『ようこそ、ムラクモPMCへ。私達はあなたを歓迎します』
私が就職したのはとある民間軍事会社だった。
機械音声に歓迎された私達は椅子に座りながら説明を聞いていた。四方を白い壁に囲まれており出入口は頑丈にロックされていた。機械音声の次に説明したのははこの国の防衛戦力と世界各国の状況だった。
『現在我が国の領海、領空は陸海空の三軍、高性能の無人兵器のよって守られています。近海の深海棲艦はこの無人兵器が掃討しているため脅威度の高い姫、鬼級は我が国の領海内には存在しません。ですがハワイ諸島から無尽蔵に流入する深海棲艦全てを相手にするわけにもいきません。そこで我が社、そしてあなた達の出番なのです。深海棲艦に対抗する力を持つあなた達が我が国を敵の魔の手から守るのです。あなた達にこれから与えられる装備はカンムスユニットと呼ばれるものです。第二次世界大戦の軍艦の力を人間が装備できる大きさに開発した武装です。これを装備できる者は女性のみ、今や世界では女性は貴重な戦力なのです。』
2040年、ハワイ諸島を中心に深海棲艦が赤い雨と黒い海と共に発生。今もなお増殖しているため進入禁止区域に指定されていた。各国は最初通常兵器で対処しようとするも、攻撃が効かず失敗。対策を練ろうにも未知の敵に対抗する手段など持ち合わせている筈もなく絶望と思われた。ところがこれに対抗できる手段が早くも見つかった。それがこのカンムスユニットだった。適性はあるものの訓練した女性であれば誰でもすぐに使える、非常に安価という利点で前線に投入、各国は近海の深海棲艦を殲滅しカンムスユニットを中心に軍備の再編に手を付けた。そしてカンムスユニットの力を搭載した無人兵器が登場するもあまりに高価すぎたため配備に手間取っているのが現状だった。
現在ではカンムスユニットを用いた職業が圧倒的に人気であり、志願者が後を絶たない。
『ではカンムスユニットの説明をしたいと思います。あなた達には適性検査を受けていただき、その後適性に見合った装備を支給致します。適性には艦種毎に決められた段階評価がありますが適性が無い艦種は表示されません。続いてユニットの武装について説明致します。武装は艦種毎に決められており、基本的には駆逐適性者は主に小口径主砲と魚雷、軽巡適性者は中口径主砲と魚雷、戦艦適性者には大口径主砲、空母適性者には艦載機やそれを発艦させるための装備など決められております。中には適性を2つ以上持つ者もいるため武装は個々人で違いが現れます。そして明日から適性に沿って訓練を受けてもらいます。厳しいですが選ばれたあなた達なら乗り越えられるでしょう』
説明が終わり長い廊下の先の検査室に入るとすでに検査に入っている者達がヘッドセットを着け機械に横たわっていた。検査官がキーボードを叩き目の前の画面に注視する。
「駆逐適性:A・深雪、重巡適性:C・利根ですね。駆逐艦の機動性を生かすか、利根ですので将来航空巡洋艦装備を活用することも可能です。もちろん平均的に訓練し駆逐と重巡のハイブリッドとしても活躍できるでしょう。ではヘッドセットを外してください。こちらが書類になります。はいお疲れ様でした。」
2つ以上の適性を持つと武装の違いが出るとはこういう事なのかと納得する。私の先輩も戦艦と軽巡の適性を持ち今ではビスマルク級の艤装を着けて活躍している。
「次の方、こちらのヘッドセットを着けてください」
私の順番になり機械に横たわりながら目を瞑った。瞬間、脳裏に様々な映像が流れる。
「何?あなた達知り合いなの?あ、私は叢雲。よろしくお願いしますね大井さん」「装備は何?主砲ガン積みとか命中率を考えてないでしょ、あんた」「大丈夫よ。みんな分かっているわ。あとはあんたが信じて送り出すだけ。」「中枢棲姫は半壊状態よ、だけど敵が多すぎてダメージが与えづらいわ」「やっと繋がった!司令官!生きてる!?」「あなただけは…守る…」
誰かを信頼している言動からくる幸福感から一転、無数の叫び声と悲鳴が広がりそして強烈な光が脳に焼き付く。
「うわあああ!!」
私の叫び声が広い検査室にこだまする。汗だくになりながら周りを見渡し異常が無いか確認する。
「ちょっと、大丈夫ですか!」
検査官が声を掛ける。
「…はい、大丈夫です。お騒がせしました…」
「んん、では検査結果をお伝えしますね。駆逐適性:EX・叢雲、雷巡適性:C・大井、戦艦適性:C・比叡、空母適性:D・龍讓ですね。非常に珍しいです!これは駆逐の機動性を生かしつつ雷巡の雷撃、戦艦の防御力、空母で艦載機を使うという幅広さが売りになりますね。好きな艦種の適性を伸ばすのも良し、平均的に訓練するのも良しですね」
説明を聞いた私は機械から降り書類を貰い検査室を後にする。
「どうしよう…」
