提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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少しアンチ・ヘイトが含まれます。


二つの星

 

 12月の某日、昼過ぎ。当鎮守府は秋の大規模作戦も誰一人欠けることなく無事に終わり、通常の艦隊運用にシフトしている。

 

 今年最後の月になっても艦隊はいつも通り変わらぬ忙しい日々を送っていた。

 するとそこへ、鎮守府全体へ警報音が鳴り響く。

 

『全員に告ぐわね〜♪ これより鎮守府にオイタする方がやってくるわよ〜♪ 外にいる子は寮へ戻って、任務で外にいる子たちはいつもの制服じゃなくて厚着してね〜♪』

 

『全員に告ぐ〜♪ これより鎮守府にロリコンがやってきま〜す♪ 外にいる駆逐艦や海防艦、潜水艦の子たちは寮へ逃げてね〜♪』

 

 まさかの『変態セクハラ警報』と『変態ロリコン警報』に多くの艦娘たちは迅速に行動を開始する。

 因みに『変態セクハラ警報』はセクシーな声(龍田)の警報で、これは艦娘(主に露出の多い制服の艦娘)へ注意を促すもの。

 この二つの警報が鳴るということは……と警報を聞いた多くの者が苦笑いを浮かべていた。

 

 ーーーーーー

 

「わざわざご足労頂き、ありがとうございます」

 

 応接室で提督は自身の正面に座る二人の人物たちへ頭を下げた。

 

「いやいや、こちらこそ突然で申し訳ない。それとそんなに畏まらなくていいよ。今は身分が違っても同い年じゃないか」

 

 提督から右に座る綺麗な七三分けをして、縁無しのメガネを掛けた細身で軍服姿のナイスガイは優しく笑って提督へ声をかける。

 この人物は提督が鎮守府を置く泊地の中央鎮守府に所属する総司令官……泊地の代表だ。提督と同じ三十歳だが、その若さで泊地の総司令官の座に就いたエリート。名は大山豊(おおやま ゆたか)

 

「用事が終わればすぐにお暇するさ」

 

 総司令官の隣に座り、軍服の上からでもガッチリとした肉体がしっかりと分かる、強面なナイスガイは副総司令官である小山岳(こやま がく)。この者もやはり三十歳にして副総司令官になったエリートだ。

 因みにこの場にいる全員は兵学校時代を共に過ごした同期であり、気心も知れた者同士である。

 

 国防軍には前のような強い年功序列はなく、能力と本人の意思さえ高ければ出世することが可能だ。

 昔の日本は年功序列による者や現場を知らない高学歴の者が高い地位にいたため、とんでもない命令も多々あった。なので国防軍となった今ではいくら高学歴を誇っていても能力が伴わなければすぐに降格されるし、何年軍にいようと成績が伴わなければ昇格は出来ない。そのため全員が同じ方向を向き、いい意味での切磋琢磨をしながら平和へ向かって足並みを揃えて進めるのである。

 よって二人はエリートであるものの、現場で指揮をする頼もしい存在なのだ。

 

 今回、二人が提督の元を訪れたのは中央鎮守府が定期的に行っている各鎮守府の視察であり、この視察は泊地内の鎮守府で何か国防軍として恥ずべきことをしていないかを見るもの。

 こういったことをすることで、艦娘への性的暴行や性的虐待、暴力行為、横領などを摘発し、それを抑圧する効果があるのだ。仮にどんなに巧みに隠したところで大本営から派遣された特殊部隊にかかれば全てを暴かれるので、元からそういったことをする提督はいない。

 逆に総司令官側や大本営側が贔屓によって問題を揉み消したり、賄賂交渉といったことへの強い牽制力もあるため、どの者も秩序正しく行動し、国民のためにと働いている。寧ろ悪いことをしようとする方が自殺行為になるのだ。

 

「まぁ、来ておいてなんだけど、興野くんのことだから、僕は何も心配してないんだとけどね」

「そりゃ俺は隠れて何かやるなんて器用なことは出来ねぇからな〜」

 

 朗らかに笑う大山に提督も笑って返すが、小山の方は何か言いた気に提督の顔を睨んでいる。

 そんな大山に提督は「んだよ、なんかあんのか?」と訊ねると、

 

「…………お前は裏切り者だ」

 

 小山はそう言い切った。その言葉に大山は「よさないか」と注意するが、小山は止まる気配がない。

 

