提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

86 / 101
気分を害する表現が登場します。
ご了承の上でお読みください。


夏の誘惑

 

 7月も終盤となり、泊地は本格的な夏を迎えた。

 それでも鎮守府の艦娘たちは暑さに負けず、今日も任務や訓練に身を投じ、懸命に職務を全うしている。

 

 夏というのは艦娘たちにとって苦く苦しい思い出があるが、彼女たちは決して下を向かない。

 それは過去を忘れたのではなく、忘れていないからこそ下を向かずにいるのだ。

 自分たちが艦だった頃の乗組員たちも下を向かずにがむしゃらになって日本と家族を守った……それを覚えているからこそ、艦娘たちの中に下を向く者は誰もいない。

 

「あ〜、あっつい〜……」

 

 しかし夏の暑さの前には下を向く。

 真夏の炎天下の昼下がりにダウン寸前なのは隼鷹。いつもの上着を脱ぎ、ワイシャツの袖を捲って少しでも薄着になってはいるが、じっとりと身にまとうような日本の暑さの前では無意味。

 今日は静養日の隼鷹だが、部屋に乙女の大敵である例の黒いモノが現れたので場所を移しているところなのだ。

 

「暑いですねぇ……どこか涼しい場所はないでしょうか?」

 

 そんな隼鷹の隣には同じく静養日で隼鷹と同室の祥鳳もいる。

 二人の部屋は今殺虫剤を散布しているため、部屋にはしばらく戻れない。因みに二人と同室の赤城と千代田は海上訓練で夕方までは帰ってこない……が、一応赤城たちにも部屋にしばらくは入れないと伝えてある。

 

「ったく、夏になると虫が活発化してやだねぇ」

「生きているので仕方ないですよ」

「それは分かるけどさぁ……あいつらなんのために生きてんだよ?」

 

 黒い物体の存在価値を隼鷹が祥鳳に訊ねるが、祥鳳は「さぁ?」と苦笑いした。

 

「あ〜、やめたやめた。それよりこの暑さをどう凌ぐよ?」

「ん〜、談話室は清掃中でしたからねぇ」

 

 二人してう〜んと悩んでいると、

 

「おう、二人して悩んでどうした?」

 

 提督から声をかけられ、その横には阿賀野と能代も一緒で二人も隼鷹たちへ笑顔を向けている。因みに矢矧と酒匂は先日出撃したので今日の補佐艦任務はお休みだ。

 

「おぉ、提督じゃん。サボり?」

「んな訳ねぇだろ」

 

 隼鷹の冗談に提督が笑って返すと、能代が「お二人も海へ泳ぎに?」と質問。

 すると隼鷹も祥鳳も『その手があったか』と手を叩く。

 

「阿賀野たちはこれから酒保に寄って、海で泳いでるみんなにジュースとか持っていくとこの」

「海で泳いでても熱中症にはなるからな」

 

 夫婦がそう言うと、

 

「そういや、今年は酒保で水着貸し出してたよな?」

「なら酒保で水着を借りて、私たちも泳ぎましょうか」

 

 こうして隼鷹たちの涼みプランが決定し、提督たちと共に酒保へ向かった。

 

 ーーーーーー

 

 酒保に着いた提督一行。提督たちは隼鷹たちと別れ、台車に冷えた飲み物を積んでいく。

 

「これだけありゃ足りるだろ」

「そうだね。余るくらいの方がいいし」

「余ったら余ったで欲しい子にあげれば済みますもんね」

 

 あらかた方針も決まり、明石に会計を頼む提督。

 すると隼鷹と祥鳳が水着に着替えて戻ってきた。

 しかし、

 

「いやぁ、水着になるだけでも涼しいなぁ♪」

「………………」

 

 ご満悦の隼鷹とは違い、祥鳳は恥ずかしそうに肩までタオルを巻いている。

 その理由は、

 

「そう言えば、レンタルの水着ってスクール水着だったね」

 

 阿賀野が言うように酒保で貸し出している水着は、潜水艦の子たちと同じようなスク水であったから。

 なので祥鳳としてはスク水姿を提督に見られるのが恥ずかしいので、タオルで隠しているのだ。

 

「提督……あまり私を見ないで……」

「お、おう。でもあんま気にすることねぇぞ?」

 

 提督はフォローするも、祥鳳は頑なに首を横に振る。

 

「提督さん、女心はちゃんと理解してあげなきゃ」

 

 阿賀野から苦笑いで注意され、能代からも「そうですよ」と言われた提督は『そんなもんか』と頭を掻いた。

 

