「全ての確認が終わり、共犯または犯行に関与したとされる証拠は一切ありませんでした。大佐、ご協力ありがとうございました」
グレーのスーツ姿で茶髪で爽やかなポニーテールの女性は応接室にて提督へそう言い、恭しく頭を下げる。
彼女は鬼山元帥の直接指揮下に入っている特別捜査班の一人であり、鎮守府へその名の通り調査に来ているチームリーダーなのだ。
先週に起こった各泊地の中央鎮守府にある補給倉庫への深海棲艦による襲撃事件。
世間では主犯を捕らえ解決したと報道され、もうどのマスメディアにも取り上げられていないが軍にとってはあるまじき大失態だ。
囚えられた元大本営勤務の職員たちは機密漏洩や施設襲撃を手引きしたということで既に銃殺刑が決定し、情報を徹底的に吐かせた後にその刑は執行された。
ただ主犯を処刑しても、その者たちの息の掛かった者がまだ野放しなので、鬼山元帥はこれを期として徹底的に国防軍の膿を取り除く所存だ。
大本営の職員による犯行だと発覚した当初、マスメディアや野党は鬼山元帥の責任と言うことで『退任せよ』と強く批判していたが、中村総理大臣をはじめとする政府が鬼山元帥を支持。一昔前の野党なら『政府は軍と結託している』などと言い掛かりやら難癖を付け、何年も掛けて税金の無駄遣いをしただろうし、マスメディアは『軍がまた暴走を始めようとしている』などと国民の不安を煽っていただろう。
しかし鬼山元帥は自らの言葉でマスメディアを通して国民へこう告げたーー
此度の一件は確かに軍の長である私に責任があることは重々理解しております。
しかしこの事態を収集し、終息させることが出来るのは私しかいないと自負しております。
国民の皆さんに不安を与えたこと、そして此度の襲撃によって亡くなられた警備兵たちのご遺族の方々には、深く深くお詫びを申し上げます。
今後、二度とこのようなことが起きぬよう。私自らが全身全霊で事にあたります。
そして私を含め、国防軍に所属する隊員、艦娘、職員の全員があなた方国民の一人ひとりを……日本を守ろうと常に行動していることを忘れないでください。
ーーと。
この発言は国民たちの中で大きな反響を呼び、これによって世論は鬼山元帥を支持した。相変わらずなのは未だ理解を深めようとせず、揚げ足取りが大好きな左派系団体や左派系マスメディアのみでそれらは国民たちから白い目で見られている。
そんな中で此度、鬼山元帥の指揮の元で提督の鎮守府へ調査官がやってきたということだ。そもそも提督のことは最初からリストに入っていなかったが、全鎮守府を調査することで燻っている膿を徹底的にあぶり出す作戦なのである。
「お礼を言うのはこっちですよ。こちらとしては自分やこの鎮守府の潔白をあなた方に証明してもらえたのですから」
提督は笑顔で調査官へ言葉を返すと、
「煙たがられることには慣れていますが、そのように仰って頂けるとこちらも調査をした甲斐があります」
調査官も笑顔で返し、提督へ握手を求める。
提督はそれに手袋を外して応じると、調査官は小さく笑い声をもらした。
「? 何か自分は笑われるようなことでも?」
笑った調査官へ提督が首を傾げて訊ねると、調査官は「違います」と返して言葉を続ける。
「笑ったことは謝ります。しかし……ふふふ、大佐の後ろに控えている奥様の反応が可愛らしくて」
そう言われ、提督はすぐ後ろに待機している阿賀野へ視線を移した。
するとそこにはへの字口でギュッと拳を握りしめ、嫉妬の黒い炎をまとう妻の姿が……。
阿賀野としては鎮守府の仲間たちならある程度の気持ちは抑えるが、正真正銘の部外者でしかも綺麗な女性が最愛の夫と笑顔で握手をしただけでも排除したくて仕方ないのだ。
「つ、妻を褒めてもらい心からお礼を言います……」
ガタガタと全身を震わせながらも提督は言葉を返すと調査官はニッコリと笑顔を返し、その後は形式的なやり取りを行って鎮守府をあとにした。
ーーーーーー
捜査員たちを見送り、提督は阿賀野と執務室へ戻る。
ソファーへ腰掛けると時計の針は正午を回っており、提督は「案外時間は掛からなかったみてぇだなぁ」とつぶやいた。
