白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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文章を変える作業が終わったので。内容の追加だったりいらないところを無くしたりなんかしてたら時間経ってました。


不吉な予兆

 アキトの戦いは洗練されている。的確に相手の攻撃を捌き、受け流し、隙を見ては反撃。本当に自分なんて必要なのだろうか?とそう考えてしまう。

 キャトラが一生懸命フォレストクイーンから逃げているが、今回アイリス自身はモンスターの標的にはならない。一体なぜだろう。

 

『───!』

「余所見してる場合か」

 

 アキトの放ったバスターブレードがフォレストクイーンの頭から付け根にかけて一気に叩き切った。これを見るだけで本当に自分は必要だったのだろうか、と考え込んでしまうが当のアキトが必要だった、というのだ。間違いはないはずだ。

 だがやはりこの鬼神の如き強さをみるとどうしても考えてしまう。

 アキトは一体、どこでこの戦闘能力をに入れたのだろう、と。

 以前、彼に転生者、もしくは転移者であるかどうかを話をぼかして聞いたことがある。その答えは「ノー」であった。それで得た力など意味がないだろう、とのことだ。

 

「アイリス」

「ひゃい!!」

 

 思考の海に沈みそうなところをアキトに無理矢理引き上げられる。瞳を何度も瞬かせながらアキトを見やると、怪訝そうな面持ちでこちらを見つめていた。

 

(よこしま)なこと考えてただろ」

「そ、そそそそんなことは───ないよ?」

「どうだかな……にしても」

 

 アキトはフォレストクイーンの死骸へと視線を向けた。

 

「変異種の調査は、意外と早く終わりそうだな」

「……ええ」

「無理にこいつに近づく必要はないぞ。誰しも苦手なものはある」

「私だって冒険家の端くれ。いつかは克服しないと───」

 

 フォレストクイーンへゆっくりと近づき、身体に生えていた砲身に触れる。

 固い。本当にこんなものが植物から生えていたのだから、驚愕ものだ。そもそも植物が動くと自体吃驚なことではあるのだが。

 

「……そういえば、ジャガーも」

「手に結晶が生えていたな。あれも変異種とみて間違い無いだろう」

「どうして、こんなことに?」

「さあな。とりあえず、先を急ごう。暗くなる前にできることなら帰りたいが───おい、エルフ。お前、このまま着いてくるつもりか?」

 

 アキトの言葉に草むらからカサッと音がした。数秒の沈黙が辺りを包み込む。やがて諦めたのか、草陰から人影ゆっくりと現れた。

 

「エレサールさん」

「流石にギルドカードなしのルーキー二人にこんな危険な場所行かせるわけには行かなかったからね。まあ、私の出番はなかったようだけど」

「……」

 

 軽口を叩きながらも、エレサールの表情は真剣だった。

 

「君たちは村に戻って、ラーレッタたちにこの事を伝えてくれないか?」

「……まだミノタウロスの討伐をしていないが?」

「そんなことを言っている場合じゃない。本来、フォレストクイーンはここまで獰猛ではないし、ここまで危険な存在ではないんだ」

「で、お前はここに残って調査を続けると?」

 

 アキトの言葉にエレサールが深く頷く。それに対し、アキトは鼻で笑った。

 

「本来の武器を使っていないとはいえ、俺にすら勝てないお前に、何ができるってんだ?」

「なんだと?」

「ちょっとアキト……」

 

 アイリスがアキトを諌めようとするも、アキトはエレサールから視線を逸らさず言葉を続ける。

 

「紛れもない事実だ。この変異種は俺じゃなきゃ倒せなかった」

「それは……」

「ラーレッタに関してはお前が行け。俺は、この奥にいる奴に用がある」

「この、奥?」

「ああ───お前らギルドが言っていたミノタウロスに、な」

 

 含みのある言い方にアイリスとエレサールは眉を顰める。

 

「来ればわかると思うけどな」

「───わかると思うけどな、キリッ!じゃあないわよ!!」

 

 と、真横から白い塊がアキトを叩いた。

 

「このキャトラ様を囮にした挙句、放置するなんていい妥協してるじゃない!!」

「……忘れてた」

 

