僕にヒーローマカデミア   作:Athlon

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2話

形無しが日本について聞いてきたあの日から、形無しの様子がどうにもおかしい。

 

俺は今、部屋の中でペンを走らせながら、そんな事を思っていた。

 

前まであんなにヴィラン絶対殺すマンで嬉々揚々とヴィラン狩りに出向き、千切っては投げ千切っては投げを文字通りに実行していた形無しが一変、俺にドリルやら教科書やらを与えて勉強をさせるようになったのだ。

 

一日一殺のノルマも無し、修行も必要最低限に抑えられて、仕事も1週間に一回しか連れて行って貰えなくなった。

 

その代わりというように一日中部屋の中に閉じ込められて延々と勉強をさせられる。何処で修めたのか数学から始まり地歴公民文系理系関係なく様々な教科を、形無し手ずから叩き込まれる。

 

最初こそは初めから前世の記憶を持っていた俺からすれば復習というレベルの量だったが、次第に高校受験目前に控えていた一応受験生である俺ですら知らない場所まで教鞭を取り始め、今では悲鳴を上げながらの学習である。辛い。

 

一度何故いきなり勉強なんかさせてくるようになったのかジェスチャーで聞いて見たのだが、答えは「いいから今は黙ってペンを動かせ』の一言のみ。黙ってるもん。

 

更には、日本語に対する俺の吸収率(元々日本人なので、これも復習レベルだった)にやたら感銘を受けたのか、最近では中国語、ロシア語、韓国語などなど、様々な言語を学習させられるようになった。

 

仕事手伝っている時よりもきつい。だってほぼ1日全て勉強に費やせられるんだもん。頭が何回パンクしそうになったことか。

 

理由も教えてくれねえんだもんなー。何度聞いても「今は勉強だ」の一点張りだし。

 

そんなこんなで早数年。俺も今年で14歳になる。前世で言うところの中学三年生だ。

 

女の子の日の襲来だったり、胸が少し膨らんできたりとイベントらしきものもあったが基本は変わらない。勉強と修行の日々である。

 

そんなある日のこと。

 

俺がいつも通りに朝起きて、シャワー浴びて飯食って勉強の用意してと既にルーチンと化した行動をしていると、形無しがボストンバッグを持って現れた。

 

そして俺の前にボストンバッグを無造作に放り投げて、端的に一言。

 

「…それを持ってついて来い」

 

どこに?とは当然問えませんでした。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

エアポートまで連れていかれて、乗って、飛び立って、眠ったり空をぼおっと眺めること数日。

 

「ふむ、ここが日本か…」

 

そう、俺は今、日本の大地に立っていた。

 

世界が変わり、個性やヒーロー、ヴィランの有無の差異があるからと言って、日本の雰囲気は前世の世界と比べてそう違いはなかった。何というか、ずっと離れていた故郷に久しぶりに顔を出した気分だ。まあ、魂的にはそう間違いではないが。

 

しかし、始末屋なんていう真っ当とは程遠い職の手伝いをしている内は、治安の良い日本など絶対に行くことはないんだろうなと思っていたのだが。何だか感慨深い気分である。

 

「…行くぞ」

 

そんな俺の感動をよそに、形無しが歩き始めた。俺はボストンバッグを持ち直して慌てて追いかけたのだった。

 

適当にタクシーを拾い、たどり着いた先はとあるビルの足元だった。看板を見てみると、そこにはデカデカと『フロストエッジヒーロー事務所』と書いてあり、どうやらここは数あるヒーロー事務所の一つのようだ。

 

フロストエッジは、個性『氷像』を巧みに操る氷のヒーロー…だったかな?日本のヒーローの情報を何故か叩き込まれた俺に死角はない。

 

日本のみにとどまらず外国にまで活動範囲を広げており、国際的ヒーローとしても有名である。なので地味に顔の広い形無しがフロストエッジと知り合いになっていても驚くべきことはないが…なんだってこんな所に?

