提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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お返しお菓子

 

 残存戦力への掃討作戦もほぼほぼ終了と言ってもいい、今日この頃。

 それでもまだまだ未知数の深海棲艦が相手ということで、各鎮守府の艦隊は徹底的に敵を叩いている。

 

 そんな中、ホワイトデーを迎えた当鎮守府では、おやつ休憩の時間を使って食堂へやってくる艦娘たちへ、提督がバレンタインデーのお返しとして、朝から準備をして自慢のスィーツを振る舞っていた。

 

 そのスィーツはマカロンとバームクーヘン。

 何故その2つなのかというと、

 

 マカロン   :あなたは特別な人

 バームクーヘン:あなたとの関係が長続きするように

 

 という意味があるためだ。

 

 ただこれだけならば、みんなが特別だといっているような博愛主義っぽいことになるが、提督の気持ちはそういうことではない。

 

 提督は鎮守府に所属するみんなを常々家族だと思って接している。

 つまり、艦娘は今や鎮守府の数だけ存在しているが、自分のところにいる《一人ひとりが特別な存在》であり、そんなみんなと《これからも家族のような関係でいられるように》と願いを込めて振る舞っているのだ。

 

 そして今は丁度あきつ丸やまるゆへ手渡しているところ。

 

「まさか、このように自分にまで頂けるとは……提督殿には感謝感謝であります」

「隊長、ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げる二人に提督は豪快に笑って「んなこたぁいいから、遠慮せずに食ってくれ」と言うと、あきつ丸もまるゆも笑顔で頷き、提督お手製スィーツを持って適当なテーブルへと向かうのだった。

 

「アミラル、あなたの私への愛……受け取りに来てあげたわ♡」

「アドミラル……こんなにも嬉しい贈り物をありがとう♡」

 

 続いてやってきたリシュリューとアークの言葉に、提督はこれまで培ってきたスルースキルを発動させる。

 

「おぉ、俺の()()の気持ちを受け取ってくれ。これからもよろしくな……頼りにしてるぞ!」

 

 淀みのない笑顔と仲間として、家族として愛していると伝える提督。二人からすると欲しかった言葉ではなかったが、ちゃんと『愛』があるということが確認出来ただけで二人の心はぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 傍から見れば勢いと雰囲気で誤魔化しているだけだが、あくまでそう悟られずに、ごく自然にこの会話が出来るのが提督のスルースキルの強さなのだ。それにリシュリューとアークも提督は家族のように思っているので、言っていることも嘘ではない。

 

「貴女たちは相変わらずね……アドミラル、心のこもったスィーツをありがとう。大切に食べるわね」

「ミーも大切に食べるわ! だからいっぱいプリーズ!」

「アドミラルのオモテナシ? 感謝です♪」

「とってもとっても嬉しいです! Merci♪」

 

 恍惚な表情を浮かべているリシュリューとアークを横に置き、一緒にきていたウォースパイト、アイオワ、サラトガ、コマンダン・テストが提督から贈り物を受け取る。中でもアイオワは食べる方なので、提督はアイオワ用の大きな包を手渡した。勿論、かの大食い三人衆も特大な包であるが、甘い物が大好物である弥生にも特大な包を渡した。

 

「これからもよろしくな、みんな」

 

 提督の言葉にウォースパイトたちは笑顔で頷き、みんなして嬉しそうにスィーツの包を持って部屋へと戻っていく。なんでも、今日は部屋で提督のスィーツを堪能しながらティータイムを過ごすのだそうな。

 

「相変わらず得点稼いでるね〜、よっ、すけこまし!」

 

 続いてやってきたのは球磨型姉妹。北上にそんなことを言われた提督は「んなこと言うならあげないんだからね!?」と謎のツンデレ対応。

 

「ふふふ、北上さん。提督にそんなこと言ったら駄目じゃないですか〜。貰える物も貰えなくなっちゃいますよ?」

「提督はそれでもくれるはず〜、ね〜?」

 

 大井の言葉に北上はそう提督に言うと、

 

「あげないと可哀想だし、材料が勿体無いから、あげるんだからね!?」

 

