提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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何事も程々に

 

 6月も後半に差し掛かり、泊地の蒸し暑さは本格化してくる。

 ジメジメとした暑さに加え、蚊や蛾といった害虫も活発になって鬱陶しい時期となるが、艦隊では先日に黒潮の改二への改造が実施されて少しばかり活気を取り戻した。

 黒潮と同時に伊勢も改二として改装航空戦艦への改造許可が下りたが、伊勢は「叶うなら日向と同じ日に改造したい」とのことで今は見送っている。提督としても今の伊勢に不満もなく、艦隊も十分に練度が高いので伊勢の気持ちを汲むことにした。因みに自分の気持ちを分かってくれた提督に伊勢は更にLOVEを募らせたらしい。

 

 その日から少し経った昼下がり。天気は台風の影響もあり波が高く、沖の天候も悪天候なため艦娘たちは大人しく待機している。それでも室内訓練場は使えるため、体を動かしたい者や鍛練が日課の者はそこで清々しい汗を掻く。

 

 一方、本館の会議室では暇を持て余す艦娘たちがてるてる坊主作りに勤しんでいた。

 

「てるてる坊主作りとかめんどい〜」

「しかも雨が止まなきゃ首を落とされるっていう」

「勝手に作られて結果を出せなきゃお役御免ってどこの独裁国家だよ」

 

 しかし強制参加させられた初雪・望月・加古の三人は半ばふてくされながらてるてる坊主を作っている。

 三人共に今日は待機という名の休暇なのでゲームや寝て過ごそうとしたのだが、それぞれの姉妹としては三人がダラダラ過ごすよりはいいと思って参加させているのだ。

 

「ほら、初雪。屁理屈言ってないで作りなさい」

「もっちーもだよ。こんな時こそみんなで過ごした方が思い出になるんだからぁ」

「加古も変な理屈こねてないで手を動かして」

 

 一方、叢雲・文月・古鷹と初雪たちの保護者たちはそう言って監視していた。

 ただ文月は相変わらず屈託のない笑顔で楽しそうに望月とてるてる坊主を作っているので、望月もその笑顔につられて笑顔をこぼしている。

 加古に至っては古鷹から魔法の言葉、「頑張って作れば提督が褒めてくれるよ」と言われた途端にやる気が増した。

 なので、一番億劫なのは初雪のみである。

 

「晴れたら晴れたで訓練や任務があるし天候は荒れてていい。荒れてれば敵もやって来ない……」

「ゲームなんていつでも出来るんだからいつまでもふてくされてないでよ。いつもいつも明日から本気出すって言ってるくせに」

「むぅ〜、妹のくせに生意気な……」

「妹でも私の方が練度が高いからね」

「姉よりも優れた妹なんざ存在しねぇ!」

「どこぞの革ジャンヘルメットみたいなこと言わないでくれない?」

 

 初雪がああ言えば、叢雲はこう言う。傍から見れば仲が悪いように見えるが、二人にとってはいつものやり取り方なのでこの場にいるみんなは二人の会話を微笑ましく聞いていた。

 

 そうしていると、会議室に提督と矢矧・酒匂・アイオワの面々が現れる。その手にはみんなへの差し入れであろうお菓子と飲み物が入ったビニール袋が提げられていた。因みにアイオワは提督にお菓子を奢ってもらえるとのことで、荷物運びとして一緒にきたのだ。

 提督が「みんなおやつタイムだぞ〜!」と声をかければ、みんなは作業を中断してわぁっと提督たちの周りに集まる。

 

「ほれ順番に並べ〜、足りなきゃまた買ってくっから」

『はーい!』

 

 こうして艦娘たちはお行儀よく一列に並んだ。

 

 ーー

 

 多めに買ってきたのもあり、この場にいる全員に飲み物とお菓子が行き渡る。みんなは提督たちに『いただきます』と言ってからそれぞれおやつタイムに入った。

 その間、提督たちはみんなの様子を見て回ることにする。 

 

「どう、上手く出来てる?」

 

 矢矧が声をかけたのは球磨と多摩。

 

