目覚めた時、まず目に入ったのは木の天井であった。
アイリスの周囲には点滴のようなものがあり、それがアイリスの腕に刺さっていた。そして、その真横には腕を組んだまま寝込んでいる赤髪の少年が───
「……アキト?」
アキトは下を俯きながらコクン、コクンと静かに吐息を立てながら寝ていた。
「……そういえばなんでアキトが?」
これが謎だ。本当に何故、アキトが自分の部屋にいるのだろうか。ここは自分の部屋であるわけで───そこで気づく。ここは自身の部屋ではなかったことを。顔が青くなり、血の気が引いていく。なぜ同じ部屋に男がいるというのだ。
「ひぃ!!!」
「なんだ!」
アキトがアイリスの悲鳴で目を覚ます。
「な、なんで私がここに!?」
「話すと長くなるんだが……」
ベッドの隅で胸の前で手を交差しながら震える声を出すアイリス。
「いやいい!襲ったの!?襲ってないの!?」
「命の恩人になんてこと言うんだお前は」
アキトは不機嫌そうにため息を吐いた。
「怪我はないか?」
「お、襲ってはいないのよね!?」
「おい……ってまあ仕方ないのか」
アキトは椅子から立ち上がると、机の上に置かれた皿を持ってアイリスに近づく。
「こ、来ない───むぐ!」
アイリスの口の中に無言で何かを突っ込むアイリス。アイリスは一瞬口の中に入れられたそれを吐き出そうとして、それをすぐにやめた。
甘い風味にシャクシャクとした食感。これは林檎、だろうか。
「落ち着いた?」
「……これは?」
「このあたりで採れる果実。名前は知らないけど、味は保証する」
アキトくんは赤い果実を私に見せます。
「……落ち着いた?」
「う、うん…ありがとう」
「それで、どうしてここにいるか説明するのだが」
アキトは林檎にかぶりつきながら呟いた。
「アイリスは多分グラスマラスクイーンに拘束されていた」
「どうして多分なの?」
「青いグラスマスクイーンだったから。恐らく亜種だとは思うんだけど」
だんだんと記憶が鮮明になって行きます。確か亀甲縛りで拘束されて、胸をひたすら触られて、その後くすぐられた記憶が。今も思い出すと背中に冷や汗が伝う。
「でも貞操は無事なのね……よかった」
「よくないだろ」
安心しているとアキトが怒ったような口調で言い、アイリスの肩を掴んだ。
「え、なんで?」
「なんでって……お前、最悪殺されるかもしれなかったんだぞ?何安心してるんだよ」
アキトの目はどこまでも真剣だった。アイリスはキョトンとした表情を浮かべながら首を傾げた。
「どうしてそんなに真剣なの?」
「馬鹿か!」
唐突に頬に衝撃が走った。目線を元に戻すと、息を荒げたアキトが手を振り上げた態勢のまますごい表情でアイリスを睨みつけていた。
───何故私は叩かれたのだろうか。
「なんで叩いたの?」
「っ……!生きていなきゃな……この痛みも分からないんだぞ!!」
「なんで……?」
死ぬってなんだっけ?あれ、何で私はここにいるんだっけ?
───危ない!
───いやぁ!!死なないで!!死なないでよ!!
───○○!私を置いていかないでよ!!
「……ぁれ?」
死ぬ時のヴィジョンが明確に頭の中で浮かぶ。
車に轢かれそうになった少女を助けようとして。跳ね飛ばされて。自身の血の海の中に沈んでいって。
「……ぇ、な、に……こ、れ」
助けて。助けて。
通り過ぎていく人達。私の様子を見ている人達。助けようとしない人達。
嫌だ、死にたくない。死にたく……ないよ……
「いやぁぁぁ!!!」
これは誰の記憶?私の記憶?ナニコレ……キモチワルイ。ヤメテ、ナンデコンナモノヲミセルノ?ドウシテ?
ワタシガナニヲシタノ?
『お前なんてなぁ!俺の性処理道具でいればいいんだよ!!』
「いやぁぁぁ!!!いやよ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ダレノコエ?キキタクナイ。キキタクナイヨ。ナンデコンナヒドイコトイウノ?
「助けて!誰か助けてよぉぉ!!!」
デモ、ダレモタスケテクレナインダロウナ。アノトキダッテ……ダレモ……
「おいアイリス!!」
「っ!」
アキトの一喝で肩を震わせるアイリス。
「落ち着け!」
「……アキ、ト?」
「そうだ!」
アキトがアイリスの手を掴むが、
「離して!」
「離すか!」
アキトくんハ私ノ手ヲ強ク握ル。
「離して!酷いことしないで!!」
「しない!そんなこと絶対にしない!!」
ソンナコト……誰ガ信ジラレルト言ウノ!?
「無理よ!みんなそう言っていつも嘘をつくの!!」
「俺は嘘をつかない!安心しろ!!」
次ハ私ヲ強ク抱キ締メル。
「っ!嫌だ!近寄らないで!!」
首筋ニ噛ミ付ク。
首カラ血ガダクダクト出テイル。口ノ中ニ鉄ノ味ガ広ガル。
「……っ!!」
「離してよ!!」
「……離すもんか」
「どうしてよ!」
「誓ったからだよ……」
……ナニヲ?
「なにを!?なにをよ!!」
「2度と失わないようにだ……!」
「そんな口だけで!」
「……今度こそ守るためだ…あの時の手を2度と手放さないためだ!!」
……アキト?ナンデ……目ガ、黄色ク?
「アイリス……
……ぇ。
「……そんな嘘……いらない 」
「嘘じゃない……」
「私は……穢れてる」
「穢れててもいい……」
「……私は……貴方が思っている以上に穢れてるの……」
「穢れているからなんなの……?だからって見捨てるのか……?そんなの……可笑しいだろ!」
アキトクンは……私ヲ……しっかり見て……言う。
「……本当に?本当に私を守ってくれるの?」
「本当だ!」
「穢れてるよ?」
「だから!構わない!俺はアイリスを守る!」
金色の瞳で、彼はそう言う。
「……本当なのよね?」
「ああ!……っ!」
途端にアキトくんは首元を抑えて蹲ります。首から血が沢山……
「ご、ごめんなさい!」
すぐさまヒールをかける。
だんだんと傷口が消え、血も収まる。
「……本当にごめんなさい、どうかしてたわ」
「いやいいよ……俺ももっと落ち着いたてから話すべきだった……」
……アキトくんの目はもう青色に戻ってます。
……幻覚だったのかな。
「……さっきの言葉、本当?」
「なにが……」
「私を守る……ってこと」
嘘……じゃないと信じたいな。
「嘘じゃない。安心してくれ」
そう言うとアキトくんは目を閉じます。
「え?アキト?アキト!?ねえ、目を開けて!!?」
「眠いんだよ……アイリス探してたから」
アキトくんに怒られてしまいました。
アキトくんはそう言って立つと扉の方へ向かっていきます。
「……ここはヘレナの部屋の一室だ。今日はここで休んどけ」
そう言うとアキトくんは出ていきます。
「ァ、アキト!」
「……なに?」
「あ、ありがとう!」
アキトくんはキョトンとしていましたが、
「……どういたしまして?」
すぐに口元に笑みを浮かべてそう返した。
チョロイン爆誕かな。
次からはやっと本編に入っていけそうです。
気づいたらお気に入り30人突破してました。
すごい見切り発車小説なのにありがとうございます。