白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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2025/12/20修正済み


遺跡探検 その2

 遺跡の入り口でアイリス一行を待ち構えていたのは、返り血に染まったアキトであった。彼は先行して周囲の魔物を掃討していたようだが、その表情には隠しきれない嫌悪の色が浮かんでいる。

 

「こんな場所、好き好んで足を踏み入れたい奴の気が知れん……」

 

 吐き捨てるような独り言を耳にし、アイリスは思わず問いかけた。

 

「ねえ、どうしてそんなに遺跡を嫌がるの?」

「ああ、そのことか」

 

 アキトは数秒の沈黙の後、視線をアイリスへと向けた。その瞳はひどく冷ややかで、真剣そのものだ。

 

「教えない」

 

 あまりに直球な拒絶に、アイリスは言葉を失い、思わずたじろいでしまう。しかしアキトは、彼女の反応を気にかける様子もなく言葉を継いだ。

 

「別に隠し立てするような理由じゃない。ただ、話したところで面白くも何ともないからな。……それより、ようやく『金髪』のお出ましだぞ」

 

 相変わらずカイルを名前で呼ぼうとしないアキトの視線の先から、息を切らしたカイルが駆け寄ってきた。

 

「悪い、遅れた!!」

「……自分から時間厳守だと言い出したのは、どこのどいつだったか」

 

 アキトが無造作に黒の剣の切っ先を突き付けると、カイルは慌てて両手を振って制止する。

 

「待て待て待て!それをしまえ、物騒だろ!」

「……ちっ」

 

 あからさまな舌打ちを漏らしながらも、アキトは剣を引き、一向は薄暗い遺跡の深部へと足を踏み入れた。

 遺跡の内部は、肌を刺すような不気味な静寂に包まれていた。暗がりに潜む魔物の気配にアイリスが身を強張らせた次の瞬間、アキトの剣が鋭く空を裂く。

 

「ふん!」

 

 飛び散る鮮血が、剣の腹にどろりとした赤を刻み込む。暗闇の中で爛々と輝くアキトの蒼い瞳は、襲い来る魔物以上に冷酷で、恐ろしい。

 カイルもまた自慢の槍を振るって応戦するが、アキトの圧倒的な戦闘力の前では霞んでしまう。「切り開く」という宣言通り、彼は魔物の群れを、あたかも道端の雑草を刈るかのように無慈悲に蹂躙していく。

 アイリスがかつて死闘を演じたはずの難所さえも、彼は息一つ乱さず、逃げ惑う魔物すら容赦なく斬り捨てて突き進んでいく。

 

「……流石に、可哀想になってくるわ」

 

 その一方的な虐殺とも呼べる光景に、アイリスは敵であるはずの魔物へ同情を禁じ得なかった。どちらが真の「怪物」なのか、その境界が曖昧に感じられるほどの光景だった。

 そんな彼女の隙を突き、影から一匹のキャットシャドウが躍り出た。

 

「燃えて!バーンナップ!!」

 

 アイリスは咄嗟に魔術を放ち、炎の渦で一掃を試みる。しかし、そこで彼女は信じがたい異変を目にすることになる。

 

「……えっ、元気になってない!?」

 

 炎に包まれたはずの魔物たちは、苦しむどころか傷を癒し、以前よりも活力を増して立ち上がったのだ。困惑するアイリスに、逆転した勢いで魔物が飛びかかる。

 

「ふん!」

 

 刹那、一閃。アキトの剣が周囲の魔物をまとめてルーンへと還し、彼女を危機から救い出した。

 

「……何をもたもたしている」

 

 呆れたようなアキトの声に顔を上げると、彼の黒髪は返り血によってより一層深く、赤黒く染まっていた。

 

「アキト、髪が……」

「……ん?ああ、これか。通りで頭が重いと思った」

 

 事も無げに言ってのける彼の無頓着さに、アイリスはただ戦慄するしかなかった。

 それから数時間が経過した頃。探索を続けていた一行は、古びた宝箱を見つけた。カイルからは「不用意に開けるな」ときつく釘を刺されていたものの、好奇心に抗いきれなかったアイリスがそっと手を伸ばしてしまう。

 しかし、その中身は財宝ではなく、宝箱に擬態した凶悪な魔物だった。

 

「あうあう……っ!」

 

 抵抗する間もなく、アイリスは再び魔物の触手に捕らえられ、闇の奥底へと連れ去られてしまったのである。

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