「バッチリだクマ!」

「この力作を見るにゃ!」

 

 そう言って二人が見せてきたのはティッシュペーパーで作られたにしてはクオリティが高いサケとマグロだった。

 しかもよりリアリティに仕上げるため、尾ビレの所々を軽く千切ってあったり、セロハンテープを鱗に見せようと細かく細かく貼り合わせている。

 

「…………凄いわね」

 

 これには流石の矢矧もそうとしか言えなかった。寧ろこれだけの努力と情熱が注ぎ込まれた作品を前に「てるてる坊主じゃないよね?」なんて野暮なことは言えない。

 矢矧に褒められた二人は目を輝かせ、今後はどういう風に仕上げるのか相談に入るのだった。

 

 ーー

 

「みんな、可愛いてるてる坊主が出来たね〜♪」

 

 酒匂がそう声をかけたのは海防艦の占守と国後、日振と大東。

 どちらの姉妹もお手本のようなてるてる坊主で、酒匂に褒められてみんな照れ笑いを浮かべる。

 

「しむしゅしゅしゅ〜、楽しく作ったでしゅ!」

「こんな風に過ごすのもたまにはいいわよね」

 

 占守、国後が笑顔でそう言うと、酒匂は同意するように頷いてみせた。

 

「カエルのやつとか、ウサギのやつとかにもしようと思ったんですけど、やっぱり普通のが一番かと思って」

「それに動物のやつだと首を切っちゃうのかわいそうだしな!」

 

 日振の次に大東が豪快にそんなこと言う。酒匂はそれに「そうだよね」と同意すると、

 

「でもこいつらも雨が止まなきゃ首を切っちゃうんだけどな!」

 

 屈託ない笑顔でなんとも怖いことを言った。しかも他の面々も「かわいそうだけどね〜」「仕方ないねぇ」と言うので、酒匂はなんとも言えない気持ちになる。

 何しろ見た目がみんな幼いのに、言うことが殺伐としているから。

 それからも酒匂は占守たちの話をうんうんと聞きつつ、時折ツッコミを入れながら楽しく過ごした。

 

 ーー

 

 そして提督はアイオワと共に問題児たち(初雪ら)のテーブルに訪れている。ただアイオワは提督の隣でチーズスナック菓子をバリバリモシャモシャ中。

 

「へぇ、上手く出来てるじゃねぇか」

「そうなんです! 加古ったら提督に褒められたくて頑張って作ったんですよ!」

「ふ、古鷹〜、余計なこと言わなくていいよ!」

 

 加古は狼狽し、古鷹の肩を揺すって抗議するがもう遅い。古鷹に至っては「もう言っちゃったも〜ん♪」といたずらっぽい笑みで舌を見せている。

 

「古鷹の鬼〜……」

 

 顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに古鷹へそんなことを言う加古。

 しかし、

 

「目的がなんであれ、いいじゃねぇか。それに本当にちゃんと上手く出来てるぞ?」

 

 提督は優しい笑みと声色で告げ、加古の頭を軽くポンポンと叩くように撫でた。すると当然、LOVE勢である加古は「ふみゅ〜……♡」と幸せそうな声をあげる。

 そんな妹に古鷹は「やったね、加古!」とピースサインすると、加古は「知らにゃいもん……♡」と反抗しながら提督のナデナデに身を委ねるのだった。

 

「そういえばぁ、阿賀野さんと能代さんは〜?」

 

 その横から文月が質問してきた。

 

「阿賀野も能代も室内訓練場だ」

「そうなんだぁ、司令官が寂しくないようにあたしがぎゅうってしてあげるねぇ♪」

 

 文月はそう言い、提督の空いている腕にギューッと抱きつく。これは文月の心遣いに見えるが、本当のところは文月が甘えたくて抱きつく理由を作ってやったこと。それを知っている望月は『相変わらず甘えん坊だなぁ』と姉を見つめた。

 

「モチヅキーもアドミラルにハグしないの?」

 

