提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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新入りだよ!

 

 1月某日、昼過ぎ。

 鎮守府は龍田、村雨、長波がそれぞれ改二への改造を施されたことで士気が高まる中、今は一段とその賑わいが増している。

 何故ならば、今日は新しく着任する艦娘が入港する予定で、今丁度桟橋にその艦娘たちが上がったばかりだからだ。

 

「いやぁ、こんなに声かけてもらえると気分いいなぁ!」

「そうね……艦隊の雰囲気もいいし、いいところね」

 

 桟橋に上がってそんな話をしているのは、択捉型海防艦三番艦『佐渡』と七番艦『対馬』。

 

 佐渡は涼風や摩耶のように言葉遣いが少々男勝りなロリ艦娘。しかしこの元気さは艦隊を心強く鼓舞してくれるだろう。

 一方の対馬は見た目とは裏腹に大人っぽく、冷静な子。雪風に匹敵する幸運体質であったりする。

 

「それもここの提督が皆さんと良い信頼関係を築いている証拠ですね」

「早くお会いして、ご挨拶したいですね」

 

 その佐渡たちの隣では秋月型駆逐艦三番艦『涼月』と潜水艦『伊400』こと"しおん"が提督との対面に胸を躍らせていた。

 

 涼月もしおんも物腰の柔らかいお淑やかな艦娘で、少々お節介焼きな性格。きっと後々にこの二人も雷や夕雲、浦風に負けないほどのお艦力を発揮するだろう。

 

「さぁ、みんな、提督や姉妹のみんなが待ってるから、執務室へ行くよー!」

「一応言っておきますけど、私の愛する提督さんにくれぐれも粗相のないようにしてくださいね!」

 

 護衛艦隊の旗艦を任された那珂と鹿島の声に佐渡たち新着任艦たちは『はい!』と声を揃えて返事をすると、みんなして執務室へと歩を進めた。

 ただ那珂と鹿島が一瞬だけ火花を散らしたように見えたが、みんなはそれに触れなかった。

 

 ーーーーーー

 

 那珂と鹿島を先頭に執務室までの道を歩き、涼月は姉である秋月や照月と、しおんは妹のしおいと談笑しながらいる中、佐渡が「……なぁなぁ」と香取に話しかける。

 香取も護衛艦隊の一員として参加しており、佐渡としては今いるメンツの中で一番しっかりしてそうだと判断しての選択だった。

 

「どうしたの?」

「ここの提督ってさ……結婚してるんだろ? カリじゃなくてガチなやつ」

「えぇ、そうよ。プロフィールに書いてあったでしょう?」

「その相手って鹿()()さん?」

 

 佐渡の言葉を聞いて香取は「いえ、そうではないわ」と訂正しようとしたが、

 

「えぇ、そうですよ! 佐渡ちゃん!」

「違うから! 阿賀野ちゃんだから!」 

 

 鹿島と那珂の声に掻き消されてしまう。那珂は提督のことはLOVEの意味で好きだが、阿賀野とラブラブで幸せなところを見守るのも好きなのだ。たまにはレッスンでお借りしているが……。

 佐渡はどういうことなのか理解出来ずに困惑していると、

 

「鎮守府は危険がいっぱい……フヒヒ」

 

 対馬はそれを可笑しそうに笑ってた。

 

「コホン……提督は阿賀野さんとご結婚されています。決してこの愚妹とではないので、誤解しないように」

いひゃいいひゃいよ、かちょりねぇ(痛い痛いよ、香取姉)!」

 

 それでも香取がちゃんと訂正し、鹿島の頬をつねったので佐渡はちゃんと提督が阿賀野と結婚しているのだと理解出来た。

 

 ーーーーーー

 

 いつもながら賑やかに本館前までやってきた一行。すると丁度本館からリシュリューが出てきたので、みんなして挨拶を交わす。

 

「あら、この子たちが新しく着任した子たち? みんな小さいわね」

「見た目はちっこいけど、やる気は負けてねぇかんな! 外国の戦艦だからってビビんねぇぞ!」

 

 リシュリューの言葉に佐渡がそう反発すると、リシュリューは「気に障ったのなら、謝るわ。ごめんなさい」と頭を下げる。

 

「別にあなたたちを馬鹿にして言ったんじゃないのよ。可愛らしい仲間が増えたわねって思ったの」

「か、可愛いとか……おだててもなんも出ねぇぞ? へへへぇ」

 