適性が4つ以上は非常に珍しいというのは本当だ。この適性の数と評価は様々な機関から声が掛かりやすい。他に珍しいものは適性:明石だ。装備改修、修理、整備の出来る人材は貴重であることから引っ張りだこだ。潜水艦適性のある者は諜報活動を主とする機関に属しやすい。
夜、書類を眺めていた私は明日の訓練をどうするか悩んでいた。計画の組み立て方も訓練の一環であり最終的な評価に含まれる。
「明日からの訓練どうしようかな…。1つだけ訓練してもちゃんと働けるか不安だし、4つとも訓練して器用貧乏になったら嫌だしなぁ…」
悩んでいると突然電話が鳴った。現在活躍している先輩からだった。
「もしもし、就職おめでとう!あんたも同じ会社に入ったんだね。またあたしの後輩になるのか。今度お祝いでもしようか」
「ありがとうございます先輩。楽しみにしていますよ」
久しぶりの先輩の声に嬉しくなり昔話に話が弾む。不意に先輩がどのようにして訓練内容を決めたのか聞いてみた。
「あたしの場合適性が戦艦と軽巡だったからねぇ。2つを平均的に訓練したら魚雷の撃てる戦艦になったからビスマルク艤装が支給されたんだよ。駆逐や軽巡適性を持っていなくて戦艦適性だけでも雷撃は出来るけど負担が掛かり過ぎるからじゃあどっちもって考えたよ。あんたはどうだったの?」
先輩の問いかけに。
「適性が4つあることが分かりました。どうしようか考えているところに先輩から電話が…」
「ほう、すごいね!4つなんて初めて聞いたよ。こりゃ全部訓練するしかないよ。もちろん器用貧乏ってことにならずにがんばるしかないけどね。たった1年だよ、いつの間にか終わっていると感じるはずさ」
「やっぱり大変なんですよね…?」
「楽なことなんてないさ。でもその4つを全て使いこなすことが出来れば選択肢がぐんと広がること間違いないよ。適性があればあるほど将来は安泰だからね」
「先輩…。分かりました!私頑張ってみます!」
「おっ、やる気出てきたね。久しぶりに声を聴いたら元気ないから驚いたけど元気になって良かったよ。あたしは明日も仕事があるからこれで切るね。訓練頑張るんだよ」
「先輩の声が聴けて嬉しかったです。今日はありがとうございました!」
「あぁ、またね。もしかしたら一緒に働けるかもしれないからその時を楽しみにしているよ、それじゃあ」
先輩からの電話が切れると私は深呼吸をする。不安だと思っていた自分の心に整理がつけたと思いベッドに横たわった。
「先輩…ありがとうございました」
2035年春 海岸
「おい、誰か倒れているぞ!」
海岸に3人の人影が倒れていた。3人のうち2人は武装していたが装備の損傷が酷く形状が判別出来ないほど歪んでいた。もう1人は男性で軍服らしきものを身に纏っておりその2人が男性を守る形で覆い被さっていた。
「早く救急車を呼べ!」
数分後、救急隊員によって病院に運ばれたがすでに2人は息絶えており男性は瀕死の重傷だった。後に救急隊員は語る、あれで生きているのが不思議だ、何か執念のようなものが彼を生かしているのではないかと。
「身分証の確認をしたところ黒野界斗、1991年生まれの25歳となっていました。偽造ではないでしょうか?」
救急隊員が男の服から身分証を取り出して確認をする。
「このタイプの身分証は見た事ないな。こんなあからさまな偽造なんてするか?」
先輩らしき人が訊ねる。
「ですよね…。意識が戻り次第警察に連絡してみます」
「分かった。今はこいつが誰だろうが助ける方が先だ」
一方、2人の遺体は回収され破損した武装を研究機関で解析されていた。武装の構造はこの世界では使われていない技術が使用されており研究者の注目を集めていた。
「これは一緒に倒れていた男にも話を聞いた方が良さそうだな」
半年後、男は病院を退院しとある研究機関に足を運んでいた。一週間ほど前、研究員が話を聞きたいという事で男を呼び出したのだ。
「警察の次は研究者か…。面倒なことにならなければいいが…」
警察が色々質問してきたが全て黙っていた。どうしてあんなところに3人で倒れていた?この身分証はどこで発行した?軍服らしきものを着ていたがお前は何者だ?など様々な事を聞かれたが答えようもない。この世界と俺がいた世界では何もかもが違うし時間も経ち過ぎている。
入院中、この世界のことを調べていたが一番の違いが深海棲艦の侵攻が無かったことだ。兵器も俺のいた深海棲艦が侵攻する前の時代から少し進歩した程度で他は何も変わらない。気になった事といえば半年前から沿岸地域の市民や海上を航行している小型船の乗組員が行方不明になる事件ぐらいだ。跡形もなく消えていることから神隠しだのなんだのと世間で騒がれていた。
考え事をしながら向かっていると白い大きな建物が見えてきた。ここが件の研究所らしい。
研究所に着いたとき眼鏡を掛けた男が近づいて来た。
「ようこそ、黒野君。君を待っていたよ。」