提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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勝利への咆哮

 

 時間は〇一三〇過ぎ。埠頭にはこれより任務に向かう艦隊が装備の最終確認をし、そんな艦隊を提督や能代たちは見守るように側で佇んでいた。

 そして深夜だというのに、埠頭には鎮守府に所属する全艦娘が艦隊を送り出そうと集まっている。

 

「私たちの代表だからね! 頑張ってね!」

「連合艦隊だからって油断しないでね!」

 

 川内、那珂は神通へそう声援を送ると、神通はニッコリと笑って自身の胸をトンッと叩いた。すると神通と関係の深い者たちや仲の良い者たちもそれに応えるように更なるエールを送る。

 

「電〜、絶対に絶対に帰ってくるのよ! わだじよりざぎにいぐなんでゆるざないんだがら!」

「暁姉、そんな泣いてちゃ何言ってるか分からないでしょ」

「私は電なら心配してないよ。頑張って」

 

 暁は泣き叫ぶような声援を電に送る。その横では響と雷もまた暁ほどではないが、涙を溜めてながらもしっかりと電へ声援を送っていた。電は笑顔で姉たちに向かってペコリと一礼すると、他の艦娘たちも電へ大きなエールを送った。

 

「時雨〜! 夕立〜! 一番になって帰ってくるんだよ〜!」

 

 二人へそう声援を飛ばすのは白露。しかしその隣で「どっちも一番になるとか無理じゃね?」と涼風にツッコミをされたが、「まあまあ、そこは言いっこなしってことで……」と村雨に注意された。

 

「夕立姉さん、頑張って〜!」

「時雨姉も、頑張って!」

 

 春雨、山風が大声で声援を送ると、他の姉妹も揃って『頑張れ〜!』と声を張り上げた。時雨はそれに手を振って応え、夕立はその場で飛び跳ねて体全体で応えて見せる。すると二人に多くの者たちが声援を送った。

 

「綾波〜、気をつけてね〜。待ってるから」

「気合を入れて頑張れよ!」

「が、頑張ってください!」

 

 そして綾波にも敷波や天霧、狭霧が声援を送る。朧たち第七駆逐隊も両手を振ってエールを送ると、綾波はニコッと微笑んで応えた。するとまた多くの者たちが綾波にもエールを送るのだった。

 

「頑張れよ、旗艦殿」

 

 一方、武蔵はわざわざ海に降り、阿賀野へ静かなる檄を飛ばした。阿賀野は笑顔で頷くが、

 

「もし帰って来なかったら、提督さんは由良がもらっちゃうから♪」

「青葉の間違いですよ」

「私の間違いではなくて?」

「火遊びは感心しないわね……私が一番提督を愛してるのに」

 

 他の恋敵(ライバル)たちが応援に来たのか、火事場泥棒をしに来たのか分からないような言葉をあげる。

 しかし阿賀野は相変わらずな光景を見たおかげですごくリラックス出来た。

 

「そんなことにはならないから大丈夫! 提督さんは阿賀野のだけだもん!」

 

 いつもならそんなことを言えば正妻戦争が勃発するが、この時限りはみんなが頷き、阿賀野とそれぞれハイタッチする。

 

 そして、

 

「全艦、準備整いました! 第一艦隊、これより任務に向かいます!」

 

 阿賀野が提督へ敬礼し、透き通った声で報告した。

 

「よし。んじゃ、第一艦隊抜錨!」

 

 提督の号令に第一艦隊全艦が『抜錨!』と復唱すると、戦場へと向かって舵をとった。

 そしてその瞬間、提督が「生きて帰ってこい」と声をかけると、みんなは笑顔でそれに応えるのだった。

 

 提督はすぐさま矢矧たちと共にテレビ会議室へと向かうが、埠頭では阿賀野たちが見えなくなるまで手を振る者たちと集まった妖精たちから艦隊へ軍艦行進曲が高らかに送られ、その場にいる者たちの合唱が響き渡っていた。

 

 ーー

 

 テレビ会議室に入ると、もう既に多くの者たちが待機している状態だった。

 やれることはやった。あとは自分たちの艦隊を信じて指揮するのみ。みんなの気持ちは一つの方向へと向いていた。

 

 ーーーーーー

 