「最初から疑われてなかったからでしょ?」
「実際、襲撃事件があったことも通達されて初めて知ったからなぁ……襲撃を受けた大山と小山は大変だろうが、二人共怪我してねぇから立て直しも余裕だろう」
「そうだね」
「…………」
「…………」
夫婦の間に妙な空気が漂う。それは阿賀野がまだ嫉妬の炎を消火し切れていないから。
しかし阿賀野はちゃんと提督の隣に座っており、腕も絡めているため空気感以外はなんらいつも通りである。
「なぁ、握手しただけでそんなに怒るなよ……あの調査官は父子持ちだぞ?」
「それは聞いてたから知ってるもん……でも私は嫉妬深いんですぅ」
頬をぷっくりと膨らませ、そっぽを向く阿賀野。
しかし阿賀野もこれは自分の問題だと思っているし、提督も阿賀野の嫉妬が収まるまで待つしかないと分かっている。
なので、
「食堂行くか」
「うん……行く」
とりあえずお昼なので食堂へ向かうことにした。
ーーーーーー
特に会話は無いままであったが、夫婦は腕を組んで食堂にやってきた。
今日は調査が終わるまで艦娘たちは待機を命じられていたため、食堂はいつも以上に混雑している様子。
夫婦は今日のランチメニューを受け取り、どこか空いているテーブルはないかと探していると、
「提督〜、阿賀野姉ぇ〜!」
能代が手を振って「こっちこっち」と夫婦を呼んだ。
夫婦してそのテーブルに着くと、
「お疲れ様です」と能代
「お疲れ様、案外早かったわね」と矢矧
「お疲れ様〜♪」と酒匂
阿賀野型姉妹が勢揃いしていた。
「あんがとさん。潔白が証明されて良かったぜ」
「そもそも提督さんが関与するはずないもん」
夫婦はそう言いながら着席。しかし能代たちは夫婦の雰囲気で察した。何かあったな……と。
しかし喧嘩している訳でもなさそうなので、三人共そこには触れずに流すことにした。
すると、
「それより
提督が能代たちにそんなことを訊ねる。
「あぁ、提督が心配なさっている方々ならこちらに……」
能代の言葉に提督は「え」と驚いてすぐ隣を見ると、
「補給倉庫を襲撃するなんて万死に値します!」と赤城
「亡くなった方々のためにも全力を尽くします!」と大和
「兵糧攻めは有効だがな……仕向ける相手が悪い」と武蔵
「深海棲艦許すまじ!」と雲龍
「必ずや奪還します!」と海風
「泣いて謝っても許さない……」と山風
お米大好きな仲間たちと大食い三人衆が怒りの業火をまとって、テラ盛りご飯を掻き込んでいた。因みに赤城の前の席には加賀がいて、昼食を終えて涼しい顔で茶をすすっている。
これには流石の提督も「Oh……」と目を点にした。
「提督、調査は終わったんですよね?」
冷たくヒヤリとした笑みを向け、静かに大和が提督に訊ねる。その問いに提督は「お、おう」とたじろぎながら返事をした。
「では午後から奪還作戦任務再開ということだな?」
「あい」
「いつも以上に懲らしめていいんですよね?」
「あい」
「私ならいつでも行けるわよ、提督」
「それなら海風もです!」
「あたしも……!」
提督!ーーとみんなから詰め寄られる提督。詰め寄られることには慣れているが、今回のはいつものような甘酸っぱいものではない。その証拠に提督はみんなの気迫に押されてすっかり縮こまってしまっている。
すると、
「はいはい、みんなの気持ちは十分に分かるけど、提督さんが怖がってるから落ち着いてね〜」
阿賀野がしっかりと提督とみんなの間に入ってこの場を制御した。
そのお陰でみんなは席に戻るが、
「提督、皆さんに詰め寄られて怖かったでしょう?♡ 私が責任を持って癒やしてあげます♡ 早速食堂の男子トイレに行きましょう♡」
「提督よ……先程はすまなかった。お詫びに私がうんと甘やかしてやろう♡」
ガチ勢の加賀と武蔵は提督にピッタリと身を寄せている。
当然、それは阿賀野のゲンコツで終止符が打たれたのは言うまでもない。
「もう、加賀さんも武蔵さんも懲りないんだから……」
「助けてくれてありがとうな、阿賀野」
提督が阿賀野へお礼を言うと、阿賀野はいつものようにニッコリと笑う。すると先程までの妙な空気は消えていた。
ーー
