提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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一部アンチ・ヘイトが含まれます。


愛を持って何が悪い

 

 9月に入って10日間以上が過ぎ、泊地にも少しずつ秋らしい景色が見えてきた。

 興野提督率いる鎮守府の裏にある丘では群生しているコスモスやハギがこぞって咲き乱れ、艦娘たちに秋の訪れを教えてくれている。

 

 そんな中、提督たちは先日より発令された大規模作戦『抜錨! 連合艦隊、西へ!』の前段作戦を遂行中。

 しかし味方を失うことの無いよう、提督は無理な進軍はしないように心掛けている。

 提督は艦隊に中破者が出れば無理はせずに撤退する。ダメコンを積んでいたりする場合には中破していても進軍することもあるが、基本的には撤退が最優先。

 そのため攻略の歩みは自然と遅くなる……そもそも敵の強さも前と比べると格段に上がっているため、攻略までの道程は険しい。そもそも簡単な戦争なんてものはないのだから……。

 

 そんな中、今日は鎮守府にデモ隊が戦争反対を訴えにやってきた。

 ここの鎮守府には月に一度程やってきては戦争反対を訴えてくる。

 提督や艦娘たちだって戦争反対には賛成だ。

 しかし攻めてくる相手に何も抵抗せずにいては国が……国民の誰かが死んでしまう。

 そうならないために提督たちや艦娘たちが戦っているのだ。

 

 なのにデモ隊の幹部たちにはそれが分からない。

 仮に国防軍が何も抵抗せずに敵の攻撃を見過ごせば、彼れは『何故軍のくせに国民を守らないんだ!』なんてこれまでの主張を自分たちでセルフ論破するような文句を垂れるだろう。

 だからこそ彼らは多くの国民たちから白い目で見られるのだ。

 

 ーーーーーー

 

 デモ隊が去って昼時を迎えた鎮守府。

 今日みたいに暑い日はデモ隊も熱中症対策で早めに切り上げる。

 軍や艦娘は熱中症対策はしていても作戦行動を続行しているのに……。

 結局のところ、()()()()()()()()で命を張ろうとする者なんていないということなのだ。

 世界を見れば己の命を削り、中は犠牲にしてまでデモ活動をする者もいるというのに……。

 

「さぁて、俺らも一旦飯にするか」

 

 デモ隊が帰ったのを執務室の窓から確認した提督は、うんと伸びをして阿賀野たちに声をかける。

 

「そうしよ。他のみんなも今は作戦を中断してお昼休憩に入ってるもん」

 

 阿賀野がそう言って夫の言葉に賛成する横で、能代や矢矧、酒匂も笑顔で頷き、作業している手を止めた。

 

「あ、悪ぃ。俺ちょっと中央鎮守府に報告することがあったわ。四人は先に行って席取っといてくれ。遅けりゃ先に食っててくれ」

 

 提督の言葉に阿賀野は「なら阿賀野も……」と提督に付き添おうと申し出るが、提督は笑顔でやんわりと妻の申し出を断ってひとりのそのそと伝令室へと向かっていく。

 

「提督さんに振られた〜」

「別に振られてないでしょ」

 

 ガックリと項垂れる阿賀野に矢矧は苦笑いで肩を叩く。

 

「簡単な報告だから付き添いはいらなかったんでしょ」

「それよりあたしたちは席を確保しに行こうよ!」

 

 能代、酒匂と阿賀野に声をかけると、阿賀野は「は〜い」と返して妹たちと共に食堂へと向かった。

 

 ーーーーーー

 

 阿賀野たちが食堂の中に入ると、今日は妙に席が空いていることに疑問を抱く。

 しかし阿賀野たちの前にいた陽炎や白露、朝潮などの大所帯である駆逐艦ネームシップたちが間宮たちに注文しておいたお弁当を受け取っていたので、阿賀野たちは揃って『なるほど』と合点がいった。

 

 今日は気温は高いが秋晴れに恵まれ、比較的カラッとした天候。なので多くは中庭や裏の丘でピクニック気分でお弁当を広げるようだ。

 

「みんな気持ちのいいお天気だから、お外で食べるんだね」

 

 取り敢えず空いているテーブルに座った阿賀野がみんなを見てそう言うと、能代たちも『そうだね』と言うように頷いてみせる。

 