 それから、各艦隊が所定の海域、位置へ着いたと報告が出揃うと、大山の号令でとうとう作戦が幕を開ける。

 

 囮のなる興野艦隊と獅子内艦隊が全速力で最短距離を突っ切る中、立ちはだかる敵艦隊を他の艦隊が引き受け、本隊も闇夜に紛れて上手く進軍出来ていた。

 

 これだけの艦隊の数がいるなら、全艦で突撃してもいいのではという声も出た。しかしそれでは例え敵を殲滅したとしても、味方の被害が大きくなってしまう。そうなれば泊地全体の力が下がり、敵へ大きな隙きを与えることになってしまうのだ。それを避けるためには、やはり策を弄する他なく、弄した結果墓穴を掘ることのないように泊地にいる知恵者たちが無い時間内で練り上げた苦肉の策だった。

 

 この作戦は本当に囮となる二つの艦隊に頼らざるを得ないのだ。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、敵中枢でも艦娘がこちらへ向かっているとの報せがあり、陣形を保ったまま臨戦態勢に入っていた。

 

「フフ……キタンダァ……? ヘーエ……キタンダァ……」

 

 四方向にある口と各砲身がカタカタと笑っているように揺れる。

 その禍々しい兵器を椅子のように扱い、そこへ鎮座するその姿こそ、あの防空棲姫だった。これでクラスが駆逐艦なのだから、深海棲艦とはどこまでも底しれぬものである。

 

 自分に危機が訪れていても、この姫は「ドンナイタイコト、シヨウカナ……」などと闇夜の中で微笑んでいた。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、囮部隊は索敵にて中枢艦隊の位置を把握し、本部からの突撃命令を待っている状態だった。

 他の艦隊の助力も大きく、誰も傷つくことなくここまで辿り着いた。艦隊は命令を待つ間も艤装のチェックや各々の役割を再確認している。

 

「夜間飛行爆撃機はこっちに任せて、阿賀野さんたちは前だけを見ててね」

 

 獅子内艦隊旗艦の如月からの言葉に阿賀野は静かに頷いて返す。

 今回は囮……しかし、本隊が砲撃を開始するまでは持ち堪えなくてはならない。

 

 よって二つの艦隊は更なる作戦を立てていた。

 航空機の対処は獅子内艦隊が引き受け、レーダーによる探知での支援に徹する。そして興野艦隊が砲雷撃にて攻撃するというものだ。

 二つの艦隊、それも提督同士が何だかんだでツーカーの関係なのが、ここに来て良い方向へ作用している。

 

 すると

 

 ーー全艦、突撃してください

 

 大山の声で命令が下った。

 

「全艦、今から送る位置へ魚雷発射!」

 

 如月の声で砲雷撃戦の火蓋が切られる。

 

 阿賀野を始めとする興野艦隊は送られた位置へ、魚雷を射出。すると早速、敵に命中した魚雷により水柱が複数上がる。

 先制には成功した……が、ここからが本当の勝負であった。

 

 ーーーーーー

 

 各鎮守府のテレビ会議室には興野艦隊の阿賀野と獅子内艦隊の如月からの映像が映され、その戦況を見守っていた。

 

『ふわぁぁぁぁ!? そこはっ!』

 

 如月の悲鳴が響く中、小破とのことで一同がとりあえず安堵のため息を吐く。

 

『如月ぃぃぃいいいいっ!! 頑張ってくれぇぇぇぇぇえええっ!!!!』

 

 ただ、それ以上に虎之進の悲鳴がうるさかった。

 

『イタイ? イタイ? ソレガホントヨ……アッハハハ……!』

 

 モニターに映る姫はこちらを挑発するかのようにこちらの艦隊に容赦ない砲撃を浴びせる。こちらは回避行動が高いといっても、向こうの乱射ともとれる砲撃は確実に味方の体力を削っていく。

 

『次弾装填完了!』

「放てっ!」

 

『魚雷……狙って!』

『そこだね』

『ソロモンの悪夢、見せてあげる!』

 

 神通の声に提督は即座に発射命令を出す。続く時雨、夕立も装填完了した魚雷を放ち、阿賀野、電、綾波が正確な砲撃で姫の退路を塞ぐ。

 

 すると今海戦一番の大きな水柱が上がった。

 防空棲姫の硬い装甲を神通、時雨、夕立の魚雷が見事に貫いた瞬間である。会議室ではまだ着任して日が浅い提督たちが喜びの声をあげたが、他の提督たちはまだ険しい表情を浮かべていた。

 

 ーーイタイワ……ウッフフフッ……!

