8月を迎え、泊地だけでなく日本全国で猛暑日が猛威を振るう。
鎮守府ではそんな猛暑の中、艦娘たちは弛まず任務や訓練に励んでいた。
しかし熱中症対策として訓練の場合は1時間に1度は15分の水分補給休憩を義務付け、仮に少しでも体調が悪くなったら休むことを提督は口酸っぱく艦娘たちに言いつけており、任務中の休憩は必ず見張りを二人置き、交代で水分補給をする。
本日も気温が38度となった本日の一四〇〇。
そんな猛暑の中で海上訓練をしていた者たちは、海の上といえど夏場はいつもより早めの休憩時間を取る。まだ出来ると思って訓練し、もし倒れでもしたらそちらの方がみんなの迷惑になってしまうのでこういう時は早め早めの行動を取るのだ。
「体調が悪いと言う方はいますか?」
「いるなら正直に言うんだぞ?」
霧島と長門の言葉にみんなは口揃えて『大丈夫です!』と笑顔で返す。しかし初雪に至っては「部屋に帰ってクーラーガンガンにしてゲームしたい」と相変わらずの愚痴をこぼし、みんなから苦笑いされていた。
今回の訓練は水雷戦隊が戦艦と接敵した際の訓練であり、しかも相手が長門と霧島ということでかなり厳しいものだった。それでもこうした訓練の積み重ねが水雷戦隊の力となり、泊地最強とまで言われる所以なのである。
そんなこんなでみんなして食堂へ向かうために中庭の近くまでくると、
『お〜い!』
誰かに声をかけられた。
みんなして声のした方へ視線を移すと何やら中庭に人が集まっており、水着姿の鈴谷と熊野が長門たちへ『こっちこっち〜♪』と手を振り、手招きしている。因みに鈴谷たちは最上や三隈のビキニと同じデザインの物を着用。
「これはなんの集まりだ?」
「あれは……っ!?」
長門が小首を傾げる横で、霧島の目があるものを捉えた。
それは『興野屋』という文字が書かれたのぼり。
「ふふっ、そうですか。流石は司令ですね」
ひとり何処か納得している霧島はさて置き、みんなは鈴谷たちのところへと向かう。
ーー
「いらっしゃ〜い♪」
「興野屋のおやつ処でしてよ♪」
興野屋……とは、提督が夏期限定で軽トラの荷台を使って艦娘たちへかき氷を振る舞う催しなのだが、おやつ処というだけあってその規模はいつもより大きい。
何故ならパラソルテーブルがいくつも置かれ、みんなそこで甘味を味わっているのだ。軽トラの隣には水着姿の間宮と伊良湖が簡易テントを張って出店を出している。
「これはどんな催し物だ?」
長門が説明を求めると、赤と白のクロス・ホルター・ビキニ姿(右胸が赤で左胸が白、下は赤白のシェパードチェック柄)の矢矧が「提督がいきなり決めた納涼祭よ」と苦笑いで説明した。
「加えて今日は書類仕事もなくて暇でいらしたようで、『みんなのためにやってください』……と愛宕がお願いして今に至りますわ」
「この行動力には相変わらず感心するわ……しかも予算とか全部提督持ちなんだもの」
続いて高雄と飛鷹がそう付け加えると、長門たちは『なるほど』と頷く。
因みに高雄はいつもの制服と同じ色のOタイプのモノキニを着用し、その水着は背中の中間から腰までクロスラインがあしらわれたセクシーな物(愛宕も同じ水着)。飛鷹に至っては真っ赤なワンショルダービキニで下はタイサイド(紐で結ぶタイプ)。
このように納涼祭のお手伝いの艦娘たちは涼しい格好ということで、水着姿でお手伝いしているのだ。
「高雄さんの水着、あみだくじみたい」
初雪の発言に他の駆逐艦たちも『ホントだ』と同意すると、高雄は「提督の趣味です!」と頬をほんのりと赤らめて返し、みんなには早く提督たちのところへ行きなさいと促した。
「もう……あの子たちったら」
(でも提督は喜んでくれていたから気にしないことにしましょう♡)
ふてくされてもすぐにニコニコする高雄を見、長門たち大人勢は『乙女だなぁ〜』と口の中をジャリジャリさせる。
「高雄さんってさ、普段は凛々しいけど提督が絡むと途端に女の子になるよね〜」
「女性は皆そういうものですわ。鈴谷さんだって提督に水着姿を褒められて喜んでいたじゃない」
「ま、まぁ、そりゃあね?」
