秋分の日が過ぎ、彼岸も過ぎた9月の末。
それに伴い季節も正に秋というものに移り変わっていく。
鎮守府は無事に大本営が発令した大規模作戦を完遂し、今は残党勢力の殲滅に移行している。
一度は制覇した海域だが、慢心して任務にあたる者は誰もいない。加えて本作戦には参加していなかった者たちも経験を積ませるために出撃するので、提督は細心の注意を払いながら殲滅作戦を遂行中だ。
そして今日の殲滅作戦を終えた夕方。
艦娘たちはこぞって食堂に行き、間宮たちの心まで癒やされる美味しい料理を仲間たちと頬張っていた。
「ん〜! このカボチャグラタン美味しい〜!」
「この味は最高」
「栗とレンコンの炊き込みご飯も美味しい〜!」
中でもレーベやマックス、ジャーヴィスといった海外艦勢が多く座るテーブルでは、本日の秋らしい夕飯メニューを満面の笑みで堪能中。
今日のメニューはカボチャ使ったグラタンがメインのAセットと栗とレンコンの炊き込みご飯がメインのB定食が並んでいる。
このカボチャグラタンはホワイトソースの中にもペースト状にしたカボチャを混ぜ、鰹出汁と共に煮込み、それをお馴染みのマカロニや焼いた玉ねぎ、カボチャのスライス、鮭の切り身へ掛けた後、チーズを振り掛けてオーブンでこんがり焼いた絶品グラタン。
対して栗とレンコンの炊き込みご飯はこの二つの食材の他にもニンジンやシイタケ、マイタケが昆布出汁の効いた汁と共に美味しく炊き込まれている。
「日本に来て食べ物の概念がガラリと変わったな。ロシアにいた頃も美味い料理はあったが、これほど感銘を受けるとは……」
「フランスでは味にうるさいのが普通なのだけど、日本の料理ってどれも美味しいのよね。祖国で食べるより日本で食べた方が美味しいくらいよ」
ガングートとリシュリューの言葉にその場にいる者たちは揃って同意するように頷きを返した。
因みにリシュリューは着任した当初、間宮や伊良湖たちの料理を目の前にして『私の舌を満足させられるのかしら?』とかなり上から目線だった。
そしてそんな間宮たちの料理を一口食べた瞬間、『私を卑しい豚と呼んで!』と自分を卑下しながら間宮たちの料理の味にひれ伏したというエピソードがある。勿論、間宮たちがリシュリューのことを"卑しい豚"とは呼ばずに"リシュリューさん"と呼んでいる。
「でも問題があるのよね」
そんなガングートたちの横でビスマルクが静かにそうつぶやくと、
「食べ物が美味し過ぎてバルジが増えてしまうのよね……」
続いてウォースパイトが嘆くようにその身に起きた大問題を告白。しかしそうは言うもののビスマルクは炊き込みご飯、ウォースパイトはグラタンをそれぞれ淡々と己の口へと運んでいるので、表情と身体が正反対の行動を取っているのでやけにシュールだ。
「そんなことを言って置きながら手は黙々とその口へ食べ物を運んでるぞ?」
そこへやってきた提督がツッコミを入れた。その後ろでは阿賀野たちが苦笑いしてビスマルクたちを見つつ、他のみんなへ挨拶している。
「私のアミラルじゃない♡ こっち、こっちよ!♡ 私の隣に座る権利をあげるわ!♡ 寧ろここ以外座らせないから!♡」
提督の登場でテンションがマックスになるリシュリュー。リシュリューの隣はガングートだが、リシュリューは「ガン子早く退きなさいよ、私のアミラルが座れないでしょ?」とアルプス山脈の山頂のような冷たく鋭い視線と言葉を浴びせていた。
「他にも席はある。ならば他に座るのが道理だろ、ポンコツフランス人形」
「あぁん?」
「お?」
仏露の戦争勃発かと思った矢先、
「ほれほれ、喧嘩すんな。リシュリュー、良かったら俺の正面に来ねぇ?」
提督が機転を利かせて戦争は回避される。
阿賀野は当然、妻であることから提督の左隣が定位置であるため、正面ならギリアウトセーフなのだ。後、阿賀野から脇腹を抓られた模様。
