秋晴れに恵まれた今日。
艦娘たちは今日も訓練に演習に出撃といつものことだが、力みも弛みもせず己の使命に殉じている。
しかし今日は昼過ぎから鎮守府の中庭ではある催し物が開かれ、任務や出撃、訓練帰りの艦娘たちもそこで足を止めてその催し物に目を奪われていた。
中庭にある2箇所の出入り口の側には『鎮守府芸術祭』と白い布地に墨汁で達筆に書かれたのぼりが別々で立てられている。
因みにこれは鳳翔と祥鳳がこの日のために書いた物で祥鳳の方は"力強く豪快"に、鳳翔の方は"美しく繊細"にと両者共に自分をそのままに表現した作品だ。
この芸術祭は前々からイベント委員会が主導で準備を進めてきた催しで、出展したい者は飛び入りも出来るという展覧会的なイベント。
見る方も元々芸術に秀でた仲間の作品は勿論のこと、普段は分からない仲間の芸術的感性を知る機会であるため、今回のイベントを楽しんでいる。
ーー
「うわぁ、やっぱりあきつ丸さんが作ったプラモデルって凄いね!」
「右からチハ・チヌ・カミ・トクであります」
そう感動の声をもらしたのは皐月で、ここにはあきつ丸が組み立てた市販のプラモが並んでいて、あきつ丸は自身の力作を睦月型姉妹たちへ胸を張って説明中。
しかもただ1つのプラモが1つずつという訳ではなく、そのまま何も手を加えずに組み立てた物と、スミ入れした物と、ウォッシング&ダメージを加えた物とで三種類の工程を施されたプラモがそれぞれ並んでおり、1つの作品に3つずつ展示されている。
「う〜ん、見てて凄いってのは当然だけど、うーちゃんにはこんな細かな作業は無理だぴょん……」
「それだけ真剣に作ったってことだもんね」
卯月の言葉に水無月はしみじみと言葉を返すと、あきつ丸は「自分も最初は下手でしたよ」と苦笑い。
「しかし組み立てていく度に次はこうしてみよう、ああしてみたらいいかも、とやっていく内にこうなってしまったであります」
「趣味も本気でやれば上達するってことだな」
「望月がゲーマーなのもこれと似たようなものということか」
「まぁ、あながち間違ってはいないかなぁ」
菊月や長月の言葉に望月はやんわりとした言葉を返す。
すると他の姉たちからも「望月ちゃんはゲーム得意だもんね♪」、「難しいゲームもスタイリッシュにクリアするもんね!」、「もっちーがゲームしてるの見てるの楽しいもん♪」と何故かちやほやされてしまったので、望月はなんとも言えずにただただ頬を赤く染めるのだった。
ーー
一方、その隣ではお馴染みオータムクラウド先生とロールクラウド画伯によるそれぞれの似顔絵作品が複数展示されている。
「わぁ、秋雲ちゃんってやっぱり上手だね!」
「翔鶴さんに瑞鶴さん、それに司令官と阿賀野さん……どれも上手ね」
吹雪と白雪がオータムクラウド先生の絵を絶賛すると、オータムクラウド先生は「どもども♪」と得意げに返す……がその横では、
「……巻雲〜、これなんだよ……怪獣?」
「エイリアン……というかUMA?」
深雪と初雪がロールクラウド画伯の独創的な抽象画(?)に首を傾げている。
これには流石の叢雲もフォローのしようがなく、磯波も浦波も苦笑いを浮かべることしか出来ないでいた。
何しろ似顔絵なのに抽象画と呼ばないと説明が出来ないくらいの色使いや構図で、とある絵に至っては口から火のような赤い何かを噴き出しているのだ。
「これは右から司令官さまです!」
そんなみんなにロールクラウド画伯が自信満々で説明をすると、一同は驚愕。何故なら提督の絵が口から火を噴き出しているものだったから。
なので、
「で、なんで司令官が口から火を噴いてるわけ?」
叢雲はいの一番に質問した。
「これは火ではありません! タバコの煙です!」
その説明にまたまた一同は驚愕する。
「タバコの煙って白いよね?」
「赤くはないね」
「はい。ですが、ただそのまま書いてもつまらないので、大胆に赤くしてみました!」
磯波と浦波の言葉にロールクラウド画伯はまさにキリッと眼鏡を上げて説明。
そもそも似顔絵はある程度のデフォルメはつけてもそのままの画題を書く。
なのでロールクラウド画伯の感性が天才的過ぎて理解され難くく、叢雲たちだけでなく目にした者たちへ驚きと芸術の奥深さを教えていた。
ーー
丁度その頃、
「いやぁ、大分盛り上がってんじゃねぇか」
