地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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前回投稿した同話の修正版です。


19.5話 Lopsided Battle

スカウト1-6隊長《こちらスカウト1-6。敵軍団の中に新型らしき機影を確認しました》

桐島司令《了解。引き続き、情報収集に務めよ》

隊長《了解しました》

 

スカウト1-6は海岸線に遺された第二次世界大戦の名残であるトーチカに身を潜めていた。コンクリートで作られた四角形の小部屋で、壁に掘られた窓、もとい空洞からヘクトル群と見たことのない四足のメカを視認していた。

隊員A「なんて数だ...」

隊員B「既に日本はこれだけの大群の上陸を許してしまっているのか」

隊長「静かに...あの新型兵器はなんだ...」

その時、一斉にヘクトルが起動し、行軍を開始した。無数の足が砂浜を荒らし、彼らの体を上下に揺さぶった。吐き気を覚え、思わず膝をつく。

見れば、ヘクトル群の中に新型メカも混じっている。歩行能力を持っているようだ。浮遊などは見られない。

隊員B「隊長!」

隊長「ああ!分かっている」

隊長《こちらスカウト1-6!ヘクトル群が移動を開始しました!》

桐島司令《なに!?ベガルタ隊の配備は終わっていない!》

現場、司令部ともに混乱が訪れる。

隊員A「とにかく、威力偵察を頼むべきでは」

そんな中、冷静に事を見ていた隊員が提案した。

今確認すべきは新型歩行メカの存在である。

隊員B「それなら、いっその事ヘクトル群を一網打尽にしてもらえばいい!」

隊長「そうだな。司令部に問い合せてみる」

隊長《こちらスカウト1-6、新型歩行メカを役割が見えません。作戦を繰り上げて砲兵隊に威力偵察を頼むべきです。同時に、ヘクトル群の撃破を行えます》

桐島司令《許可する。砲兵隊が展開を完了している、エアレイダーは砲兵隊に要請コードを送れ》

隊長「頼みます」

そばに控えるエアレイダーがコクリと頷いた。

エアレイダー「分かった」

エアレイダーの投げた発煙筒は着弾し赤い煙を上げる。

 

砲兵《こちら砲兵。随分と早い要請だが、準備は出来てるぞ!》

砲兵《マーカーを確認!榴弾砲、発射する!》

 

数秒後、上空から砲弾の雨が降り注いだ。

 

だが、砲弾が着弾する直前、新型歩行メカが何かを作動させる動作を見た。大爆発が辺りを包む。熱風はスカウトチームの元へと殺到し、思わず顔を背けた。

 

砲兵《着弾を確認。どれだけの敵を殺ってやりましたか?》

エアレイダー《こちら...エアレイダー、信じられない。敵の被害はゼロだ》

砲兵《なんだって!?》

隊長「決まりだな...」

隊長はどこか遠い目になる。

隊員A「おい!早く逃げろ!」

エアレイダー「崩れます!早く逃げましょう!すぐ先に装甲車を停めてあります!」

隊長「ああ!」

突如周囲が慌ただしくなる。一体のヘクトルがこちらに向かっているのを確認したのだ。隊長がトーチカを飛び出ると同時に、光弾がコンクリートを砕く。トーチカは崩壊した。間一髪である。

 

一行は装甲車へと走る。だが目にしたのは無残にも破壊された装甲車の姿だった。

逃げ場はないと悟った隊長は迫るヘクトルに向き直る。

ヘクトルはもう2機を引き連れて追ってきていた。

背負っていたM40A5スナイパーライフルを直立状態で構え、狙いを定める。そして撃った。続くように部下2名も射撃。

ヘクトルの胴体部に穴を開けたが、損害はそれだけだった。

M40A5を地面に叩きつけ、やけくそにMG-14手榴弾を取り出しピンを抜いた。

だがヘクトルの反撃はすぐに帰ってきた。

隊員A「うおおおおおーぎゃあッ」

光弾が直撃した隊員は短い悲鳴と共にこの世を去った。

エアレイダー「うわあああああ」

爆風に巻き込まれたエアレイダーは大きく宙を飛び、装甲車の残骸に全身を強く打ち付ける。恐らく息を引き取っただろう。

隊員B「くらいやがれ!」

生き残っている隊員と隊長は同時に手榴弾を投げた。たちまちヘクトルは右足と左手を失う。

だがこれまでだ。

後方に控えていた2機のヘクトルの掃射や光弾の雨が2人に殺到する。

声を上げることすら許されず、2人は屍と化した。

 

