提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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少しグロいシーンがあります。ご注意ください。


命と言葉の重み

 

 鎮守府は何事もなく時が過ぎ、お昼時を迎えた。

 そのお昼時を迎えた鎮守府の食堂は多くの者が間宮、伊良湖、鳳翔、速吸、神威の料理に笑顔という花を咲かせている。

 

 鎮守府の食堂は所属する艦娘全員が同時に座れるほどの規模があり、基本のシステムは日毎に違う二種類の定食を受付け妖精に頼み、それを配膳場で貰い、席につくというシンプルなもの。因みにご飯(またはパン)、お味噌汁(またはスープ)はおかわり自由。

 

 そして食堂ではルールがあり、

 

1:自分が使ったテーブルは使った本人が次使う人のために布巾で綺麗に拭くこと。

2:食べ終わった食器は必ず洗い場へ戻すこと。

3:混雑時はお互いに譲り合うこと。

4:『いただきます』、『ごちそうさま』を必ず言うこと。

 

 の4点だ。このルールを破ると1ヶ月間の皿洗いの刑がその日から執行される。

 

 更に食堂には間宮たちだけでなく妖精たちも数多く所属し、その妖精たちは食堂妖精と呼ばれている。

 主に食材の搬入、管理と食堂全体の衛生管理、食器洗い、そしてルール違反者がいないかを取り締まっており、食堂の屋根裏部屋に住んでいる。そして夜間は滅多にいないがつまみ食いをしに来る者を取り締まる。

 

 食堂長をしている給糧艦『間宮』は出撃しないものの、その分は料理で艦隊のみんなを支える女将。

 料理長をしている給糧艦『伊良湖』も出撃はしないが、間宮と同じくみんなを支え、美味しい料理を提供する若女将。

 そんな二人を軽空母『鳳翔』と補給艦『速吸』と『神威』が支えており、今日は水上機母艦『瑞穂』も手伝いに来ている。

 

 鳳翔は旧一航戦ではあるが、その力は今も健在。空母勢の良き模範であり、常に優しく時に厳しい頼れる艦娘である。

 速吸は鎮守府初の補給艦であり、艦隊を陰で支える縁の下の力持ち。

 神威は着任して日が浅くまだまだ新米の補給艦。しかしいつも笑顔を絶やさず、みんなのために頑張っている献身的な艦娘だ。

 瑞穂は物腰柔らかく、凛とした艦娘。誰かのために尽くすのが好きで、尊敬する提督にも献身的に尽くしている。

 

 そんな食堂だが、

 

「はい、提督さん♡ あ〜ん♡」

「あ〜……ん、まいうまいう♪」

 

 この夫婦はやはりいつも通り。

 いつもの窓際のテーブルに隣り合わせで座り、今日も今日とて仲良く食べさせ合っている。

 

「阿賀野の料理とどっちが美味しい?」

「甲乙つけがたし!」

「えぇ〜、そこは『阿賀野』って言ってよ〜」

「俺は正直な人間でいたいからな」

「むぅ〜……なら次に訊いた時は絶対に『阿賀野』って言わせちゃうんだから!」

「はは、なら楽しみにしとくよ♪」

 

 提督はそう言って阿賀野の頬に軽く口づけると、阿賀野の笑顔はより一層キラキラと輝くのだった。

 

「………………食堂ルールに『イチャイチャしない』も追加してほしい」

 

 そんな夫婦を睨みながらとんかつ定食を食べるのは矢矧。因みに能代、酒匂は午後から遠征任務があるため先に食べ終えた。

 

「ちょっと、流石にカラシ付けすぎじゃない? とんかつ定食っていうよりカラシ定食になってるわよ?」

 

 そんな矢矧に声をかけるのは丁度お昼を一緒に過ごす長良型軽巡洋艦二番艦『五十鈴』。

 ケッコンカッコカリ勢で鎮守府の誇る対潜・対空番長。提督のことを心から尊敬していて、良き上官と部下の関係である。

 

「あんなくっそ甘い夫婦見ながらとんかつ食べたら糖尿になるわ」

「ならないわよ……ていうか矢矧は気にしすぎなんじゃない? 能代や酒匂みたいに受け入れちゃえばいいのに」

「あの夫婦には厳しくする人が必要なの!」

 

 頑固一徹な矢矧に五十鈴は「はいはい」と苦笑いを見せた。

 

 すると二人が座るテーブルの空いている席に天龍、藤波、松風の三人が定食の乗ったお盆を持って座った。

 

 夕雲型駆逐艦十一番艦『藤波』は着任して数ヶ月の艦娘。

いつも飄々としているが芯は強く、努力家。

 