「お前は俺を……みんなを裏切った大罪人だ! 周りがお前を許しても、俺は死ぬまでお前という男を許さない!」

 

 怒鳴る小山に提督はまた始まったとばかりに息を吐き、「好きにしろよ」と言うように軽く片手を仰ぎ返す。

 その態度に小山はものすごい剣幕で立ち上るが、

 

「こらこら、小山くん。あれは仕方ない……仕方のないことだったんだ。それが彼が選んだ道なんだ」

 

 大山になだめられた小山は苦虫を噛み潰したような面持ちで座り直す。

 するとそこへ、阿賀野たちがお茶とお茶菓子を持って現れた。

 

 二人へお茶とお茶請けを渡し、最後に阿賀野が提督へお茶を渡す。その際に提督は阿賀野へ優しく「サンキューな」と伝えると、阿賀野はその小さな幸せに顔をほころばせた。

 そんな夫婦を大山はうんうんと笑顔で満足そうに頷き、小山はぐぬぬと握る拳に力を込める。

 

「小山副総司令官さん、あたしの司令のことそんなに嫌い?」

 

 小山の様子を見た酒匂が眉尻を下げて悲しそうに訊ねると、そこで小山はやっと肩の力を抜いた。

 

「……いや、こちらこそすまない。だが、どうしてもみんなのことを考えると、この気持ちを抑えられなくてな」

「司令はとっても優しいよ? あたしたちのことを本当の家族のように思ってくれてるもん」

「えぇ、それは貴女たちや奥方を見れば分かります。そもそも小山くんは彼とは元々仲良しですよ」

 

 大山の説明に酒匂は小首を傾げる。ならばどうしてと思っていると、

 

「そもそもお前が俺たちを裏切って、()()()と結婚したのが悪いんだ」

 

 小山の理由に困惑した。()()と結婚とはどういうことなのだろうと。酒匂は姉妹の中で一番あとに着任した故に今回は初めてこの場に立ち会っているので、大山や小山の趣味趣向を知らないのだ。

 そんな酒匂に構うことなく、今度は大山が口を開く。

 

「ハッハッハ、僕は彼の判断は至極正しいと思うよ? あの大きな乳房に惹かれるのは男として当然のことじゃないか。そこには柔らかく、言葉では計り知れない素晴らしい浪漫が詰まっているのだから、ね」

 

 爽やかな笑顔でそう言い放つ大山だが、その目はしっかりと阿賀野の胸や能代たちの胸を捉えている。それを見た阿賀野は苦笑いしか返せず、能代と矢矧はつい両手で胸を隠した。しかしそのせいで谷間が強調され、大山にその神々しい谷間を脳内へ保存されているのもの知らずに……。

 一方、小山はすかさず声を大にする。

 

「そんな脂肪の塊がロマン? 笑わせるのも程々にしろ! チッパイこそが至高! ボインは金で偽装出来るが、チッパイは天に授けられし、唯一無二の崇高な存在だ!」

 

 熱く語り、酒匂の胸元を見つめる小山。それに対して酒匂は相変わらず小首を傾げているが、能代と矢矧が酒匂を守るように立ちはだかったのは言うまでもない。

 

 大山と小山……この二人は兵学校時代から女性の胸のことで毎回のように対立しており、支持者たちからは今も昔も『巨星』と『小星』と言われる二大巨塔である。

 提督はロリコン(本人は否定している)であるため、小山と『小さくも壮大な夢』と題したチッパイ談義をよくしていた。その一方で大山とも『大きく気高き山』と題したボイン談義もよくしていたので、ある意味で中立的な存在だった。

 

 それから卒業して数年の時を経たある日、提督が結婚を発表した。友人である二人はその報せに大いに歓喜した。

 

 彼はきっといい山を踏破したのだろうーー

 と大山は思う

 

 あやつは素晴らしき夢を手に入れたんだろうーー

 と小山は思う

 

 そして結婚式に出席した二人は正に天と地の差とも言える反応を見せた。

 大山は連れてきた陸奥や愛宕たちにサプライズで祝砲を轟かせ、小山はその場で両膝を折り大鳳や瑞鶴たちと嘆き悲しんだ。

 

 何故なら提督の選んだ相手が阿賀野(ボイン)だったから……。

 

 なので二人はこの有様なのだ。

 