 相変わらずのツンデレ対応だった。

 これにはいつもバランサーを務める木曾もどう言えばいいのか分からず、取り敢えず当人たちが楽しそうなので流すことにする。

 

「クマ〜、提督のお返し嬉しいクマ〜♡」

「でも本当ならケッコン指輪が欲しかったにゃ〜」

「まぁ、今後の戦況次第では渡すかもだが、今回はお菓子で勘弁してくれ」

 

 多摩の言葉に提督はちゃんと真面目な返答をして、多摩の顎の下をこしょこしょすると、多摩は「楽しみにしてるにゃ♡」と笑顔で返した。

 その横で球磨も「球磨も待ってるクマ〜♡」とおねだりしてきたので、提督は笑顔で「おう」と球磨の頭を撫でながら返すのだった。

 

「司令官、お菓子ありがとうございます!」

 

 球磨たちが食堂をあとにすると、今度は吹雪型姉妹が並んでおり、丁度吹雪たちで最後だった。

 提督からバレンタインデーのお返しを受け取った吹雪が姉妹を代表してお礼を言うと、妹たちもそれぞれ感謝の言葉を伝える。

 

「あんた、こんなお菓子をLOVE勢やガチ勢に渡したわけ?」

 

 叢雲が呆れ気味で訊くと、提督は「おう」と返し、叢雲はヤレヤレと肩をすくめてみせた。

 

「無難にクッキーにしとけば良かったのに……馬鹿ね」

「ムラクモン、俺はちゃんとみんなへ俺の気持ちをお返ししたかったんだ。だからそんなこと言わないで……泣いちゃうから!」

「司令官!? 叢雲!」

「司令官をいじめないで、叢雲ちゃん」

「そ、そうだよ。提督は普通の人より優しいだけだもん」

「そうそう! 叢雲姉さんだって、それは分かってるはずでしょ!?」

 

 提督がそう言うと、吹雪や白雪、磯波、浦波といった忠犬勢が揃って提督を庇い、叢雲を睨む。

 

「なんで私が責められなきゃならないわけ?」

「まぁ、みんな司令官のこと好きだから」

「野暮なことは言いっこなしってことだな!」

 

 初雪と深雪にそうフォローされると、叢雲は「まぁ、いいわ」と小さく笑った。

 

「ま、なんにしろ、お菓子は嬉しいわ。感謝してあげる♪」

「おぉ、ムラクモンがデレた!」

「言ってなさい♪」

 

 互いに小突き合う提督と叢雲。流石は電の次に着任しただけあって、提督との戯れも息が合っていて信頼関係の強さを感じさせる。

 そんなこんなで、提督はみんなにバレンタインデーのお返しをするのだった。 

 

 ーーーーーー

 

 一方、提督がみんなへバレンタインデーのお返しをしていたところを、

 

「慎太郎さん、モテ過ぎ〜……うわ〜ん」

 

 妻の阿賀野は少し離れた所にあるテーブルで能代たちと見ていた。

 いつもなら提督のお手伝いをする阿賀野たちだが、今回ばかりは提督がお手伝いを許してくれなかったので、四人して提督のスィーツを食べながら見守っていたのだ。

 

「全然慕われてないよりいいと思うけどね、私は」

「能代姉ぇの言う通りよ……それに由良とか武蔵さんとか、ガチ勢たちのことものらりくらりとかわしてたじゃない」

 

 能代と矢矧の言葉に阿賀野は「そうだけど〜」と返すが、やはり愛する夫が他の女の子と親しくしているのはモヤモヤする様子。

 そんな阿賀野へ、

 

「でもでも、そんな司令と阿賀野ちゃんは結婚してるんだよね♪ 阿賀野ちゃんすご〜い!」

 

 大天使酒匂エルが絶賛すると、阿賀野の頬はみるみるうちにフニャフニャとなり、口にはだらしない下弦の月が浮かんだ。

 

「へへへ〜、まぁ、そう言われちゃうと〜、そうなんだけどね〜♡」

 

 すると能代や矢矧もこれに続けとばかりに姉夫婦をヨイショする。

 

