提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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提督はパナイ

 

 5月の中旬。本日の天気はあいにくの雨。雨は昼下がりとなった今も降り続いている。

 しかしそれでも、艦娘たちは今日もいつもと同じく任務や訓練に励む。訓練に励む者たちは雨の時ほど悪天候時の戦闘を意識して出来るため、いつもより充実した訓練を行えるのだ。因みに今は駆逐隊たちが訓練中。

 

「隊列を崩すな! 崩したら自分だけでなく、仲間までもが死ぬ確率が上がると知れ!」

 

 此度の訓練教官を務めるのは赤城。その赤城の声に訓練に励む者たちは声を張り上げ、隊列を戻そうと全体が速度を下げる。

 するとそれを待っていたかのように大鳳が予め上空で待機させておいた艦爆隊が艦隊へ向かって急降下を始めた。

 

「敵機見ゆ!」

 

 いち早く気がついた涼月の凛とした声。今訓練している者の中で一番練度は低くくとも、対空においては頼もしく、その声で皆は素早く輪形陣に移行することが出来た。

 

「対空砲火!」

 

 雨音にも負けぬ赤城の声が響くと、皆共に大鳳の艦爆隊を相手に奮戦するのだった。

 

 ーーーーーー

 

 訓練を終えた艦娘たちは艤装を工廠へ預け、ドック内のシャワールームで体を洗い流したあと、用意された制服に袖を通す。

 脱いだ制服は濡れ、汚れているため妖精たちがランドリーへ運んで洗濯からクリーニングまでする。因みに破れていたり、ほつれがあれば新品同様になって戻ってくるのだ。

 

「ふぅ……」

 

 制服を着、気を引き締めるように息を吐く涼月。

 

「お疲れ様です、涼月」

 

 すると不知火が涼月の背中をポンと叩いて、言葉をかけた。

 

「あ、不知火さん……お疲れ様でした」

 

 微笑み、言葉を返す涼月に不知火も微笑みを返しながら「訓練にはもう慣れたみたいね」と言う。

 

「気に掛けて頂いてありがとうございます」

「仲間を気遣うのは当然のことです」

 

 不知火がそう返すと、涼月は不知火の優しさに思わずまた笑みを浮かべた。

 

「もっともなこと言ってるけど、不知火は涼月にどう話しかけようかずっと悩んでたっぽい」

「んで、無難に行けってあたいが背中押した♪」

 

 共に訓練に参加した夕立と朝霜の両名から暴露されると、不知火は「相変わらず無粋なことをしますね」と苦笑い。

 

「ふふふ、皆さん仲がよろしいんですね」

 

 涼月はそう言い、片手で口を押さえて淑やかに笑う。するとみんなの横から「何他人事のように言ってるわけ?」と言う者がいた。

 みんなしてその声の方を見るとそこには先日やっと改二への改造が施された満潮の姿があり、その満潮はどこか呆れたような笑みを浮かべている。

 

「仲がいいのはみんな同じよ……んでもって、あんたもその仲がいい"みんな"の中に入ってるわけ」

 

 満潮の言葉に涼月は満潮が自分へ伝えたいことをイマイチ理解出来ず、「私も……?」と小首を傾げた。

 

「だから……あんたももうここに着任して結構経ったし、実感してるでしょ?」

「実感……」

 

 ますます思い悩む涼月。それを見て満潮は「なんで伝わらないかな〜」と言うように小さくため息を吐くが、

 

「満潮、もっとストレートに言わないと涼月には通じないわ」と不知火

「素直に鎮守府のみんなが家族だよって言えばいいっぽい!」と夕立

「それと攻略海域に行きゃぁ、みんなして互いの背中を守る戦友だってな!」と朝霜

 

 三人して満潮の真意を代弁。すると涼月はハッとし、満潮の両手を自身の両手で強く握りしめた。

 

「な、何よ?」

「家族の手を握るのに、理由が必要ですか?」

「っ……なら、好きにしたら?」

 

 フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く満潮。しかしその頬はほんのりと赤く、涼月の手から逃れようとはしなかった。

 そんな満潮を涼月はニコニコと笑って見つめるが、

 

「では不知火は後ろから失礼するわね」

「夕立は右〜♪」

「そんじゃ、あたいはひっだり〜♪」

 

 不知火は満潮に後ろから抱きつき、夕立は満潮の右腕にしがみつき、朝霜は満潮と左腕を組んでくる。

 

