空を見上げる。いい天気だ。空は青く澄んでいて、雲一つない。絶好の散歩日和だろう。隣の騒音にさえ耳を傾けなければ。
「お、おい!待て!!」
「問答無用」
アキトの中に有り余る黒のソウルをカイルにぶつけながら型などお構いなしの斬撃を繰り出すアキト。その攻撃を木槍で的確に弾いているのは、長年冒険家として活躍しているからだろう。しかし、悲しいかな。カイルの普段使っている槍ではないせいか、所々がささくれ、ヒビ入っている。
「ま、待て!このまま続ければ俺の槍が折れる!!」
「そしたら素手だ」
「戦闘狂かお前は!?」
「よく言われるよ」
なんだかんだで仲が深まりつつある彼等を見ながら海を眺めていたアイリス。
───ふと、周りを見やると星たぬきがアイリスの周りにいた。
「……なんで全匹雄なの?」
私は植物だけではなく動物にまで好かれるのか。
「はいはい、どいて……」
そう言おうとした瞬間、星たぬきたちが一斉に動いた!
目を閉じるが、衝撃は一向に来ない。恐る恐る目を開けると
「ぎにゃー!!」
キャトラが星たぬきたちの集団リンチにあっていた。
「……またなにかしたの?」
「なにもしてないわよー!!」
なるほど。動物からは自分は異性として見られていないわけか。ほっと安堵の息を漏らすアイリス。
数分後、満足したのかアイリスの座っているところまでやってきた。カイルも遅れてやって来て「二度とやりたくねえ」と呟いていたが、アキトはついぞその言葉を聞こうとはしなかった。
そして昼食。アイリスが握ったおにぎりを皆で囲いながら楽しく食べていた。
それにしても───アキトをふと見やる。
「本当にこの人が主人公、なんだよね」
自分がつけていたプレイヤーネームとはまるで違う、この世界で生きる赤髪の少年。
ぷにこん操作でお手軽操作なんてことはできず、研磨した自分の実力で戦う。
そして何より見たこともないスキルにクラスを用い、鬼神の如き姿で戦うその姿は圧巻だ。
それについてくるカイルもカイルではあるが、こんな辺境の地で歴戦の戦士を圧倒するこの少年は一体なんなのだろうか。
「……アイリス、ほっぺに米ついてる」
「え?」
「ほら」
茫然とするアイリス。唐突なアキトの行動に数秒ほど思考が停止するも、現実を理解して顔がぼん!と赤くなる。
「あうっ!?」
「ごめん驚かせるつもりじゃ」
アキトが申し訳なさそうにアイリスを見つめるが、そんなに見つめられると寧ろ困る。アイリスはアキトからなんとか視線を逸らそうとする。
「───もうお前ら結婚しちまえよ」
そんな様子を見ていたカイルは頬杖をつきながら呟いた。
「け、けっこ!?」
「冗談でも言うのはやめろ」
カイルの肩目掛けて肘鉄を捩じ込むアキト。鈍い音ともに、声にもならない悲鳴をあげて立ち上がるカイル。
「いってーな!殴ることないだろ!!」
「肘鉄だ」
「そういうことじゃねーよ!ったく、この痛みが響いてこの後の遺跡探索に響いたらどうしてくれるんだ」
「……遺跡探索?」
カイルの言葉に思わず眉を顰めるアキト。
「前も言っただろ?この島にある遺跡を探索しに来たんだ」
「そんなこと言ってたか?アイリス」
「言ってたわ」
「……言ってたかな?」
他所者が来た、という理由でカイルを撃ち落とそうとしていたのだから覚えていないのも無理はないだろう。もしかしたら、カイルが冒険家であるということすらアキトは知らなかったのではないだろうか。
「そろそろ活動しようと思うんだ、遺跡探検をな」
「お前冒険家だったのか!?」
この男、やはり知らなかった。
アキトが血相を変えてカイルに詰め寄ると、「あれ、言っていなかったか?」と呟く。
その横で、ごめんなさいカイルさん、この人全く話聞いていなかったみたいなんです。と心の中で謝るアイリス。
アキトはカイルから距離を取ってから何かを考えるような素振りを見せ、口を開いた。
「その探索、俺たちもついていこう」
「そいつは助かる。元々頼むつもりだったからな」
「いつ行く。今か?」
「落ち着けよ。俺もお前も今武器持ってないだろ?しっかりと準備を整えてからだ」
そう言って立ち上がり、服についた砂を払うカイル。
「準備ができたらヘレナさんの店まで来てくれ。そこで待ってるから」
手をひらひらと振ってアイリスたちの元から立ち去るカイル。遠くなっていく後ろ姿を見ながらアキトが小さく呟いた。
「……あの遺跡か」
「どうしたの?」
「なんでもない」
「っ……!?」
即答だった。アキトの急な態度の変化に僅かにだが恐怖を抱く。
「───っ」
我に返ったアキトは立ち上がると、アイリスを見下ろして呟いた。
「ごめん」
そう言い、立ち去る彼の姿は普段よりも小さく見えた。