しかしながら、自分もまたアッシュが出会ったアーサー王は「エクスカリバーを使うアーサー王」だと思っていたので、今作ではぐだおが行ったのは「エクスカリバーを使うアーサー王が活躍した時代」としています。
当然ながらネクロノミコンが消えた時期もこの頃で、なおかつアッシュを手助けした賢者も彼となっています。
――瞬きをすれば、そこはあの忌々しい思い出が積もりに積もった、血塗られた山荘だった。
右腕の重みに目をやれば、そこには鋼鉄の義手……ではなく、山荘で見つけたチェーンソーが装着されている。
数多くの
否、その解釈は少々不適切だろう。何せ、今このチェーンソーは、自分の身体も同然なのだから。
そして左手に握っているのは、
弾は十二分にある。そして、狙う相手も。
不意に、自分以外に生者などいないはずの空間に、笑い声が響き渡る。
自分は笑っていない。ならば、誰が笑うのか?
――決まっている。
目を笑い声のする方に向ければ、鹿の頭部の剥製が、白目をひん剥きながらゲラゲラと笑っている。
続けて電気スタンドが。その次は本棚に収められた本の数々が。更には棚そのものが。
部屋にあるありとあらゆるものが、自身という生き残りを嘲笑うかのように、男とも女ともつかない笑い声を上げる。
そして気付けば、自分も笑っていた。
理由は分からない。分からないが、これが笑わずにはいられない。つまりは、頭がおかしくなったに違いない。
だが、当の頭の方は、酷く覚めていた。だから、ひとしきり笑った直後、自分を笑うクソッタレな家具を、片っ端から破壊して回った。
次いで襲ってきたのは、
勿論、やる事は決まっている。殴って、撃ち抜いて、ぶった切る。シンプルイズベスト。
窓から突入してきたそいつらを、あるいは地下室から這い出してきた奴らを、一片の情けも容赦もなく蹴散らしていく。
銃声。チェーンソーのモーター音。雄叫び。悲鳴。そして――粉砕される血肉の音。
壁が真っ赤に染まっていく。そして俺も。
「――は」
――だが。
「はは」
「ハハ、ははは、HAHAHAAAAAァーーーー!!!!」
――そんな状況で、俺は笑っていた。
******
「……で、オタクはどちらさん?」
「……名乗る程のものではない――とか?」
「あんだって?」
気が付けば、どこかの施設の廊下に転がされていたらしい。俺ぁてっきり、人体実験か尋問か、そんな事されるもんだとばかり思ってたが、――眠気で身体が怠いのを除けば――特に怪我も何もない。
だが、服以外の持ち物が一切ない。畜生。やっぱり連中、俺で何か実験でもするつもりに違いない。
そうだ、思い出した。あの銀髪の偉そーな女だ。奴が黒幕に違いない。とにかく奴を見つけ次第、この俺の鋼鉄の右ストレートでぶん殴って――?
「……あ」
「あ?」
直後、俺は自分の義手が無くなっている事に気付き、絶叫を上げてしまった。やっぱあの女、右ストレートだけじゃ済まさねぇ。
あとどうでもいいが、俺に声を掛けてきた幸薄そうな眼鏡っこのビックリした様子が可愛かった。「ひゃっ」だってよ。
******
それから紆余曲折あり、俺は眼鏡っこ……マシュ・キリエライトと、後からやってきたモスグリーンの胡散臭いおっさん……レフ教授とやらに、この施設、『カルデア』について、少しばかり教えてもらった。
人理だの保障だの、平凡な高校を卒業したばっかりな俺には難しい話だったが、魔術の存在自体は、あのクソッタレのネクロノミコンの事があったから特に驚きはしなかった。
それにレイシフトだとかいうのも、つまりは自分でタイムスリップできるって事だろ? とあっけらかんに言ってみたところ、何やら二人して俺を変な目で見てきた。誰が好き好んでタイムスリップするのか分からんが、そのフリークか何かを見るような目は止めろ。
そして代わりに、俺は意識を失う直前までの出来事を、彼らに話した。
銀髪の女に気絶させられた、という話をした瞬間、レフは、あちゃー、と言わんばかりの反応を取る。
「オルガ……何の説明も無しに拉致したのか……」
なるほど、あの女の独断専行って訳らしい。畜生め、何様のつもりだ。……何? オルガマリー・アニムスフィア『所長』? 実はアニムスフィア家とかいう魔術師の貴族の当主? なるほど、偉そっぷりが板についてるわけだ。
だが、レフ達の話を聞いているうちに頭が冷えてきた俺は、その中で気になった事を、恐る恐る問いかけた。
「な、なぁおい、レフのとっつぁんよ。ここってよぉ……
「と、とっつぁん……お、ホン。そういえば、君はこのフィニス・カルデアには拉致……もとい、連れてこられたんだったね」
はっきり言っちまえ、拉致だって。
「ここは所謂魔術工房のようなものだが……ただの工房ではない。各国共同で設立された特務機関であり、同時に国連が主催する組織でもある」
「……つまり?」
「幸いな事に、予算が潤沢でね。機密性やら諸々の理由で、標高6000メートルの雪山の地下に作る事ができたのさ」
……Oh, my……。
どうも、奴さんらは俺を生かして返すつもりはないらしい。
視界の端に、吹雪く外の様子がちらちらと映っているのが見えた、気がした。
******
「……あの
「お気持ちはわかりますが、所長にも立場というものがありますし……」
