もし死に戻りの記憶がみんなに戻ったら re   作:なつお

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第12話『人形』

 

「嘘……だろ? レム? レム!!」

 

 スバルの呼びかけにしかし、レムは応じる気配がない。どころか、だんだんと冷たくなっていく体温を手に感じる事で、最悪のケースが脳裏に浮かぶ。

 確かに目の前に少女は居るのに、触れることは出来るのに、それはまるで抜け殻のようだった。レムの形をした、人形だった。

 

 

 

 ベアトリスと再会を果たしたスバルは、直ぐにユリウス達に声をかけた。

 レムの救出ーーそれは彼女が持つ、意志の強さを見くびっていた訳ではない。実際かなりの時間、スバル達はレムを信じて待っていた。自ら過去を乗り越えようと試練に赴いた彼女が、その試練に屈する筈がないと。

 しかし時間の経過につれ、最早墓所の中はシュレディンガーの猫実験同様、予測、検証の出来ないものと化していた。この場合、アルファ崩壊の役割を果たすのは1人の魔女ーーエキドナである。

 

 レム自体に心配がない以上、なんらかのトラブルの発生原因、不穏分子は彼女のみ。元々常人では測りきれない彼女だからこそ、何をしでかすか分からない。

 箱を、レムの安否を確かめる事すら恐怖だが、その恐怖は時間に比例し、どんどん無視出来ないものにまで膨れ上がっていった。

 

 

 突然ベアトリスとともに登場したスバルに驚くガーフィールとユリウス。

 事情を尋ねられるよりも早く、スバルはガーフィールにレムを見に行くよう伝えた。

 そうしてレムを連れ出したまでは良かったが、彼女はまるで人形の様に、眠りについていたのだった。

 

「身体に異常は見つからないのよ。この娘、完全に心が壊れてしまっているかしら……」

 

「ふむ。心が目覚めるのを拒んでいる状態といったところなのかな。ーーとなると話は簡単じゃないね」

 

「オレ様が見つけた時ッからずっと眠っていやがったぜ。ッもっとも、そん時から外傷はほぼ完治してやがったが」

 

 ベアトリスの見解にユリウスは眉をひそめ、ガーフィールは少しでも情報を提供しようとあたふたする。

 

 ーーそんな中、人形(レム)を抱く少年は、低い声音で少女に問うた。

 

「このまま目覚めなかったら、レムはどうなる?」

 

「…………」

 

 溢れる涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらすがる少年に、少女はただ顔を背け沈黙した。

 

「教えてくれ、ベア子!!」

 

 少年は強く、何度も問いかけた。その間も着実に失われていく大切な彼女の体温から、本当は理解しているのに、理解していないフリをして……。酷な事を少女に強いている可能性は、排除して……。

 

「……おじぇでぐれよぉ……」

 

 今まで。

 ベアトリスは惨めに泣きじゃくる(スバル)の姿を、見たことが無かったーー否、“覚えていなかった”のだ。しかし、今は違う。

 彼女には目の前にいるスバルの表情が、大好きだと言いながら崖から飛び降りた、“あの時”と重なって見えたのだった。あの時は笑っていて、今は泣いていて、そんな真反対な表情だというのに……。ベアトリスは震えた。

 

 まるで糾弾されているかの様な感覚。沈黙するのが罪なのか、はたまた本当の事を告げるのが罪なのか。

 少女は暗闇に襲われた。そこにはまたあの本に囲まれた空間に、ただ1人取り残される自分だけが、ぽつんと座っている。何度読んだか分からない、白紙の福音を、その小さな胸に抱いたまま……

 

 少女(ベアトリス)は怯えた。他の誰でもない、(スバル)に。

 

「……それを、言っ……言ったら、スバ、ルは……また……また死に戻りをするんじゃないかしら……ッ」

 

「…………あ」

 

 気付くと彼女は泣いていた。とても悲しそうに、スバルのために、自分に襲いかかる哀しみに、涙を流していた。それを見た瞬間、逆にスバルの涙は流れるのをピタリとやめた。

 

「くうっ、ううっ。……もう、もう死んで欲しくないかしら……スバルが崖から飛び降りたあの時を思い出すだけで、心臓がギュッて押し潰されそうになる……の、よ……」

 

「…………ベア子……」

 

「1人に……もう1人にしないで欲しいかしら……ッ!」

 

 そのベアトリスの告白に、思わず自分をぶん殴ってやりたい気持ちになったスバル。

 

 ーーまた、泣かせちまったのか。俺は

 

 握っていた拳を解いて、ベアトリスの頭を優しく撫でてやる。いつもならムスッとする彼女も、この時だけはされるがままであった。

 

「ごめんなベア子、心配させちまって。けど、やっぱ俺はもしレムが死ぬ様なことがあれば、“そうする”かもしれない。いや、“そうする”と思う」

 

「「「スバル(大将)……」」」

 

 告げられたスバルの言葉に、ベアトリス、ユリウス、ガーフィールの3人は表情を曇らせる。

 

「でも、俺だってもちろん死ぬのは怖え。何回死んだって、アレには慣れるもんじゃねぇからな。……死に戻りはあくまで最終手段だ」

 

 つとめて明るい表情を見せたスバルに、3人は渋々重い首を縦に振った。

 

「ッでもよぉ、一体どうしたらいいんだよ」

 

「とりあえずは、私がこれ以上彼女の身体から体温が奪われないよう、魔法でなんとかしてみるよ」

 

「ベティーも手伝ってやるかしら! ーーってスバル?」

 

 何も言わずに突然立ち上がったスバルに一同が疑問を抱く。その視線に気づいた彼は両の手をヒラヒラと動かし、

 