「食堂に来る前に中庭を通ったら、結構お弁当広げてる子たちもいたものね」

「中庭があれなら、裏の丘には結構行ってる人が多そうね」

「今日デモ隊が来てたから、みんな気分転換したいのかもしれないね」

 

 能代・矢矧・酒匂とそんなことを話していると、

 

「悲しむ奴がいないならそれでいい」

 

 提督がやってきた。その後ろには大淀と扶桑姉妹も一緒だ。

 阿賀野たちと大淀たちが挨拶を交わすと、そのままの流れでこのメンバーで昼食を過ごすことになった。

 

 ーー

 

「んじゃ、みんな揃ってるな? いただきます!」

『いただきます!』

 

 提督の声にみんな声を揃えていただきますをし、穏やかな昼食が幕を開ける。

 因みに今日の昼食はお弁当を頼む者が多いため一種のみ。献立は里芋やしいたけ、しめじ、まいたけがふんだんに入ったけんちん汁に、昆布出汁で煮付けたサンマの煮物、オクラといんげんの和え物、そしてメインのご飯の横にご飯へかける用にしらすの入った小鉢が置かれている和食メニューだ。

 

「しらすを見ると提督のしらす丼が食べたくなりますね」

「はい、私も同じことを考えてました。山城も提督のしらす丼はお気に入りよね?」

「え、ま、まぁ、嫌いじゃないですよ」

 

 いきなり話を振ってきた扶桑に山城は少し戸惑いながらも素直に頷く。しかしその頬は若干桜色に染まり、本人を前に美味しかったというのはちょっと恥ずかしかった様子だ。

 

「なら今度の丼メニューはしらすにしてやろうか? やましろんが喜んでくれるみたいだから」

「それだと楽しみが半減するのでひと工夫ふた工夫してくださいね。それとメガ〇ロンみたいに言うな」

 

 提督の言葉に山城はいつものように冷静に返した上でツッコミを入れる。

 山城は着任当初こそ提督を毛嫌いしていたが、艦隊に所属する戦艦の中で一番頼りにされていると自負しているので良い上官と部下の関係を築いており、仲は良好。

 

「ふふふ、やましろんってあだ名、私はいいと思うわよ? 私は"ふっそ"だもの」

「私のあだ名は"おおよどん"ですね。なんかの恐竜の名前か丼の名前みたいになってます」

 

 扶桑と大淀がそんなことを言うと、山城は「提督、姉様のあだ名がふっそってどういうことですか?」と詰め寄った。

 

「いやぁ、ふーちゃんにしてはちょっと可愛過ぎちまうからふっそなら親しみやすいかと……」

「……提督だから許しますが、もう少しまともなあだ名にしてくださいよ」

 

 肩をすくめる山城に提督は「あーい」と返事すると、山城は「仕方ない人」と言いながらも柔らかく微笑む。

 これが提督と山城が築いてきた絆なのだ。

 

「でも確かに提督はあだ名で呼ぶことが多いですよね。阿賀野姉ぇだって最初の頃は"あがのん"って呼んでましたし……」

「うんうん! あたしたちのことも"さかわん"とか"やはぎん"とか"のしろん"って言うもんね!」

 

 能代と酒匂が思ったことを口にすると、提督は「あだ名の方が親しみやすいじゃん?」と返したので、その場にいるみんなが『提督らしい』と笑うのだった。

 

 ーー

 

 それぞれ昼食を終えて食休みに入ると、

 

「そういえば、今日のデモ隊も相変わらずでしたね」

 

 大淀が茶をすすりながらデモ隊の話題を振る。

 

「確かにね。慣れてきちゃってる自分も怖いけど、何度聞いても不思議な主張なのよね」

「そもそも、私たちじゃなくて攻めてくる深海棲艦に言えばいいのに、っていつも思うわ」

 

 扶桑、山城とデモ隊へ苦言を述べると、阿賀野たちも苦笑いで『確かに』と頷いた。

 

「まぁ放っておけばいい話だろ。昔みたいに過激なデモなんて出来ねぇようになってるし、したら即法律違反でしょっ引かれるからな。そもそも守ってる側に守られてる側が戦うなってのがおかしい話なんだ」

「ボディガードを雇ったのにそのボディガードに守らないでって言ってるのと同じだもんね」

 

 夫婦の意見にみんなはうんうんと頷いていると、

 

