Fate/origin   作:amber world

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2 アインツベルンと商人

「……もうじき現れるか」

 

深い森の中にある古城ーーアインツベルン城では、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンが窓の外の森を見つめながらそう言った。近くには、ホムンクルスが護衛として扉の近くに2人立っていた。そして、ユーブスタクハイトの前には1人の女性が下を向いて立っていた。

 

「……リリアスフィールよ、聖杯は後どのくらいで聖杯は満ちるのだ。」

 

そう言うと立っていた女性ーーリリアスフィールと呼ばれた彼女は、頭を上げユーブスタクハイトにそっと告げる。

 

「……恐らくは来年の夏か、秋には魔力が満ち、開始されるはずです、お父様。」

 

「来年の夏か秋か。………今回からは前回のこともあり、令呪が新たに組み込まれる。令呪(これ)の使い時を見極めたものが恐らく手に入れることが出来るのだろう。そして、アインツベルンの令呪は儂に宿る。リリアスフィール……そなたの役割を果たす時でもある。」

 

「……私の役割はわかっていますわ、お父様。ですが、その前にすることが……」

 

「言わずでも、わかっておる。サーヴァントのことだろう。そこの者、例のものをこちらに持ってくるのだ。」

 

そう言って、ユーブスタクハイトは振り返りざまに扉の近くに立っていたホムンクルスに何かを取ってくるように指示をした。ホムンクルスは頷き、扉の奥に消えて行き、数分後には2人がかりで大きな木のボックスを持ってきた。60センチ四方のそこそこの木製の箱だが、横は細くて皿のようなものが入っているような入れ物だった。1人でも抱えることが出来るとは思うが、中のものは相当重いのであろうか、それを運んできたホムンクルスは、表情は変えてなかったが、あちこちからは汗が滲んでいた。やがて、運ぶのを手伝ったホムンクルスと、門番をしていた2人が扉の後ろに下がり、ユーブスタクハイトと、リリアスフィールの二人きりになる。

 

「お父様、これが……」

 

「そうだ。今回の聖杯戦争のために用意した聖遺物だ。」

 

そう言って、ユーブスタクハイトは、上の板をそっと外し、中の傷つけないために入れられている木屑の様なものを掻き分けながら、中の物を取り出した。

そこにあったのは一つの盾だった。蛇の髪を持った女の顔の描かれた盾。しかし、その盾からはどんな者を倒せる異様な雰囲気を持っていた。そんな、盾をユーブスタクハイトは、気に入ったようで、それを彼女に見せながら説明した。

 

「これは西洋の方から取り寄せた。曰く、数多の戦場において、不死と、勇猛さを語った英雄の盾、だそうだ。」

 

「どうやってこんなものを取り寄せたのですか?」

 

リリアスフィールは不思議そうな顔でユーブスタクハイトに訊ねる。ユーブスタクハイトは、近くにあった椅子に座り、どこから出したのか、ワインをグラスに注ぎ、グラスを回してから、口に流し入れ、飲んでから答えた。

 

「取り寄せたのではないよ。これは、ある人物から頂いた品でな。とある物の礼として貰ったのだ。」

 

「とある、物ですか?」

 

「……サーヴァントの召喚方法だ。」

 

それを聞いてリリアスフィールは驚く。サーヴァントの召喚方法の礼として貰った言うが、その人物はこんな、聖遺物を簡単に手放したのだろうか?この盾ならば、神霊クラスまではいかなくても、名のある英霊を呼び出すことができると思えた。

 

「……その人物は、この物の価値を知っていたのですか?」

 

リリアスフィールは試しに聞いてみる。

 

「それはな……」

 

そう言って、ユーブスタクハイトが口を開いて話そうとした時だった。突然、扉が開きホムンクルスが入ってくるのかと思うと、全然知らない人物が入って来た。咄嗟にリリアスフィールと、近くにいたホムンクルスの門番が咄嗟に駆けつけ、武器を構える。一方、ユーブスタクハイトは座ったまま、この状況を静観していた。すると、入って来た人物が口を開けた。

 

「……もちろん、その箱の中に入っていたその盾の価値は知ってますとも。なんせ、私の父のコレクションの中でかなり上の方に入る一品ですから。」

 

「あなたは一体何者ですか!」

 

そう言うと、その男は、一瞬呆けた顔をしてから頭を掻き、その後姿勢を直し、一礼した。

 

「申し遅れました、私はシュトレーネ・D・ジェイフォールと申す者です。そちらにある、神造兵装の盾を贈ったのは私の父でして。なぜ、私がいるのかはこちらを見ればおわかりになって頂けるかと思いますよ、お嬢さん。」

 

そう言って、彼は長袖の袖をめくり、右手を(あらわ)にする。顕れた右手には、垢の刻印が刻まれていた。見間違えるものではない。

 

「……令呪。もしかして…」

 