「じゃあ、あたしがリシュリューさんが座ってた席に座ろ〜♪」
そして空気の読める大天使サカワエルは尊くもリシュリューが座っていた席に座り、ガングートへ癒やしと安らぎを与える。
「相変わらずリシュリューさんの提督LOVEは凄いわね」
「まぁ、これも慣れてきちゃったけどね」
一方の矢矧と能代はそんなことを話しながら、矢矧は提督の右隣に能代は矢矧の正面にと着いた。
「ンフフ〜♡ アミラル、こうして座ってるとまるで夫婦ね♡ シ・ア・ワ・セ♡」
「お、おう、そうだな……」
矢矧たちの話声も聞こえていないリシュリューはルンルン気分の乙女オーラ全開で提督へ笑顔で話しかける。
しかし阿賀野から「所詮は
「いずれはこの私とフランスの地へ帰るんだから今はこれで満足しといてあげる」
それでもめげないリシュリューはやはりつ
ーー
それから提督たちも加わり、話題は先程のバルジが増えてしまったという乙女としては重大な問題に戻った。
「んで、ウォスパちゃんにビス子は増えちまったのか?」
提督の問いに二人はしゅんと眉をひそめて「Yes」、「Ja」と弱々しく頷く。それでも手はちゃんと食べ物を己の口へ運び続けながら……。
「でも! これも全部日本の料理が美味しいからいけないのよ!」
「そうよそうよ! 四季折々にその時その時の美味しい食材を更に美味しく料理して! これで太らない方がおかしいのよ!」
ウォースパイトとビスマルクはそう訴えるが、
「そんなお前たちに私は問いたい。あそこのテーブルの者たちは太っているか?」
ガングートがとあるテーブルを指差して、二人へ問い掛けた。
そのテーブルにはーー
「江風、この丼に炊き込みご飯のおかわりを貰ってきて」
「ほいほ〜い♪」
「涼風、グラタンと炊き込みご飯のおかわり貰ってきて」
「がってんだ!」
「雲龍姉様、そろそろお止めになられた方が……」
「大丈夫よ、天城。そろそろ締めのデザートに移ろうと思ってるところだから」
「いや、雲龍姉、普通の人は数キロも食べてから締めにデザートとか無理だからね?」
「どれも美味しくて手が止まらないわ!」
「アイオワさんは相変わらず良く食べますね〜、サラは普通の一人前で十分なのに」
「アハハ、でも良く食べるからビッグ・スティックなのよ♪」
ーーそれぞれ良く食べられる艦娘たちが姉妹や仲間たちと和気あいあい(?)な食卓を囲んでいる。
そんなテーブルを見たウォースパイトやビスマルクは、
「彼女たちが特別なのよ……」
「そもそも私はあんなに食べられない……」
ゆっくりとそのテーブルから目を逸らし、静かに言葉を返した。
「ま、まぁ、美味しいのは確かだし、食べ過ぎちゃうっていう気持ちは阿賀野も分かるよ〜?」
すかさず阿賀野がフォローに入ると、レーベやマックスたちもそうだよと優しくフォローに入る。
「でも阿賀野はなんだかんだ痩せてるわよね」
「そうね。たまに能代や矢矧から怒られてるところは見るけど、体型について怒られてるところは見たことないわ」
ビスマルク、ウォースパイトと阿賀野を不思議そうに見て言葉をこぼすが、阿賀野は阿賀野で「一応気をつけてるから」と苦笑い。
「阿賀野、この時期の焼き芋とか好きだけど食べ過ぎないようにしてるの。仮に阿賀野が太っちゃったりしたら、提督さんが浮気しちゃうかもしれないもん。艦隊には綺麗な人や可愛い子が多いから……」
阿賀野が本音をこぼすと、ビスマルクたちは『なるほど』と頷いた。
彼女は提督と唯一本当の結婚をしている艦娘。そしてそうであるのに、鎮守府には恋路に血気盛んなガチ勢がひしめき、提督を虎視眈々と狙っている。
提督は悪く言うとオオカミの群れの中に放り込まれた美味しそうに肥えた豚であり、美味しい蜜を宿す花が沢山ある場所に飛ぶミツバチなのだ。
