提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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食べ正月

 

 1月が始まり1週間が経った日の昼。

 正月から任務や訓練に殉ずる艦娘たちだが、彼女たちは彼女たちなりに正月を楽しんでおり、その正月ムードはまだまだ残っている。

 

 中庭では凧揚げをして戯れる駆逐艦や海防艦たちの笑い声がこだまし、各寮の談話室には各艦娘による書初めが展示されていたり、艦娘同士で年賀状のお返しを書いたりとそれぞれで正月を満喫しているのだ。

 

 そんな中、提督はとある艦娘たちを連れて近隣の繁華街へとやってきた。

 

「さぁ、着いたぞ〜」

 

 回転寿司店の前までやってきて連れてきた面々へ声をかけると、一緒にきた面々は『お〜』と声をあげる。

 今回提督が連れてきた面々とは白露型姉妹と秋月型姉妹。

 どうして回転寿司店に連れてきたのかというと、提督が漁協の方々に新年の挨拶をしに来た帰りに海風が新年会の賞品でゲットした『回転寿司食べ放題チケット(5名一組)』を使うからだ。

 連れてきた面々の内、5人は食べ放題で残りは提督がご馳走する予定。秋月型姉妹はあまり贅沢をしないので提督が少々強引に連れてきた。

 

「ここが回転寿司店か……」

 

 中でも初めて来た初月は感動のあまりプルプルと小刻みに震えている。

 

「そっか、初月ちゃんは初めてなんだっけ……」

 

 付き添いの阿賀野がそう言うと、同じく付き添いの矢矧も「あぁ、そういえばそうね」と相槌を打つ。

 

「初月、ここは天国に近い場所よ」

「心して食べた方がいいよ!」

 

 秋月と照月の言葉に初月は更に緊張感を募らせるが、白露たちにフォローされながら入店するのだった。

 

 ーーーーーー

 

 二ヶ所の大テーブル席に通された一行は、

 

「提督さんの隣は夕立っぽい〜♡」

「なら反対側は僕だね♡」

「お、おぉう……」

 

 早速提督の両サイドが埋まる。

 阿賀野はこうなると思っていたので提督の正面に座るが、そのオーラは少々ドス黒い……。

 

「まあまあ、阿賀野さん……」

「提督は浮気なんてしないだろう」

「というか、お嫁さんの目の前で堂々と浮気しないでしょ……」

 

 しかし秋月たちのフォローでなんとか平静を保つのだった。

 

「もう、時雨姉も夕立も遠慮がないんだから……」

 

 その隣のテーブルでは村雨がヤレヤレと肩をすくめる。

 一方で同席している艦娘たちは、

 

「提督の周りは相変わらず賑やかだね〜」と白露。

「ま、それがあたいらの提督だろ♪」と涼風。

「それより早く食べようぜ!」と江風。

「沢山食べる……!」と山風。

()()()()()()()()()()してみましょう!」と海風。

「私は玉子にしようかな♪」と五月雨。

 

 変わらずのほほんとしていた。

 因みに春雨から「お茶が入りましたよ」と言われた矢矧は、隣の修羅場テーブルの様子を見ながら緑茶を受け取るのだった。

 

 ー修羅場テーブルー

 

「提督さん提督さん、マグロ食べさせてほしいっぽい!♡」

「ほいほい……っ」

 

「提督も食べさせてばかりじゃなくて食べなよ……ほら、僕が食べさせてあげるから♡」

「あむあむ……っ」

 

 両サイドのLOVE勢は甘えたり構ったりと提督と幸せそうに食事をしているが、阿賀野はテーブルの下で提督のつま先を踏んでいることを誰も知らない。

 

「姉さん……マグロが90円って、この店大丈夫なのかい?」

「だ、大丈夫よ! ま、前に来た時も、きゅきゅ、90円だったしししし!」

「マグロって書いてあっても味がマグロに似てるお魚使ってるらしいから低コストなんだってよ?」

 