「それで「ハイ、そーですか」って納得できるかよ、えぇ?」
「え、えぇと……どうなんでしょうか、フォウさん」
「フォッ!?」
あの後、各国から集められたという48人のマスター候補だかなんだかの説明会に参加する為に、マシュと(ついでにレフも)一緒に管制室ってところに向かった。
本来ならマシュは説明会には参加しない予定だったらしいが、俺が途中で眠らないか心配らしく、案内も兼ねて同席したわけだ。泣けるね、全く。
ちなみにレフは、マシュを一人にするとオルガマリーの奴から雷を落とされるらしい。というわけで、仲良く三人で出席した――ところまではよかった。
悲しいかな、あの時眠らされた後遺症が残っていたのか、俺はマシュ曰くレム睡眠状態に陥り、直後にオルガマリーからの熱烈なキス……ではなくビンタをお見舞いされ、管制室から追い出されちまった。
そして今、俺は再びマシュに案内され、カルデアの職員にあてがわれたマイルームに向かっている。道中、ここに来て最初に俺の頬を舐めたチビ助……フォウとかいう見た事も無い小動物をお供にしながら。
レフのとっつぁんによれば、俺の荷物は恐らくそこに置かれているはずだと。……持ち物と言えば、密かに隠し持ってたショットガンやらチェーンソーはどうなったんだろうか。あのクソ本には期待してない。寧ろ無くて助かる。
「先輩はファーストミッションから外されてしまったわけですが……代わりにフォウさんと戯れる時間を得られた、というわけですね。正直なところ、羨ましいです」
「そりゃどうも。……ところで、ずっと訊こうと思ってたんだが」
「? なんでしょうか、先輩?」
……純粋無垢とは彼女の事を言うのだろうか。僅かな時間しか共に行動していないが、それでも分かる。こいつは酷く真面目で、それでいて無垢だってのが。
そりゃ分かるさ。少なくとも、あの山荘にも、そして過去のイギリスにも、こんな奴はいなかった。
今も、やや首を傾けて、何の濁りもない無垢な瞳でこっちを見つめてきやがる。まるで童話に出てくる純粋な小動物だ。
「なんだって俺の事を先輩なんて呼ぶんだ?」
「……私にとっては、ここにいる皆さん全員が先輩です。ですが……」
……?
「此処にいる人々の中で貴方が一番、その……
その言葉に、俺は思わず、言葉に詰まってしまう。
――人間らしい、か。
「右腕が無くても、か?」
「い、いえ! その、私は……」
「……うんにゃ、構わんさ」
頭の隅でちらつく真っ赤な記憶から逃げるように、俺はにっかりと作り笑いをした。多分、滅茶苦茶ぎこちない笑顔だろうよ。
******
この後ファーストミッションがあるらしいマシュと別れた俺は、フォウを頭に乗せ、マイルームへと入っていった。マシュ曰く、このみょうちきりんな小動物は人にあまり懐かないらしいが、俺はマシュに次いで気に入られたらしい。
「だ、誰だキミは!? というか右腕! 右腕が! すぐに医療室へ!」
「そっちこそ誰だテメェ。人様の部屋に不法侵入かましやがって」
「あいででで!? い、意外と力持ちィ!?」
で、部屋に入った俺を待っていたのは、優男という言葉が一番似合いそうなおっさん……にいちゃん? だった。
とりあえず締め上げて白状させてみたところ、ここはこの男……ロマニ・アーキマン、人呼んでDr.ロマンのサボり場なんだと。
「そっかぁ、キミが最後の48人目……あいてて、まだ痛む。キミ、ホントに一般人枠なのかい?」
「……そこはノーコメントだ、ドクター」
この男、レフとまではいかないが、どうもきな臭い感じがする。しかし、話せばわかる人間らしく、俺達は間もなく意気投合した。
「マギ☆マリ? ありゃ絶対ネカマだろ」
「そっ、そんな事ないさ! なんてったってアイドルなんだから!」
「……なんつーか、どことなく昔会った奴を感じるんだよなぁ。殴りたくなるところとか」
「ちょっ」
……意気投合した。
それからすぐにレフがロマンを呼び出し、ロマンは管制室に行く事となった。が、どうもあちらさんは、ロマンがサボってるとは知らないらしい。
気の抜けた笑いを浮かべ、「じゃあ行かなきゃ」と手を振るロマンを見送――
「なんだ? 明かりが消えるなんて、何か――」
――ろうとした矢先にこれだ。
直後、遠くから何かが爆発する音がし、アナウンスがエマージェンシーを発する。
すぐにロマンが、えらく未来的な通信装置で管制室を見てみれば――そこには地獄が広がっていた。
「……立香、すぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く」
「おい待てよ。あの地獄に一人で突っ込もうってか?」
「……そうだね。そういう事になる。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前にキミだけでも外に出るんだ!」
真っ先に外に駆け出して行ったドクターの後ろ姿を見て、俺は思わず舌打ちをしてしまう。
そしてすぐさま、無造作にベッドの上に放り投げられていた二つのスーツケースの中身をひっくり返し、確認する。
……なんてこった。連中はバカか? それとも、魔術師って奴らはまだ中世時代にでも生きてんのか?
