提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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提督が好き過ぎて箸が進まない

 

 泊地は9月を迎えたものの、まだまだ残暑で暑い日々が続いている。

 その中で鎮守府に身を置く興野提督率いる艦娘たちは、近々発令される初秋の大規模作戦に備え、今日も資材集めに精を出す。

 

 しかし艦娘たちは鎮守府へ戻れば、いつものようにまったりと束の間の休息を取っていた。

 

「あぁ、提督さんが好き過ぎて生きるのが辛い……」

 

 昼下がりでおやつ休憩として食堂へやってきた長良型姉妹の面々。

 中でも由良は相変わらずで、せっかく頼んだプリンアラモードに手を付けずに愛する提督へ想いを馳せ、自身のケッコン指輪を撫でたり、指輪にキスをしている。

 

「ケッコンカッコカリしてるくせによく言うよ。鬼怒なんてまだ指輪すら貰ってないのに……」

 

 そんな由良へLOVE勢の鬼怒は文句を言うが、そこは阿武隈が「まあまあ、鬼怒お姉ちゃん」とすかさずなだめに入った。

 

「由良はもう少し五十鈴を見倣ってほしいよ、お姉ちゃんとしては」

「まぁ、落ち着いてる由良ちゃんってのも、もう想像出来ないけどね……」

 

 長良の言葉に名取が苦笑いを浮かべて言うと、長良だけでなく姉妹みんなして『確かに』と頷いていしまう。

 

 そもそも由良がここまで提督へ愛を募らせる理由は、一重に提督がそれだけ愛情深く由良を育て、水雷戦隊の要として指輪を贈ったから。

 由良としてはただただ自分がこれまで貰ってきた提督からの愛を自分なりにお返ししているだけなのだ。

 ただ周りや姉妹たちからすれば、その由良の愛がとても重いという……。

 

「はぁ……どうして提督さんは由良の愛を拒むのかしら。阿賀野ちゃんとは毎晩することしてるくせにぃ」

「流石に毎晩はしてないと思うわよ。それと提督の場合は阿賀野に美味しく頂かれちゃってる方だから」

 

 由良のぼやきに五十鈴が冷静にツッコミを入れると、由良はムッとして五十鈴を睨んだ。

 

「五十鈴姉さんってさ、提督さんのこといつも"よく知ってます"みたいに言うわよね」

「あんたよりは提督との付き合いは長いからね。阿賀野からだって今もよく色んなこと相談されるし」

 

 五十鈴がさらりと言葉を返すと、由良は何も言い返せなくなったのでやっとプリンアラモードへスプーンを伸ばす。

 

「五十鈴姉っていつもクールだよね」

 

 鬼怒が感心して言うと、五十鈴は「そうかしら?」と小首を傾げてアイスコーヒーを飲む。

 

「あたしから見てもクールだと思うな。由良お姉ちゃんみたいに指輪貰ってるのに、五十鈴お姉ちゃんの場合は提督といい上官と部下の関係だし」

 

 続いて阿武隈がそう言うと、長良も名取も同意するように頷いた。

 

「まぁ、私は阿賀野と上手くやっていく提督を見るのが好きだからね。由良みたいに困らせるような真似はしたくないのよ」

「すみませんね! 困らせてばっかで! でも由良の愛は止められませんから!」

「別に止めろとは言ってないわよ。ただ、あんたのは行き過ぎてるって言ってるの。提督はもう阿賀野と正式に結婚してるんだから、もう少し考えて行動しなさいな」

 

 高雄とかいいお手本じゃない……と五十鈴は付け加えるが、由良はキッパリと「無理!」とそっぽを向く。

 すると五十鈴はこのまま話していても埒が明かないので、「はいはい」と苦笑いを浮かべて受け流すのだった。

 五十鈴たちの話が一通り終わったところで、

 

『はぁ……』

 

 隣のテーブルに香取と鹿島の姉妹がやってくる。

 姉妹揃って抹茶と羊羹のセットが乗ったお盆を持っているが、二人の顔色は悪い。

 

「あ、あの……二人共どうしたんですか?」

 

