提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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此度の本編には少しだけ史実のお話が含まれます。
情報元はWikipediaや艦これWikiから頂きました。


やったね提督!

 

 4月の後半になった泊地は桜も葉桜へと変わり、今度は藤の花があちこちで咲き誇り、徐々に5月という季節へと移り変わっていっている。

 鎮守府は今日も任務や訓練といつものように励む中、執務室では提督と阿賀野、矢矧が本日新しくここへ着任した艦娘たちと顔合わせをしていた。因みに護衛艦隊の者たちは補給と精密検査へ向かった(能代と酒匂も)。

 

 その艦娘たちとは、

 

「Hi! Essex class航空母艦、五番艦。イントレピッドよ! 貴方がアドミラルなのね? よろしくね!」

 

「え、えっと、ここ、こんにちは……わ、私のなま名前はガンビア・ベイです……よろしくお願いします……えへへ」

 

 それはアメリカ空母のイントレピッドとガンビア・ベイ(以降ガンビー)。

 提督や阿賀野たちは二人と笑顔で挨拶を交わす。

 

 イントレピッドは正規空母の五番艦であり、どことなく母性あふれる大人っぽい艦娘。きっとみんなともすぐに馴染めるだろう。

 

 ガンビーは軽空母で、十九番艦。執務室に入った時は史実のこともありかなり警戒心が強かったが、今はなんとか笑顔でいるので慣れれば問題は解消すると提督は思っているし、そのためにサポートしてあげようと思っている。

 

 この二名はあのレイテ沖海戦に参加しており、ガンビーに至ってはその海戦、サマール沖海戦で沈んでいる。

 ガンビーに関してはみんなそこまで神経質になっていないが、今回一番の懸念材料はイントレピッドの方だろう。

 

 何故ならば、イントレピッドが参加した作戦は硫黄島上陸作戦の支援、沖縄戦(アイスバーグ作戦)、日本本土空襲作戦と日本にとっては苦いものばかり。

 しかも沖縄戦の際には沖縄水上特攻作戦に出撃した戦艦『大和』以下の日本海軍第二艦隊(第一遊撃部隊)に対する空襲作戦にも参加し、大和の撃沈に貢献した戦歴を持つ。

 そしてレイテ沖海戦と沖縄戦においては神風特攻隊からの特攻撃を受け、沈まずに現イントレピッド……艦そのものはアイオワと同じく博物館として現存している。

 

 提督もイントレピッドを着任させるにあたり、大和や矢矧、みんなからちゃんとその旨を伝え、意見を募った。

 募った結果、こうして着任しているのでみんなの意見は仲間にするということ。

 そもそもアイオワやサラトガといったアメリカ艦が既に着任しているので、拒否する可能性は低かったが提督はやはりみんなの意見を聞いてから迎えたかったのだ。

 しかしそれも取り越し苦労で終わった。

 

 何故なら、

 

「私は大和型戦艦の大和。あの時は敵同士でしたが、今は共に手を取って深海棲艦の脅威から人々をお守りしましょう!」

「ヘーイ、ワタシは金剛型戦艦の金剛デース! みんなで頑張るネー!」

 

 わざわざ大和や金剛が顔合わせに参加して、それぞれ二人へ手を差し伸べて握手を求めていたから。

 イントレピッドもガンビーも二人と握手をし、晴れやかな表情をしていることから、提督はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「ふふ、良かったわね。提督」

「みんなすぐに仲良くなれそうで良かったよね〜」

 

 そんな提督へ矢矧、阿賀野と言葉をかけると、提督は「全くだぜ」と笑顔で返す。

 するとイントレピッドが「アドミラル」と提督のことを呼んだ。

 

「お、どうしたインちゃん?」

 

 イントレピッドでは長いので早速あだ名をつけた提督が訊き返すと、

 

「あのね……これからアドミラルのことをハニーって呼んでもいい?♡」

 

 とんでもない事態へと発展した。

 これには流石の提督も目を点にしていたが、

 

「ダメに決まってるでしょ!」

「ダメに決まってるネ!」

 

 阿賀野と金剛が猛烈に拒否する中、提督は冷静さを保ちつつ「理由はなんだ?」と訊ねる。

 