「リリアスフィールの思っている通りだ。彼は令呪を宿した後に私に連絡してきてな。私に召喚方法を師事するためにわざわざ、西洋の遠い地から、極東の冬木にまで出向いてくれたのだよ。」

 

そう言って、ユーブスタクハイトは立ち上がり、シュトレーネの前に立ち手を出す。シュトレーネの方も手を出し互いに握手を交わす。

 

「お久しぶりです。シェミットさん。父の方もよろしくと伝えてくれと言われて参りました。しばらくの間、お世話になります。しかし、日本というのはなんというか良い場所ですね。」

 

そう言って、彼は一礼する。シェミットーーユーブスタクハイトの方も和んだ顔で彼に言う。

 

「こちらこそ、久しぶりだね。シュトレーネ君。日本にようこそ。君も随分と、五年前と比べて大きくなった。父上殿は息災かな?」

 

「息災どころか、元気がありすぎるくらいです。今は家督は私が継いで、父は商いの方に精を出してます。そちらの女性の方は?」

 

そう言って、シュトレーネは、リリアスフィールの方を見る。リリアスフィールは少し睨みながらも、一応挨拶をする。

 

「リリアスフィール・フォン・アインツベルンです。よろしくお願いしますね、ジェイフォールさん。」

 

そう言うと、ユーブスタクハイトがシュトレーネに説明する。

 

「私の娘だよ、シュトレーネ君。こんな感じで、今は少し拗ねているが本来はそんなことない、優しい娘だから、仲良くしてくれ。ちなみに歳は、君と同じで20(はたち)だ。」

 

そう言って、ユーブスタクハイトは、また椅子に座り、目つきを変える。

 

「ところで、シュトレーネ君。さっき、この部屋に入って来たのはどうやったのかな?本来、ここには入ることも出来ないはずなのだが。」

 

ユーブスタクハイトはシュトレーネを見つめる。アインツベルンの森はアインツベルン独特の結界が張られており、更には迷いの森としての役割を果たしている。そんな、森の中を単独で突破し、あまつさえこの部屋まで辿りつけるとはリリアスフィールは思ってもなかった。そんな森を突破した方法に関しては彼女は少し気になっていた。二人から見つめられたシュトレーネは頭をまた掻きながら口を開けて話す。

 

「……実は、その、『気』を追ってきたんです。」

 

「……『気』?気配とかの気の事かな?」

 

「そうです。実は、私の生まれたジェイフォール家は元々、東洋がルーツの一族でして……」

 

そう言って、シュトレーネは説明をする。元々ジェイフォールは中国の東の辺りに拠点を置く、商人の家だった。当然商人と言うので、古今東西の品物を扱っている。しかし、それはあくまでも表の顔であり、裏の顔があった。その顔は、その時代の権力者の元で動く影の集団の一族だった。そのため、暗殺術や、様々な術を商人として、東西に赴く際にこっそりと会得していった。その中には魔術の系統に属する錬丹術などもあり、商売で東西に散った一族の者は戻ってくると、会得した術を書物にまとめていった。そんなふうに多岐の分野を会得していたジェイフォール家は、いつしか、時の権力者から畏れられ、清の皇帝は彼らを殺すことにした。それほどに、彼らは桁外れな程に術を会得しすぎていた。

彼らから追われる身といつしかなり、一族は西方に拠点を置くことにした。彼らは故郷と同じように表では商いをやって、繁栄を築いたらしい。しかし裏では魔術協会と関わりを持ち、魔術協会の雑務をこなすことをしていた。

 

「なるほど、君の一族のことはわかった。その中術に私たちの部屋まで来ることのできた技があるのか。そしてそれが『気』であると?」

 

そう言って、ユーブスタクハイトはシュトレーネに本題に入るように促すと、彼は近くの椅子に腰を落として、話し始めた。リリアスフィールと、ユーブスタクハイトは黙って聞いた。

 

「そうです。あまり詳しく教えることは出来ませんが大まかには説明出来るのでそれで許してください。先程も説明した通り、私の一族は多岐の分野を習得を強制されます。その中には、対象人物の追跡、索敵などの技術があり、今回はそれを使ったんです。まず、この森の抜け方ですがそれにはこれを使わせてもらいました。」

 

そう言って、シュトレーネは下を指さす。リリアスフィールは下を見るが床があるだけで何も無かった。

 

「……下?何も無いけど。何を使ったんですか?」

 

「リリアスフィール嬢は、地脈という言葉を聞いたことはありませんか?」

 

「いいえ。私はこの城から出たことが一度もないので。それと、リリアスフィールで結構です。」

 

「それは失礼しました。では、リリアスフィールさん、霊脈はどうでしょうか。」

 

「それなら聞いたことがあります。」

 

そう言うと、ユーブスタクハイトはニヤニヤしながらリリアスフィールを見る。彼はどうやら、カラクリに気づいたようだ。シュトレーネはリリアスフィールのために説明を続けた。

 