 

と疑問を浮かべる俺を知ってかしらずか、形無しはビルに入り、カウンターを経て正規の手続きで中に入り、とある一室に足を踏み入れた。

 

「失礼する」

 

形無しにしては珍しい事に、丁寧に中に入る。中には1人の男が事務机に腰をかけて待ち構えていた。

 

青い髪の毛を、まるで水滴のような形に固め、シミひとつない白いスーツを着ている…要は変人のような格好をしていた。

 

しかし、その立ち居振る舞いから彼がヒーロー…少なくとも、十や二十では足りない戦場をくぐり抜けて来た強者である事は見て取れた。

 

こう言うプロヒーローはやはりそう言う雰囲気を持っているものである。俺もまだ幼いとはいえちょっとは殺し合いしたり殺したりをしてた人間だ。嫌でも分かるのだ、そう言ったオーラという物が。

 

「やあ、待ってたよ、形無し君」

「フロストエッジ…すまないな、少し予定が狂って遅れてしまった」

「なに、君の事だ、またぞろトラブルにでも巻き込まれてきたのだろう?予定は狂っていないよ。少なくとも僕の方ではね」

 

にこやかにそう言って、「まあ気にすることはない、取り敢えず腰掛けたまえ」、と俺と形無しをソファーへと招いた。

 

そして俺と形無しがソファーに座るのを待って、自分も腰掛ける。

 

「久しぶりだ…本当に。あれから調子はどうだい?」

「まあボチボチだ。お前さんは…まあ、聞くだけ無駄だろうな」

「そこは一応聞いておけよ。僕だって少しは色々とあったんだから」

 

と2人で仲良さげに会話し始めた。俺は依然としてぽかんとその様子を眺めるだけである。形無し、そろそろ事情を説明しろよ。

 

そんな俺の心情の機微を察したのか、フロストエッジが「おっと、積もる話もあるが、その前にすべき事があったね」と話を中断した。

 

「さて…そちらの子が?」

「ああ。俺の…まあ、娘のようなもんだ」

 

頭にポンと手を置かれる。子供扱いすんなと軽く払い落として、ぺこりと頭を下げた。

 

「あんな小さな子が、もうこんなに大きくなったのか…時間とは過ぎるのが速いものだ」

「それで?準備はできてるんだろうな?」

「ああ、形無し君。そんな事を聞いてくるなんてな。僕のことを信頼してくれていて嬉しいよ。君が僕に押し付けて着た国籍、住民票やらその他様々な雑務は全て終わっているとも。何、僕も顔は広い方でね、全て正規の手続きを踏んで完了している」

 

国籍?住民票?なんのこっちゃ?

 

流石に目を白黒させていると、フロストエッジが怪訝な顔で問いかけた。

 

「なあ形無し君?君はちゃんと彼女に説明したのかい?」

「…してない」

「…まあ、その辺は何も言わないさ。さて、取り敢えず僕の仕事はこれで終わった。最後に君達を住居まで案内させてもらおう。形無し君は今日の夜か明日かに絶対に僕に顔を見せにくる事だ。無視して外国に行ったとか言ったら痛い目みるぞ」

 

そういう感じで、フロストエッジは車を出して俺達を送ってくれる事になった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

うん、つまり今までの勉強は全てこの日の為で?

 

「…ああ」

 

日本に行く事を何も言わなかったのは俺が承知していると思ってたからで?

 

「…まあそうなる」

 

俺はこれから日本で、学校行ってヒーローを目指す事になる、と?

 

「嫌ではないだろう」

 

このドアホが、それ以前の問題だ。

 

 

連れてこられた場所は、とあるマンションの一室だった。そのマンションは所謂高層マンションというもので、セキュリティや内装なんかから見ても金持ち専用と言った感じの場所だった。

 

そこで俺は初めて形無しの思惑を聞く事になった。

 

曰く、俺にはヒーローになって貰いたい。日本に来た理由は日本の方が治安がいいから落ち着いて勉強できるだろうしとの事。それと雄英というかなり有名なヒーロー科のある高校があるらしいから、そこに是非進学してくれ。尚細かな手続きは全て終わらせておいたぞ…要約するとこんな感じだった。

 

聞いてないぞ、と激昂すると、形無しは聞いたと言い張った。よくよく聞いてみると3、4年前の「日本って知ってるか」発言の事を指していたらしい。察せれるかい馬鹿野郎。

 

「…すまねえ」

 

プンプン怒っていると形無しがボソッとそう言った。

 

はあ…なんでこんな事をしたんだよ?