そんな提督を自分に夢中にさせるため、またガチ勢が自分の入る隙間は1ミリたりともないと示すため、阿賀野は阿賀野なりに日夜自分磨きをしているという訳なのである。
提督本人としては阿賀野がガリガリになろうが、ポチャポチャになろうが愛す所存であるが、こればかりは乙女……嫁としてのプライドみたいのものだろう。
「アミラル、私との子どもはきっとあなたに似て可愛くて素敵な子どものはずよ♡ フランス人である私と日本人であるアミラルとの国を越えた愛の結晶を作るのって、素敵なことだと思わない?♡」
「お、おう……でも俺は阿賀野しか無理だから……」
「んもう、意地っ張りね……でもそんなところもス・テ・キ♡」
「勘弁してくだしゃ!」
現に提督の目の前にはフランス産の美しい花がおいでおいでと甘い蜜へ誘おうと手招きし、その笑顔の裏には獰猛な肉食獣的恋心が広がっている。
「本当にお前はめげないな……」
「リシュリューさんって凄いよね」
「ブレないって点は褒められる点よね」
「それだけアドミラルが魅力的ってことかな?」
なので外野であるガングート・レーベ・マックス・ジャーヴィスの四人はリシュリューの姿勢に脱帽状態。
「貴女も苦労してるのね、阿賀野」
「大丈夫。アトミラールはどんなことがあっても阿賀野一筋よ……でも阿賀野は野獣たちからアトミラールを守ってあげて」
「うん、頑張る!」
なんだかんだ論点がずれてしまったものの、阿賀野はビスマルクたちから心温かいエールを受け、これからも提督をガチ勢たちの魔の手から守ることを誓うのだった。
ーー
そんなこんなで食事を終えた一行。ある者は食後のお茶を楽しみ、またある者は本日のデザートである巨峰が入ったロールケーキを堪能している。
このロールケーキは生クリームの中に皮を剥いた巨峰を仕込んで、しっとりとした柔らかい生地で包むように巻いたデザート。
生地やクリームの甘さの中に巨峰のほのかな酸味と果実らしい甘みが加わって最高の一品となっている。
「デザートも美味し過ぎる……」
「もう太っててもいいかも……」
悔しそうにつぶやきつつも、やはりロールケーキを美味しそうに食べるビスマルクとウォースパイト。
「もう素直に食べたらどうかな?」
「ビスマルクは寝る前に飲むビールの量を減らしたりすればいいんじゃない?」
「美味しい物は笑顔で食べないと作った人に失礼だよ〜?」
レーベたちはもうツッコミする気も失せ、少しでも二人を元通りにしようと動いている。
「はい、アミラル♡ あーん♡」
「い、いや、俺は阿賀野と半分子してっから……」
「邪魔しないでくださ〜い」
一方で夫婦とリシュリューは(主に阿賀野は臨戦態勢状態でリシュリューはそれをガン無視)相変わらずで、
「丸ごと一本豪快にかぶりつくというのを一度してみたかったんだ!」
「はわ〜、凄いね、ガングートさん……」
ガングートは50センチくらいにカットされたロールケーキを豪快に掴んで頬張り、それを酒匂は感心して見ている。
「傍から見たら凄くカオスなテーブルよね、ここ」
「今に始まったことじゃないわよ、矢矧。気にしたら負けよ」
そして苦笑いでコーヒーをすする矢矧に、能代はロールケーキを食べながら冷静なツッコミを返していた。
結局のところビスマルクとウォースパイトの二人は今宵も日本の凄さを実感し、二人の悩みはまだまだ続くことになるのだった。
「日本は危険ね……」
「体型維持がこんなに難しくなるんだもの」
ビスマルク、ウォースパイトは最後にそうつぶやき、ロールケーキをおかわりしに行ったというーー。
秋ということで秋の味覚をメインに乙女の大問題を取り上げました!
でも日本は世界でもトップクラスの美食国家でもありますから、誇らしいですよね!
読んで頂きありがとうございました!