「ちょ、なんであんたたちまでーー」

「家族とこうするのに理由が必要なんですか?」

「不知火に同じ」

「以下略!」

 

 見事な言い訳と連携に満潮のコメカミはピクピクと震え、満潮本人は怒りと照れ臭ささで耳まで真っ赤っか。

 しかし満潮の苦悩はこれで終わりではない。

 

「みんなおっそ〜い……って、あー! みんな何してるの! 私も満潮にギューッてするー!」

 

 いの一番に着替えを済ませて更衣室の外に出ていた島風が様子を見に戻って来、みんなの様子を見るや否や自分もせがむ。

 

「では島風は不知火と満潮の背中を共有しましょう」

「何勝手な提案してーー」

「うん、そうするー!」

「あんたもすぐに抱きついてこないでよ! ってか早っ!? あんたさっき扉の前にいたじゃないのよ!?」

 

 こうして季節外れのおしくらまんじゅう状態になる満潮。

 

「ちょ、ちょっと、涼月こいつら止めてーー」

 

 満潮は涼月に助け舟を出したが、

 

「えい♪」

「ーーよぉっほぉ!?」

 

 両手を握っていた涼月が今度は満潮に正面から抱きついたので、助け舟を出す前に退路は塞がれた。何やら普段の満潮らしからぬ叫び声が聞こえたが、みんなはただその声に笑っているだけ。

 

「はいはい、皆さん。そろそろ提督に訓練のご報告をしに向かいますよ〜」

「おしくらまんじゅうはそれからね〜」

 

 赤城、大鳳が声をかけると、みんなして『はーい!』と返事をして満潮から離れる。そして満潮は『楽しんでないでさっさと止めてほしかったわ……』とげっそりしながら、乱れた服装を整えるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 それから執務室にやってきた赤城たち。詳しい報告は報告書にまとめるため、今のような口頭での報告は赤城から駆逐艦たち全体の動きや連携の程を、大鳳からは対空戦闘時の様子とそれぞれのスコアと報告することの役割分担が決まっている。

 今回、訓練した者たちの中で赤城と大鳳の目から見て一番優秀だったのは涼月であり、訓練に参加した者全員が涼月との言葉に納得し、当の本人はオロオロと狼狽えていた。

 

「何キョドってるのよ。一番なんだからしゃんとなさい」

 

 満潮に注意された涼月はピンッと背筋を伸ばし、胸を張る。すると満潮だけでなく、みんながそうだと言うように頷いた。

 

「ーー報告は以上です。詳細は後に報告書にみんなでまとめ、提出に伺います」

 

 赤城はそう言うと姿勢を正して敬礼。みんなもそれに続いて敬礼した。

 

「ん……報告、そして訓練お疲れさん。ドックには寄っただろうが、風邪にはくれぐれも注意してくれ」

「みんな、良かったら温かいお茶を淹れたから飲んでって」

 

 提督の言葉のあとに矢矧がみんなへ促すと、

 

「お茶菓子も好きなだけどうぞ」

 

 能代がお菓子の入ったバスケットをみんなへ見せる。それを見るとみんなの顔は『わぁ』と輝き、みんなしてお言葉に甘えることにした。

 

 ーー

 

「どうだ、満潮。改二になった調子のほどは?」

 

 お茶を楽しむ中、提督はわざわざ満潮の隣に座り、そんなことを訊ねる。その質問に対し満潮は「特に変わらないわよ」と返して、つまんだお菓子を口へ放り込んだ。

 提督は満潮の返答に「そうか」と頷くと、

 

「流石ミッチーだな」

 

 満潮へそんな言葉をかける。

 

「はぁ? 何が流石なのよ? てかミッチー言うな」

「特に変わらないってことは、改のままでも改二に匹敵するほどの感触があったってことだろう?」

「そうよ?」

「俺の慢心のせいでお前をすぐに改二にはしてやれなかった……すまねぇ」

「…………」

「そして、練度上げんのに頑張ってくれてありがとうな」

 

 提督は最後に笑顔で満潮へお礼を伝え、その頭を軽く叩くように撫でる。すると満潮は「あんたのことはそれなりに認めてるから」と言って返した。ただ口ではそう言っているが、満潮の表情は嬉しそうにほころび、足も自然とぴょこぴょこと跳ねている。

 こうなると当然、

 

「提督さ〜ん! 満潮ばっか撫でて差別っぽい! 夕立のことも撫でてほしいっぽーい!」と夕立

「提督〜、私も〜! 差別はいけないんだよ!」と島風

「あたいもあたいも! 差別はんたーい!」と朝霜

「我々の司令は差別をしない方だと信じてます」と不知火

 