 照月の説明に二人はやっと安心したのか、『なるほど!』と表情を輝かせて寿司を堪能するのだった。

 

 ーのほほんテーブルー

 

「どれも美味しいわね……もぐもぐ」

「軍艦巻き、美味しい……はぐはぐ」

 

 海風と山風は寿司が回っているコンベアの側で回ってくるネタを手当り次第食べており、至福の表情。それでも一応他のお客さんも取れるようにある程度セーブして食べているのが奥ゆかしい。

 

「鶏の唐揚げ軍艦巻きとか名前長ぇよな」

「カリフォルニアロールとかも寿司っぽくねぇよな」

 

 涼風と江風はツッコミを入れつつも、変わった寿司ネタを食べては面白さを味わっている。

 

「玉子美味しい〜♪」

「イクラも〜♪」

 

 五月雨、春雨は自分の好きなネタを嬉しそうに食べ、白露はサーモン、村雨は甘エビに舌鼓を打つ。

 

「矢矧さん、次はどうしますか?」

 

 五月雨が気を利かせて訊ねると、矢矧は「穴子ちょうだい」と頼んだ。

 するとちょうど良く穴子が流れてきて江風がそれを取ると、

 

「ふぅぐたくぅん。僕のことを食べたいだなんて、やっぱり僕たちはステディな関係なんだねぇ」

 

 某人気アニメのキャラクターモノマネを始めた。

 似てはいないがそれが返って笑いを生み、矢矧がクスッと笑うと、

 

「ふぐたくん。僕というものがありがなら! そんなやつと!?」

 

 海苔巻きを手に取った涼風もまた違うキャラクターのモノマネを始める。しかも話が色んな意味で危ない。

 そして極めつけは、

 

「あなた! やっぱり私なんかより男がいいのね!?」

「たいこォッ!?」

 

 白露が海苔巻きの奥さんモノマネを始めたからかなりコアな昼ドラが始まってしまった。

 これには矢矧も思わず腹を抱えて笑ったが、ちゃんと「食べ物でふざけないの」と注意したので昼ドラは幕を閉じた。

 

 ー寿司店・厨房ー

 

「3番コンベア、全滅です!」

 

 新入りであろう若い板前の声が厨房に響く。

 

「何ぃ!? どんなにラッシュでも無くなったことなんてなかったぞ!?」

 

 先輩の板前がそう叫ぶが、板前たちはガンガン寿司を握ってはコンベアへ乗せている。

 しかしそのまま帰ってくる皿は一つも無かった……。

 

「一体何がいるというのだ……あの向こう(客席)に!?」

 

 すると、

 

「フフ、この感じ……この肌触りこそが戦争(ランチタイム)よ!」

 

 熟練者であろう板前がどこか嬉しそうに寿司を握っていた。

 

「し、知っているんですか!?」

「あぁ、お前たちは知らないだろうがな……数ヶ月に一度はこうなるんだ。だから楽しめ! こんな時間は早々味わえんぞ!」

 

 その声に板前たちは揃って元気に返事をすると、また多くの寿司を握る。自分の握る寿司をあの向こうにいる猛者()が待っている……自分の今ある技術の全てを懸けてご馳走しよう、と。

 

 ーのほほんテーブルー

 

「なんか、さっきより流れてくる寿司多くね?」

 

 流れてくる寿司をいぶかしげに見つめる江風。一緒にコンベア側にいる涼風もコクコクと同意している。

 江風と涼風は食べるので忙しい海風と山風に寿司をせっせと取ってあげるために席替えしたのだ。

 

「ホントだ……さっきまでちらほらだったのに、今はぎっしり並んでくる……」

「お皿がほぼここで無くなるからじゃない?」

「江風と涼風が見境なく海風たちに与えてるからね〜」

 

 春雨の言葉に白露と村雨がそう解説すると、同席している者たちはなるほどと頷くのだった。ただ五月雨だけは今回3枚目の玉子寿司を頬張って天使の笑みを見せている。

 

 ー寿司店・厨房ー

 

