するか。演習の件で編成を改めて阿賀野や矢矧と話し合わなきゃだからな」

「え〜、せっかくこれから鍋パーティなのに、提督さん帰っちゃうの?」

 

 寂しそうな声を出す瑞鶴に提督は立ち上がりつつ「またの機会にな」と告げて、その頭を優しく撫でると瑞鶴は胸をトクンと高鳴らせながら笑顔で頷くのだった。

 

「それにそろそろ帰らなきゃーー」

 

 そう言って提督がドアを開けると、

 

「ーーハリセンが飛ぶものね〜♪」

 

 矢矧がニッコニコな黒い笑顔で待機していた。

 

「このようにやはぎんがキレる……てぇっ!?」

 

 冷静に解説したが、既に外で待機していた矢矧に提督はギョッとする。そしてそれを見なかったようにそっとドアを閉じようとしたが、

 

「タイムオーバーよ、て・い・と・く♡」

 

 閉じようとしたドアをガッと掴まれた。

 それと同時に提督は「ですよね〜」と返すと、矢矧に首根っこを掴まれて捕縛されるのであった。

 

「ということで私は提督を連れていくわね♪ みんなまたね♪」

 

 矢矧の明るい声とは裏腹に捕縛される提督は白目を向いているが、みんなはそのまま見送る他なかった。

 ドアがパタンと閉じると、みんなは無意識にそのドアへ向かって真っ直ぐと敬礼していた。

 

 それからは気を取り直して、みんなは鍋パーティを堪能し、締めの雑炊まで楽しむのだったーー。




 ーおまけー

 次の日の朝。提督より選ばれし水雷戦隊は意気揚々と抜錨していく。
 今回は急だったため早朝まで編成が発表されなかったが、旗艦は五十鈴でその相方は球磨が担当。そして秋月、電、時雨、初霜という布陣であった。
 提督はみんなを見送ると、矢矧が肩をトントンと叩いた。
 その矢矧に提督が反応すると、矢矧は自身の背後を見るようにと目配せした。

 そこには、

「また、選ばれなかった……私ケッコン艦なのに……」
「由良さんはまだいいですよ。私なんて私だけでなく川内型が今回も選ばれなかったのですから……」
「私もまた選ばれなかった……」

 今回は選ばれなかった由良、神通、長良が壁に額を付けて嘆いているではないか。これを見た提督は思わず「Oh……」などと言ってしまった。

「フォローした方がいいんじゃないかしら?」
「そ、そうだな……やはぎんもーー」
「私は自分の仕事に戻るわ。艦娘のケアも提督の仕事でしょう? 今回は時間が掛かってもいいからお願いね」

 提督の言葉を待たずして爽やか笑顔で矢矧は返すと、そのまま提督を残して執務室へと戻っていった。
 提督はそんな矢矧の背中を恨めしそうに見送り、由良たちのフォローへと向かうことに。

 その後、提督は落ち込んだ三人をなだめるのに1時間ほどの時間を費やした。そうした結果、午後の演習で三人はそれぞれ華々しい戦果をあげたとかーー。

 ーーーーーー

ということで、今回はちょっと真面目、でも日常的な一幕にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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