スカウト1-6は後にシールドベアラーと呼ばれる兵器を報告出来ぬままこの世を去った。

 

【約10分後の平原、第1機械化歩兵大隊】

 

桐島司令《ポスト1司令部よりζリーダー。配備状況を報告せよ》

ζリーダー《こちらゼータリーダー。ζ(ゼータ)η(エータ)共に戦闘態勢が整いました。あとはθ(シータ)隊を待つのみです》

 

海岸近くの平原では、原色の青に近い装甲に覆われ、両腕部にそれぞれロケット砲とリボルバーカノン(機銃)を装備した二足歩行のバトルマシン、ベガルタM2の部隊が3つのグループに分けられていた。

ζ隊は最前線に配置されている。その後方にη、θと続く。

桐島司令《了解した。...!》

桐島司令《ポスト1よりベガルタ隊。海岸で停止していたヘクトルの編隊が侵攻を開始した。先程砲兵隊による威力偵察を行なったが、不可解なことに損害なし。気をつけろ。すぐに接敵する...既にスカウトチームと同行したエアレイダーが犠牲となった。必ず無念を晴らすんだ!》

ζリーダー《了解……?》

θリーダー「シータ隊、配備完了しました!」

θリーダーに敬礼を返したζリーダーは、レーダーを確認する。

レーダーにはすでに敵の姿が表示されていた。曇天に覆われ肉眼では見えない。

自機に乗り込むと全開無線で命令を下す。

ζリーダー《総員、前方に集中しろ》

次々と落ち着きに溢れた応えが返ってくる。

 

突如暗闇から銀色の光沢が現れた。ヘクトルの群が到着したのである。数は20体程とベガルタ隊の半分だ。ζリーダーは勝利を確信した。ヘクトルの中には砲撃型もいるようで、大きな包のような腕を高々と上げている。たまらずζ隊の面々は戦闘ロボットの腕部に装備されたロケットランチャーを撃った。ζ、η、θの総数100発以上のロケット弾がヘクトル群に襲いかかる。その爆風でヘクトルの姿を見失ってしまう。

 

ζリーダーは気がかりだった。ロケット弾が続々と着弾し爆発の轟音が響く中、金属同士がぶつかり合うような金切り声が断続的に聴こえたのだ。やがてζリーダーはその正体が何なのかを死を持って知ることになる。

 

1人の隊員が呟く。

《おいおい、どうなってやがる...》

また1人の隊員が叫んだ。

《敵の損害、ゼロ!どうなってる!》

 

レーダーはあまりに惨たらしい現実を映していた。

敵の反応を示す赤点がひとつも減っていない。それどころか爆風を味方につけて最前線のζ隊に急接近していた。

 

爆風が透明度を増していくとヘクトルは立っていた。腕部の銃口はベガルタへと向けられている。さらに不可解なのは時々ヘクトルの姿がグニャリと曲がったり姿がぼやけたりすることだ。

 

ζリーダーは以前友人のかけている眼鏡を借りて周りの景色を見たのを思い出した。眼鏡のレンズを介して見た景色は拡大や縮小で摩訶不思議な世界へと変貌していた。

 

爆風が晴れ、ヘクトル群との距離が300mをきった時、ζリーダーは目視で確認する。爆風で気づくのが遅くなったことを後悔した。

ベガルタと同じ10mほどで、四足の兵器が追従している。

 