「えんがわ全滅! サーモンとイクラもほぼ壊滅状態です!」

「えぇい! 在庫切れは捨て置け! ある物をありったけ握るんだ!」

「皿洗い間に合いません!」

「回収してきた皿を早く洗え! 早くっ!!」

「無茶言わないで!」

 

 厨房はある意味でてんやわんやだった。しかし板前たちの表情は明るく、とても楽しそう。何せこんなに充実した仕事をするのは久々だったからだ。

 朝起きて出勤し、タイムカードを押してただ寿司を握るだけ……しかも食べられずにカピカピになってしまった寿司は捨てるしかなく、そんな寿司を握るのになんの意味があるのか分からないでいた。

 しかし今は違う!

 

「追加のシャリ出来たぞ!」

「ネタの解凍完了しました!」

「追加の海苔も持ってきました! これで軍艦巻きが出来ます!」

「出来る限りのネタは今もどんどん準備してます!」

 

 みんなが一丸となって寿司ネタを準備し、

 

「俺たちが……!! 寿司マイスターだ!!!!」

「俺が……!! 寿司だ!!!!」

「おにぎりとは違うのだよ……おにぎりとは!」

「遊びでやってんじゃないんだよ!」

「寿司よ、私を導いてくれ……」

「僕が一番寿司をうまく握れるんだ!」

 

 みんなが一丸となって寿司を握っているから。

 

 ー修羅場テーブルー

 

「厨房の方が賑やかだな〜」

「海風たちがいるからね」

「お皿は回収する所に入れてるけど、もう軽く100皿は入ってるっぽい」

 

 食事を終え、海風たちを待っている提督たちはお茶を飲んで隣のテーブルや厨房の様子を見ていた。

 

「寿司屋なのにプリンもあるんだな……」

「ケーキもあるわよ、初月も食べなさい!」

「デザートもほぼ100円だからね!」

「阿賀野もプリン食べよ〜♪」

 

 ただ阿賀野たちはまったりとデザートタイムを過ごし、中でも秋月型姉妹は流れてくるデザート一つひとつにも感動している。

 

「はい、提督さん♡ あーん♡」

「お、サンキュ♪ あ〜む!」

 

 そして阿賀野と提督はやっといつもの夫婦らしく、イチャイチャしながらデザートを食べるのだった。

 

 ーーーーーー

 

「え、え〜……サービス券使用により546皿が無料となりますので、お会計は5508円でございます」

 

 食事を終えて会計する店員の顔はとても引きつっていた。

 何せ海風と山風で500皿食べた(仲良く250皿ずつ+デザート全品)のだから当然である。

 提督は店に心の中で謝りつつ海風と山風に加え、二人以外で多く食べた白露、夕立、阿賀野の料金を海風の券でタダにしてもらって会計した。

 

 店を出る際には厨房から板前たちが提督たちを一目見ようと顔を覗かせていた程で、色んな意味で注目されていた一行は颯爽と店をあとにするのだった。

 外の空気は冷たかったが、食後の火照りを冷ますにはちょうど良い心地良い空気である。

 

 店を出ると、秋月たちは提督に笑顔で『ごちそうさまでした!』と伝え、白露たちも揃ってお礼を伝えた。勿論、阿賀野と矢矧も。

 提督はみんなに笑顔を返すと、「海風も山風も堪能したか?」とそう二人へ訊ねる。

 

「はい! どのお寿司も美味しくて、また来たいと思いました!」

「みんなで、食べれたから、とっても美味しかった……」

 

 二人は満面の天使ような笑みで返すと、提督も「そりゃあ、良かった」と返してみんなと鎮守府へと戻るのだった。

 

 後日、提督たちが行った回転寿司店は板前たちがこれまでにない活気に溢れ、全国展開するチェーン店にまで発展を遂げることとなるーー。




長くお休みしててごめんなさいです。
今週からまた更新していきます!
ただ、リアルの関係で週一更新です。そこは何卒ご了承を。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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