 

「…お前は才能がある。始末屋としてじゃねえ、ヒーローとしてだ。闇の世界はお前にとっちゃ狭過ぎる。お前は、もっと大きな舞台で羽ばたくべきだ」

 

…むぅ。

 

なんか物凄く俺の事を考えてくれたような発言で、出鼻をくじかれた。そんな事思っているなんて分かるか。普通に日本に捨てていかれるのかと思ったじゃねえか。

 

っていうか、そんな事考えてたなら尚更俺にいうべきだろ!ってやっぱり一方通行は怒ってみたり。

 

「はあ…相変わらずお前は騒がしいな」

 

手を振り上げて怒っていると、形無しが頭に手を置いてふ、と笑った。

 

いや、顔見えないから分からんけども。多分雰囲気的に笑った、気がした。

 

「俺はずっとここにはいられない。もうそんな時期はとうにすぎた…まあ、ちょうど良い機会だろ。アヒルの雛みたいに俺の後ろ付いてくだけじゃなくて、そろそろ他んとこも見て回ってこい」

 

つまり日本では俺1人で活動しろと?まあ、良いけどさ。

 

「なに、困った事があったらフロストエッジにでも放りなげろ。大概はなんとかしてくれるだろ」

 

了解。任せておけ。俺は形無しにサムズアップした。

 

「お前の頭と実力なら雄英レベルは確実に受かる…雄英や試験についての情報はこれらに書いてあるから、目を通しておけ」

 

そう言って渡されたのは雄英のパンフや情報、模試試験の塊だった。ぱらぱらめくってみる。まあ、確かにこのレベルなら楽勝かもしれんが。

 

って言うかマジで俺雄英に行くの…?緑谷なんとかって名前の主人公、今何歳くらいなんだろう。もし同い年とかだったら同じクラスとかあんのかな…?

 

「ちなみに、お前の名前も国籍を入手するにあたって決めてある…九重白夜だ。九重は適当につけたが、白夜に関しては…まあ、色々と意味を込めた」

「…」

 

目を逸らしながらそういう形無し。良い歳したおっさんが照れてんじゃねえよ。

 

っていうか形無しネーミングセンスはあったんだな…いや、リアルな人間に白夜もどうかと思うが、酷くはない。今世の中で一番の驚愕事実だ。

 

「ま、元気でやれよ」

 

また頭に手を置かれる。

 

なんかいきなりな気もするが、まあ、確かに形無しの言う通り、そろそろ独り立ちの時期なのかもしれない。

 

俺は形無しの手を取って、にこりと笑った。

 

形無しはそんな俺にされるがままに、手をしばらく繋いで固まって、そして一言だけ。

 

「…じゃあな」

 

そう言って形無しは部屋から出ていった。

 

全く最後まで淡白なやつだぜ。

 

所で、部屋の家具とかも全部揃えてくれたのは嬉しいけどさ、これ全部俺が一人で組み立てたり設置したりすんの?

 

一人だけになった部屋で、俺はため息混じりに頭をかいたのだった。

 

 

 

 




人物説明

形無し
名前不明、容姿不明、出生不明の始末屋。主にヴィランを標的とした仕事を中心に据えており、その仕事の達成率、えげつない戦法から、不明な顔を関連づけて『カオナシ』とも。
時には子供、時には美女。老人、赤ん坊、更には化け物へと姿を変え標的を狙う。
活動範囲は主に治安の悪い地域全般。数十年間単独で行動を続けていたようだが、10年前程から白い少女とともに行動するようになり、更にここ数年は活動自体無くなってきていた。
また、出生不明なのは形無しの故郷が跡形もなく消えているからであり、彼が顔と名前を捨てたのは同時期である模様。
人間性としては物静かで冷静的、好きな事は散歩、甘い物を食べる事。形無し自身が何にでも変身できる能力を持つ所為か、はたまた初めから持つ性格かは知らないが、ファッションや芸術に対する、見た目に関するセンスは非常に悪い。
ヴィランを主なターゲットに定めているのでヒーローとは敵対していないが、始末屋というどうしても汚い仕事を行う性質上、あい入れる事はない。
しかし例外的に、フロストエッジ含む何名かのヒーローと共闘関係を結んだ事はあり、その関係は今も続いている。

…っていう妄想を考え出したら止まらなくなった。
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