 そんな香取を心配して名取は声をかけた。

 するとーー

 

鹿島(この子)のことでちょっとね……」

「提督さんが好き過ぎて生きるのが辛いの……」

 

 ーー姉妹は声を揃えて別々の言葉を放ち、鹿島の言葉には由良を除く長良型姉妹の面々は香取に同情の眼差しを送る。一方で由良に至っては鹿島の言葉に「分かるわ」と共感していた。

 

「ほら、この子がまたやらかしたのを皆さんもご存知でしょう? なのにこの子ったら……」

「提督さんの下着これくしょんがぁぁぁ……」

 

 眉間を軽く押さえる香取の真正面では、鹿島が相変わらずの危険ワードをぼやきながらガチ勢特有の悲しみに打ちひしがれている。

 

 鹿島はこの前の肝試しの際、自身が大切にしてきた提督の下着これくしょんを自ら暴露した結果、没収された挙げ句に焼却処分されたばかり。

 

「自業自得じゃないの。というか、あんなことして何もお咎め無しの方を喜ぶべきじゃない?」

「そうなんですよ。自業自得以外の何ものでもないというのに、この子ったら全く反省していないくて……」

 

 五十鈴の言葉に香取はそう言葉を返しながらまた大きなため息を吐く。

 

「鹿島さんもガチ勢だもんね……」

「指輪貰ってなくてもこうだもんねぇ」

 

 阿武隈や鬼怒が苦笑いをこぼす中、相変わらず鹿島は大きなため息を吐きながらテーブルに顔を突っ伏していた。

 

 鹿島が提督にぞっこんの理由……それは鹿島が練習巡洋艦として一部の提督たちから軽視されていたのを、胸を張れと提督が背中を支えてくれたというエピソードがあるから。

 鹿島だけでなく香取も同じ理由で提督LOVEなのだが、鹿島の提督に対する愛はガチであり、その行動も突拍子のない行動なので姉としてはいつも悩みの種なのだ。

 

「お互い面倒くさい妹を持ったね。同情するよ」

「愚痴ならいつでも聞くわよ」

 

 長良と五十鈴が香取へ優しく声をかけると、香取は弱々しくも笑顔で「どうも」と返す。

 

「何よ何よ、香取姉ばっかり優しくされてぇ」

「あはは、鹿島さんはやっぱり自業自得なんじゃないかな?」

 

 むくれる鹿島に名取はそう言うが、

 

「由良は鹿島さんの味方よ! だって由良たちは提督さんに愛を伝えているのに応えてもらえない"提督LOVE難民"なんだもの!」

 

 由良がガタッと席を立つ。

 

「由良さん……!」

 

 鹿島も同じくガタッと席を立つと、

 

「鹿島さん……!」

 

 二人は互いに抱き合い、美しい(?)友情を見せつけた。

 しかし、

 

「本音のとこは?」

 

 五十鈴がボソッと問い掛けるとーー

 

「最後に提督さんをゲットするのは由良よ!」

「最後に提督さんをゲットするのは鹿島です!」

 

 ーー早速その友情は決裂する。

 

「何を食堂で堂々と叫んでるのよ、あなたたちは……」

 

 そこへ休憩で矢矧がアイスミルクティーの入ったティーカップを持ってやってきた。

 

「あら、今日は一人?」

「えぇ、夫婦は執務室に放置してきたわ」

 

 五十鈴の問いに矢矧が肩をすくめて返すと、ガチ勢を除く面々は苦笑いする。

 要するに矢矧は夫婦のイチャイチャを見るのが堪えられないで逃げてきたのだ。因みに今能代と酒匂は訓練でいない。

 

「夫婦だけにして大丈夫?」

「問題ないわ。二人共おっ始めたらどうなるか分かってるもの」

 

 矢矧はフフンと得意げに鼻を鳴らすが、

 

「由良も提督さんに食べられたい……それも激しく!♡」

「鹿島はちょっといじめられながらがいいなぁ……言葉攻めとか♡」

 

 ガチ勢の二人は早速妄想ワールドに突入。

 

「相変わらずね……由良も鹿島さんも」

 