いずれにせよ、こいつは僥倖だ。
俺は
――よぅし、いけるぞ。
一番物騒な愛用の得物をシーツで包むと、すぐさまロマンの後を追う。何やら頭の上でフォウが何やら言っているが、俺は動物の言葉何ぞわからん。
「ッ!? いや、なにしてるんだキミ!? 方向が逆だ、第二ゲートは向こうだよ!? てか、その格好は一体――」
「うだうだ言ってる場合じゃねぇだろ、ドクター。一人でなんでもできるスーパーマンにゃあ見えねぇぜ? それに、この手の経験なら俺の方が確実に上さ」
「経験って?! そ、そりゃあ人手があった方が助かるけど……」
ロマンはどうしても、俺を巻き込ませたくないらしい。だから、走りながら言ってやった。
「生憎と、俺はそこまでお人よしってわけじゃねぇ。ぶっちゃけると、ここにいた連中を助けてやる義理も、何もねぇんだ」
「な、なら尚更――」
「だがな」
――此処にいる人々の中で貴方が一番、その……
あの時のマシュの言葉が、蘇る。はは、こいつぁ珍しいや。いつもなら、クソロクでもねぇ思い出しか頭に浮かばねぇってのに。
「カワイコちゃんに親切にしてもらったんだ。それを仇で返すようじゃ、男がすたらぁ」
「……ああもう、わかった! でも、隔壁が閉鎖する前に戻るんだぞ!」
この後、俺は管制室に向かい――そして、マシュを見つけた。
――彼女は、バカでかい瓦礫に潰されていた。
「死ぬんじゃねぇ……死ぬんじゃねぇぞ……」
「……隔壁、閉まっちゃい、ました。もう、外に、は」
「ああ、そうだな。だから、最後まで一緒にいてやる」
炎の熱気と共に漂う、肉の焦げる臭い。その中で、美少女と二人。全く、こんな地獄でさえなけりゃ、いいムードになれたと思うんだがな。
カルデアスの状態がどうだの、隔壁が閉鎖されただのとアナウンスがペチャクチャと喋っている中で、俺は彼女の手を握っていた……生身の左手で。
「――あぁ」
マシュが、微かな声で何かを呟く。
「あたた、かい――」
――……王の友よ――
ふと、誰かの声が聞こえた。まさか。マシュ以外に誰か生きている様子も無かったってのに。
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。レイシフト開始まで あと3 2 1』
――どうか、この娘を……頼……む……――
『全工程
どこの誰かも分からない声にそんな事を頼まれ、俺の意識は暗闇の中に落ちていった。
そこで思い出したのは、あの山荘での最後の戦いで、時空の狭間に吸い込まれた時の事だった。
「FGO二次創作書いてる人達は大体書いてるだろうし、わざわざ自分が書かずともいいだろう」という判断から、プロローグの説明やら台詞やら、一部端折ってお送りしました。
所長ファンの方、申し訳ありません。
あと、今作のぐだお君は、日本人らしい謙虚さをそれなりに備えたアッシュをイメージしています。
そうでもないと、あの強すぎるキャラに定評のあるアッシュそのままでは、属性:中立・善は難しいと判断したからです(建前)
というか、あのキャラを完全再現とか無理です(本音)
なので、サムライミ監督のアッシュ像(言伝で聞いた程度ですが、「卑怯で情けなくて臆病な男」との事)を想像してた方も申し訳ありません。
本作ではブルースキャンベル分マシマシでお送りしたいです(願望)