ζリーダー《こちらゼータリーダー。あの四足歩行兵器はなんだ》

桐島司令《やつが新型の四足歩行兵器だ。慎重にいけ!》

ζリーダー《了解!総員、一旦距離を取れ!》

ζ隊のベガルタM2が一斉にスラスタージャンプを行う。ベガルタの後方に取り付けられた飛行モジュールから炎が吹き上がる。

ζリーダーは機体を後方に倒しながらヘクトル群へ牽制射撃を行う。

だが虚しく弾丸はヘクトルに届くことなく半透明の壁に弾かれる。

ζリーダー《くそっ!なんなんだ!》

ζ-2《隊長!これは敵の防御スクリーンです!あの四足兵器は防御スクリーン発生装置です!》

ζリーダー《そんなものを地上戦に持ち込みやがったのか!ぐわっ》

 

突如滞空していたζリーダーと機体を謎の衝撃が襲った。

衝突されたかのような感覚が押し寄せ、ζリーダーの頭をかき乱す。

滞空中に壁に激突し、叩き落とされたのだ。

とてつもない吐き気と頭痛に襲われたζリーダーはそのまま気を失い、機体は地面に激しく激突。着地に失敗した衝撃で破損した脚部は数メートル先に飛ばされていた。

さらに500メートル先のヘクトルによるガトリング砲が追い打ちをかける。ベガルタの装甲を悲惨なものにした。

 

ζ-3《隊長!》

ζ-2《隊長ぉ!》

ζ-2《司令部!応答願います!敵は防御スクリーンを展開!全く歯が立ちません!》

ζ-2《隊長!隊長応答して下さい!ちくしょうッ》

ζ-2は声を荒らげる。冷静さを失っていた。

ζ-4《ゼータ2!》

ζ-2《すまない......》

ζ-2《隊長が戦死されました。規定により以降は私が指揮を行います》

ζ-3《頼んだぞゼータ2!》

ζ-4《ゼータ2、隊長の弔い合戦といこうぜ!》

その後もζ各隊員から激励がζ-2を鼓動する。

ζ-2《ゼータ各隊員に告ぐ!防御スクリーン内部に侵入し、敵ヘクトル群を殲滅せよ》

ζ-3からζ-15までのベガルタM2が防御スクリーンに向かって前進を開始。

ζ-2(おそらく、運動量を持った物体の通過は遮断される。どうする?)

 

ζ-10《ぐわっ!》

ζ各機は通過を許さない防御スクリーンと相撲のような攻防を展開していた。防御スクリーンの物質としての壁に文字通り押されているのだ。

そこにヘクトルは追撃を加える。一機、また一機と爆散する味方を横目に、ζ-2は嘆いていた。

ζ-2(ちくしょう......)

ζ-2「はっ!?」

ζ-2は数機のヘクトルに狙われていた。もう自分しか残っていないのだ。

ζ-2《こんな兵器があるなら、最初から人類に勝ち目は無かったのかもしれないな...》

 

ζ-2はモニター越しに光る銃口を見る。刹那、全ての感覚や聴覚が遮断された。

 

 

 

【数時間後、平原、θリーダー】

 

θリーダー《こちらθリーダー!ζとηは全滅した。敵の防御スクリーンになす術なく殲滅戦に入っている》

桐島司令官《作戦エリアに展開中の部隊は早急に撤退せよ!装備は放棄していい!》

隊員《うわああああああ》

今や無線も機能しておらず、阿鼻叫喚に埋め尽くされている。

指揮系統はとっくのとうに崩壊した。

 

そんな中、θリーダーは思う。

俺たちは8年前神に背いた。再び神は罪人たる人類に裁きを下しに舞い戻ったのだ。と

 

いつしか脱げていたヘルメットに手を伸ばし、今の惨状を報告せねばと手を伸ばしたが力なく倒れる。θリーダーの意識はそこで途絶えた。

 

後にオハラ博士は彼らを神と称する。だがそれは人類にとって救済の神ではない。人類を狩り尽くさんとする死神なのだ。


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