 苦笑いで矢矧がつぶやくと、香取や長良たちは苦笑いを返す。

 

「好きって気持ちは止めなくてもいいけど、阿賀野姉ぇの幸せを奪うような真似は勘弁してよね」

「大丈夫! 阿賀野ちゃんだけが堪能してる幸せを少しだけつまみ食いする程度だから! 先っぽだけよ!」

「そうそう! 阿賀野さんは鹿島や他の皆さんに提督さんをほんの少し貸してくれるだけでいいんです!」

「それが法律的に問題だから言ってるのよ……」

 

 その自信は何処から来るのか分からぬ矢矧。

 しかしそれは考えても分かるはずもないため、矢矧は適当に流して長良たちや香取とほんわかお茶会で雑談を楽しむのだった。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、執務室ではーー

 

「ほらほら、司令官、阿賀野さん見て見て! 神風ちゃんとお揃いなんだ!」

「ちょっと恥ずかしいけど、やってみました♪」

「どうだぴょん?」

 

 ーー清霜・五月雨・卯月の三人が神風と同じようにバックに大きなリボンをして見せにやってきている。

 当の神風はちょっと恥ずかしそうにしているが、みんな喜んで真似をしてくれているのでとても嬉しそう。

 

「ほぉ、みんなよく似合ってんじゃねぇか」

「うん、みんな可愛いよ♪」

 

 夫婦に褒められ、三人は揃って『えへへ〜♪』と満開の笑顔の花を咲かせる。

 

「あのねあのね、最近髪が長い駆逐艦の間で誰かの髪型の真似っ子をするのが流行ってるんだよ!」

「昨日は夕雲ちゃんの髪型を真似して、その前は磯波ちゃんの髪型を真似してたんです!」

「これが証拠の写真だぴょん!」

 

 卯月が自分のスマホ画面を夫婦に見せると、確かに今清霜と五月雨が言ったようにみんなでそれぞれの髪型を真似て撮った写真画面が映し出されていた。

 

「へぇ、楽しそうでいいなぁ」

「司令官も誰かの真似っ子してみる?」

「いや、俺は遠慮しとく。そもそもこういうのは美少女がやってこそいいものだ」

「さらっとうーちゃんたちを褒めたぴょん! 流石たらし司令官だぴょん!」

「別にたらしこんではいねぇだろうが」

「でもでも、提督に美少女って言われると嬉しいです!」

「わ、私も嬉しいわよ、司令官!」

 

 ワイワイキャッキャと駆逐艦たちと戯れる提督。

 そんな提督を阿賀野は横でニコニコと眺め、まるで自分の夫と娘が和気あいあいとしているように見えていた。

 

(いつか慎太郎さんと私の間に赤ちゃんが出来たら……こんな風に過ごしたいなぁ♪)

 

 阿賀野はそう頭の中で思ったが、

 

(あ……でも慎太郎さんを娘に取られちゃうのはちょっと複雑かも)

 

 なんてちょっと難しい顔をする。

 

「阿賀野さんは何を悩んでるんだろう?」

「ホントだ。さっきまでニコニコしてたのに……」

「私たちが司令官を取っちゃったからかな?」

「なら返してあげるぴょん!」

 

 卯月はそう言うとみんなを提督から少し離し、提督を阿賀野の方へ突き飛ばした。

 思いの外勢い良く突き飛ばされたので、提督は「ふぁっ!?」と妙な悲鳴をあげながら阿賀野を押し倒すようにソファーへ倒れ込んだ。

 

「きゃあ、もう提督さん♡ みんながいる前なのにぃ♡」

「いやぁ、これはうーちゃんの仕業でして……」

「ふふ、知ってま〜す♡ でも提督さんにギューッてされて嬉しいな♡」

 

 夫婦は相変わらずラブラブであるが、このあとすぐに戻ってきた矢矧に『駆逐艦の子たちの前で何してるの!』と提督がハリセンでしばかれそうになり、卯月たちが必死に助けた。

 

 こうして鎮守府は今日も穏やかに時が刻まれたーー。




今回は日常ほのぼの回にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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