「そうだね♪ みんなの笑顔があふれてるもん♪」
「やっぱりこういうちょっとした催し物があった方がいい気分転換になるのよね」
提督・阿賀野・矢矧の三人が午後からの執務を再開する前にこちらの様子を見にやってきたところ。能代と酒匂は午後一から遠征へ向かった。
提督が来たと分かると多くの者たちは提督の周りに集まり、挨拶だけでなく誰がなんの展示をしているのか、誰のどの作品がオススメだとかと、色々と情報をくれる。
「ふふふ、提督はやはり皆さんから慕われていますね」
そこへ声をかけてきたのは高雄。その後ろには鳥海の姿もあり、提督たちへニッコリと笑って軽く手を振っていた。
「まぁ慕われてなきゃ提督なんざやってらんねぇさ」
「女の子大好きな提督だからこそ渡り合える職場でしょうね」
提督の言葉に高雄は軽い冗談を返した上でイタズラっぽくウィンクする。
すると提督は「だって男の子だもの」と何故か胸を張って返した。
「司令官さんは相変わらずですね……阿賀野さんの苦労に同情してしまいますよ」
「う〜ん、鳥海さんが思ってるほど大変じゃないよ? みんなの前ではいつもこうだけど、阿賀野と二人っきりの時は阿賀野のことだけで頭をいっぱいにしてくれるもん♡」
阿賀野がナチュラルに惚気けて返すと、鳥海は「な、なるほど……」となんとも言えない反応を見せる。
当然、こんなナチュラルシュガートークに慣れっ子の矢矧は「受け入れるのよ」と達観したように爽やかな笑顔を見せ、そっと鳥海の手に間宮監修の「激苦珈琲キャンディ」を握らせるのだった。
ーー
提督一行はその場の流れで高雄と鳥海とも一緒に展示を見て回ることに。
すると先ず阿賀野たちの目に止まったのは、
「頑張って作りました!」
「お配りしてるのもありますよ〜!」
「見て楽しい! 食べて美味しい! かも!」
瑞穂・テスト・秋津洲が手がけた飴細工の展示だ。
「はわ〜、これが飴なんですか……?」
「犬や猫に金魚……それでこちらのは……?」
ただただ圧倒される鳥海とは違って高雄はみんなに配る用の小さな飴ではなく、メインで展示されている飴細工に小首を傾げる。
どうしてかというと、作品が鳥と花だということは分かっても、それが正確になんの鳥でなんの花なのかはパッと分からなかったから。
このメインの飴細工は円柱のガラスケースに入れられており、大きさは縦も円の直径も約1メートル程。
細かく説明すると円柱を横に3等分してその中央部に黄色いアイリスと白いユリ、紫色の菊の花と淡いピンク色の桜の花とされる4種類の飴細工がひしめき合うように乱れ咲き、その下に花を見上げる白い鳥と花たちの上に花を見下ろす緑色の鳥といった飴細工が展示されている。
「キジとニワトリは日本とフランスのそれぞれの国鳥で、花はそれぞれの国花だな」
「流石提督ですね。その通りです」
「私たちは比較的皆さんよりはお暇がありましたので、日本とフランスの友情を飴細工で表現しました」
「それでそれで、作り始めたらこんな超大作になっちゃったの♪」
提督のつぶやきにテストたちが嬉しそうに言葉を返すと、阿賀野たちも『なるほど〜』とまた新鮮な気持ちで改めてその飴細工を見つめた。
「国花や国鳥は有名だが、他にも日本じゃ国菌の麹菌、国石の水晶、国蝶のオオムラサキとかあるんだよな」
「そうですね。前に読んだ小説でそのようなことが書かれていました」
「フランスでは何か国を代表する物って他に何があるの?」
雑学に明るい提督の言葉に鳥海が頷き、阿賀野と高雄は『素敵〜♡』とうっとりして提督を見つめる。
その横でただ唯一質問した矢矧にテストはというと、
「う〜ん……国技にフェンシング、ペタンク、サバットがあるってことくらいですかね? 市民権を勝ち得た国技になると柔道とかサッカーとかモータースポーツとか色んなのがありますよ。柔道なんてフランス発祥だと思ってた国民も多かったです」
国技のことや市民権を勝ち得てそのスポーツの強豪国となっていることを話してくれた。
「確かに、フランスも柔道が盛んですよね」
「F1レースも有名なのがありますものね」
鳥海や高雄が納得してうんうんと頷きながら言葉を返すと、テストはまた母国のことを知ってもらえて嬉しそうに笑った。
ーー
日本とフランスのいい友情作品に加えてフランスの文化をまた少し理解出来た提督たち。