 神風型駆逐艦四番艦『松風』も着任して数ヶ月。

しかし自分に自信を持ち、常に笑顔で周りに安心感を与える艦娘だ。

 

「また矢矧は小煩く小姑してんのか?」

 

 天龍が矢矧にそう言うと、矢矧は「二人のためよ!」と言い返して天龍を睨む。

 

「別にいいだろ、見せられないことしてる訳じゃねぇんだし……それにあれがオレらの鎮守府のデフォだろ?」

「全員が許したらもっとエスカレートするに決まってるわ!」

 

 天龍の言葉に矢矧は一歩も引く気はない。そのうち五十鈴に『何言っても無駄だから、よしなさいな』というような目配せをされた天龍は苦笑いを浮かべ、ちゃんと「いただきます」を藤波たちとしてから割り箸を割った。

 

 すると五十鈴が「そういえば、龍田は?」と別な話題をふる。

 

「んぁ? 龍田は午後から委員会があるって先に行ったぞ」

「あぁ、委員会ね〜」

 

 この鎮守府には艦娘たちが委員会というものを独自で結成し、補佐艦とは別の意味で鎮守府に貢献している。

 龍田が所属するのは『園芸委員会』でこの委員会はその名の通り鎮守府全体の花壇の手入れを行っている。

ああ見えて提督は花が好きで、自身の部屋や執務室には季節毎の切り花が飾られているのだ。

本当ならば花壇に花を植えて世話をしたいが、何分そこまでする時間が取れない。なので龍田たちが提督のためにと結成した委員会なのだ。

 

 他にも鎮守府のゴミ拾いをする『清掃委員会』、艦娘の士気高揚や精神的健康を保つために催し物を考える『イベント委員会』が存在している。

 

 そんな話をしていると、夫婦は食事を終えて食堂をあとにしていく(勿論ルールもしっかり守って)。夫婦仲良く手を繋いで。

 

 すると藤波が「あのさ……」と口を開いた。みんなはその声に反応し、藤波の言葉を待つ。

 

「何で司令っていつも左足引きずって歩いてんの? 生まれつき足悪いとか?」

 

 その言葉に松風も「あぁ、僕も前から気になってた」と頷くが、藤波たちの前に座る矢矧も五十鈴もバツが悪そうに視線を逸らす……と言うよりは天龍の方を見た。

 

「あぁ、あれか? あれは前にオレが馬鹿やったせいで嗚呼なったんだよ。足引きずってんのは左足の膝から下が義足だからだ」

 

 天龍があっさりと答えると、藤波も松風も目を丸くさせる。

 そんな天龍に矢矧は気遣って「天龍……」と声をかけるが、天龍は「着任して日が経ってる奴らはみんな知ってるし、別に隠すことじゃねぇだろ?」とご飯を食べながら返した。

 

「その時の話を聞いてもいいかい?」

 

 松風が天龍にそう訊ねると、天龍は「恥ずかしいが、いいぜ」と返し、そうなった経緯を話し始める。

 

 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー

 

 それは提督が鎮守府に着任し、半年を過ぎた頃だった。

 半年でそれなりの戦力を保持していた艦隊だったが、その進軍速度は遅く、中破した者が出れば提督は迷わず艦隊に帰投命令を出して仲間の轟沈を回避していた。

 

 しかしそのため艦隊ではフラストレーションが日に日に溜まっており、中でも天龍はよく提督に抗議しに行くほどだった。

 

 その日も天龍は出撃したが自分や味方の中破により、進軍を断念。それはその海域の最深部まであと一歩のところまで来ての帰投だった。

 

『おい! 何であそこまで行ったのに進軍しねぇんだ! 腰抜け野郎!』

 

 帰投しドックを出たあと、真っ先に執務室へ来た天龍の開口一番の言葉はかなり辛辣なものだった。

 

 天龍としては被害が出ても弱まった敵を倒したいという思いが強い……そうすることで日本を脅かす存在を倒し、日本を守ることが出来るから。

 そして提督は仲間を失っては敵の思う壺……変に兵力を犠牲にしてまで殲滅しても、それは国益を損なうと考えており、深海棲艦と違ってこちら側は資材が限られている上、軍は国民の税金によって成り立っているから。

 

 根底にあるのはどちらも日本国、そして国民のためという気持ち……しかし気持ちの表し方が違うが故に二人はぶつかるのだ。

 

 そんな天龍に対して提督は至って冷静に「仲間を失ってからでは遅いから」と返す。

 

