提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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夜の艦娘寮:四晩目

 

 泊地は7月に入るも、まだ梅雨明けはしていない。他の地域では梅雨明け宣言がされるが、泊地ではもう少し不安定な天気が続きそうだ。

 そのため鎮守府での蒸し暑さが増すばかりで、酒保ではシロップサイダーやラムネが飛ぶように売れている。

 しかし艦隊ではガングートがロシア革命後の名前からдваへの改造が施されたり、春日丸が大鷹へ改造が実施されたり、他にも続々と改に改造される駆逐艦や海防艦がいて、ある意味で艦隊の熱気は上がっていたりする。

 

 そんな中、夜を迎えた鎮守府では夜間任務の者たち以外、本日の汗をさっぱりと洗い流したあとでそれぞれの寮の部屋で団扇を片手に仲間たちと穏やかな時間を過ごしている。中には既にエアコンを入れてる部屋もある。

 

 提督と阿賀野も自分たちの部屋で網戸から入る夜風にあたり、仲良く過ごしているが、

 

「阿賀野、愛してるぞ」

「私も慎太郎さんのこと愛してる!♡」

 

 蒸し暑さどころの騒ぎではなく熱過ぎであった。

 この夫婦にとってはこれが夫婦の日常。

 夫婦は軽く1時間ほど温水プール並のぬるい湯船でイチャイチャしてきたのだが、今は今で窓辺でイチャイチャしている。

 

「慎太郎さ〜ん♡」

「ん〜?」

「好きぃ♡」

「おう、俺も好きだぞ」

 

 何度も何度も伝えている言葉でも、夫婦にとっては何度伝えてもその気持ちが収まることはない。

 言葉で伝えきれない時はキスやハグといった行動で示すが、

 

「好き……ちゅっ……だいしゅき……っ……とってもとってもだいしゅきなのぉ……ちゅ〜っ♡」

「っ……阿賀野……ちゅっ」

 

 今宵の夫婦は言葉でも行動でも足りないといった様子。

 好き好き言いながらも身を寄せ合い、互いの唇をついばむ。それは入浴中でもしていたが、夫婦の愛はもう誰にも止められない。

 

 そもそもどうしてこんなにも夫婦が熱く燃え上がっているのか……それは阿賀野が今日の出撃で大破し、ドックで長時間の入渠を余儀なくされたから。

 艦隊でトップの戦果を誇る阿賀野であるが、戦争というものはどう転ぶか分からない。ここの艦隊最強の阿賀野も大破することはあるのだ。

 提督も出来ることなら阿賀野を出撃させたくない。しかし阿賀野が出なければ別の誰かが死ぬかもしれない。阿賀野はその誰かが死ぬのが嫌で自らが進んで出撃している。

 今日は改めてお互いにいつ離れ離れになるか分からない恐怖を思い知った。だからこそ今……一緒にいれる今を濃厚に過ごしているのだ。

 

「慎太郎さん……私、また欲しくなっちゃった♡」

 

 肩で息をしながら、阿賀野は妖艶に微笑んでおねだりする。

 

「あぁ、俺も阿賀野が欲しい」

 

 そして提督も同じ気持ちだと告げると、阿賀野を自分の上に覆い被せるように抱え上げた。

 

「えへへ……幸せ♡」

「俺も幸せだ……だからこれからもちゃんと帰ってこいよ?」

「うん、約束します♡」

 

 こうして阿賀野は提督に改めて誓いを立てる。

 そして夫婦はまた激しく愛を育むのであった。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、艦娘たちは自分たちが暮らす寮で思い思いに仲間たちや姉妹たちと穏やかに過ごしている。

 

「スペードのフラッシュ!」

 

 ここ軽巡洋艦寮の5号室ではみんなでポーカーをして盛り上がっていた。

 因みに5号室の住人は阿武隈・能代・大淀・大井・酒匂の五名であるが、能代と酒匂は長期遠征任務でいない。

 その代わり(?)に、

 

「降りるわ……勝てる気しないし」

 

 矢矧が大淀に誘われてお泊りに来ている。

 そして大淀が言い出してやっているポーカーで大淀は一人勝ち状態。よって、みんな大淀の引きの強さにやる気が失せてきているところだ。

 