 アイオワからいきなりそんなことを言われ、望月は「へ?」と間の抜けた声をあげる。

 

「だってさっきからずっとフミヅキーのこと見てるんだもの……」

「いや、あたしは別にそういう意味で見てた訳じゃーー」

「ふみぃ、もっちーもあたしと一緒に司令官にぎゅうってしよぉ♪」

 

 言葉を遮られ、文月に制服の袖を引っ張られる望月は「えぇ」と困惑した。

 

「んだよ、恥ずかしがることないぜ?」

「そうだよぉ、早くぎゅうってしよぉ?」

 

 しかし提督の手招きと文月の誘惑のせいにより、望月は「……分かったよ」と折れて文月と左右から提督に抱きつくことになった。

 

「お〜、よしよし♪」

「えへへぇ、司令官とぎゅうってするの好きぃ♪」

「ったく、なんであたしまで……」

 

 顔を提督の右腕に擦り付ける文月と違って、望月はそんな言葉をもらすも、提督に撫でられるのは嬉しいので体は離れようとはしない。

 そんなこんなで文月・望月の二人と触れ合っていると、

 

「司令官、てるてる坊主作りたくない〜」

 

 初雪がだらりと提督の背中に引っ付いて訴えてきた。

 

「無理に作らなくていいんだぞ?」

「でも鬼畜ムラクモンのお許しが出ない〜」

「当たり前でしょ。どうせ部屋にいたってゲームしてるかマンガ読んでるかのどっちかじゃない」

 

 叢雲が苦笑いして言うと、初雪は「寝てるかもしれない」とまた変に屁理屈をこねる。

 

「はぁ……あんたはなんでこうもああ言えばこう言うのかしら」

「なんでだろうね〜……」

 

 初雪の言葉に叢雲は「私が訊いてるのよ……」と思わずツッコミを入れた。

 

「てるてる坊主作るのは明日にしてさ〜、ムラクモンも私と部屋でゴロゴロしようよ〜」

「明日は任務があるかもでしょ」

「ぐぬぬ……」

 

 するとアイオワが初雪を後ろから抱え上げ、提督から離す。

 

「んぁ、アイオワさん……何〜?」

「いい、ハツユッキー? 思い出作りは大切なのよ? ミーたちは戦争に身を投じてて、いつ死んでしまうか分からないんだから」

 

 アイオワの言葉に初雪は反論することなく黙って頷いた。初雪としてもアイオワの言っていることがちゃんと分かるからだ。

 

「それにアメリカの著述家であるジェームズ・T・マッケイと言う人はこう言ってるわ。『明日こそ変わろうと君は誓う。しかし、明日というのは大抵、今日の繰り返しなのだ』と」

 

 その言葉に初雪は思わず「うぐっ」とたじろぐ。

 しかしアイオワは更にこんなことを言った。

 

「でも同じ人はこうも言ってる『明日の自分にどんな約束をするか。その約束があなたを変えてくれる』ってね。だから明日の自分に約束するの。そうすれば自ずと行動出来るわ」

「…………」

「初雪……」

 

 叢雲が優しく微笑み、初雪の頭を撫でる。すると初雪は「てるてる坊主作る……それで明日任務とゲームする」と自分の中で折り合いをつけることが出来た。

 

「うんうん、思い出作りは大切よ! ミーも一緒に作ってあげるわ!」

 

 アイオワはバチコーンとウィンクして見せるが、

 

「……アイオワさんは大きの作るからダメ」

 

 初雪からやんわりと断られたので、アイオワは「Why!?」と嘆く。

 

「……去年みたいに大きいの作って、誰かがそれを首吊り自殺してるように見える騒動が勃発しかねないから、却下させてもらいます」

 

 初雪が理由を述べると、アイオワは「Oh……」と頭を抱えた。しかもこれには提督を始めとする全員がアイオワを擁護出来ない。

 よってアイオワはしょんぼりしながら占守たちと小さなてるてる坊主をちまちまと作り、提督や矢矧たちはそんなアイオワを心の中で励ますのだったーー。




梅雨ということでこんな話にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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