『んなこと毎度毎度聞かされて、こっちはうんざりしてんだ! オレには死ぬまで戦わせろよ!』

『お前はそれで満足するかもしれないけどな……残された側の気持ちも考えろ。妹の龍田や仲間たちがどんな気持ちになるか、馬鹿なお前でもそれくらい理解出来んだろ』

『っるせぇ! お前にオレの何が分かんだよ!』

『んなの分かる訳ねぇだろ。俺はお前じゃないんだからな』

 

 提督の冷静な言葉に天龍はカッとなり提督の胸ぐらを掴む。しかし提督は怯まずに天龍に言う。

 

『……俺がお前を理解してねぇように、お前も俺を理解してねぇ。ちっとは頭冷やして冷静に物事を考えろって言ってんだよ、俺は。でなきゃ命がいくつあっても足んねぇよ』

 

 諭すように言われたその言葉は天龍の胸にズキッと衝撃を与えた。天龍は何が何だか分からなくなり、提督の胸ぐらを掴む手を離した。

 

『次の出撃は俺も出向く。最近のお前は特に心配で龍田だけじゃ心配だからな』

 

 そう言うと提督は上着を整え、天龍の肩を叩いて自身の出撃準備へ向かった。

 

 この頃の提督は自らも軍用クルーザーで戦場へ赴き、艦隊の後方から指揮を飛ばしていた。戦場へ出て戦場を見ることでその場の空気を感じ、臨機応変に指揮が出せるからだ。

 

 天龍は提督が一緒なら……と気持ちを奮い立たせ、自分も出撃に備えるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 艦隊の出撃準備を終え、意気揚々と出撃する艦隊。その後方から提督はいつものように付いていった。

 

 戦闘海域に突入し、それによって傷を負う艦隊。しかし提督の指揮が功を奏し、艦隊は中破者を一人も出すことなく最深部へ到達することが出来た。

 

 しかし、

 

『覚悟はしていましたが、強い……!』

『これでは艦載機の発着が!』

 

 敵戦艦四隻の前に仲間が次々と中破、大破していく。

 こちらの戦艦は二隻。空母二隻のお陰で制空権は取っても、その空母二隻が中破してしまい艦載機を放つことさえ出来ない。

 それでも提督の指揮の元、攻撃手段を持つ者たちは諦めなかった。その甲斐あって敵艦隊を戦艦一隻にまで追い込むことが出来た。

 

 それでも、

 

『全員に告ぐ。敵が引き始めた。俺らも撤退だ』

 

 あと一歩のところで帰投を余儀なくされる。

 

『お前、正気か!? ここは突撃だろうが! 今取り逃がせば、また回復して襲ってくるんだぞ!』

 

 提督の判断に真っ先に異議を唱えたのはやはり天龍だった。

 

『てめぇだって中破してんだ。大人しく従え。てめぇは死ぬのが怖くねぇかもしんねぇが、艦隊全員がてめぇと同じ意見じゃねぇんだ……勇猛と無謀を履き違えんじゃねぇ』

 

 提督の冷徹なまでの反論に天龍は頭にカッと血が登る。そして次の瞬間、天龍は艦隊から一人離れて引いていく戦艦目掛けて突撃してしまった。

 

『提督! 天龍ちゃんがっ!』

『あんの馬鹿!』

 

 ーーーーーー

 

『へへっ、相手はあと一撃で倒せるんだ……オレ一人でもやれるぜ!』

 

 天龍はそう思い込んでいた。しかし相手は戦艦。軽巡洋艦の天龍とでは、火力も耐久力も上回っている。

 しかも敵戦艦は天龍一隻と分かると、即座に反転し迎撃体制を取ってしまった。

 

『おらおらおらー! 沈めー!』

 

 威勢良く砲撃する天龍だが、中破した艤装や体では本来の火力を発揮することは出来ず、更には命中精度も格段に落ちてしまっている。

 

『くそ! なんで当たらねぇんだよ!』

 

 どんなに撃っても砲弾は敵を掠めることすらしない。

 そんなことをしているうちに弾が底をついてしまった。

 

 それを待っていたとばかりに今度は敵戦艦の大口径から砲弾が放たれ、それは真っ直ぐ天龍へと飛んでくる。

 向こうは大破しているとは言え、戦艦。その砲撃となれば大打撃は必須でしかも今の天龍の耐久力では……。

 

『し、死ぬ……!!』

 

 自分に着弾するまでの間、天龍は自分の死を確信した。するとこれまで死ぬことに何の躊躇いもなかった自分に恐怖というものが生じ、足が震えて回避行動を取れなかった。

 

『死なせるかよぉぉぉ!』

 