「むむむぅ……こっちでカードを切っても、配っても、何をしても強い役を揃えられちゃう」

「イカサマでもしてるレベルで強いわね……私が買ってきたのに、一口アイスまだ1個も食べれてないんだけど……」

 

 阿武隈も大井も白旗を振り、ガックリとうなだれる。

 

「もうポーカーで勝った人がアイス食べるんじゃなくて、好きなように食べない?」

 

 矢矧が大淀にそう切り出すと、大淀は「致し方ありませんね」とトランプを仕舞うことにした。

 大淀がトランプを仕舞うことで、阿武隈も大井もやっとアイスを食べることが出来、切り出してくれた矢矧にお礼を言った。矢矧としては複雑な心境だったが、笑顔を返して自分もアイスを頬張る。

 

「さぁさぁ、夜はまだまだこれからですよ。次は何をしましょうか?」

 

 一方、大淀はキラキラした目でみんなへ問い掛けていた。今夜は矢矧がお泊りに来ているので、こうしたちょっとしたイベントが好きな大淀はハイテンションなのだ。

 

「はぁ、久々にここに泊まったけど、大淀のテンションの高さには毎回驚かされるわ」

 

 麦茶を飲み、矢矧が肩をすくめてそんなことをこぼすと、大淀は「そうですか?」と小首を傾げる。

 なので矢矧はそうだと言うようにうんうんと頷いてみせた。

 

「まぁ、私たちと違って大淀は普段から大本営と直接やり取りしてるから、仕事から離れればこうなるわよ」

「寧ろこういうギャップがあった方が親しみやすいよね」

 

 大井と阿武隈がそう言って笑うと、矢矧も「まあ、確かにね」と笑顔を見せる。

 

 大淀は毎日大本営と連絡を取り合っているため、仕事での精神的ストレスは誰よりも大きい。なので今回みたいなお泊り会は勿論だが、パーティなどのイベントが大好きなのだ。

 

「では気を取り直して、何をしましょう!?」

 

 話も一段落すれば大淀はまたキラキラした目でみんなへ「何して遊ぶ?」と訊ねる。

 しかも「私のおすすめは明石印の人生ゲーム『甘口』です!」と目を爛々とさせていた。

 そんな目をされれば流石の矢矧も却下は出来ない。よってみんなでその人生ゲームをすることなった。

 

 ーー

 

「やるのはいいけど、この甘口って普通のと何が違うのかしら?」

「そう言えば私たちもこれは初めて見るわね……」

「大淀ちゃん、これは普通のと何が違うの?」

 

 阿武隈がそう訊ねると、大淀は凄く楽しそうに含み笑いして「やってからのお楽しみ♪」と言ってウィンクする。

 

 人生ゲーム『甘口』のルールは普通の人生ゲームと同じで、どうやらマスごとのイベントに何やら秘密があるそうだ。

 ただ銀行家等は決めず、所持金が足りなくなった時点で自動的に借金をすることになる。

 みんなは大淀に促されるまま、取り敢えずやってみることにした。

 

 ーー

 

「じゃあ、私からね」

 

 全員所持金が3000円からのスタートで、トップバッターの矢矧は早速ルーレットを回す。因みにプレイヤーは大学生の就職活動からスタートする形だ。

 そして幸先よく8マス進むと、

 

「? 付属冊子の32ページを読んでね……だって」

 

 マスの内容はそう記されていた。

 すると大淀が付属の冊子32ページを読み上げる。

 

「その日、私(僕)は母からお小遣いとしてもらった3000円を手に、前から欲しかったゲームを買おうとゲームショップへ向かっていた。

するといつもは通り過ぎるだけの花屋の店先で私はふと足を止める。

そこには母の好きな花が並べられていたのだ。

母は花が好きだが、私の大学の学費を払うために好きな花も買わず、こうして自分にお小遣いまでくれる。

父が蒸発したあとも弱音を吐くことなく私をここまで育ててくれた母……。

その母が懸命に稼いだお金で自分は今からゲームを買おうとしている。

私はふとこう思った。なんて親不孝なのだろう……と。

だから私はお小遣いを母に返し、自分の貯金箱にあるお金でその花を買い、母にプレゼントした。

そして今度は自分が働いて稼いだお金でもっとたくさんの花を買ってあげよう……今度は自分が母に笑顔を返す番だから!」

 