 気づいたら姿を消していたキャトラであったが、まさかアキトの隙をついて攻撃するとは。アイリス心の中で「すごい」と素直に称賛の言葉を送った。

 そして、当のアキトは叩かれた態勢のまま動かずにいたが、数秒後に眼球運動だけでキャトラを睨めつけて口パクで何かを言った。

 

「お、ま、え、を、こ、ろ、す。はは、キャトラ殿、喧嘩を売る相手を間違えましたな」

「ぎにゃー!!」

 

 キャトラのなんともいえない叫び声が森中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 一先ず、エレサールをラーレッタの元へと帰させ、アキトとアイリスはミノタウロスがいるであろう場所へと向かっていた。尤も、当のエレサールは心配なのだろう。距離を離して後ろから着いてきているのだが。

 

「おわった……私の猫生おわった……」

「キャトラ、お願いだから足を動かして?」

 

 アイリスの横脇に抱えられたキャトラはぶつくさ文句を言いながら負のオーラを出していた。周囲の雰囲気まで悪くなるのでやめて欲しいものである。アイリスは溜め息を吐きながら、先導するアキトに声を掛けた。

 

「アキト、さっきのミノタウロスって、どういう意味なの?」

「ん?」

「いや、なんだかすごく含みのある言い方をしてたから」

「───ああ、そのことか」

 

 アキトは考えるような素振りを見せてから、首を横に振った。

 

「直感だけど、この奥にいる奴はミノタウロスじゃない」

「───え?」

 

 アキトの言葉にアイリスは思わず足を止めた。

 

「ミノタウロスじゃないって、どういう意味?」

「あいつらはジャガー共が作った獣道を使って、移動するんだろ。その時、特有の草の倒れ方がする。今回はそうじゃなかった。そいつが通った道が()()()()()

「燃えて───?」

「ああ。姿形が似通った全く違うモンスターだと想定しておいた方がいい」

 

 燃えるミノタウロス、ということはないのだろうか。とふと考えたが、生物は火に弱い。そんなことあるわけないか、その考えを改める。

 しかし、その直感は最悪の形で的中することとなった。

 森の開けた場所に辿り着いたアイリスたちの視界に、ゆらりと立ち上る陽炎と、焦げ付いた土の匂いが飛び込んできたからだ。

 

「あれは……」

 

 アイリスが息を呑む。木々の隙間から漏れ出す熱気は、明らかに自然界の生物が放つものではなかった。

 そこにいたのは、拘束具に身を包んだミノタウロスのような『なにか』だった。

 ミノタウロスの面影を残しつつも、その姿はもはや異形へと昇華されている。天を突くほどに鋭利化した双角は空を裂き、手にした巨大な両刃斧は、手入れはされていないものの叩き潰すだけならばそれで十分である。

 鋼鉄の盲蓋(めくらぶた)で視界を閉ざしているが、その威容に隙はない。特筆すべきは四肢を侵食するソウルだ。

 限界を超えて充填された力が肉体を内側から爆ぜさせ、指先から二の腕にかけては、高熱に焼かれたかのように白灼している。亀裂から漏れ出す粒子は、さながら肉体の崩壊と再生を繰り返す炎の奔流であった

 

「私の知ってる、ミノタウロスじゃない……!」

 

 エレサールが草むらから飛び出し、アイリスたちの横に立つ。

 

「エレサールさん!」

「なんだ、あの受付エルフの元に戻るんじゃなかったのか」

「言ってる場合か!」

 

 アキトとアイリスは剣を、エレサールは弓を構えて怪物の様子を伺う。

 目は塞がれている。しかし、塞がれているということはその他器官が発達しているというわけで。そして、もうここは怪物の領域だったのだろう。

 

『GuuUUruooOOOOO!!』

 

 唐突に雄叫びを上げたかと思うと、アイリスを途轍もない脱力感が襲った。それはエレサールもアキトも同様だったようで、顔を顰めていた。

 

「こいつ───!」

 

 エレサールがソウルを纏わせた矢を放とうとするも、ソウルがうまく弓と矢に集まらない。まさか、とアイリスも剣に火を纏わせようとするも上手く集まらない。

 

「ソウルの流れを乱された……?」

 