「提督もなんだかんだ阿賀野姉ぇ一筋で浮気なんてしないものね」

「理想の夫婦よね……甘過ぎて見るに耐えないとこもあるけど……

 

 すると能代と酒匂が矢矧の両脇を小突いたので、矢矧は苦笑いを浮かべて「おしどり夫婦よね、うん」と結論付けた。

 

「えへへ〜、そんなに褒めないでよ〜、もぉ〜♡」

 

 こうなると阿賀野はすっかり上機嫌となり、ヤキモチも忘れて、黄色い声をあげる。

 能代、矢矧、酒匂はそんな阿賀野に内心でホッとし、穏やかな気持ちで残りの提督スィーツを堪能出来た。

 

 ーーーーーー

 

 それから時も過ぎ、夜となり、夫婦は部屋へ戻り、夕飯と風呂も済ませてのんびりと昼間の疲れを癒やしている。

 ホワイトデーということで、提督は阿賀野が願うがまま、阿賀野を構っていた。

 因みに、今は提督が阿賀野を後ろから抱きしめて座っている状態だ。

 

「むぅ〜」

「ん? 不機嫌そうな声なんか出してどうした?」

「阿賀野がこうしてってお願いしたんだけど〜、このままじゃ慎太郎さんのお顔見えな〜い」

 

 なんとも愛らしい不満に、提督は「なら、体勢変えるか?」と訊ねる。

 すると阿賀野は「変えるぅ……」と言って、今度は提督と向き合うように体勢を変えた。

 

「えへへ、やっぱり見つめ合ってるのが一番よね♡」

 

 ご機嫌に笑う妻を見て、提督もつられて笑みを浮かべる。

 

「ねぇねぇ、慎太郎さ〜ん♡」

「なんだよ〜、阿賀野〜♪」

 

 自分の頭を提督の頬に擦り付けて戯れる阿賀野に、提督も頬で阿賀野の頭を擦り返した。

 

「慎太郎さ〜ん♡」

「なんだよ〜♪」

「慎太郎さん慎太郎さん♡」

「なんだよなんだよ〜♪」

 

 特に理由もなく夫の名前を呼ぶ阿賀野と妻を構う提督。

 ホワイトデーだのなんだの関係なく、これはもう夫婦のデフォである。

 

 すると提督が「あ、もう頃合いだな」とつぶやいて、阿賀野に一言断ってからその場から立ち上がり、冷蔵庫の方へと向かった。

 阿賀野は提督が珍しく晩酌でもするのかと思って見ていると、戻ってきた提督は酒ではなく、小さな箱を持ってきた。

 

「これ、みんなには内緒な?」

 

 そう言って阿賀野へ小箱を手渡す提督。阿賀野はなんだろうと小箱の蓋を開けると、そこには可愛らしいハート型の飴が5つ入っていた。

 

「これって……」

「阿賀野にだけのホワイトデーのお返しだ」

 

 その言葉に阿賀野は提督の顔を見る。

 

「まぁ、飴の意味は『あなたが好きです』って意味だけどよ、味にも意味があるって知ったんだ」

 

 ブドウ :酔いしれる恋

 オレンジ:幸せな花嫁

 リンゴ :運命の相手

 レモン :真実の愛

 

 提督がそう説明すると、5つ目の飴の意味がないことに小首を傾げた。

 

「あれ? 5個目のは?」

「5つ目のはキャラメルだ。阿賀野はキャラメル好きだろ?」

 

 最後のは意味なんて無く、ただ妻の好きな物を提督が贈ったということ。

 

「慎太郎さ〜ん、阿賀野泣きそ〜!」

「えぇ、超困る〜!」

「慎太郎さんの胸の中で泣かせて!」

「ほいきた〜!」

 

 阿賀野はこうして夫から幸せな贈り物を貰い、最高のホワイトデーを過ごし、提督のことも当然美味しく頂くのだった。

 

 後日、阿賀野はそのことを仲良しの艦娘や能代たちに聞かせると、キャラメルに『あなたと一緒にいると安心する』という意味があることを教えてもらい、その時も提督は美味しく頂かれたが、それはまた別のお話ーー。




ホワイトデーということで、このような回にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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