 着弾する直前、天龍の前に提督の操るクルーザーが立ちはだかった。クルーザーを盾にしたことで天龍は助かったが、クルーザーは真っ二つに裂け、瞬く間に海へとその身を預けていく。

 

『ぶはぁっ……今だ! 砲撃可能な奴はありったけの弾を敵にブチ込めぇぇぇっ!』

 

 海面から顔を出し、大声で号令をかける提督。

 その言葉通り、艦隊から一斉放射を浴びた戦艦は轟沈し、艦隊はすぐさま提督と天龍のそばへ。

 

『ちったぁ頭冷えたか?』

『す、すまねぇ……』

 

 恐怖で足がすくんでいた天龍も、提督の声でやっといつもの自分に戻れた。

 

『こんなの今回限りにしてくれよな……それよりクルーザーの破片取ってくれ、大きめなやつ。お前らと違って俺は海の上に立てねぇんだ』

 

 提督の言葉に天龍は「お、おう」と返し、とりあえずすぐそばに浮いていたものを掴んだ。

 

『っ!!?』

 

 しかしそれを見て天龍は自身の目を疑った。

 

 何故ならそれは提督の足だったから……。

 

『お〜、木っ端微塵にはなってなかったのか』

 

 天龍が言葉を失っている中、呑気なことを言う提督。

 

『提督、ごめん……オレのせいで……ごめんっ……ごめんなさい……!』

『反省してんならそれでいい』

『でも……!』

『っんとにてめぇはどこまでも馬鹿な奴だな』

 

 提督はそう言って海面でしゃがみ込む天龍の頭をポンポンと軽く叩いた。そして、

 

『どっちも生きてんだ……それでいいだろ』

 

 とだけ伝えるのだった。

 その後は艦隊のみんなから応急手当をされ、クルーザーの大きな破片に乗せられ、艦隊のみんなと共に帰投した。

 

 提督は吹き飛ばされ、海面に強く全身を打ち付けたことによる全身打撲と右腕に軽度の火傷……そして左膝から下を裂断と診断された。

 

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー

 

「……んで、入院して義足を作ってリハビリして今の状態にまで回復して現場復帰したんだ」

 

 壮絶な話に藤波と松風は言葉を失い、なんと言っていいか分からなかった。

 

「提督はさ……正真正銘の馬鹿なんだよ。普通ならそんなことしたオレを解体したり、それこそ同じ目にあわせたりしたっていいのに、提督はオレに改めてこう言ったんだ……」

 

『何度も言うけどな、天龍。お互い生きてりゃそれでいい。俺たちは戦争やってんだ、生きてるだけで儲けもんなんだよ』

 

『それからもうあんなことにならないように、ハッキリ言っとくぞ。端から俺はお前が死ぬまで戦わせてやるつもりでいる。だけどお前が死ぬのはこれから何十年も先の話だ。仮に今の戦争が終わっても、俺たち軍人は今度はその平穏を守るために戦い続けなくちゃなんねぇからな』

 

「……ってさ。その言葉を聞いて、オレは心が震えたぜ……」

 

「この身が朽ちるまで提督と肩を並べられるって思うとよ……」

 

 そう語る天龍の瞳は熱く燃え上がっていた。そんな天龍が藤波と松風には後光が射して見え、いつの間にか自分たちの手にも力がこもっているのを感じる。

 

「やっば……不謹慎なこと言うけど、司令めっちゃ漢じゃん」

「あぁ、そんな身体になっても僕らのトップで居てくれるのは、本当に頼もしい限りだ」

 

 藤波、松風がそう言うと、

 

「だろ? だからオレは提督にどこまでも付いてくって決めたんだ♪」

 

 ニカッといい笑顔を見せて天龍はそう言った。

 

「そういえば、あの時の天龍は今の阿賀野とは違った意味で提督にべったりだったわよね〜♪」

 

 そんな天龍に向かって五十鈴がニヤリと笑って言うと、天龍は「どういうことだよ?」と五十鈴を睨む。

 

「あら……提督が入院中、阿賀野と一緒に毎日お見舞いに行ってたのは誰だったかしら?」

「そ、そりゃあ、おめぇ……当然だろ。オレが原因な訳だし……」

「リハビリの応援にも毎日通って甲斐甲斐しくしてたくせに♪」

「うるせぇうるせぇ! いてもたっても居られなかったんだよ、もう!」

 

 赤面した天龍は五十鈴にそう返すと、また丼茶碗に残るご飯を掻き込んだ。

 そんな風に照れ隠しする天龍を他のメンツはニヤニヤとしながら見つめ、自分たちも昼食を再開するのだったーー。




今回は真面目なお話にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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