 みんなが提督に自分もと詰め寄った。夕立は提督大好きっ子であるが故だが、他の面々は素直に提督を慕っているからだ。

 

「何どこぞの活動家やマスゴミが言いそうな抗議してんだよ! ちゃんと順番にすっから落ち着け!」

 

 そして提督は冗談を言いながら、言葉通りにみんなの頭を撫でていく。

 そんな中、涼月だけは『みんな撫でてもらえていいな〜』と思いながら、小さく笑って提督たちを眺めていた。

 すると、

 

「提督、私たちだって頑張ったんですから撫でてください♪」

「わ、私も提督にな、撫でてほしいです♡」

 

 赤城とLOVE勢の大鳳も続き、涼月は大人な二人もおねだりするものなのかと驚きの表情を浮かべる。

 しかし、

 

「つぅわけで涼月も撫でてやってくれよな!」

「ついでに能代と矢矧のことも撫でれば?」

 

 朝霜と満潮の言葉に名前が出た三人(主に涼月と矢矧)は『えぇ!?』と声をあげた。

 

「わ、私は……」

「遠慮しちゃダメっぽい!」

「そうだよ! それに涼月は速くはなかったけど訓練で一番だったんだから、されるべきだよ!」

 

 狼狽える涼月に夕立と島風がそんなことを言い、

 

「私、褒められるようなことしてないわよ?」

「補佐艦してるってだけでいいじゃないですか」

「それに撫でられて嫌な気持ちはないでしょう?」

 

 矢矧には赤城と大鳳が詰め寄る。

 こうなると矢矧には能代という頼れる姉にしか助けを求めることは出来ない。

 

「の、能代姉ぇ、助けーー」

 

 しかしその助けは既に、

 

「よ〜しよしよし、能代はいつも俺のことを優しく補佐してくれてすごく助かってるぞ〜!」

「ふふふ、勿体無いお言葉です♪」

 

 艦娘キラー(提督)の手に堕ちていた。

 

「能代、姉ぇ……」

 

 呆然と立ち尽くし、力なく姉の名をつぶやく矢矧。

 すると能代が矢矧に目をやって「矢矧……」と妹へ声をかけた。

 

「受け入れてしまえば、気持ちのいいものよ?」

「っ!?」

 

 その能代の言葉に矢矧は言葉を失う。

 そう、あの秩序正しくポンポンと柔らかいリズムで的確に頭のツボを刺激されれば誰だってヘブン状態になる……矢矧だって身を持って経験済みだ。

 だからこそ矢矧は抗った。

 しかし矢矧は既に、

 

「提督さん、矢矧さんは夕立たちが押さえとくから大丈夫っぽい!」

「だからあとでまた撫でてくれよな!」

「また撫でてもらえるのであれば、不知火も助力します」

「提督、早く〜!」

 

 逃げられない。

 矢矧の練度はこの四人よりは高い……が練度の差は僅差である。しかも相手が四人となれば矢矧に打つ手は残っていない……まさに詰みの状態なのだ。

 赤城、大鳳も共に提督に撫でられて顔をほころばせる中、とうとう提督が矢矧を捉える。

 

「いつも迷惑ばっか掛けて悪ぃな、矢矧」

「……べ、別に……っ」

 

 優しい言葉と優しいナデナデ……矢矧の耳にはもう提督の声しか聞こえていない。

 

「よしよし……今後もよろしくな」

「わ、分かってりゅ……っ」

 

 ポンポン……ポンポン……と撫でられて数秒。矢矧の顔はトロットロに蕩け始め、提督が矢矧から離れるといつもの凛々しい矢矧はどこかに消えていた。

 

「ふにゃ……褒められちゃった〜♡」

 

 完堕ちした矢矧は能代が優しくソファーへと座らせる。

 

「矢矧さんってこうなるから嫌がったんですかね?」

 

 赤城の疑問に能代は苦笑いで「だらしない自分をあまり見せたくないって子ですから」と、答えると赤城は納得した。

 それから赤城たちはお茶を楽しんだあとで執務室をあとにしたが、矢矧がヘブン状態から戻ったのは阿賀野と酒匂が出撃から帰ってきた夕方頃だったというーー。




日常回的って感じにしました!
提督のナデナデはパナイ!ってことで←
それと満潮ちゃんの改二に触れてなかったので、今回はそのことにも触れました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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