「小山くんには小山くんで、彼の幼馴染みである獅子内くんがいるじゃないか」

「あいつは論外だ! チッパイを崇める我々にとって禁忌を犯したのだからな!」

「駆逐艦とのケッコンカッコカリは合法だよ? 君たちにはもってこいじゃないか」

「何を言うか! チッパイとは触れるものにあらず! 遠くから見守り、その夢を見せてもらうことこそが至高なのだ! あいつはそれを破り、あろうことかケッコンカッコカリまでした! そんな者は同志ではないっ!」

 

 二人して熱く語っているが、その内容は"胸"のことである。提督はそんな二人を見、そして現在進行形で二人からディスられている幼馴染みのことを思い浮かべ、どうして俺の周りにはまともな奴がいないんだ……と胸の中で愚痴をこぼした。

そしてどこからか『お前もこいつらと同類だからさ』という声が聞こえたが、きっと空耳だろう。

 

 このままでも埒があかないので、提督は「あのよ」と口を開くと、二人は提督に視線を向けた。

 

「悪ぃけど、俺にも俺の仕事があるんだわ。さっさと用事を済ませてくれねぇか?」

 

 正に正論。その言葉で我に返った二人はようやく本来の目的を遂行し、手際良く視察を終えると何事もなかったように鎮守府をあとにした。勿論、何も問題はなかったからだが、提督がドッと疲れたのは言うまでもない。

 

 二人を見送り、阿賀野たちと執務室へ戻ると、提督は厳戒態勢を解いてから、ゲッソリしながらソファーに座り込む。

 そんな提督の隣に座る阿賀野は彼を優しく介抱し、よしよしと甘やかす。

 

「相変わらずだったわね、どっちも」

「そうね……でも、どうして男の人ってああも胸に固執するのかしら」

 

 能代と矢矧はどこか呆れたように先ほどまでいた御仁たちのことをつぶやくが、その隣で酒匂は「なんのことか分からなかったっぴゃ〜」とクッキーを頬張っている。その酒匂の様子にその場にいる全員が『この子だけは綺麗なままでいてほしい』と強く思った。

 

「まぁ、人間誰しも、最初は母親の母乳を飲み、それに依存する訳でだな……だから男ってのは女の人の胸に惹かれる何かがあるんだろうよ」

 

 どこか哲学的な提督の見解に酒匂を除く阿賀野たちは妙に納得したような声を出した。

 艦娘とは資材から特殊な過程を経て誕生するため、親というものはイマイチ分からないが、自分たちの記憶にはそれぞれの乗組員たちのことが残っている。だから艦娘は家族がどういうものなのか、恋人とはどういうものなのか、親とはどういうものなのかを理解していた。

 もっとも、この鎮守府に至っては所属するみんなが提督の深い親愛に触れ、家族のように扱ってくれているので家族というものをよく理解している。

 

 他所の鎮守府では提督と艦娘がどのような絆を育んでいるかは分からないが、自分たちの今ある絆を思うと阿賀野は勿論、矢矧たちも胸の中に優しく心地よい温かさを感じるのだった。

 

「慎太郎さん、チョコ食べる?♡」

 

 阿賀野の言葉に提督は一瞬疑問を持ったが、すぐに「食べる食べる」と口を開ける。すると阿賀野から一口チョコを口移しされ、提督は内心驚きながらも、チョコと阿賀野の舌を楽しんだ。

 こんなことをするといつものように矢矧に怒られるだろうな……と提督は思いつつ、そっと矢矧の様子を確認すると、矢矧は素知らぬ顔をして能代や酒匂と雑談している。

 

(あれ? 今日はお叱り免除される系?)

 

 これまた驚いた提督だったが、ラッキーと思うことにした。

 すると自身の顔の両サイドをグッと阿賀野から押さえられる。未だ互いに唇は重なったままだが、阿賀野の目からは『何よそ見してるの?』という言葉がこもっていた。

 提督はそれに心の中で謝ると、今度こそ愛する妻との甘美な時間を心ゆくまで味わい、先ほどまでの疲れを癒やしてもらうのだった。

 

 濃厚で卑猥な音が響く中、

 

「能代姉ぇ、緑茶がくっそ甘いんだけど、この甘さを掻き消す何かない?」

「ん〜、ハバネロのお菓子ならあるけど?」

「ちょうだい」

「矢矧ちゃんそれ食べられるなんてすごいね〜!」

 

 義妹たち(主に矢矧)は何とも言えない休憩時間を過ごしたそうなーー。




幼馴染みに続き、また提督さんのとでも友人を登場させた回にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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