「あー、俺ってば、こんなことしでかした奴に心当たりがあるんだわ。ちょっくらそいつに文句言ってくる」

 

 と、試練の間へと駆け出したのだった。

 

 再び、拳を握りしめて。

 

 

 

*************************

 

 

 

 スバル達と別れたオットーはアーラム村に辿り着いていた。それはとある少女の行方に心当たりがあったからだ。と言うのも行くあてなど、屋敷か村ぐらいしか心当たりはないのだが。

 少女とは勿論、ロズワール邸メイド見習いの女の子ーーペトラ・レイテであった。

 まだ年端もいかぬ彼女が、スバルの死に戻りの記憶を取り戻し、一体何を考え、何を思うのか。

 彼女も少なからず、スバルに惹かれている女性の一人であると、オットーは確信している。なんとも可愛らしい話だが、こと今回の件に関していえば、反面残酷な話でもある。

 

 もし彼女が村に居なかったら、かなりきびしいことになる。総隊員数一名の捜索隊を任されたオットーは、少しでもスバルの負担を軽減させようと気合を入れていた。

 

「ペトラ、さん?」

 

 村の中を子供達が走り回っているのを目に止める。ヘソを出した男の子を先頭に、元気に遊んでいるのだろう。しかし、そこにペトラの姿は確認出来なかった。

 と、子供達がこちらに気づいたのか、突然指を指して猛ダッシュ。

 

 ーー全力疾走して僕を出迎えてくれるなんて!

 

 

「「「「「スバルは!?」」」」」

 

 

 ーーですよねー。

 

 開口一番で淡い期待を打ち砕かれたオットーは事情をかなり省略、掻い摘んで子供達に説明した。

 驚いたのはその間、子供達が一言も発さず、真剣に耳を傾けていたことだ。先程まで無邪気に騒いで遊んでいたようには見えない。

 

「つまり、ナツキさんはここに来るまでもう少し時間がかかります。その間に僕は、ペトラさんの捜索を任されているんです」

 

 説明を終えた直後、その集団の中で、唯一の女の子であるメイーナが口を開く。

 

「ペトラならそこの家にいるよ!」

「ずっと、出てこないんだ」

「声をかけても出てこないから、俺達が楽しく遊んでたら、出てこないかなって」

 

 次いでミルド、リュカが口を開き、指された家を目に止める。ーーその家は、先程まで子供達が遊んでいた場所の目の前だった。

 それを見て、オットーは気付いた。

 

 ーー楽しそうに遊んでいる“フリ“をして、ペトラさんを呼び出す作戦だったんですね……

 

 なんと微笑ましい光景だろうか。子供ながらにして、他者を気遣う優しさを持っている。

 みんなも、そして僕も、1人なんかじゃない。互いに互いを支え合って生きている。どうかペトラさん、()()()()()()()()、1人で背負い込まないで下さい。

 

「ーーーーん?」

 

 くいっと後ろから両袖を引かれる。確か、ダインさんとカインさんだっただろうか。

 不安を顔に貼り付けてこちらを見上げる2人の肩に、オットーは優しく手を置いた。

 

 ーーナツキさんならきっとこう言うはずです。

 

「大丈夫です。ペトラさんはきっと元気になりますよ! 僕に任せて下さい!」

 

 それを聞いた子供達の表情は、幾分か元気を取り戻したように見えた。自分がスバルの替わりに成れるなんて、オットーは思わない。だけど……今まで商売事に首を突っ込んで、踏んだり蹴ったりな人生だったけど、まともに信頼できる誰かなんて、今まで居なかったけど。

 

 ーーナツキさんの負担を減らすために、僕にできることをしなくちゃ

 

 オットーはドアノブに手をかけた。

 

 大切な、友達のために。

 

 

 

*************************

 

 

 

 試練の間を目指し、墓所を走る1人の少年ーーナツキスバル。眉をひそめ、ただでさえ凶相な三白眼を光らせる。

 

 ーーあいつ(エキドナ)は必ず、耳を貸すはずだ。

 

 それは何故か。エキドナ……彼女について一つだけ確実に分かることがあるとすれば、それは彼女が知識の探求者ーー否、狂人であるということだ。その絶対的なまでの欲求が、彼女の生きる糧であるという確信さえあった。

 

 そう。だからこそ、

 

 ーー俺が今、抱いてる感情が気になるだろう?

 

 こんな気持ちを向けるのはペテルギウスだけだと思っていた。自分でも驚いている。身体の芯、奥底から沸騰しているこの感情は、スバルの制御から完全に解き放たれていた。

 

「お前はレムを弄んだんだ! 何をしたかはわからない。だけど、きっとお前は知を求める為に犠牲にしたんだ。モルモットの様に、レムを使って。……それしか、考えられないっ!!」

 

 先程金髪の少女の頭を優しく撫でたその右手は、赤黒く変色していた。

 

「エキドナぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 

 

 

 ーー彼女は招いた。

 

 

 

 欲求に応え、欲求を貪るために。

 

 

 




 
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シュレディンガーの猫実験に関して、

まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れておく。もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死ぬ。しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残る。一定時間経過後、果たして猫は生きているか死んでいるか。

この系において、猫の生死はアルファ粒子が出たかどうかのみにより決定すると仮定する。そして、アルファ粒子は原子核のアルファ崩壊にともなって放出される。このとき、例えば箱に入れたラジウムが1時間以内にアルファ崩壊してアルファ粒子が放出される確率は50 %だとする。この箱の蓋を閉めてから1時間後に蓋を開けて観測したとき、猫が生きている確率は50 %、死んでいる確率も50 %である。したがって、この猫は、生きている状態と死んでいる状態が1:1で重なりあっていると解釈しなければならない。

ウィキペディア引用https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%8C%AB

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