 今度は照れ臭そうに笑う佐渡。みんなはつい『チョロい』と思ったが、リシュリューは『表情が豊かで可愛いわね』と思った。

 そしてリシュリューは改めて着任した者たちの顔を見回すと、

 

「…………対馬に何か?」

 

 対馬だけをジーッと見つめる。何か自分に変なところがあるのかと対馬は自分の服装などを確認していると、リシュリューが対馬の両手をガシッと握った。

 

「あなた、私に協力してくれないかしら? 悪いようにはしないわ」

 

 リシュリューからの唐突なお願いに対馬や他の者たちも盛大に首を傾げたが、対馬はリシュリューの目から邪気は感じつつも本当に悪いことにはならないだろうと判断して、「対馬でお役に立てるなら」と承諾する。

 するとリシュリューは「Merci」とお礼を述べ、対馬を優しく抱えあげた。

 

「い、妹に何する気だ!?」

 

 佐渡が声を荒らげるとリシュリューは静かにとジェスチャーしたあとで口を開く。

 

「彼女をこのまま私が抱えて、アミラルの元へ連れて行くの……そして『あなたとの子よ!』って宣言するのよ」

 

 一点の曇りない清々しい顔でとんでもないことを言うリシュリューに対し、香取や那珂は『何を言ってるんだ、こいつは?』という目で見た。

 ただ、

 

「そんな手があったのに、相手にされるまで気が付かなかったなんて!」

 

 鹿島だけはすごく悔しそうにその場に両膝をガックリと突いて嘆いていた。

 

「あの……子どもよと言っても信じてもらえないのでは?」

 

 しおんがオズオズと質問すると、リシュリューは「Pas de problème(問題ないわ)!」と胸を張る。

 

「だって彼女には私と同じ泣きぼくろがあるし、髪の色も日本人と私の髪色を混ぜたような色をしているもの! あとは勢いでいくのよ!」

 

 何とも自信にあふれているが、そんなリシュリューを那珂は「ダメだ、早くなんとかしないと……」と心の中で嘆いた。一方の香取は冷静に「否定されるのがオチね」とメガネをクイッと上げていた。そもそも泣きぼくろがあるといっても位置が違うし、何より髪色など無理があり過ぎるから……。

 

 ーーーーーー

 

「え、え〜、俺がここの提督をしてる、興野慎太郎だ。念のために一応言っておくが、リシュリューと子どもはこさえてない。俺の妻は阿賀野だから」

 

 提督はみんなにそう自己紹介しながら、執務室の片隅で体育座りしながら、いじけて床にのの字を書いているリシュリューをチラ見する。

 最初こそ顔合わせはほんわかムードだった。リシュリューが対馬を抱えて執務室へ入るまでは……。

 

 当然、「嘘だ!」とどこかのお持ち帰り系女子のように阿賀野からすごい剣幕で指摘された挙句、提督からも否定されたリシュリューはあのように拗ねてしまった。提督は可哀想だと思いながらも、ここで変に優しくするのはおかしいと思ってグッと堪えている。

 

「ーーてな訳で、これからよろしく頼むぞ」

 

 提督の挨拶が終わると、みんなして返事をして顔合わせが終わった。恒例となったお駄賃をあげるのも終えると、新しく着任した者たちはそれぞれの姉妹と寮へ向かい、香取たちは補給へと向かう。

 

「さて、リシュリュ〜?」

 

 みんなが退室したあとで、提督はリシュリューを呼んだ。

 リシュリューは振り向きもせずに「何よ?」とふてくされていると、

 

「まぁ、その……なんだ……あんまり気を落とすなよ?」

 

 無難な言葉をかけた。

 するとリシュリューは「は〜い♡」とたちまちご機嫌になり、阿賀野たちは『チョロ過ぎる……』と苦笑いを浮かべるのだった。

 

「リシュリューさんって案外単純なのかな〜?」

「しっ、そう思っても言わないのよ、酒匂」

「能代姉ぇの言う通りよ。扱いやすいって思えばいいの」

 

 矢矧が酒匂へそう言いう横で、阿賀野や能代はそれはそれでどうなの、矢矧……と苦笑いを浮かべていた。

 

 ーーーーーー

 

 それから時が過ぎ、夜になると食堂では新しく着任した艦娘たちの着任式が催された。

 有志発表は勿論のことだが、妖精音楽隊による軍歌メドレーも大変に好評だった。何しろ日本の軍歌だけでなく、独・伊・米・英・仏・露の軍歌まで演奏されたので、海外艦勢もより楽しめたからだ。イタリアやアイオワ、ガングートに至っては声高らかに歌っていた。