 

 水柱からそうハッキリと声がした。

 柱が消えると、自分の足で姫はようやく海面に立ち、こちらを射抜かんばかりに凝視している。

 

『ヤッタナァ……オマエモ、イタクシテヤル……!』

 

 その咆哮ともとれる叫びと同時に四つの艤装が轟音を轟かせた。

 すると時雨と夕立が水柱となって姿を消す。

 

「時雨っ! 夕立ぃっ!」

 

 提督の悲鳴に近い叫び声に時雨も夕立も反応はするものの、

 

『この僕を、ここまで追い詰めるとはね。まあ、いいさ……』

『これじゃあ戦えないっぽい〜!?』

 

 二人は大破していた。微かに直撃は免れたようであったが、それでもこの破壊力は悪夢でしかない。

 大規模作戦中にこの防空棲姫と対峙した提督たちは、あの時の悪夢が蘇ったようで表情が凍りつく。

 

 しかし、提督たちはすぐに立ち直り、自分たちの艦隊を囮艦隊の支援に向かわせる。今この悪夢と戦っているのは興野艦隊と獅子内艦隊。彼女たちがあってこそ、この悪夢を打ち破れるとみんなが分かっていたからだ。

 

 それでも支援砲撃や雷撃が当たってもその悪夢は留まることを知らない。射程内にいる艦隊は次々と被弾し、撤退を余儀なくしていく。

 

『命中させちゃいます!』

『よく狙って……てぇえええ〜い!!』

 

 電と綾波も魚雷を射出し、時雨と夕立も大破の身でありながら砲撃でアシストをする。

 しかし、それは虚しくも外れてしまう。

 

『コンドハコッチノバン……アッハハハハハッ!』

 

 電たちへ容赦ない砲撃が襲いかかった。時雨と夕立は大破しているため、次が無い。

 しかし獅子内艦隊の面々が身を呈してくれたことで事なきを得たが……艦隊はもうボロボロで、崩壊寸前。

 

『アッハハハハハ……コレデオシマイ』

 

 次弾装填をしながら姫が笑ったその時だったーー

 

「叩き込めぇぇぇぇ!」

 

 ーー提督の咆哮が響く

 

『これで……っ!』

『終わらせますっ!』

 

 みんなが身を呈して作った時間を見逃す阿賀野と神通ではない。

 二人も中破していたが、ありったけの力を込めて肉薄した防空棲姫の頭と腹へ主砲を見舞う。

 

 朝を知らせる日に照らされ、防空棲姫は動かなくなった。

 阿賀野と神通はすかさず距離をとると、大山艦隊と小山艦隊の本隊からの攻撃で爆発の中に姿を消していく。

 

 その瞬間、誰もが歓喜の声をあげた

 

 

 

 

 

 が

 

 

 

 

 

 その声はすぐに悲鳴へと変わる

 

『イタイ……イタイ……イタイィィィィィッ!』

 

 あれだけの攻撃を受けたはずなのに、悪夢はまだそこにいた。

 本隊は更なる攻撃のために副砲などを放つが、悪夢は悪魔となってある艦娘へと突撃していく。

 

 ーーオマエダケデモ、ツレテイクッ!

 

 その咆哮と共に放たれた砲撃は

 

 

 

 

 阿賀野へと

 

 

 

 

 直撃した。

 ほんの一瞬の出来事だった。

 何もかもが光の中へと消え

      そしてモニターが真っ暗になった。

 

「…………おい、嘘だろ?」

「阿賀野姉ぇ!? 阿賀野姉ぇっ、お願い! 返事してっ!」

「阿賀野姉ぇ……っ」

「阿賀野、ちゃん……」

 

 一番そうなってほしくないことが、現実となる。その瞬間だった。

 

「阿賀野……阿賀野ぉぉぉぉぉぉぉぁあああっ!」

 

 提督の叫び声はどこまでも響き渡り、提督の目の前はモニターと同じように暗く……どこまでも深い闇に包まれたーー。




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