「霊脈とは、地脈とも呼ばれ、大地を流れるエネルギーの流れの事を指します。これは万物にエネルギーをあたえ、必要なエネルギーを供給してる訳ですが、私の一族では、この流れを読むという技があります。そして、このアインツベルンの森の下にも地脈が流れており……」

 

「つまり、その霊脈の噴出地を探って森を突破したということですか?」

 

リリアスフィールは、会話に途中に割って言った。シュトレーネは目を丸くしてから、拍手を送り続きを言った。

 

「その通りです。霊脈はエネルギーを供給する。つまり、あなた方が魔術工房を作るのはその霊脈の恩恵を最大限に受け取れる霊脈の噴出地ということです。これで第一段階の城までの到達方法です。そして、この部屋を探り当てることですが、そこからは霊脈の気を探るのではなく、シェミットさんの、気配を探り、ここに辿り着いたわけです。シェミットさんの気配は以前、父の店に来た時に把握したので。」

 

「なるほど。気配を感じる技ですか。一応は納得しました。ですがここまでどうやって入ってこれたんですか?見張りのホムンクルス達がいっぱいいたはずなのですが。」

 

アインツベルンの拠点であるこの城にはホムンクルス達がありとあらゆる所に配置されていた。

 

「それは、大変失礼いたしました。簡単な魔術を使って来たんです。」

 

「それは一体どんな魔術を?お父様ですら見抜けなかったのに。」

 

「いえいえ、シェミットさんは、最初から気づいていらっしゃいましたよ。それなのに、あえてわからないフリをしていたのです。」

 

そう言われて、リリアスフィールはユーブスタクハイトの方を見る。彼はこちらを見ずに言った。

 

「いや、大した人物でもないし、ここ一直線を目指してきてるようだったからな。この程度なら対処も問題ないと思ってな。」

 

「本当にお見逸れいたしました。ここに来ても、隙の一つも伺えない立ち回りで。僕は感服しましたよ。」

 

「そんな、ことよりも早く教えて下さりませんか?簡単な魔術のことを。」

 

リリアスフィールは、少し怒った口調で言った。シュトレーネはさも忘れてたかのように、彼女に頭を下げた。

 

「これは失礼いたしました。リリアスフィールさん。では、さっきの質問の続きを。これを使ったんです。」

 

そう言って、彼は懐から、布に包まれた何かを取り出した。そっと机の上に置き、布を開けていく。なかには、長方形の木の板が入っていた。触ってもいいようなので、触ってみたが、多少の凹凸があるだけで、とくに変わったところもないと思えた。

 

「これは木のように見えますが実は違うんです。試しに魔力を流すと……」

 

そう言って、シュトレーネは魔力を木の板に注いだ。すると、辺りに甘い匂いが少し漂い、さっきまでいたシュトレーネが消えていた。あたりを見回すが、もちろんいない。そして、前をもう一度見ると、そこにはシュトレーネが立っていた。

 

「これは一体……」

 

「我々一族は、合札(ペイデューカ)と呼んでます。あなた方には魔術礼装と言った方がわかりやすいと思います。」

 

「魔術礼装……これが?」

 

リリアスフィールは疑問に思ってしまった。確かに、シュトレーネの消えた魔術からしてもこれは礼装には、入るだろう。しかし、どうやってこんな木を礼装にまで作り上げたのだろうか?そんな、疑問に気づいたのか、シュトレーネが続きを言った。

 

「これはですね、普通の木の板と言うよりも、合成物なんです。作り方は秘密ですが。我々の一族は裏の顔もありましたので。このように何もないような木の板にした方が、都合が良かったんです。」

 

「これには他の使い方もあるんだろう?」

 

唐突にユーブスタクハイトが言ってきた。リリアスフィールはまさか、と思いながらシュトレーネの方を見ると彼も目を丸くしていた。

 

「その通りです。その説明はまた後ほど。今日は挨拶だけのつもりが大変長引かせてしまって申し訳ないです。」

 

そう言って、彼は一礼する。ユーブスタクハイトは椅子から立ち上がり、彼の前に立って言った。

 

「こちらこそ長引かせてしまってすまないね。魔術の方は明日以降でどうだろうか。」

 

「そうですね。なら、明日のお昼過ぎにまたこちらに出向かせていただきます。」

 

そう言って、シュトレーネは一礼をして、扉を出た。リリアスフィールは慌ててあとを追いかけようと、扉を開けたが、そこには護衛のホムンクルスしかいなかった。後ろから、ユーブスタクハイトがやって来て、肩をポンと軽く叩かれる。

 

「彼は、恥ずかしがり屋でな。あんな風ではあるが、お前と同じで優しいし、気立てもいいからな。まぁ、明日早く来た時には、城の中でも案内しておやり。」

 

「はい、お父様。」

 

そう言うと、ユーブスタクハイトは歩いて行き、リリアスフィールは、自分の部屋に向かった。ふと何かを感じ、外を見るが何も無い。そんな中、1羽の鳥が飛んでいた。




次回は登場人物紹介を挟む予定です。
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