昼食を終え、食休みということでみんなしてお茶をすする中、
「にしても、内部に漏洩者がいるなんてね……ショックだわ」
話題はやはり襲撃事件のことだった。
矢矧がしみじみと言うと、他の面々も同意するように頷く。
「なんでも、犯人たちは高学歴の奴らだったんだとよ」
提督の言葉に山風は「高学歴なのに馬鹿なんだね」と辛辣なことを言うが、誰もそれを咎めない。
すると阿賀野が「高学歴だからこそなんじゃない?」と返すと、能代が「どういうこと、阿賀野姉ぇ?」と訊ねた。
「だって漏洩した人たちって高学歴だけど、兵学校は出てないから大本営でも経理とかの部署にいたんだよ? 自分たちは頭がいいのに、重要な部署には就けないんだもん」
「だからって国を危険に晒して、しかも犠牲者まで出すなんて酷いよ……」
阿賀野の言葉に酒匂がそう言うと、
「頭の使い方をマズったんだよ……今度はこんなことになんないようにすりゃぁいいし、俺たちはこれまで通りだ」
提督が酒匂の言葉に返すと、みんなして『そうだよね』と言うように頷く。
「ドイツの哲学者『フリードリヒ・ニーチェ』曰く、《高く登ろうと思うなら、自分の脚を使うことだ。高い所へは、他人によって運ばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない》ってな。きっと漏洩者共は自分でどうやって上に行けるのか分からなかったんだと思う。誰だって大なり小なり苦悩と葛藤することはあるんだしな」
その提督の言葉にみんなはうんうんと頷いた。それは提督本人も脚のことや艦隊運用などで日々の苦悩へ自らの脚で立ち向かっているから。
でも一方で妻の阿賀野、LOVE勢の雲龍、ガチ勢の加賀と武蔵は提督の博識ある意見と冷静な観察眼、そして真面目な表情にうっとりと恍惚な表情を浮かべていた。
すると、
「でもぉ、今回は奪われたのがお米とかで良かったよね」
酒匂がそんなことを言う。
みんなして『どうして?』と首を傾げると、
「奪われたのが燃料とか弾薬だったらこっちが大混乱してたし、食べ物とかでももしお酒とかパスタとか肉製品とか紅茶とかだったら、もっと大変なことになったと思うから……」
酒匂はそう答え、その返答にみんなは『あ〜』とどこか納得したような声を出した。
そもそも補給倉庫を襲ったのに燃料や弾薬といった資源を焼き払わなかったのは、犯人たちが変なところで馬鹿だったということだろう。
罪を犯す犯人の多くはどう犯行するかは念入りに作戦を練るが、そのあとのことは考えていないものなのだ。
話を戻し、みんなが何故納得したのかというと、
「お酒だったら酒豪勢や呑兵衛艦勢が黙ってないわよね」と能代
「パスタならばイタリアさんやローマさんが血眼になっているはずです……」と大和
「肉製品といえばアイオワとビスマルクだろう……ハムやソーセージを奪われたとなれば、あいつらは神にも銃口を向ける」と武蔵
「紅茶はイギリス勢と金剛さん……そして彼女を慕う比叡さんや浦風ちゃんね」と雲龍
みんながみんな、その者たちがなんたらゲリオンの初号機の暴走状態並みに深海棲艦たちを片っ端から屠っていく姿を容易に想像出来たから……。
「そうなるのが分かってたから、お米とかにしたとか?」
「仮にそうなら、変なとこにだけ気が回ったんだな……」
阿賀野、提督が共に苦笑いを浮かべると、その場にいる全員も苦笑いするのだったーー。
ということで、今回は今艦これで行われているイベに関して、私なりの妄想を繰り広げました。
物書きの性なのか、補給倉庫が襲撃されるってかなり問題だと思うんですよね。
どんな物語でも大抵は軍の補給倉庫という重要施設なら警備が24時間厳戒態勢で敷かれているはずなのに。
しかも燃料や弾薬を燃やせば敵に大打撃を与えられることが出来た……なのにお米やら梅干しやら盗んでどうすんの?って疑問が浮かびますw
深海棲艦もお腹空くのかな?
そもそも資材とかだったらプレイヤーが困るからとか?
まぁゲーム内の話なんでこんな風に考える私が変なんでしょうけどね^_^;
ともあれ、読んで頂き本当にありがとうございました!