「司令は本当に罪作りな方ですねぇ」
「みんなから慕われていないよりはいいじゃないか」
「慕われ過ぎてると私は思いますけどね」
「でも提督に褒めてもらえるのって、な〜んか嬉しくなるのよねぇ」
みんなしてそんな話をしていると、我に返った高雄から「長門さんたちも提督たちのところへ行ってください!」と照れ隠しに大声で言われ、長門と霧島は愉快そうに笑って提督たちの元へ向かった。
「もう、みんなしてすぐに私をからかうんだから……」
全くもう……と長門たちを見送りながら高雄は恥ずかしそうにこぼすが、
(だって高雄さんの反応可愛いもん)と鈴谷
(普段とのギャップが人を惹き付けるのですわ)と熊野
(高雄さん可愛い……)と矢矧
(ホント高雄ってイジり甲斐があるわ)と飛鷹
側にいた四人は揃って乙女乙女している高雄を微笑ましく眺めるのだった。
ーーーーーー
夕方になるに連れ、中庭での納涼祭は艦娘たちも増えて大賑わい。中には提督に許可を得て、わざわざ明石から簡易テントを借りて自分たちでお店を開く者も(その際も費用等は提督持ち)。
因みに水着姿だった者たちは夕方になったことで夏用の制服に着替えた。
そして気になる出店のラインナップはーー
「ジャンボたこ焼きやで〜!」
「食べていってくださ〜い♪」
◇龍驤と大鳳のたこ焼き屋
ソフトボールと同じサイズのボリューミーなたこ焼きを提供。ちゃんと普通サイズもある。
「英国の庶民的グルメはいかが?」
「フィッシュ&チップス、美味しいよ!」
◇アークとジャーヴィスのフィッシュ&チップス屋
因みにフィッシュは子持ちししゃもをフライにしたもので、衣に青のりを混ぜて磯辺揚げ風。ポテトはのり塩、旨塩、バーベキューソース味から選べる。
「ケバブはいかがですか〜?」
「フランスの庶民の味よ」
◇テストとリシュリューのケバブ屋
フランスでもケバブは人気で、羊肉をじっくり焼いてそれを削いだものとポテトフライ、サラダがてんこ盛りのフレンチとはまた別の豪快な料理。
正確にはジロスという名の料理で、羊肉の下にはご飯が隠されているボリューミーな一品なのだ。
「食べていってくださ〜い」
「シンプルで美味しいよ〜!」
「ビールにも合うわよ」
◇プリンツ・レーベ・マックスのコノプケ屋
コノプケはベルリンで食べられるフランクフルトみたいな物。ソーセージにケチャップとカレー粉をかけただけの物だが、プリンツ特製の特別ケチャップソースが絶妙にマッチしている至高の一品。
「グラッタケッタやってま〜す!」
「イタリアのかき氷ですよ〜♪」
「甘いお酒を掛けても美味しいよ〜♪」
◇ザラ・ポーラ・アクィラのグラッタケッタ屋
グラッタケッカとはイタリア風のかき氷のこと。ローマ発祥のデザートで荒く削った氷にフルーツやシロップをかけて食べる。因みにフルーツはマンゴー、種無しブドウ、メロン、パイナップルの中から好きな物を選び、シロップ等は掛け放題。
「我々のカルトーシュカも味わえ!」
「これもビールに合うよ〜♪」
◇ガングートとタシュケントのカルトーシュカ屋
カルトーシュカは蒸かしたジャガイモにたっぷりのチーズと十数種類のトッピングの中から好きな物を選んで盛ってもらうロシアのおやつ的な食べ物。
トッピングにはサーモンやビーツ、キノコソテー、コーンマヨ、ツナマヨ、ピクルス、明太子……と様々。
「グルメと言えば、我が祖国アメリカ!」
「わ、ワッフルを作ってま〜す……!」
「ミー特製のスペシャルワッフルよ!」
「どんな飲み物にでも合うわよ〜♪」
「食べてって〜☆」
◇アイオワ・イントレピッド・サラトガ・ガンビー・サムはワッフル屋
これはただのワッフルではなくフリスビーサイズのワッフルで、その横には塩味のきいたチキンが添えられている。ロサンゼルスで有名なカジュアルレストランの人気メニューで、アメリカ大統領も訪れたことのあるんだとか。
ーーこのようにかなりの規模となり、納涼祭と言うよりは国際B級グルメ祭みたいになってしまったがそんなことは些細なことだ。