「…………は?」

 

「矢矧さん、花を買ったので1000円を手放しました。こちらに1000円入れてくださいね」

 

 矢矧は固まっていた。あのマスにそんなドラマがあるなんて思いもしなかったからだ。

 

「いい話ね……矢矧、お母さんを大切にするのよ!」

「頑張ってバイトするなり、就職してお母さんに笑顔を届けてあげてね!」

 

 事務的な大淀とは違い、大井と阿武隈はそのマスのエピソードに早くも感動の涙を流している。矢矧としては淡々としている大淀と感動で泣いている二人の反応が違い過ぎて、感情移入するタイミングを逃してしまった。

 

「…………ま、まぁ、取り敢えず1000円払えばいいのね」

 

 矢矧はなんとか気持ちを納得させ、1000円を払う。

 すると、

 

「お母さんは、きっと幸せよ!」

「親孝行出来たね!」

 

 大井も阿武隈もゲームなのにわんわん泣いて矢矧の背中を擦ったり、頭を撫でてきた。

 矢矧が困惑する中、大淀だけは口を手で押さえて肩を震わせて笑っている。

 

 そこで矢矧はとあることを確信したーー

 

 大淀は感情表現豊かな阿武隈と大井にゲームのマスのエピソードで感動させ、それに困惑している自分でこのゲームを楽しんでいるのだ

 

 ーーと。

 矢矧は止めようかとも思ったが、日頃から大淀にはお世話になっているのもあるし、今夜に至っては大淀に誘われてお泊りに来たので大淀がやりたいようにやらせてあげようと考え直した。

 

 矢矧の番が終わると、今度は阿武隈がルーレットを回す。

 ルーレットが指した数字は6。阿武隈が止まったマスは、

 

「えっと、お腹が痛くなって竹やぶに入ったら徳川の埋蔵金を見つけた。50億円手に入る」

 

 なんともいきなりぶっ飛んだ金額が舞い込んできた。

 これにはみんな『流石甘口』と苦笑い。

 

 次は大淀で、大淀がルーレットを回すと1を指したため1マスだけ進む。

 

「えっと……背後から殺人犯が迫ってきているがそれに気づかないあなた。凶器を振り被ってきたが、あなたは道に落ちていた1000円札を拾ったことで攻撃を避け、勢い余った殺人犯は間抜けにも豪快に転んで気絶。それをあなたは警察に通報し、懸賞金300万円受け取る」

 

 阿武隈には金額で負けるものの、これもなんともインパクトがあるマス。しかも300万円だけでなく、余計に1000円まで貰えるラッキーなイベントである。

 これにはまたみんなして『流石甘口』と苦笑いするのだった。

 

 最後は大井。大井は気合を入れてルーレットを回すと、5マス進むことに。

 

「……天変地異で世界が消滅。しかし神が降臨したことでみんな天国でハッピーエンド。このマスを踏んだあなたこそが神に愛された人の子だ! 問答無用で優勝となる!」

 

 どうやらこのマスを踏むと強制的にゴールマスに全員がご招待される仰天ゴールインイベントだった。

 これにはみんな『流石甘口』と苦笑い……

 

「ちょっと待って! これで終わり!? というか、私だけ1000円失って所持金2000円でダントツの最下位なんだけど!?」

 

 ……する前に矢矧が盛大にツッコミを入れた。

 

「まさか1巡目で終わるなんてね……」

「でも新鮮で面白かった……かな?」

「まぁ、こういう突拍子もないのが、甘口の魅力なので♪」

 

 まさかの展開に大井も阿武隈も困惑する中、大淀は満足そうに微笑んでいる。ただ矢矧に至っては「納得いかない!」と畳をバンバン叩いていた。

 1巡目で終わったのは味気なかったので、その後も時間が許す限りみんなして『甘口』をプレイしたが、何故か矢矧が踏むマスは妙に感動的なストーリーなのにお金を払うイベントが多かったというーー。 




今回はこんな感じにしました!

因みに甘口というのは私が勝手に考えたものなので実際には存在してません。
ご了承ください。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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