「私はデモ隊を見ると、初めて街で戦争反対派の人に怒鳴られたことを思い出すわ」

 

 山城がふとそんなことをこぼす。

 すると提督は「あ、悪ぃ、トイレ」と何やらそそくさとその話題から逃げるようにトイレへ向かった。

 阿賀野は勿論、他の面々も小首を傾げる中、山城だけは小さく笑って提督の背中を見送る。

 そして提督が完全にトイレの中へ姿を消してから、山城は「それでねーー」とあの当時のことを語り始めた。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 それはまだ私が鎮守府に着任して間もない頃。

 当時、提督も鎮守府に着任して半年も経ってなくて、3日置きに何人か新しい艦娘が着任してた。

 

 そんな中、提督が私や他の駆逐艦の子たちを連れて街に買い物に行ったの。まだ間宮さんたちがいなかったから。

 

 そこで事件が起きた。

 

『おい、人殺しがなんで街にいるんだ!』

『ここはあなたたち人殺しがいていい場所じゃないのよ!』

『さっさと帰れ!』

『戦争なんてしていいもんじゃねぇんだ!』

 

 買い物を終えて帰ろうとした時、私たちの乗っているジープを取り囲んだ団体がいたの。

 私は本当に不幸だと思った。

 

 なんでこんな人たちに"人殺し"とか言われなきゃいけないの?

 

 好きで戦っている訳じゃないのに……

 

 国を守りたくて戦っているのに……

 

 駆逐艦の子たちも泣き始めちゃって私も混乱している中、提督がスッと車を降りたの。

 

『我々は国防軍です。民間人である貴方たちを殺している訳ではありません。攻めてくる敵と戦っているんです』

 

『そしてこの車の中にいる彼女たちこそが、皆さんの命を守るために己の命を日々削っているんです。どうか彼女たちに心無い言葉を浴びせないでください』

 

 いつもならそんなことを言う人たちに悪態をつく提督が、とても大人の対応をして更にその人たちに頭まで下げた。

 でも提督の言葉も聞き入れず、

 

『戦力なんて持ってるから狙われるんだ!』

『子どもたちの未来を汚すな!』

『戦争はんたーい!』

『日本に軍なんていらないのよ!』

 

 提督を取り囲んで酷い言葉を投げつけた。

 そしてその中の一人がジープの窓を手で強く叩き出すと、次の瞬間手で叩いてきた人が消えたわ。

 提督がその人を取り押さえていたの。勿論他の人たちは提督を批難したわ。

 でも提督はこう言ったのーー

 

『日本を守りたい、だから俺は軍人になった! そして仲間を守るためにこの制服を着てるんだ! 戦場にも行かず、安全地帯でただ喚き散らすだけのくせにでかい顔すんな! 国防軍は国を守るためにある組織で、お前たちの苦情受付センターじゃないんだよ!』

 

 ーーその言葉に誰も言い返せなかった。

 言い返したとしても、提督は更に論破したでしょうね。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ーー後日、提督は戦争反対派に訴えられたけど、証拠VTRも録音されたテープもあったから提督は当然何もお咎め無し。加えて相手は罰金刑になったわ」

 

 山城の話が終わると、当時を知らない阿賀野たちは『流石提督(さん)……』と目を輝かせる。

 

「ふふ、それからよね。山城が提督に対して素直になっていったのは」

「や、止めてくださいよ、扶桑姉様……」

 

 扶桑の言葉に山城が狼狽する横で、

 

「ふむふむ、だからそこに居合わせてしまった時雨さんも夕立さんも提督LOVEになったんですね」

「でもでも、そんなことを言われたら好きになっちゃうよね!」

 

 大淀と酒匂は時雨や夕立が提督LOVEになったことに合点がいっていた。

 

「そんな提督が今じゃ阿賀野姉ぇにくびったけ……」

「阿賀野姉ぇ無しじゃ生きていけないものね……」

 

 能代と矢矧が改めて阿賀野を見ると、

 

「でへへぇ♡」

 

 奥様はとてもだらしなくデレデレしていたそうな。

 

 それから提督が戻ってくると阿賀野は提督に抱きつき、素敵な人が自分の旦那さんで良かったと心から思うのだったーー。




イベント中ですが、今回はこんな話にしてみました!

読んで頂き本当にありがとうございました!
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