「あのね……実は私、ここに着任が決まるまでかなりの数の鎮守府から断られたの。私が前に敵だったからそれも当たり前よねって自分に言い聞かせてたんだけど、貴方のように私の着任を心から望んでくれて喜んでくれた人は貴方が初めてだった……」

 

 だから親愛の気持ちを込めてハニーって呼ばせてほしいの……と付け加えたイントレピッドは、スルスルっと阿賀野や金剛の包囲網をくぐり抜けて提督の右腕にピトッと寄り添った。

 その真っ直ぐな瞳と素直な言葉に提督は思わずたじろぐ。

 

 先にも述べたようにイントレピッドが過去に与えたものは日本人にとって、日本海軍にとって決して看過することは出来ない。だからこそ提督はみんなへ意見を募った。

 しかしここの艦娘たちは今を生き、今の世界を平和にしようとあの日と同じ志で日々を過ごしている。なのでみんなが彼女の着任を歓迎し、提督は彼女の着任を喜んだのだ。

 しかししかし、誰がこの展開を予想していただろう。

 これには流石の矢矧も唖然とするばかりで、大和に至っては「あらあら、提督はモテモテですね♪」などといつものように天然大和節を炸裂させている始末。

 

「お、俺は知っての通り阿賀野っていう妻がいるからな……みんなに誤解を受けるような呼び方は、出来れば勘弁してくれ。気持ちだけ受け取るからよ」

 

 なので提督はちゃんと誠意ある言葉でイントレピッドへ答えた。

 その回答に阿賀野は蕩けた顔をしながら『やっぱり慎太郎さんは素敵〜♡』と惚れ直し、何故か金剛も『一途なテイトクは素敵ネ〜♡』と改めて惚れ惚れしている。

 しかし、

 

「ムゥ〜、残念だわ〜……でも逃げられると追いかけたくなっちゃう♡」

 

 イントレピッドの放った言葉に提督は勿論だが、阿賀野と金剛、矢矧までもが『えぇ!?』と仰天した。

 

「どうしてそんなに驚くの? 素敵な人を見つけたなら追いかけてなきゃ♡ それに私は艦娘だもの……闘うのは得意だし、闘うのが仕事よ?♡」

 

 ね?♡ーーと可愛らしくウィンクし、終いには提督の頬へ軽くキスをする始末。

 こうなっては阿賀野が当然キレる……が、金剛もキレてしまったので提督を巡って提督は三人からもみくちゃにされるのだった。

 

「あ、あの〜、止めなくていいんですか?」

 

 傍からそのやり取りを傍観していたガンビーが大和へ訊ねると、大和は「これが私たちの鎮守府の日常ですから、大丈夫ですよ」と爽やかな笑顔で返されたので、ガンビーは「そ、そうですか……」としか返すしかない。

 

 そんな中、執務室のドアがノックされ、矢矧が提督の変わりに「どうぞ」と返事をする。

 開いたドアからは能代と酒匂が入ってきたが、その後ろから「司令〜、来たよ〜?」と藤波が姿を現した。

 

「お、お〜、藤波〜……ちょ、ちょっと待っててくれ〜!」

 

 提督は藤波にそう言うと、藤波は止める素振りもなく「あ〜い」とソファーへ腰掛ける。

 

 すると、

 

「あ、あの……」

 

 ガンビーか藤波へ声をかけた。

 

「ん? 何? 藤波に何か用?」

「や、やっぱりあなたが藤波さんなの?」

「え……まぁ、確かに藤波は藤波だけど?」

「わ……」

「わ?」

「わ〜い! 藤波さんだ! わ、私はガンビア・ベイっていうの! 艦の時にあなたが写真だけ撮ったお陰で、あの時に助かった私の乗組員が大切な家族とクリスマスを過ごせたの! とっても遅くなっちゃったけど本当に本当にありがとう!」

 

 藤波の手を取り、ブンブンと握手して言葉を並べるガンビー。流石の藤波もこれには驚きを隠せず、圧倒される。

 