「んじゃ、祥鳳がこれだからさ、あたしらは先に埠頭へ行くな♪」

「お手伝い出来なくて申し訳ありません」

 

 祥鳳が恥ずかしそうにしながらも提督たちに謝ると、提督たちは笑顔を返して隼鷹たちを見送る。

 それから提督たちは隼鷹たちに追いつかないよう、少し時間を置いてから酒保をあとにした。

 

 ーーーーーー

 

 提督たちより先に埠頭へ着いた隼鷹と祥鳳。

 祥鳳ももう提督の前ではないのでタオルを取って、しっかりと準備体操をしている。

 

「別にスク水姿を見られるくらい恥ずかしくなくね? 寧ろ祥鳳ならいつもの制服の着方より肌の露出少ねぇじゃん」

 

 準備体操する中、隼鷹がそう言うと祥鳳は「これだから恥ずかしんです」と困ったような笑顔で返した。

 祥鳳が恥ずかしがる理由……それは自分が身に着けるスク水が白のスク水着だったから。

 かと言って普通のスク水でも提督に見せるのは祥鳳としては抵抗がある。これも一重に女心というものだ。

 

「はぁ……まさか白しか残ってなかったなんて」

「あたしがそれを着ても良かったんだけどねぇ」

 

 しかし祥鳳と隼鷹はバストサイズが違う(隼鷹の方が大きい)……なので祥鳳には白スクしか選択肢は無かった。そもそもレンタルの水着は基本的に駆逐艦や海防艦のために用意したので成人サイズはあまり数がないのだ。

 そんな中でも祥鳳は夏の暑さに負け、これを着たのだから準備体操が終わる頃にはもう色々と吹っ切れていた。

 

 ーー

 

「ヒャッハー!」

「えいっ♪」

 

 抜錨や帰投してくる者たちの邪魔にならない場所から海に飛び込む二人。そんなに深くはないが、二人の肩下までの深さはあるので飛び込むと一気に全身が海水に包まれる。艦時代は海水に包まれるというのは嫌なことであったが、艦娘になって得られるこの感覚はとても心地良いものであった。

 

「っはぁ! 気持ちい〜な〜♪」

 

 まるで温泉にでも浸かっているかのように極楽気分の隼鷹へ、祥鳳も「はい♪」と笑顔で言葉を返す。

 すると、

 

「あら、お二人もいらしたんですね」

「今日は絶好の海水浴日和じゃからな♪」

 

 筑摩と利根の姉妹が声をかけてきた。因みに利根たちもスク水を着用し、筑摩の方は白スクである。

 

「お〜、利根たちも来てたのか♪」

「うむ! 姉妹揃っての休み故、せっかくじゃから筑摩と遊びに来たのだ!」

 

 隼鷹の言葉に利根は無駄に胸を張って答え、祥鳳と筑摩は挨拶を交わしていた。

 

「でもよく見ると、結構皆さん遊んでますね」

「そりゃレンタルされてたんだから当然じゃね? レンタルだからって気にする奴いないしさ」

 

 祥鳳が周りを見回して言うと、隼鷹が苦笑いで返す。確かに祥鳳の言う通り、駆逐艦や海防艦だけでなく戦艦や空母、重巡、軽巡と多くの艦娘たちが夏の海を楽しんでいた。

 

「…………白いスクール水着って多いんですね」

 

 改めて見回し、祥鳳は白スク姿をしている艦娘が多いことに驚き、小さくつぶやく。

 

「それは仕方ないですよ……提督の趣味ですから♪」

 

 そんな祥鳳のつぶやきに筑摩がサラリと言葉を返すと、祥鳳は「えぇっ!?」と驚愕。

 

「あ、でも提督が白のスクール水着を私たちへ着るように強要しているんじゃないですよ? レンタルの水着を揃えたのはあくまでも明石さんですから、ね?」

 

 筑摩はそう補足して提督の趣味ではあるが、この状況は提督の意図ではないとハッキリ告げた。

 筑摩が言うように明石は見守り勢であっても提督LOVE勢……よって提督の好きな水着を取り添えるのが彼女なりのLOVE行為なのだ。

 それを理解した祥鳳は「明石さんらしいですね」と苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、なんにしても水着を買わずにこうして海水浴を楽しめるのじゃ。我輩たちは貸し出す許可をくれた提督と水着を揃えてくれた明石に感謝せねばな」

「姉さんの言う通りです」

 

 利根たちの言葉に祥鳳はやっと笑顔で頷くが、

 

(でも提督好みの艦娘に白スクが渡ってるのって明石の工作活動だよなぁ)

 