他にもプリンツが描いたビスマルクの肖像画(〇ルサイユの薔薇タッチ)や、イタリア艦たちが日本に来る際に本国から持ってきた私物のヴェネツィアガラスで出来たワイングラスや花瓶の展示、ポーラがこれまで飲んできたワインのコルクこれくしょん、イヨや隼鷹たちが今も大切にして残している珍しい酒瓶これくしょん……などなど、本格的な物からユニークな物まで数多く展示されていて楽しむことが出来た。
しかしーー
「あの、司令官さん……あれはなんでしょうか?」
ーーただ1つだけ、提督にとっては見たくない展示があった。
「司令官待ってましたよ!♡ 青葉たちは当然、司令官の素晴らしさを皆さんへ伝えるためにこうして力を合わせて力作を作り上げました!♡」
そう、それは青葉を筆頭にガチ勢たちが寝る間も惜しんであふれる提督LOVEを思うがままに表現した作品が並ぶブース。
ここだけは提督も極力見ないようにしていた。
が、鳥海が気付いてしまったこともあるが、ガチ勢たちが提督を見逃すはずがないためにこうして回避不可になってしまった次第だ。
「青葉は主に写真です!♡ 見てください!♡ どの司令官も格好良く撮れてて、青葉イチオシの写真たちです!♡」
フンスフンスと鼻息荒く力説する青葉。
しかしどれも変な写真ではなく、凛々しかったり、楽しげに笑っていたり、物憂げに何かを見つめていたり、といつもの提督とは違った魅力を引き立てている写真ばかり。
なので、
「わぁ、この提督さん素敵〜♡」
「まぁ、これは……あらあら♡」
奥様と高雄は提督の写真に釘付け。
「良かったですね、司令官さん♪」
「色男は辛いわね〜?♪」
「うるせぇ」
よって鳥海や矢矧からは冷やかされ、提督は恥ずかしそうに帽子を深く被って顔を隠す。勿論この瞬間も青葉に盗撮撮影されていることを提督は知らない。
「…………で、だ。青葉よ」
「はい、なんですか司令官?♡ ご褒美のキスですか!?♡」
「違う……出来れば触れたくないんだが、ど〜〜〜〜〜〜しても触れておかなきゃいけねぇことがあるんだ」
「なんでしょう?♡ 青葉の今日の下着の色とかですか!?♡ 因みに今日は水色です!♡」
「違う違う……あのな、この西郷隆盛みたいな銅像はなんだ?」
「え? どう見ても司令官ですよ? 格好いいでしょう!?♡」
青葉の答えに提督はこう思ったーー
違うそういうことじゃない
ーーと。
何しろ台座に自分を模した等身大提督像が立っているのだから、提督としては恥ずかしいことこの上ない。
「バレンタインデーの時のチョコで作った司令官像はどうやら不評のようでしたので、今回はありのままの司令官をそのまま像にした次第で……」
「いやいや、そういう経緯じゃなくてよ。なんでこんなもん作っちゃったのかなぁって! なんでこんなもん作っちゃったのかなぁって! しかもこのクオリティで!」
「え? 夕張さんと明石さんが設定した3Dプリンターで銅像風にしたプラスチック製のフィギュアですよ? 現代技術って進化しましたよね〜♡」
提督の羞恥を知らず、青葉はその提督フィギュアのスネ辺りに頬擦りする始末で、なんともカオスな言い争い。
しかしこのクオリティには流石の阿賀野も高雄も注意するよりは、感心の方が大きく『まぁ、悪い作品ではない……♡』とかなりの好評価。
これには青葉と同じくブースにいたガチ勢たちも渾身のガッツポーズをしている。
「…………正直なとこ、これを見て俺はどんな顔したらいいかわっかんねぇわ」
「笑えばいいのでは?」
「馬鹿め、と言って差し上げますわ!」
「きゃあ、司令官に怒られちゃいました〜♡」
ワイワイキャッキャと全く心のキャッチボールが出来ていない提督と青葉。
そもそも矢矧や鳥海はーー
(何故高雄姉さんのセリフを……というか、おネエ口調になってます)
(名シーンがこんなにも嫌な形で再現されるなんて……)
ーーと、別々のところへツッコミを入れていた。
そんなこんなで提督は恥ずかしい目にあったものの、鎮守府芸術祭は大いに盛り上がった。
因みに夕張や明石が導入した3Dプリンター技術はガチ勢は勿論だが、LOVE勢も大いに活用し、また彼女たちの手元に新しい提督グッズが増え、阿賀野もその中の一人になっていたというーー。
芸術の秋ということで、今回はこんな回にしてみました!
読んで頂き本当にありがとうございました!