 

 そしてこれから始まるのは、

 

『続きまして、『鎮守府へ行こう! 新人の主張』です! まずはじめはしおんさん、お願いします!』

 

 しおんからの主張だ。

 小さなお立ち台にしおんが上がると、しおんは丁寧に頭を下げて「こんばんは、皆さん」と挨拶をする。

 それにみんなも『こ〜んば〜んは〜!』と返しつつ、お馴染みとなった阿賀野がお玉をマイク代わりに「今後の目標はなんですか?」と訊ねた。

 

「そうですね……早く任務に慣れて、皆さんのお力になりたいですね」

 

 微笑みながらもしっかりと語ったしおんに、みんなは「健気だな〜!」「お淑やか〜!」「ヒュー!」と温かいヤジを飛ばす。

 しおんははにかみながらもペコリと一礼して退くと、今度は涼月がお立ち台へ上がった。

 

「こ、こんばんは。秋月型駆逐艦、三番艦の涼月です。姉さんたちやお初さんに負けぬよう、頑張って訓練して、皆さんを護れるよう鋭意努力して参ります」

 

 まさかの訊かれる前に言ってしまうパターンに、みんなは『食い気味主張いいぞ〜!』とヤジを飛ばすと、

 

「あ、やだ……私ったらつい……」

 

 涼月は火照った頬を手で押さえ、恥ずかしそうにモジモジしてしまう。

 その初々しい仕草に多くの者たちは『可愛い〜!』と声をかけると、涼月は「はぅ……」と何とも言えない声をあげて、一礼すると逃げるように秋月たちの背中へ隠れてしまうのだった。

 

 続いてお立ち台に上がったのは佐渡で、

 

「択捉型海防艦の三番艦、佐渡様だぜ! イェーーーイ!」

 

 と小さいながら大声で高らかに拳を突き上げる。これにはみんなも呼応して『イェーーーイ!』と返す中、口笛を吹く者もいた。しかし姉の択捉だけは自身の顔を片手で覆い、「あちゃ〜」みたいな反応をしてる。

 

「は〜い、じゃあ佐渡ちゃん。今後の目標は何かな〜?」

「んなの決まってんだろ! ビッグな女になることさ! いつまでもちっこいままなんて嫌だかんな!」

 

 その主張に多くの者たちは可愛らしいと思いながら声援を送った。中にはレディカッコカリな駆逐艦や戦艦になりたい駆逐艦たちが大いに頷き、とても共感している。

 最後に佐渡は「あ、名前は佐渡でも、この佐渡様はサディストじゃねぇからな!」と宣言すると、元気よくお立ち台から降りた。お立ち台から降りると択捉に「何なの今の挨拶しかたは!?」と注意されていた。

 

 そして今回最後の主張は対馬。対馬は自己紹介したあとで阿賀野からお馴染みの質問をされると、少しだけ考えてゆっくりと口を開く。

 

「…………艦だった頃の対馬は日本で生まれて、最期は異国でその生涯を閉じました。ですが、艦娘に生まれ変わったこの生涯は日本で終えたいと……心から願っています」

 

 語り口調は静かだったが、その言葉には決意の重さが伝わってきた。

 すると、

 

「今度こそ、みんなで生き残って日本を護ろうね」

 

 阿賀野が対馬に力強く言葉をかける。みんなも阿賀野の言葉に同意するように頷いてみせると、対馬はクスッと小さく笑った。

 

「はい、信じて……対馬も頑張ります」

 

 その言葉に多くの者たちが『お〜!』と声を張り上げ、今日一番の盛り上がりを見せる。

 提督は心の中でしっかりとみんなを指揮していくことを誓うと、

 

『ではでは、最後の出し物……『食堂の中心で愛を叫ぶ』を開催しま〜す!』

 

 大淀の言葉に提督はずっこけた。何故いい雰囲気だったのにそれをするのか……と。

 しかしこれも鎮守府の日常故、仕方ないねぇ。

 

 その後、提督はガチ勢からの愛を聞きながら、阿賀野に脇腹をつねられるのであったーー。




はい、ということで今回は新着任艦登場回にしました!
リシュリューさんと鹿島さんがポンコツっぽくなってしまいましたが、可愛いからいいですよね?

読んで頂き本当にありがとうございました!
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