 隼鷹は明石の抜かりないLOVEを見抜き、苦笑いを浮かべているのだった。

 

 ーー

 

 隼鷹たちが海水浴を楽しむ一方、提督たちは遅れて埠頭へ到着。予定通りに海水浴を楽しむみんなへ声をかけ、集まる艦娘たちへジュースを振る舞う。

 

「ちゃんと並べよ〜?」

「駆逐艦や海防艦の子を優先してね〜!」

「足らなかったら追加で買ってきますから!」

 

 提督たちの声に集まる者たちは秩序正しく一列に並んぶ。

 駆逐艦や海防艦たちに行き渡ると、今度は軽巡の者たちの番となった。

 

「ありがとう、提督」

「阿賀野ちゃんと能代ちゃんもありがと〜♪」

 

 今日はお休みで仲間たちと海水浴を楽しむ矢矧と酒匂がジュースを受け取ると、提督たちは笑顔で『いいえ〜』と返す。因みに矢矧と酒匂も白スクだ。

 当然、矢矧も酒匂も提督の趣味とは思ってない……なので提督は目の保養をしつつ、次の子にジュースを渡そうとした。

 しかし、

 

「提督さん♡ 由良の水着姿、どう?♡ 思わず襲いたくなっちゃう?♡」

 

 ガチ勢由良の降臨で提督はあんぐりと口を開ける。

 LOVE勢の一部にとって提督の趣味趣向は完全網羅されているため、当然ガチ勢ならば知ってて当然のこと。

 なので由良は白スク姿でクイクイッと水着の胸元を摘み、提督へ自分の由良山の谷間を見せつける。

 提督は思わず鼻の下を伸ばしそうになるも、自身の脇腹に阿賀野の手が触れたことでキリッと気持ちを引き締めた。

 

「お、おう……襲いはしねぇが、似合ってるぞ?」

「むぅ、襲ってって女の子から言ってるのに〜♡」

「それがしには阿賀野という妻がいるのでござる! なので勘弁してくだしゃ!」

 

 由良の誘惑に提督は阿賀野への愛で見事打ち勝つ。その横で阿賀野はでへへ♡とニヤニヤし、由良はそんな阿賀野を羨ましそうに見ながらジュースを受け取って矢矧たちと海へ戻った。

 

 しかし提督の苦悩はこれで終わりではない。

 

「提督……私は提督特製の特濃牛乳が飲みたいわ。あちらの物陰で飲ませてくれないかしら?♡ 提督はただ気持ちよくなってればいいので♡」

 

 加賀の大胆な誘惑は勿論のことーー

 

「提督さん♡ 鹿島のここに提督さんの美味しいミルク飲ませてくれませんか?♡」

 

 鹿島の谷間アピールーー

 

「ハニー!♡ 今日こそ私をハニーの本当のスカイママにして!♡」

 

 イントレピッドの妙な逆プロポーズーー

 

「アミラル……そろそろ私のモノになる決心はついたかしら?♡」

 

 リシュリューの猛攻ーー

 

「どうだ、提督♡ この武蔵の水着姿は?♡」

 

 武蔵の褐色肌と白スクの合わせ技ーー

 

 ーーと、様々な誘惑を受けた。

 しかしその誘惑は当然阿賀野のゲンコツで阻止され、その都度提督は脇腹の痛み妻からの愛を一身に受けたという。

 

 ーーーーーー

 

 ジュースもあらかた配り終え、提督はその場にうずくまる。

 何しろ脇腹が大破しているのだから、提督がこうなのも致し方ない。

 

「阿賀野姉ぇ、やり過ぎよ」

 

 流石の能代も阿賀野を注意すると、阿賀野は「だって〜」と頬を膨らます。好きな人が他の女性の水着姿にデレデレしていたのだから、阿賀野がこうなるのも仕方ない。

 

「脇腹が痛いお……」

 

「ふんだ……」

「阿賀野姉ぇ」

「むぅ……」

 

「阿賀野ぉ……俺が悪かったから、もう許してくれぇ」

 

 まだご機嫌斜めの妻へ提督は必死に謝り、訴える。

 

「じゃあ、今ここでキスして」

「阿賀野愛してるぞ!」

「きゃあっ♡」

 

 結局のところ夫婦は相変わらずラブラブし、それを遠目に見る者たちは口の中をジャリジャリさせ、ガチ勢たちは悔しさで拳を握りしめているのだった。因みに筑摩はドス黒いオーラでニコニコし、利根は恐怖で固まってしまっていたというーー。




ちょっとマニアックなネタになりましたが、個人的に白スクが好きなので書いてみました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。