白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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最凶

 宿敵、ロイド・イングラムと対峙していたアイリスとエレノアは後方から近づいてくる足音に気づき、首を後ろに向けた。

 薄汚れた赤い髪、爛々と輝く青い瞳。そして、手に持った黒い剣───間違いない、数週間前に姿を消したアキトだった。

 どこで何をしていたのかはわならないが、無事だったようである。

 よかった生きてた、と安堵の息をつくアイリス。

 そんなアキトは面持ちをゆっくりと持ち上げて、目の前で浮遊するロイドを睨めつけるとその視線を鋭くした。

 

「……ようやく、見つけたぞ───ロイド……イングラムッ!!」

 

 低く唸る声でアキトは叫んだ。

 瞬間、身も毛もよだつ殺気が半壊していた建物に直撃、辺り一帯を更地に変えた。

 

「アキトさん!?」

 

 すぐに何かに気づいたような表情を浮かべるエレノア。

 

「アイリス様っ!逃げてください!今のアキトさんは───ッ!?」

 

 瞬間、ドス黒い風が靡いた。一瞬でアイリスの横に立っていたエレノアの真横に立ち、薙ぎ払うように腕を振るい、吹き飛ばしたのだ。

 アイリスの横に立ったアキトは興味がなさそうにエレノアを見ると、ロイドの方に足を進めながら、剣を抜く。

 

「……アキ、ト?」

 

 そこで初めてアイリスは気づいた。

 アキトの闇が、嘗てないほどに膨張していた。

 

「どう、したの?その闇の量……」

「……」

 

 アキトは何も答えない。ただわかってしまったことがある。

 ここまで強大な闇を集めるには莫大なソウルが必要になるということで───アキトは沢山の生物をその手にかけたのだということを。

 

「ねえ、アキ───」

「黙っていろ」

 

 アキトが見たこともない表情でアイリスを一瞥。アイリスはたたらを踏んだ後、思わずしりもちをついた。

 

「……頼むから、俺の前に出てこないでくれ」

 

 思いつめたような表情で手に持った黒の剣の切っ先をロイドに向けた。

 

「……ロイド・イングラム。お前は俺に言ったな。『闇の王子はこの世界を破壊する怪物になる』と」

「はて。そんなことを言ったような、言ってないような───」

「だから、決めたよ。お前を倒すために俺は───」

 

 アキトの身体から濃密な闇が溢れ出て、そこを中心に闇が竜巻の如く渦巻く。

 

「───貴様を倒す……悪魔になると!!」

 

 短かった赤い髪は光沢を放つ黒く長い髪へ。青かった瞳は暗い昏い黄金に。そして、服が黒いロングコートとアーマープレートへと変化していき、最後にアキトの持っていた黒の剣が巨大な剣へと変わった。

 

「駄目、アキトッ!」

「黙れッ!!」

 

 アキトが手を振りかざした瞬間、アイリスの周りに闇で編まれた檻が現れた。

 

「……慈愛の檻の模して創った闇の檻だ。周囲のソウルを吸収し、強度を増す。俺が解除するか死ぬまでその檻は永遠にあり続ける」

 

 アキトはアイリスを一瞥してからロイドを睨んだ。

 

「……邪魔者は居なくなった。ロイド・イングラム……始めようか」

「いいのか?光の王無しで私が倒せるとで───も!?」

 

 言っているうちにアキトは動いていた。

 風切り音を鳴らし、砂塵を巻き上げロイドに肉薄。その顔面を鷲掴みにすると、思いっきり地面に投げつけた。

 そのままアキトは急降下、剣を振り下ろす。

 

「甘いっ」

 

 しかし、そこでやられるロイドでは無い。ギリギリのところで剣を防ぎ、アキトの猛攻を凌ぐ。

 

「ッァ!!」

 

 鍔迫り合いになる。殺意の籠った眼差しでロイドを睨めつけるアキト。

 

「闇の王子ッ!お前の力はそんなものか!」

 

 アキトはそのまま口を開くと、闇を放射した。ロイドはよける間もなく直撃、喀血した。たたらを踏むロイドの頭を掴むと、アキトは小さく口を動かした。

 瞬間、アキトを中心に巨大な魔法陣が展開される。

 アキトの意図を察したのか、ロイドは表情を歪めた。

 

