1.それから……
新城と別れて〈
ナザリックが飛ばされた場所は戦闘地域と言えた。そして〈帝国〉と〈皇国〉の戦闘に直接介入してしまった。
(ああ、調子に乗ってやってしまった。ちょっとした実験の積もりだったのに……。割りとマジでどうしよう?)
精神系効果が効果を発揮しないアンデッドだからか、感情はすぐに鎮静化された。
(───ナザリックを移動させる事も出来ない。新城さんの話からしても異形種の存在が認められるのは、この国ぐらいか)
雑談を交わす事は人間関係を円滑に動かす潤滑油と言える。僅かな間ではあったが、言葉を交わし、新城の人柄を知る事が出来た。その結果、
一方で対外拡張政策を取っている〈帝国〉は戦争を躊躇しない。氷結牢獄で捕虜の尋問を行った結果からも、組むべき相手は〈皇国〉側と決めた。
階層守護者統括であるアルベドに〈
『モモンガ様、いかがされましたか?』
「ん、あぁ……先程、撃破した〈帝国〉軍は一部に過ぎない。後続の動きを確認してくれ」
ナザリック大墳墓の偽装、隠蔽は他の階層守護者に任せている。
『畏まりました。それでは
「うむ。頼んだぞ、アルベド」
『くふーっ! お任せ下さい。必ずやモモンガ様の御期待に応えて見せます』
北領鎮台司令部、改め北領軍司令部は戦場の空気が変わった事を感じ取っていた。〈帝国〉軍の動きが明らかに鈍っている。
これを好機と見て、主力を投入し逆襲に転じるべきか、それとも〈帝国〉軍による罠と警戒すべきか。
「独立剣虎兵第一一大隊の側翼を攻撃した〈帝国〉軍第3東方辺境領胸甲騎兵聯隊は、アインズ・ウール・ゴウンなる民兵組織の襲撃を受け壊滅しました」
「ほう!」
敵の足並みが鈍った理由が分かった。
「
副官であり愛人である両性具有者から報告を受けた北領鎮台司令長官、守原英康の機嫌は一気に好転した。
憂慮されていた敵の対攻は現実となり、一部を
「それで、そのアインズ……「アインズ・ウール・ゴウンです。閣下」うん、それはどうした?」
「斥候を指揮していた指揮官によると、代表であるモモンガなる人物によって、矢守りの障壁なる射撃攻撃を弱める魔法をかけて貰ったそうです」
「それは凄い!」
英康は〈皇国〉に味方してくれたモモンガを、心根優しい人物だと判断した。そして、感状を送る様に個人副官に命じた。
2.天狼会戦のオチ
いかに〈
その為、第21東方辺境領猟兵師団を率いるユーリィ・ティラノヴィッチ・ド・アンヴァラール・シュヴェーリン少将の兵は、実質一個旅団しか無かった。
「敵の猛獣使いによる逆襲で右翼、第18猟兵聯隊が敵に押されております」
「糞、カミンスキィの馬鹿が自滅するだけならまだしも、足を引っ張られたな……」
シュヴェーリンは隣に居た参謀長のハンス・アルター中佐に話しかけた。
「このままでは後方を遮断されるでしょう。後退を進言します」
しかしその進言は遅きに失した。
"メェェェェェエエエエエエエ!!"
師団司令部の指揮所を置いた天幕の外から羊の鳴き声が聞こえた。
顔を見合わせたシュヴェーリンとアルターは天幕の外に出た。第一線では激しかった銃声が止んでいる。そして精強たる
だがそれよりも驚愕する後継が広がっている。
"メェェェェェエエエエエエエ!!"
黒い球体に口と触手、足の付いた異形の怪物が一体現れていた。
モモンガによる超位攻撃魔法の一つである〈
「何だ、あれは! ハンス、吹き飛ばしてやれ」
シュヴェーリンは師団砲兵の射撃陣地を前進させて、水平工事の時間も惜しんで平射砲による直接照準の集中射を浴びせた。
しかし黒い仔山羊は攻撃を物ともせず、五本の足でどんどん〈帝国〉軍陣地に接近して来る。
黒い仔山羊の巨体が砲身を踏むと、簡単に折れ砕けた。その足が踏み降ろされる度に絶叫が上がる。
「ぎゃあああああああ」
「神よ!」
砲兵の射撃中隊は猟兵の中隊に比べて人数こそ少ないが、それでも鈍器の様な触手や重みのある足で攻撃を受けて数十人が死んで行く。
グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ──黒い仔山羊は〈帝国〉軍陣地を蹂躙し、以下繰り返しであった。
その様子を〈皇国〉軍陣地で眺めるモモンガは、フレンドリィファイヤーを気にしていたが問題なく使えており機嫌良く笑い声をあげていた。
「──あはははは!」
背後で供回りとして控えるアルベドは、恋する乙女の表情でモモンガを見つめている。
「く──ふふ」
今日は、最後までナザリックに残った己の主人が表舞台に立つ晴れの日であり、各階層守護者は
ナザリックに所属する者にとって、主人の喜びこそ我が喜びだった。
ナザリックと繋がる〈
──全てをナザリックに持ち帰り調べる。それが至高の主からの命令であった。
〈帝国〉軍の侵攻計画を完全に頓挫させたのだから、〈皇国〉軍の立て直しは進む。その間にナザリックのシモベ達は主の求める物を満たそうとしていた。
その中には戦場に遺棄された死体や装備、機材もある。未知の世界で敵に備える為だった。
「お肉ぅ」
姉のユリ・アルファがその場に居たら叱られていただろうが、彼女にとって、それらは肉の山でしかなかったからだ。
同僚のそんな様子にゴキブリ──第二階層領域守護者である恐怖公は、周辺警戒を眷属に任せ話しかける。
「エントマ嬢、ここは目処が着きましたな。我輩に任せて頂き、デミウルゴス様の支援に向かわれてはいかがですか?」
恐怖公から見ても、エントマは餌を前にお預けを食らってる様な物で、それなら他の仕事で意識を逸らしてる方が良いと言う考えもあった。
「そうですかぁ。じゃぁ、行ってきますねぇ」
この世界に来て、至高の存在に想像された者達は考える事を学んだ。そして、命じられた以上の成果で主の期待に応えるべきだとシモベ達は認識していた。
恐怖公の言葉にエントマは頷くと、蟲を背中に張り付けて飛び立った。
東方蛮域と呼ばれる辺境に暮らす異形種、
「まさか〈帝国〉軍が敗れるとは思わなかった……」
「そうですね。でも先ずは後退しましょう」
「おや、変わった獲物がかかりましたね。『動くな』」
突然、丸メガネをかけた男が現れてそう言った。ナザリック地下大墳墓の第七階層守護者である悪魔デミウルゴスだ。
驚くネイア達の周囲をデミウルゴス配下のシモベが固めた。
「え……」
見えざる重圧、精神攻撃による強制効果でネイアも背負われているビービーゼーも身動きが出来ない。
デミウルゴスはネイアに背負われたビービーゼーを観察すると頷いた。
「ふむ、異形種とは珍しい。モモンガ様に進呈して喜んで頂きましょう」
楽しげな笑みを浮かべデミウルゴスは、至高の存在に楽しんでもらうべく、他に捕らえた捕虜と共にナザリックに送る事とした。