 何度やっても上手くソウルを練ることが出来ない。怪物が咆哮を上げた同時に、途轍もない脱力感が襲ったので、恐らく怪物の特殊行動であることに間違いはないだろう。

 だが───スキルなしで、どうこの怪物に太刀打ちすればいいのだろう。

 

「……凶暴(バーサー)───!」

 

 アキトが何か小さく呟いたかと思うと、剣を地面に突き刺し、目を閉じた。

 そうしている間に、怪物はアイリスたちの方へと走り始めていた。

 

「よけて!」

 

 堪らず叫ぶと、アキトは目を開けて横へ跳躍。怪物の突進がアキトの立っていたところに炸裂した。しかし、剣はその時の衝撃に巻き込まれ、後方の木に深く突き刺さった。

 

「目は見えてないのに、なんでこんな的確に───」

 

 アイリスのその疑問に答えるかのように、怪物の鼻がひくひくと動いているのが確認できた。まさか、匂いだけを頼りに位置を的確に特定したというのか。

 

「怖いか」

 

 肩を回しながらアイリスの横に立ったアキトはそう訊ねる。

 

「……ええ、とても」

 

 そんなアイリスを横目にアキトは何か考えるような素振りをみせてから、再びアイリスを見やった。

 

「俺が時間を稼ぐ。アイリスはその間に準備に入れ」

「準備?」

「海を干上がらせたあの技だ。今の俺たちには、あの技が必要だ」

 

 アキトは拳を合わせ、構えを取ってから不敵な笑みを浮かべると、地面を蹴って怪物の懐へと飛び込んだ。

 

「アイリス頼んだぞ!」

「でも、今はソウルの流れを乱されて!」

「あの技はアイリスのソウルを使う技じゃない!やるんだ!!」

 

 アキトの叫び声を合図に、アイリスはなにかを訴えるような視線を送る。

 

「俺を信じろ!」

 

 アキトの言葉にアイリスは小さく息を吐いてから剣を構え、周囲の生物から少しずつソウルを分けてもらう。

 

「お願い……私に力を貸して!」

 

 かつて海を干上がらせたあの一撃を放つためには、膨大なソウルを集束させて臨界点まで高めなければならない。アキトが稼いでくれるであろう「七十秒」という時間は、今のアイリスにとって永遠のように感じられた。

 一方、武器を失ったアキトは、怪物の猛攻を紙一重でかわし続けていた。

 

『GuuUUruooOOOOO!!』

 

 怪物が巨大な戦斧を振り下ろすたびに、大地が爆ぜ、熱波がアイリスの肌を突き刺した。

 しかしアキトは、ソウルを乱された弱体化状態など微塵も感じさせない動きで、怪物の死角へと入り込む。

 

「阿呆が。図体ばかりのデカブツが」

 

 アキトは剥き出しの拳にわずかなソウルを無理矢理凝縮させ、怪物の膝の裏へと鋭い打撃を叩き込んだ。

 

『!?』

 

 巨体がわずかに揺らぐ。しかし、怪物は即座に斧の柄でアキトを弾き飛ばした。

 

「アキト!!」

 

 アイリスがそう叫ぶと、アキトは空中で体勢を立て直し、着地しながら片手で制します。

 

「……俺のことはいい!集中しろ!!」

 

 打ちどころが悪かったのだろう、アキトの口から血が溢れた。

 それでも彼の瞳にある蒼い光は、少しも衰えていない。それどころか、死線を踏み越えることを楽しんでいるかのような狂気すら孕んでいた。

 

「アイリス、急いで!このままじゃ、アキトが───!!」

 

 キャトラが震える声で呟く。エレサールもまた、ソウルが集まらない弓を構え、牽制の矢を放とうと必死に足掻いていた。

 

「あと、もう少し……!!」

 

 アイリスの剣が、徐々にまばゆい黄金の光を放ち始める。その光の強さに呼応するように、怪物の殺気がアキトではなく、光の源であるアイリスへと向けらる。

 怪物の鼻が大きくひくつき、標的をアイリスに固定した。

 

「させねえよ」

 

 アキトが怪物の前に立ち塞がる。武器もなく、防具もない。今手元にあるのは己の肉体のみ。

 

「こいよ、お前の相手になってやる」

 

 アキトは再び拳を固め、暴走するソウルの熱波の中に身を投じた。

 

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