目隠しをして戦うトレーニングを始めて、ほぼ一週間。
モンスターが現れない限り、アバンとロカはトレーニングを続けた。
先に闘気を掴み始めたのはロカの方だった。
「せやぁ」
「うお!?」
打ち込まれて、アバンは尻もちをつく。
「一休みしようぜ」
自分が出来ているから、きっとアバンも…などと楽観的に考えていたロカとは対象的に、いつまでも自分だけ出来ないアバンは更に焦りを募らせていた。
「どうして私だけ出来ないんだ…!!」
見かねたアテナがアバンとロカに近づき、声をかける。
「ロカ。目隠ししなくて良いから、午後は私と打ち合いしない?」
「ああん?アバンさえ良ければかまわねぇが…どうだ、アバン?」
アバンはアテナに何か意図がある事に気付いたらしい。
「その間、私は何をすれば良いですか?」
問うアバンに、アテナは答える。
「闇雲に打つから掴めないのかも知れないと思ってね。ロカと私が打ち合っている間、アバンには目を閉じて観察していて欲しい。なんなら目隠ししててもかまわない。慣れてくれば、どっちがロカでどっちが私かまでわかるはず。1ぺんやってみて損はないと思うけど…どうかな?」
「…。分かりました。そうしましょう」
昼食を取った後、ロカとアテナは打ち合いを始めた。
目隠しをしない真剣勝負。
目を閉じているアバンには、最初は打ち合う音だけが響いた。
しかし、日が暮れ始めた頃…
「ロカ、もう一度相手をしてくれませんか?」
目隠しをしながらアバンが言った。
「おう、いいぜ」
ロカも目隠しをする。
午前中までの、アバンの焦った表情がなくなった事に気付いたアテナは観察する事にした。
「さあ、いつでもかかってこい!」
そうして、アバンとロカの打ち合いが始まった。
午前中までとは打って変わって白熱した打ち合いになった。
目隠ししているとは思えないほど正確に打ち合う2人。
すっかり日が沈んだ所で、アテナが号令をかける。
「そこまで!!」
白熱した打ち合いを終えた2人は、この上ない程息を切らせている。
「アバン、掴めたみたいだね?」
「ええ、闘気が光って見えました」
「じゃあ、またスモークやガストに会えるといいね」
「何ですって?」
アバンはアテナの発言に困惑する。
会わなければ会わないに越した事はないのに、と…。
「あいつらの闘気は、ものすごく禍々しいよ。見ればわかる」
アテナの言葉に、真意を感じ取ったアバンが独り言のように言う。
「なるほど…私たちの闘気は光っている、対して敵のスモークやガストの闘気は禍々しい…という事は…禍々しい闘気は、光る闘気をぶつけることで消滅する…」
意を決したように、立ち上がるアバン。
「それでは、禍々しい、悪の闘気を、光る正義の闘気で斬る…この技を”空裂斬”と名付けましょう」
そう言い放ったアバンは、ここ最近では見なかったほど清々しい顔をしている。
「”空裂斬”ね…良いと思うよ」
アテナはそう言いながら、心の中ではガッツポーズをしていた。
翌日の夜、タイミング良く、再び魔王が現れた。
スモークとガストを含む、モンスターの軍勢を連れて…。
アバンもロカも、”禍々しい”の意味を痛感した。
スモークやガストだけではない。他のモンスターたちも、魔王ハドラーも、禍々しい闘気を放っていた。
スモークを”空裂斬”で仕留めたアバンは、何かを感じたようで、魔王に近づいたチャンスを逃さず、必殺の一撃を放った。
ハドラーが慌てて距離を取り身構えたので、倒す事こそ出来なかったが、今までのそれとは比べ物にならない破壊力にアバンは必殺技の完成を確信した。
見事モンスターたちを退けた勇者一行は、魔王を追い詰めたが、魔王は再び逃げていった。
「大地を斬る大地斬、海を斬る海波斬、空を斬る空裂斬…そして全てを斬る必殺の一撃…」
アバンは己の手を見つめながら感じ入っていた。
「私のアバンストラッシュの完成です」
そして、いよいよ魔王の根城を突き止めたいと考え始めたアバンは、世界地図を持って朝食に現れた。