 ガンビア・ベイはサマール沖海戦で大和・長門・金剛を含む日本艦隊の主力と交戦した末に撃沈した。

 最終的に乗組員とVC-10要員あわせて133名が戦死したが、元乗組員のアンソニー氏は死ぬ前にこう語っている。

 

この話は私のことではなく、尊敬すべき日本人の艦長とその乗組員のことです。

駆逐艦『藤波』の乗組員たちの尊敬すべき行いを日本にいる彼らの家族に伝えたい。

漂流し救助を待っていた時、駆逐艦が接近してきて命の危険を感じたがその時予期しない出来事が起こった。

彼らは私たちに手を振り、敬礼をし写真を撮りました。

尊敬すべき艦長と乗組員たちがアメリカ水兵を苦しめるようなことをしなかったから、私たちは全員1944年のクリスマスを家族と過ごせたのです。

 

 こう語っている元乗組員がいたことから、ガンビーは藤波に感謝の言葉を伝えているのだ。

 ただ、アンソニー氏や漂流していた者たちがガンビア・ベイ沈没から二日後に救助されるのであるが、この日に藤波は沈没し、乗組員が全員戦死しているという、なんとも言えない出来事がある。

 

 ガンビーは軽く引き気味の藤波を見て、手を離して「I'm sorry……」と謝ったが、やっと思考が追いついた藤波が今度は自分からガンビーの手を握った。

 

「いっひひ、あんた面白い人だね〜♪ なんか縁ってのを感じるわ♪ これからよろしくね!」

「っ……うん! ヨロシク!」

 

 藤波にも辛い過去はある……しかしそれはガンビーも同じ。妙な縁といえばそれまでだが、二人にとってはきっかけはどうあれ、あの日敵同士だった自分たちが仲間になれるのは喜ばしいのだ。それに二人は最後の時に運命を共にした英霊たちを忘れてはいないのだから(勿論全員が忘れていない)。

 

 提督が藤波を呼んでいたのはこのガンビーとの縁があったからで、それはこのように上手くいった。これに関しては誰もが納得するだろう。

 ただ、

 

「提督さんは阿賀野の旦那さんなの〜! だから二人共離れなさ〜い!」

「テイトクを守るはワタシデース! 一旦二人は離れてクールダウンした方がイイヨー!」

「ハニーと離れるなんてイヤ〜! 絶対にこんな素敵な人離さないんだから〜!」

 

 こちらはもう三つ巴の大乱戦である。

 というか、ちゃっかり金剛が混ざっているせいでよりカオスなことになっているのだが……。

 

「この状況はなんなの、矢矧?」

「また司令がモテちゃったの?」

 

 提督たちを遠目に見つつ能代と酒匂がそんな質問を矢矧へ投げると、矢矧は「ワタシ、ヨクワカンナイ」と片言でそっぽを向く。

 

「矢矧は何もしてないし、提督が隅に置けない殿方だから仕方ないわよ♪」

 

 矢矧の変わりに大和が大和なりの見解を述べると、能代たちは『あぁ〜』と共に苦笑いで察した。

 

「阿賀野の旦那さんから離れて〜!」

「二人が離れるべきネー!」

「私は離れない〜!」

「いい加減にしてくれ〜!」

 

「ねぇねぇ、このあと鎮守府内の見学でしょ? 藤波と回ろうよ♪ 姉妹のみんなにも紹介したいからさ!」

「え、いいの? 嬉しいなぁ!」

 

 まさに執務室はワイワイガヤガヤ。

 

「とりあえず、お茶でも淹れましょうか。そうすればみんな一旦提督から離れるでしょ……」

 

 能代の案に酒匂が「賛成〜」と頷くと、大和も「あ、でしたら大和もお手伝いします♪」と賛成し、矢矧も矢矧で「そうしましょう」と賛成した。

 

 その後、ガンビーは藤波に連れられて一足先に鎮守府内の見学に向かい、イントレピッドはお茶会でなんとか阿賀野や金剛と休戦するのであった。

 ただ、金剛はイントレピッドがLOVE勢に入ったことは歓迎したそうなーー。




ということでここから新艦娘を登場させようと思います♪
いきなりドタバタですが、やったね提督! LOVE勢が増えたよってことで!←

読んで頂き本当にありがとうございました!

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