「貴様、まさか!?」

「……俺とお前、どちらも滅ぶしかない───」

 

 瞬間、アキトの体の中の闇が暴走する。

 

「アイリスを……この世界を守るためには……!」

 

 アキトの体が眩く発光したかと思うと───辺り一体がドス黒いほどの紅に包まれた。

 

 

 

 ⿴

 

 

 爆炎が晴れる。闇の檻がゆっくりと消え、アイリスは拘束から逃れられた。

 

「アキトッ」

 

 檻から解き放たれるなり、アイリスは駆け出す。凄まじい闇の奔流に飲み込まれた廃墟は荒野へと姿を変えていた為、アキトはすぐに見つかった。

 

「酷い傷……今手当をするから!」

 

 慈愛の光をアキトの傷口に当てる。十数秒が経過すると、アキトは苦しげな声を上げながら目を覚ました。

 

「アキトッ」

 

 アイリスは涙を浮かべながらアキトに抱きついた。自分の置かれた状況を理解出来ていないのか、アキトは呆然とした顔を浮かべている。

 

「アキト、私がわかる?」

 

 アキトの視界にアイリスの姿が映った。すると、アキトは自分の手のひらを見つめた。そして───

 

「……くくく」

 

 アキトは、途端に笑い始めた。

 

「アキ、ト?」

 

 アキトはアイリスを突き飛ばすと、のろりと立ち上がる。

 

「くく、はははは!!」

 

 アキトは狂ったように笑い始め、アイリスを蹴飛ばした。

 

「残念だったなぁ、闇の王子よ。私を倒したつもりでいたのだろうが……」

 

 アキトの闇が膨張する。そして、姿が変わっていく。

 赤かった髪は銀色に。冒険家の服は血色のコートに。そして、黒の剣は歪な形をした巨大な大剣へと姿を変えた。

 

「私……いや、俺の方が、早かったなぁ!?」

 

 アキト───ロイドはぐるりと顔を回して言った。

 

「……ついに……ついに手に入れた!最強の肉体を!くく、はははは!!」

「アイリス様っ」

 

 エレノアが呆然とするアイリスの前に立つ。しかし───

 

「邪魔だ」

「きゃあっ!?」

 

 なすすべもなくエレノアは吹き飛ばされた。その際、エレノアから紫色の水晶が落ちた。

 

「な、なんで……アキトは確かにあなたを……」

「流石にあれは危なかった……あと一歩遅れていたら俺は死んでいたよ。しかしまあ、虚無のルーンは入れられなかったが───」

 

 ロイドは腕に力を込めると、再度笑う。

 

「素晴らしいな、この肉体は……この力があれば……俺はこの世界を簡単に破壊できるだろう!」

 

 ロイドは言いながら、アイリスを見下ろす。

 

「さて……まずはじめに……光の王、貴様から消えてもらおうか」

 

 アイリスは足に力を込めて逃げようとする。手に力を込めて、抵抗しようとする。

 

「……!」

 

 出来なかった。

 

 最愛の人である彼の身体だ。傷つけるなんてそんなこと───

 

「……できるわけ、ないよ」

 

 アイリスは諦めて自分の死を受け止めた。一度死んだこの身だ。二度死のうが三度死のうがもう何も変わらない。

 

 ───ごめんなさい、アキト。

 

「消えろ」

 

 ロイドは、アイリス向けて剣を振り下ろした。

 その時だった。エレノアが落とした紫色の水晶が眩しいほどに輝いた。

 

「───なにッ。グッ!?」

 

 瞬間、ロイドは真後ろへと吹き飛ばされた。

 

「───久しぶりの、地上か」

 

 その全貌が徐々に顕になる。

 水晶の中から出てきたのは黒いコートを身に纏った長身の青年だった。

 赤い髪と黄金の瞳、異形の形をした片刃の剣を担いだ青年。アキトとどことなく似ているが、声も肉体も魔力の質も全然違う。

 

「あ、あなたは───」

 

 アイリスが震える手で青年を指さした。

 だって、彼は目の前で切られたはずの───

 

「相変わらずの面構えだな、光の王」

 

 青年───アデルは蹲るアイリスを見下ろして言った。




書き方忘れてる。

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