みんな大いにこの催しを楽しみ、暑さなんか吹き飛ばしている。
「思ってたよりかなり大事になっちまったなぁ」
そんな中、提督は興野屋を能代たちに任せて喫煙スペースで休憩を取っていた。しかしその顔は何処か晴れやかで、提督としてはみんなが楽しんでいる姿を見れるのが嬉しいのだろう。
「出撃から帰ってきたらお祭り状態で驚いたなぁ」
一方、奥様の阿賀野はちょっとご機嫌斜めのご様子。
阿賀野は午後から出撃で夕方に帰還したのだ。
「いやぁ、俺もこんなことになるとは思わなくてよ……」
「むぅ、慎太郎さんとの思い出作りの機会が減っちゃったなぁ」
妻から脇腹を突かれてぼやかれる提督は、苦笑いを浮かべながら「すまぬすまぬ」と謝る。阿賀野も提督の言い分は分かるし、提督も阿賀野の気持ちは分かる……なので提督は「これから作ればいいだろ?」と阿賀野の頬へ軽く口づけをした。
「ぁ……もぉ、慎太郎さんったらぁ♡」
「ほら、休憩なんだ。俺も一服終わったし、みんなの出店を見て回ろうぜ?」
提督はそう言って阿賀野の手を引く。すると阿賀野は当然、満面の笑みを浮かべて提督の左腕に抱きつくのであった。
一方、そんな夫婦たちを遠目に見ていた者たちはそのアツアツぶりに口の中をジャリジャリさせ、流石のガチ勢も割って入れないでいた。仮に今の夫婦の雰囲気をブチ壊したら、自分たちが阿賀野の鉄拳制裁に長期入渠を余儀なくすると分かっていたから。
ーー
出店を阿賀野と回り、今回ばかりは提督も日本酒を飲んでほろ酔い気分。
「いやぁ、どれも美味いなぁ」
「ホントホント♪」
「阿賀野的には何がお気に入りだった?」
「ん〜……ワッフルかな?」
「あ〜、ワッフルなぁ。因みに俺はーー」
「ジャンボたこ焼きでしょ? 食べてた時に慎太郎さんのお目目キラキラしてたもん♡」
阿賀野の言葉に提督が「マジ?」と訊くと、阿賀野は笑顔で頷く。
すると提督は「はっず……」と顔を赤くし、空いている手で顔を覆った。
「あはは、可愛かったから恥ずかしがることないよぉ?♡」
「んなこと言われても嬉しくねぇ……」
「もぉ、慎太郎さんは恥ずかしがり屋さんだねぇ♡」
阿賀野はそう言って真っ赤になる提督の頬を軽く突くと、提督は「やめろやめろ!」と阿賀野のイタズラから逃げる。
すると提督は誰かとぶつかってしまった。
「あんっ……もう、提督。そんなにはしゃいではいけませんよ?」
提督がぶつかったのは高雄。
高雄は提督を優しく注意すると、提督はまるで子どものように「は〜い」と高雄へ敬礼する。
「全くもう……反省しないともう例の水着は着てあげませんからね?」
そんな反省の色が薄い提督に高雄は爆弾を放り込んだ。
「あ、ちょ、高雄さん?」
「提督が『絶対高雄に似合うから、どうしても着てほしい』とあんなにもお願いするから着たんですからーー」
「ちょっとストップ!」
提督は辛抱堪らず高雄の口を手で押さえる。もう時既に遅しという状況だが、
「あ、それなら私も提督に言われてあの水着を着たのよ〜?」
飛鷹まで爆撃してきたことで妻からの罰は痛い系に確定。対して提督は飛鷹の参戦により収集がつかなくなって「うわ〜ん!」と情けない声をあげる。
そして、
「ちょ〜っと詳しく聞きたいなぁ〜」
阿賀野がニッコニコの黒い笑顔で
よって阿賀野は夫のほっぺたをつねりながら高雄と飛鷹の話を聞き、提督は猛省した。
因みにその話が終わると提督は阿賀野に引きずられるように夫婦の
そんな提督を見てーー
(恥ずかしい水着を着せた仕返しです♡)と高雄
(私より高雄の水着姿をべた褒めしたから、これくらいわね♪)と飛鷹
ーー高雄と飛鷹は、それぞれ可愛らしくあっかんベーっと舌を出して提督を見送ったそうな。
そんなこんなで突如始まった納涼祭は大成功で最後はみんなで後片付けをして幕を閉じた。
そんな日の真夜中、夫婦の部屋では阿賀野が赤いマイクロビキニ姿で提督の布団に侵入し、夜戦(意味深)を申し出、提督が阿賀野に美味しく頂かれたのはまた別のお話ーー。
てな訳で、今回も賑やかな鎮守府の一幕を書きました!
読んで頂き本当にありがとうございました!