「……むにゃ?」
爽やかな眠りから覚めたアイリスはお腹の上に心地のよい温かみを感じた。顔を上げて確認するとそこには白猫が───キャトラが丸まって眠っていた。
アイリスは小さく息を吐いてからキャトラの頭をつんとつつく。
「……キャトラ、起きて」
「……あと30分」
カチン。少しイラっとしたアイリスはキャトラの髭を軽く摘み、耳元で囁いた。
「髭引っこ抜くよ?」
「おはようアイリス!今日もいい天気ね!!」
相変わらずすごい切り返しだ。思わず感嘆してしまう。
「さて、今日も一日頑張るぞい!」
髪を後ろで一つに結び、顎に手を当てて物思いに耽るアイリス。いつも同じメニューばかりではアキトも飽きてしまうだろう。
「キャトラー?お弁当どうするー?」
「私はいいわ!」
「アキトから奪うなんてことしないでね?そんなことしたら───」
「わかった!わかったわよぉ!!」
ジトっとした視線をキャトラに向けると、首をブンブンと振って答える。よし、と頷いてから料理台に向き直るアイリス。
「さて、何を作ろうかな」
サンドイッチでもいい。しかしこう、少し凝ったものも作りたい。かと言って朝からそんなに多く食べるわけにもいかない。どうすればいいのだろう。
「……あ、そうだ。これなら……」
頭の中にふとあのメニューが浮かぶ。簡単で、それほど手間暇も掛からない。
「おはよ、アイリス」
「お、おはようごじゃ!おはようごさいましゅ!!」
昨日の今日だ。アキトの顔を見て話すことが出来ない。
盛大に舌を噛み、地面に思わず蹲るアイリス。アキトは小さく息を吐いてからアイリスの肩に手を乗せる。
「アイリス、慌てた時は落ち着いて。まずは深呼吸だ」
「う、うん」
アキトが言った通り深呼吸をすると、幾分か気持ちも落ち着いてきてアキトを見て話せるようになった。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。今日もお弁当作ってきてくれたのか?」
「う、うん!」
「へぇ、なんだろう」
アキトの目が輝く。意外と子供っぽい一面もあるんだね、と喉まで出かかるがぐっと言葉を飲み込んで堪える。
「今日はおにぎりだよ」
「おにぎりか……」
グローブを外し、手をタオルで拭いてからおにぎりに手を伸ばし咀嚼するアキト。
「アキト」
「ん?」
「お、美味しい?」
おにぎりなんだから味は同じだろ。と言われないかだけが不安だが、咀嚼し飲み込んでからアイリスの顔を見て微笑んだ。
「美味しいよ。味付けもちゃんとしてあって」
───やった!小さくガッツポーズを取るアイリス。
アキトはそのまま一個、二個と平らげていく。アイリスも遅れておにぎりを食べ始める。味付けは悪くない。簡単なものだが、良い出来だろう。
「アイリスー!」
「なに?」
「私を解放してよー!!」
アイリスを騙してランチバックごと盗もうとしていたキャトラは木に縛り付けておいた。
「キャトラ、反省するまでお昼ご飯は抜き」
「ぎにゃー!!そんなあ!!」
結局、キャトラは反省することはなかった。
しかし、おにぎりを一つだけ残していたアキトがキャトラに手渡していた辺り、なんだかんだ彼もキャトラのことを仲間だと思っているのだろう。微笑ましい光景を見て嬉しくなるアイリスなのだった。
「アキトから奪うなんてことしないでね?そんなことしたら───」
そういうアイリスの瞳を見た時、キャトラは恐怖した。
そこに見出すことが出来たのは純粋な《銀》の瞳だった。
凍てつき、あらゆるものを反射させてしまう鏡のような瞳。到底、普通の人間から見出すことができないその顔貌からは《表情》が完全に抜け落ちていた。
「わかった!わかったわよぉ!!」
堪らずそう叫ぶと、普段のアイリスの柔らかい表情に戻り「駄目だからね」とキャトラを軽く叱りつけるアイリス。
「……アイリス」
キャトラはそんなアイリスを見て不安になるのだった。